大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・イスカ 真説邪気眼電波伝・07「幻想神殿・4」

2018-01-08 15:22:47 | ノベル

イスカ 真説邪気眼電波伝・07

「幻想神殿・4」  

 

 

 こんなにムカつくやつがただの通行人であるわけがない!

 

 MMO(Massively Multiplayer Online)の中の通行人というのはアルゴリズムによって決められた場所とスタイルで文字通り歩いているにすぎず、目の前のこいつのように、別のステージに行くことなどできないし、決められた言葉しか喋れない。いや、音声による言葉さえ無く、ただの吹き出しセリフであることがほとんどだ。

 こいつは、なにかのバグか、オレなんかの想像もつかない裏ワザとかでIDを消してしまった、どちらにしろ変な奴に違いない。

 そこんところを問い詰めたいんだけど、じゃなくて、一刻も早く消えてもらいたい。オレは『幻想神殿』の中に安らぎを求めているだけなんだ。ピーボアを売りに行って、その金でアイテム買って、わがMMO生活の充実を図りたい。

「ナンシー、あんた、早くわたしを追っ払って街に買い物に行きたいって思った!」

「お、思ってねーし、思ったとしてもオレの勝手じゃねーか! な、なんだ、よせよ、ミスジト目コンクールがあったらグランプリ取りそうな目で見んのは!」

「フン! リアルでも、そういう目で見られてるから、こういうことには敏感なのね。あーー情けない!」

「ほ、ほっとけよ!」

「あのね、アイテムとか欲しかったら、ちゃんと課金して買えばいいでしょ。ピーボア罠にかけてチマチマ買おうなんて、セコすぎでジンマシンが出そうよ!」

「う、うっせー! これはライフスタイルなんだ! とやかく言われる筋合いはねーーー!!」

「あーーもー、逆切れなんかしないでよね。とにかくナンシーは」

「ナンシー言うな! オレはナンシだ、シのあとで伸ばすんじゃねー!」

「往生際が悪いなあ、わたしが決めたんだからナンシーなの。それより、あんたの家に行こう、立ち話飽きた!」

「飽きたら、さっさと帰れよ! ガラクタ通りの三丁目によ!」

「人に指図しないでよ、さっさと行くわよ!」

 

 ほっときゃいいんだけど、頭に来たオレは、そいつの後を追いかけてしまう。なんちゅーか、この森は自分のテリトリーって感覚があって、そのテリトリーで好き勝手やられることが嫌でたまんねー、ってか、なんで流されてるんだ!?

 で、驚いたことにそいつは、サッサと歩いて正確に俺の家を目指していくじゃねーか!? 

 ダテに三年も幻想神殿をやっていない、オレの家は普通のプレイヤーでは絶対見つけられないところにある……はずだったんだけど!

「よっこいしょっと……」

 いとも簡単に仕掛けを見抜いた奴は、あっと言う間に我が隠れ家の前に立った。どんな仕掛って? それは言えない、言ったら隠れ家じゃなくなる。

「バカね、わたしが来た時点で、もう隠れ家じゃないのに」

「お、おまえなあ……」

「ち、いっちょまえに鍵なんかかかってるし。さっさと開けなさいよ」

「なんで命令するんだ、オレの家だぞ!」

「あんたの顔立ててるんじゃない。勝手に開けたら、あんたの面目ないでしょ。それとも、勝手にしていい?」

「わ、わーったわーった!」

 仕方なく鍵を出してドアを開ける。

「フーン……無課金でここまで揃えるって、なかなかね……」

 足かけ三年、涙ぐましい努力で整えた我が家を、なんだかシミジミと感心しやがる。こんなやつでも、ちょっぴり嬉しくなる。って、なってんじゃねーよ、オレ!!

 めったに人に褒められないオレは、我ながら単純だってか、流されやすすぎ……って、なに服脱ごうとしてんだ!?

「お風呂入る! ずっと森の中だったでしょ、それも網に絡めとられたまんまで、気持ち悪くって……」

「あーー、まだお湯も張ってないんだから……」

 急いで給湯器のボタンを押しに行く。

――お風呂のお湯張りをします――

「アハハ、はんぱにリアル! アナログ通すんなら、水汲みからやって薪で沸かすって感じでしょ。お茶でも飲もうかな、お風呂湧くまで……」

「勝手に冷蔵庫……半裸でウロウロすんな!」

――お風呂が沸きました――

「はや!」

 給湯機は雰囲気のものなので、じっさい沸くのは早い。

「じゃ、入るね」

 着衣の最後を脱ぐ気配がしたので慌てて背中を向ける。

「今日は我慢するけど、脱衣所くらい作ろうよ。脱いだ服ここに置いとくけどクンカクンカとかしないでよね」

「す、するかーー!」

 バタンとドアが閉まって、シャワーの音が響いて鼻歌に混じる。

――ランラランラー🎵 ねえ、わたしに名前つけてよ、どーも、わたし名前とか無いみたいだし~♪――

 本気で名無しなんかよ?

 ザパーン カポーン……ウウ、風呂のエフェクトさせんなー!

――ねー名前!――

「だれが、おまえみたいなブスに……」

――え? 聞こえな~い――

「お、おまえはブスだ! ブス!」

――オッケー、わたしは毒島田ブスだ~♪――

 

 って、ブスでいいのかよ!?

 

 

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高校ライトノベル・小説大阪府立真田山学院高校演劇部公式ブログ・Vol・17『今日この頃』

2018-01-08 06:03:05 | 小説・2

小説大阪府立真田山学院高校演劇部公式ブログ
Vol・17『今日この頃』 
 
       


※台詞は入ったんだけど

 稽古は着々……と言いたいんですけど、なかなかです。
 なかなかいい、とちごて、なかなか進まへんの「なかなか」です。日本語はむつかしい。

 配役は以下の通りです。

 咲花 かおる    三好清海 (二年:部長・演出)
 畑中 すみれ    九鬼あやめ(一年:舞台監督)
 由香・看護師    大野はるな(一年:音響・その他)

 本は『すみれの花さくころ』 ネットで、これに大橋むつおと入れると出てきます。

 えらそうや思うたら堪忍してくださいね。いわゆる高校演劇のレベルにはなりました。
 台詞も入ったし、立ち位置や、おおよそでとりあえずの動き(ミザンセーヌ)は決まりました。挿入曲も一応覚えました。文化祭のクラス劇やったら、もう完成です。

 そやけど演劇部は、ここからです(^_^;)

 泣き笑いなんかの喜怒哀楽が、まだまだ引き出し芝居です。一応役者としての基礎練習はよそよりやってるんで、普通には芝居できます。

 役者の第一条件は、自己解放です。

 自己解放とは、芝居に合わせて自分の感情が自在に操れることです。一年の時に徹底的にやらされました。やり方は簡単。過去の体験で、悲しかったことや、辛かったことを再現するんです。演じるんとちゃいます。気持ちを表現するんとちごて、その時の物理的な記憶を思い出すんです。
 うちは、お婆ちゃんが認知症になって、あたしのことを忘れた時のことを思い出しました。病院のたたずまい。病院独特の奥行きの在るエレベータ、消毒薬と、そこはかとなくしてくる病人さんらのニオイ。夏やったんで、エレベーターが開いたとたんに入ってきた冷気。それも足元やのうて、首筋で感じたこと。病室のドアが最初はちょっと重たいけどスルっと開く感覚……ほんで、お婆ちゃんが「こんにちは」と言うた時の他人行儀な響き。他人に対する愛想のよさ……この時の笑顔が、お婆ちゃんが亡くなったとき初めて見た死に顔と重なって、あたしの記憶は一気に、お婆ちゃんが死んだ日にとんでしまいました。どっと悲しみが溢れてきて、お通夜、葬式、火葬場、骨あげ、あたしはパニックになりかけました。
 この練習は、メソード演技の基礎です。ただ、レッスンの素材に使う思い出は、3年以上経過してて、感情の崩壊をおこさん程度のもん。これが原則です。うちは、お婆ちゃんが亡くなったばっかりやったんで、記憶が、そっちに引っ張られてしもて、まだ生傷のお婆ちゃんの死を思い出してしもたんです。
 そやけど、これであたしは自己解放を覚えました。

 しかし、役者は、これではあきません。役者個人が自分の感情を見せたら演技とちゃいます。
 役者は、その役に合うた感情表現ができんとあきません。たとえばAKBの高橋みなみと指原莉乃とでは、泣き方も笑い方もちがうでしょ?

 今、あたしは、この段階にさしかかってます。役の肉体化と言います。かおるというのは昭和20年に17歳やった女学生です。女と言えど人前で泣いたり笑うたりしたらあかんと言われてた時代です。ほんで宝塚を目指すほどの子ぉですから、姿勢もええし、歌もうまいし、抑えようとしても出てくる自然な明るさ……なかなかですわ。

 チェ-ホフやったかスタニスラフスキーやらが言うてました。

 本を書くのも演技するのも、例えて言うと森の中を歩くのといっしょやて。
 一回通っただけやったらあかんのんです。毎日森を歩いて、森の中の最高の場所と道を探します。最初は、毎日違う道を歩いて迷うこともあります。適当に見つけたロケーションで満足することもあります。それでも繰り返し歩いて、ほんまに、その人物や戯曲が求めてる道を探ります。

 今は、暗中模索です。

 ネットで検索して昔の遊びなんかしたりしてます。お手玉、福笑いなんかにも挑戦しました。あと、かおるが死んだんは3月10日の東京大空襲なんで、そのことも調べてます。
 で、気ぃついたこと。一回の爆撃で一番犠牲者が多かったんは、原爆と違うて、この東京大空襲やったんです。一晩で10万人亡くなってます。東日本大震災の三倍です。で、これを企画したのがカーチス・ルメイいうアメリカの将軍で、皮肉なことに、この人は航空自衛隊の創設にも力を尽くした人で、日本は大勲位菊花賞いう最高の勲章をやってます。この勲章は天皇陛下が直接手渡すことになってるんですけど、昭和天皇は、直接手渡すことだけは断らはったそうです。むろん外交上失礼になれへん理由をつけてですけど。

 まあ、今は、こんなとこです。役作りは、毎回のことやけど、大変です。まあ、四か月あるから、どないかなるでしょ。こういう楽観も役者には必要です。

※連盟の夏の講習会
 うちらは行きません。芝居は一日二日の講習なんかで身に付くもんと違います。自動車の運転に例えたら分かると思います。たった一日の教習で免許とった人の車に乗せてもらおと思います?
 ほんで、これはうちの中でも整理ついてないんですけど、今度の講師は、三年前に真田山を理不尽な理由で落としときながら、合評会では、その審査内容を撤回した人です。あの時の先輩らの気持ちは受け継がれてます。連盟の先生らは、こういうとこに心配りがありません。顧問の貴美先生も「総括もせんままに、同じ審査員使うのは問題や」と言うてはります。
 そうなんです。この人は、また本選の審査員をやらはります。で、うちらは、その時と同じ芝居を持っていきます。

 ああ、どないしょ!?

 文責 大阪府立真田山学院高校演劇部部長 三好清海(みよしはるみ) 

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