大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・堕天使マヤ・第三章 遍路歴程・19『「し」んだいしゃ・5』

2019-02-07 13:46:35 | ノベル

堕天使マヤ・第三章 遍路歴程・19
『「し」んだいしゃ・5』
        

 

 

 友だちを返して。

 

 わたしが言うと、そいつは斜に構えてニヤニヤしだした。

「気持ちの悪い笑い方しないで」

「気持ちの悪い誤解をしないでくれ」

「気持ちの悪い言葉遊びをしたいんじゃないのよ」

「高石くん、気持ちよく見回りの時間だ」

「は、はい」

「ちゃんとID付けてね、じゃ……」

「待って、高石かつえさん」

「わ、わたしの名前ご存知なんですか!?」

「ナイチンゲールの次に有名な看護婦さんだから」

「嬉しいですけど、看護師です」

「見回りしても、恵美の他は亡くなってるわ。でしょ、先生?」

「何を言っとるんだね、これは寝台病院列車だ。乗っているのは、みんな患者さんだ」

「そうね、これは先生の寝台車だものね……シンダイシャ……シンダ イシャ……死んだ医者」

 

 医者と看護婦は揃ってギクリとした。

 

「……生きとるよ、生きてなきゃ診療はできんだろが」

「医者として死んでるって言ってるの。寝台車と偽って乗り込んできた人の血を抜いてるんでしょ、いっぺんに抜かずに少しずつ」

「誤解せんでくれよ、わたしは検査のための採血をしてるんだ。病状は刻一刻と変わっていく、だから採血を繰り返すんだ」

「そうやって、死ぬ手前まできたら冷凍保存するのね。この列車のコンプレッサーって、冷凍機のコンプレッサーの音よね」

「なにを!?」

「ほんとうは、もう何十年も前に死んでるの。患者さんの血を吸って生きてるのよ、ね、高石さん?」

「……」

「窓を開けて、外をごらんなさいな」

 

 マユがサッと両手を旋回させると、全ての車両の窓が開いた。

 窓の向こうには、数十分前に出たはずのサスケ駅のプラットホームが残照に照らされている。

「走ったのは、ほんの五百メートル。列車は待避線に入っただけ」

「そ、そんなバカな。この列車はずっと旅を続けているんだ! そうだろ、高石くん!?」

「そ、それは……」

「そんな、同じところに居続けていたなんて……医学は日進月歩で突き進んでいるんだ」

「他の駅に進んだら、誤魔化しきれないからでしょ、高石さん」

「そんな……そんな、わたしは生きていけないじゃないか……生きて……」

「先生! 先生……!」

 医者は、みるみるうちに高石看護婦の腕の中で風化していってしまった。

 サラサラサラ……サラサラサラ……サラサラサラ……サラサラサラ…… 

 マユは――しまった!――と思ったが、重なって崩れていく高石を見て、さらに驚いた。

 

 高石さんを覆っていたものがハラリハラリと剥がれ落ちて、恵美の姿が現れたのだ。

 

 恵美と二人で待避線からホームに戻り、一晩をサスケ駅の待合室で過ごした。

 始発電車の音がして、待避線の方を窺うと、もう列車の姿は無かった。

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高校ライトノベル・時かける少女・2『その始まり・2』

2019-02-07 07:04:10 | 時かける少女

時かける少女・2『その始まり・2』
                 


 そのとき、ドアのところにかすかな気配を感じた……。

 ボンヤリとした意識の中に痩せた人影が視界に入った。
 病室の電球、それも遮光用の垂れ布がかけてあるので、ほんのりと影が分かるだけである。
 目が慣れてくると、服装が郵便屋さんに似ているなあと思ったけど、服は、三国同盟締結の記念式で見たドイツの将校さんのように真っ黒だった。おまけに姿勢が悪い。これは、だらしないのではなく、加齢によるものだと、湊子の頭脳は判断した。湊子の頭は体が弱っても、好奇心や思考能力は落ちない。いや、逆に冴えてくる。
 体操の座学で聞いたことがある。人間は肉体的な危機に陥ると、ほかの臓器や筋肉の力を借りてでも頭脳は明晰であろうとする。きっとそうなんだ……わたしも長くはないな、と思った。

『そのとおりだよ』

 影が言った。

『忙しい身なんでね、手短にやらせてもらうよ……どっこいしょ、ちょっとだけ息をつかせてもらうよ』
 その人は、まるで椅子に腰掛けたように見えたが、なぜか椅子は見えなかった。帽子を脱ぐと、腰の手ぬぐいで、頭と顔を、ツルリと一撫でした。頭頂部が禿げかっているところをみると、予想に違わずお年寄りのようだ。水筒の水を一口含むと、のど仏が愛嬌良く数回上下した、湊子は悪い人ではないように感じた。

 その人は、丸い眼鏡をかけると、手帳と葉書のようなものを出した。

『じゃ、始めようか。わたしは死神です……これが身分証明書。君は時任湊子(みなとこ)さんだね……』
『あ、みなこって読みます。父が女は港のような存在でなくっちゃならないって、で、同意義の湊って字をつけてくれたんです』
『こりゃすまん。昭和三年四月四日生まれ、当年十七歳』
『十八です』
『わたしたちは、満年齢で数えるんでね。湊子……いい名前だね。かわいそうだけど、あと三時間で死にます。はい、これ死亡宣告書。じゃ、次の仕事があるんで』
 死神は、そういうと立ち上がり、務めて無機質に回れ右をした。
『待ってください。三時間じゃ困るんです』
『きみね……』
『大切な人が、今日死ぬんです。わたしは、それをこの心で見届けなければ死ねません』
『隣の新島竹子君なら、もう逝ったよ』
『え……タケちゃん、新島さん!』
『……ということだから』
『違うの。新島さんも大切な友だちだけど、もっと違う人』
 死神は、眼鏡を拭いてかけ直し、湊子の顔をじっと見つめた。
『山野健一海軍中尉だね』
『はい』
 死神は葉書の束を出し、一通を取り出すと、確認して、こう言った。
『彼は……今日の十四時過ぎには死ぬ。今日はそっちへの宣告にも行かなきゃならないんだ。ま、人数が多いんで、死神三人がかりだけどね……いやあ、この歳で千人を超える宣告は身に応えるよ』
『山野さんは、やっぱり長門で、沖縄へ……』
『もう死ぬんだから教えておいてあげるけど、山野君が乗っているのは戦艦大和だよ。世界最大最強の帝国海軍の象徴だ』
『大和なんて、知らないわ』
『海軍の最高機密だからね。でも、その大和で死ねるんだ、良しとしてやろうじゃないか』
『お願いです。山野さんが亡くなるまでは生かしておいてください』
『気持ちは分かるけどね、それは出来ないよ。大和が浮沈艦でないように、人間の命にも限りがある。それが摂理というもんだ。おじさんたちは……もうジジイかな。ジジイは、それを伝えることだけが仕事なんだよ』
『それじゃ、こんなもの!』
 湊子は、死亡宣告書をビリビリにやぶったが、すぐにそれは元に戻ってしまった。
 死神は、悲しそうに微笑んで言った。
『それは、一度手渡すと、もとにはもどせないんだ……分かってくれよ、オレたちだって辛いんだ。とても天寿とは言えない若者や、幼い子たちに、これを渡すのは。三月の大空襲じゃ大変だった、あれで鬱病になった死神も多くてね、それで予備役招集で、二度目のお勤めさ』
『……大変なのね、死神さんも』
『そうだよ……』
 死神は無意識に腰を下ろしてしまった。
『お願い、もう少しだけ、お話させて』
『……ま、いいか。次のは五人ほど、まとめてやっちまえば』
『ちょっと論理的な話しがしたいの』
『ほう、どんな?』
 死神は、タバコに火を点けてくゆらせ始めた。煙は穏やかに立つが臭いはしなかった。
『わたしの命は、あと三時間』
『そう、かわいそうだけど』
『三時間の半分はいくら?』
『一時間半。九十分だね』
『正解、じゃ、その半分は』
『四十五分』
『じゃ、その半分は?』
『ええと……二十二分と……』
『ね、分かった?』
『え……』
『時間は、どこまでいっても半分にできるの。無限にね』
 タバコの煙が少し揺れた。
『……そうだな』
『無限にあるものって、けして超えることはできないわ』
『え……』
 湊子はたたみかけた。
『ということは、この三時間後はけしてやってこない。つまり、わたしは死ぬことはないの!』
『え……ちょっとまってくれよ』
『いいわよ、ゆっくり考えて無限を超えられることを論理的に説明してごらんなさいな』
『ちょっと待て、この世に無限なんて存在しない……』
『じゃ、円周率言ってみて。きちんと言えたらその宣告書を受け入れるわ』
『よおし、暗記物は得意なんだ。3.1415926535 8979323846 2643383279 5028841971 6939937510 5820974944 5923078164 0628620899 8628034825 3421170679……どうだ、百桁だ!』
『それだけ?』
『え……』
『最後まで言ってみて』
『おまえはπを答えろと言うのか。ありゃ、無理数で超越数だ……』
『つまり無限ということでしょ。無限は存在するの。ね、そして無限はは超えられない……そうじゃない!?』
『そ、それは……』
 タバコの煙が派手に乱れた。
『無限は、超えられるの超えられないの?』
『超えられないよ』
『フフフ……』
『そ、そうだけど……あ!』
『ほうら、死神が認めた!』
 そのとき、タバコの煙といっしょに病室も、いつの間にか壁を透かして見えるようになった横須賀の街もグニャグニャに歪み始め、死亡宣告書の日付や時間も狂った時計のように、その数字を変えていった。後に湊子は、この現象をバグルということを知ることになるが、今はそれどころではない。目が回って吐き気がする。
『おまえは、死と時間の論理をすり替えたな。オレは知らんぞ、とんでもないことをしでかしたんだぞ!』
 そう絶叫すると死神は時空の彼方に吹き飛ばされていった。

 そうして、湊子は時のさまよい人。時かける少女になってしまった……!

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高校ライトノベル・🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!・32『桃斗、ちょっと』

2019-02-07 06:47:35 | ノベル2

🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!

32『桃斗、ちょっと』

 

 商店街のミヨシクリーニングはシャッターが下りたままだった。

「な、なにが……………………!?」
 店の前には人だかりがしていて、後ろの桜子に声を掛けるが、家から走りっぱなしだったので声が出ない。
「これでも飲みなさいな」
 飲みかけのペットボトルを差し出された。飲み干すのを待って、桜子が小声で説明しようとした。
「夕べのうちに、一家でいなくなったみたい。で、ちょっとややこしいことに……」
 桜子が続けようとすると、店の二階の窓が開き、布団や雑誌や衣類やらが乱暴に放り出され「ウワー!」「なにするんだ!」などの声が人だかりから発せられた。
「くそ、どこにもねーなあ!」
「もっと探せ!」
 乱暴な男たちの声が、二階や店の中からした。
「あいつら、なにやってるんだ!?」
「さっき、そこの電柱よじ登って中に入って行ったの、うさんくさいやつら……キャ!」
 オレたちの足元にタンスの引き出しが落ちてきた、引き出しはへしゃげ、中身がぶちまけられる。
「あんたら、危ないじゃないか!」
 近所のおじさんが怒鳴るが、店の中の男たちは構わずに家探しを続ける。
「警察に言ったほうがいい」
「さっき電話した、他の人もしてる」
 すると、一筋むこうの大通りにパトカーのサイレンの音がし始めた。男たちはにも聞こえているはずなのに、家探しというよりは打ちこわしになってきた乱暴を止めようとはしない。

「あんたたち、なにをやってるんだ!?」

 駆けつけたお巡りさんが、店の中に叫んだ。それでも、男たちは止めない。年かさの男が出てきて、声をかけたお巡りさんに書類を見せながら話している。で、あろうことか、お巡りさんは納得した様子で頷いている。そして、他のお巡りさん共々手をこまねいてしまった。
「あ、相良さんだ」
 お巡りさんの中に知った顔を見つけて、声を掛けた。
「あ、百戸さんの……」
「いいんですか、こんなの」
「この店は抵当に入っているんだ。債権の書類も持ってる、手が出せない」
「でも……」
 そこへ、もう一人知り合いにお巡りさんがやってきて、相良さんに耳打ちした。
「表通りのワゴンは、あんたらのだね。駐車違反と整備不良、責任者出てきて!」
 さっきの男が不承不承出てきて、相良さんになにやら言われている。若い手下みたいなのが男に言われて、お巡りさんといっしょに表通りに消えて行った。相良さんは道交法を楯に止めさせようというつもりらしいが、嫌がらせ程度にしかなっていないようだ。取り巻きの近所の人たちからも不満の声があがっている。
 相良さんは、時計を見るとホイッスルを取り出した。

 ピーピッピッピー!!

 アーケードにホイッスルの高い音が響き渡った。
「商業用道路の通行妨害! 検挙!」
 お巡りさんたちが店の中に入り、男たちを拘束し始めた。相良さんは商店街のアーケードが歩行者専用になる時間を待っていたようだ。
「桃斗、ちょっと」
 桜子が大きい紙袋を、オレに渡した。
「なに、これ?」
 桜子は黙って、投げ捨てられたあれこれから拾ったものを紙袋に入れ始めた。
「これって、紀香の……」
「こんなとこにむき出しにできないじゃない」

 桜子が集めたのは、紀香の衣類や学校の教科書などだった。 


 

🍑・主な登場人物

  百戸  桃斗……体重110キロの高校生

  百戸  佐江……桃斗の母、桃斗を連れて十六年前に信二と再婚

  百戸  信二……桃斗の父、母とは再婚なので、桃斗と血の繋がりは無い

  百戸  桃 ……信二と佐江の間に生まれた、桃斗の妹 去年の春に死んでいる

  百戸  信子……桃斗の祖母 信二の母

  八瀬  竜馬……桃斗の親友

  外村  桜子……桃斗の元カノ 桃斗が90キロを超えた時に絶交を言い渡した

  三好  紀香……クラスメートの女子 デブをバカにしていたが様子が変

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