大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・クリーチャー瑠衣・2《兆しのままに》

2019-02-18 07:10:41 | 小説3

クリーチャー瑠衣・2
《兆しのままに》


 Creature:[名]1創造されたもの,(神の)被造物.2 生命のあるもの 

 瑠衣は高坂先生が好きだった。

 瑠衣は歌うことは好きだったが、楽譜が読めない。だから中学までは、音楽のテストというと、歌が自己流になってしまい、結果成績は低かった。だから歌が好きなわりに音楽の時間は嫌いだった。
 高校に入って、高坂先生に音楽を習うようになって認識が変わった。

「音楽って、音を楽しむって書きます。音楽をやっていて、自分が楽しければOKです。で、人を楽しませることができたらエクセレント!」
 だから、多少歌をアレンジ(中学では、音が外れていると減点された)しても、瑠衣が楽しくて聞いている他の生徒が喜んでうれたら、満点をくれた。
 それに高坂先生の美しさに、瑠衣は、いつも見とれていた。
 高坂先生は細身の美人。うりざね顔にきれいな一重目蓋、京都の舞妓さんにしたら、一番人気になるだろうなと、最初に見た時から思った。

「高坂先生に、こんな思いさせた奴、許さないからね!」

 そう叫ぶと、瑠衣は兆した想いのままに動き出した。
「ちょ、ちょっと立花さん!」
 呼び止める先生の声は聞こえたが、体が止まらなかった。
 職員室に入ると、職員室の作業台のいろんな書類といっしょに積んである内示書の山を文面が分かるように写メった。そして、上の方から二十枚ほどいただいた。
 職員室は、春休みに入ったこともあり年次休暇をとっている先生も多く、いつもの半分もいなかったが無人というわけではなかった。

 でも、誰も、瑠衣がしたことには気づかなかった。

 瑠衣は大好きな野球部の杉本が、珍しく向こうから声を掛けてくれたことにも気づかなかった。心の中には音楽準備室でボンヤリと魂が抜けたようになっている高坂先生の姿が映っている。

 内示書の高坂先生のところが二重写しのように、目に浮かんだ。

 高坂麗花(高麗香 コレイファ):〇(外国籍を表す)常勤講師 都立神楽坂高校へ移動

 高坂先生が外国籍だったのは意外だったが、それはなんの問題もなかった。自分に自信を取り戻させ、音楽の楽しさを教えてくれた先生が、自分の意志に反して移動させられること。そして、それを知った英語の岸本先生の心変わり。そして、こんな極秘文書が大量に印刷され、誰の目にも自由に見られるようにした校長の底意地の悪さだけが頭を占めていた。

「高坂先生、移動は不本意で、こんな内示書晒されてほしくなかったんだよね!?」

「立花さん……」
 ノックもせずに入ってきた瑠衣に高坂先生は、とっさに声も出なかった。
 瑠衣は、あえて岸本先生のことには触れなかった。触れれば先生が心の平衡が保てないと直観したから。
「立花さん!」
 瑠衣は返事も聞かずに準備室を飛び出した。いや聞いた気になっていた。先生が心で反応したことが、瑠衣には声で聞いたような気になっていた。

「これを見てください」

 瑠衣は、検索したわけでもなく、人に聞いたわけでもなく、都教委の指導一課長の机の上に内示書コピーの束を置き、スマホの映像を見せた。
「こ、これは……」
「違法です。これでは人事内容から、外国籍の先生の本名まで分かってしまいます。繰り返します。都の教育条例に違反し、職務権限を越えて、個人情報を暴露してしまっています。対処してください」
 一課長の頭には、驚愕、そして穏便な解決の二文字が浮かんでいた。
――こいつには解決の能力も意志も無い――
 そう思った瑠衣は、学年とクラス、名前を述べて一課の部屋を後にした。

「みなさん、これを見てください!」

 そう言って飛び込んだのは、都庁の記者クラブだった。

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高校ライトノベル・時かける少女・13『エスパー・ミナコ・8』

2019-02-18 07:02:24 | 時かける少女

時かける少女・13
『エスパー・ミナコ・8』
       




「悪魔がいるって、ほんとうなの……?」

 看護婦のジェシカが、声を出さずに口のかたちだけで伝えてきた。
 ミナコは、くちびるに指を当てると、メモを書いてジェシカに渡した。
『ジェシカ、あなたラテン語読める』
『少しなら』
 と、ラテン語のメモで返事が返ってきた。
『お願いがあるの』
 その言葉を見ただけで、ジェシカの目は光った。義務感に燃えた従軍看護婦の目だった。
『三時になると、死神は十三秒だけ眠るの』
『どうして、三時?』
『三は、神の聖なる数字だから。そして、十三は邪悪な数字。だから、十三秒』
『なるほど、ミナコって、子どもみたいだけど教養あるのね』
『見かけは、こんなだけど、自分のことは何も分からないの。歳もね』
『ミナコって、良い魔女?』
『アハハ、魔女じゃないことだけは確か。いいこと、三時前になったら点滴を替えるふりをして』
『OK でも、なんで?』
『今は理由は言えない。ジーン夫人は血管痛になりやすいから、少し遅くして。三時ごろに終わるように』
『分かったわ』

 さすがに、ベテランの従軍看護婦。二時五十九分に点滴が終わった。ジェシカは、ごく自然に点滴の交換を行おうとした。

「ジェシカ、運動神経はいい?」
「良くなきゃ、この戦争で生き残ってないわよ」
「そうね、ハイスクールじゃ、なにかやってたみたいね?」
「ヘヘ、これでもやり投げの選手だったの」
 この会話で、三十秒潰した。さもなければ、このベテランの従軍看護婦は二十秒ほどで、新しい点滴に交換してしまっただろう。点滴と繋がったままでは、ミナコの作戦は実行できない。
 三時ちょうどになって、死神は居眠りしはじめた。
「今よ、ジーンの向きを、頭と足を逆にするの!」
 一瞬で、ジェシカは飲み込み、五秒で、ジーン夫人を動かした。
「ジェシカ、元の場所に戻って!」

 騒ぎを聞きつけて、マッカーサーたちが入ってきた。

「これは……?」
 マッカーサ-は驚いた。

 ジーン夫人の頭と足が逆になっていたことと、目が覚めた死神が、大変うろたえていたからである。
『くそ、オレが寝ている間に、ハメやがったな!』
 そう言うと、悔しそうに死神は消えていった。

「あら、あなた、今日はお帰り早いのね。あ、この人たちは」
「ジーン、みんながお前を助けてくれたんだよ。特にこのミナコ・マッカーサーがね」
 そのとき、ミナコの体が透けはじめてきた。
「閣下、どうやら、お別れのようです。死神をハメてしまったんで、もう、この世界には居られないようです」
「ミナコ……」

 マッカーサーの最後の言葉は聞こえなかった。ミナコは、また記憶を失いつつ、時のハザマに落ちていった。

「やってくれたわね。死神をハメたのは、これで二回目よ」
「そうなの……」
「オリジナルの湊子とも時間がかぶっていたし、どうなるかと思ったら、このざま。わたしがいくら時間を管理しても追いつかない。このメモはしばらく預かっておくわ」
 ミナコと瓜二つの時の管理人は、右手に持ったメモを、セーラー服のポケットに収めた。
「それは……」
 大事な物だとは分かっていたが、中身は分からない。ただ、無性に心細くなっていくだけだ。

「今度は、さっきの分を取り戻してもらうことになりそうよ。じゃ……いってらっしゃい!」

「あ、ああ……」

 歪んだ時空の先に、桜並木、その向こうに東京タワーが見えてきた……。

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高校ライトノベル🍑MOMOTO🍑デブだって彼女が欲しい!・43『ゲフッ!!』

2019-02-18 06:56:32 | ノベル2

🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!

43『ゲフッ!!』


 学食というものは儲からないんだ。

 生徒相手のメニューなので高い値段設定はできない。薄利多売を目指すにしても、生徒の絶対数は昔に及ばない。
 ようするに儲からない。
 で、利益はジュースなどの自販機に頼っている。自販機の利益は飲み物1本あたり40円ほどになる。
 この情報は親父から聞いた。親父は捜査一課長なので、世間の裏事情に詳しい。
 2年前、隣町の高校に泥棒が入り、自販機を荒らすという事件があった。
 それまでに3回もやられているので、経営者のおっちゃんは、校舎の陰で張り込んでいた。夜中に4回目の現場を押えたおっちゃんは、犯人をぶちのめして怪我をさせてしまい、過剰防衛を取られて裁判にかけられてしまった。
 その折に、学食と自販機の関係を聞いたのだ。

 で、オレは学食の経営を助けるために、1000CCのコーラを2本買った。

「さすが先輩、コーラ1本にも、それだけの考えと想いがあるんですねえ!」
 デブの会の沙紀と野呂が、気前よく渡した1000CCのボトルを受け取って感心している。

 アハハハ……後ろで笑い声がした。コロッケを齧りながら桜子が笑っている。

 作戦成功……。

「コーラをがぶ飲みするために、そこまで理屈をこねまわして、後輩まで動員するんだ」
 帰り道、桜子は機嫌がいい。この月末に引っ越すことや、紀香のゴタゴタで塞ぎ気味になっていたので、オレは気にしていたんだ。
「オレさ、年が明けてからは体重増えてなんだぜ」
「110キロだよね」
「古い読み方したら、百十でモモト。ひょっとしてウケ狙い?」
「こんなことでウケようとは思わねえ。とにかく、この一年ほどで、体重の増加が停まったのは初めてだ」
「そんな自慢しながら、コーラ飲んでたんじゃね」
 そういうと、桜子は、オレの手からボトルをふんだくり、残っていたコーラを一気飲みした。
「お、おい、桜子!」
「プハー! 久々の間接キスだ!」
 前を歩いていた国富高校の生徒たちが笑っている。さすがに恥ずかしい。
「1/3ほど残っていたから、300グラムほど桃斗に近づいたね」
 桜子はオレの方を向いてウインクした。風向きの加減だろうか、懐かしい桜子のシャンプーの香りがした。
「ありがとう桃斗」
「え、なにが?」
「……コーラ、あたしの気持ちをほぐそうと思って、ピエロになってくれたんだよね」
「あ……バレてた」
「嬉しかった」
 心臓が跳ねた。チラ見すると、桜子は耳まで真っ赤になっている。オレも負けずに赤くなっていると思う。
 こんなに、桜子と居てドキドキするのは何カ月ぶりだろうか。
 その何カ月ぶりかの感覚が蘇って、二人顔を見合わせた。とたんに……。

 ゲフッ!!

 同時に盛大なゲップが出てしまった。

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