大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・時かける少女・4『運命の熱中症・1』

2019-02-09 06:44:17 | 時かける少女

時かける少女・4
 『運命の熱中症・1』
        




 独り言言って寝返りをうったら、日めくりが目に付いた。

 1985年(昭和60年)8月12日(月)とあった。


「もおおおおおおおお、早くしないと、ホントに置いてっちゃうぞ!」
 妹の美登子が、東京弁でダメオシを言った。
 当たり前っちゃ当たり前。うちは東京なんだから、ミトが東京弁で言っておかしくはないんだけど、お母さんが京都の出身なんで、お母さんの言葉は、あたりが柔らかい。ミトの言い回しはムカツク。と言っても、立場が逆なら、同じ言い回しでミトをムカツカセテいただろう。まあ、十代の女の子の感性なんてこんなもんだ。と、客観的に思うことで、昼寝から起こされた腹の虫をなだめる。

「ハハ、お姉ちゃん、ほっぺたに畳の跡がついてる。ほら」
 ミトは、わざわざ玄関の鏡の角度を変えて見せる。
「これは、三十分もしたら治るけど、ミトの顔は一生そのまんまだもんね」
「あー、そういうこと言う!?」
「よしなさい二人とも。お母さんだって、ミトの顔って、娘時分のお母さんにそっくりだから、大きくなったらベッピンさんになるから」
「それって、あんまり慰めにならないんだけど……」
「実家に着いたら、女子高時代の写真見せたげる」
「去年見た。だから言ってんの!」
「アハハ、女コント55号だ!」
「美奈子、ヨダレのあとが付いてるよ」
「え、うそ!?」
 
 賑やかに、親子三人車に乗った。わたしは、ガレージからの誘導役で、表通りに出てから乗り込む。

「オーライ、オーライ……あ、ちょい切り直して」
「あ、お姉ちゃん。ノボ君から手紙預かってる!」
「なんで、そんな大事なモノ、早く見せないの!」
「だって、昼寝してたんだもん。起こしちゃ悪いでしょ」
 ミトは、また鏡を出して、わたしの顔を写した。
「もう……」
 その鏡には、わたしの畳顔の向こうに、横倒しになった自転車の後ろ半分が映っていた。このカーブをうまく回らないと表通りには出られない。
「もう、だれが、こんなとこに……」
 わたしは、自転車を起こしに行った……そして驚いた。

 登が、そこに倒れていた。

「登、どうしたのよ!?」
 触った登の体は火のように熱かった。呼吸も速く、意識もなかった。
「お父さん、お母さん、ノボ……友だちが倒れてんの!」
 お母さんが、真っ先に出てきた。
「こりゃ、熱中症だわ。ミト、お姉ちゃんといっしょに、そこのコンビニで氷買っといで。お父さん、救急車呼んで!」
 氷を買ってくると、お母さんは、ノボを日陰に連れていってくれて、お向かいのホースを借りて、ノボを水で冷やしていてくれた。
「お母さん、氷!」
 自分の声が震えているのが分かった。お母さんはテキパキと氷りの袋を首筋、脇の下。そして脚の付け根にあてがっていた。お母さんは、元看護婦なので、そのへんのツボは心得ている。
「救急車はすぐに来る。美奈子、この子の家の電話番号知ってるか?」
 ノボとのことは、家族には秘密にしておきたかったけど、今は、そんなこと言っていられない。

 呼び出し音が二十回鳴るのをもどかしく聞いて諦めた。
 ノボのご両親は二年前にオープンした東京ディズニーランドに勤めている。お盆に入りかけたこの時期は、ほとんど泊まりがけの仕事だろう。
「だめ、通じなかった」
「仕方がない。母さん、里帰りは日延べだ。航空会社にキャンセルの電話してくる。もし、明日の朝の便に空きががあったら、頼んでみるよ」
「チ、こいつのためにキャンセルかよ!」
「そんなこと言うもんじゃないわよ。危うく人一人の命がたすかるんだよ。それにうちがキャンセルしたら、他に四人の人が乗れるわ。その人たちは、わたしたちより、もっと大事な用事かもしれないし」
 お母さんは、カトリックらしい説教をミトにした。妹のミトは、こういう言われかたが嫌いなので、ソッポを向いている。
「母さん、明日の朝一番が、奇跡的にキャンセルが出たからとっといた。席はバラバラだけどな」
「えー、バラバラになんの! 横がへんなオジサンとかだったらミトやだなあ……」
「ハハ、オレも、123便て語呂は気に入ってたんだけどな。ま、午前中には京都に着けるさ」

 そのとき救急車がやってきた。

「美奈子、お前が乗っていけ。意識が戻って、知り合いが居ないのは心細いだろうからな」
「病院についたら、連絡ちょうだい。これ、緊急時の費用にして」
 お母さんが、使いやすいようにテレホンカード、それに一万円と、千円札の束をくれた。
「じゃ、行ってくるね」

 これが、いくつもの大きな運命の曲がり角になるとは思わなかった……。
 

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高校ライトノベル・🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!・34『お互いの弱さ』

2019-02-09 06:37:42 | ノベル2

🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!

34『お互いの弱さ』


「ほかに知ってる者はいないだろうな?」

 親父が、めずらしく真剣に聞いてきた。

「うん、あのやくざ者たちが捨てたものだから」
「そうじゃなくて、桜子ちゃんと拾ったところを、人に見られてないか?」
「見られてるよ。べつに悪いことだと思ってなかったから」
 悪かろうはずがない。紀香の衣類やもろもろの物が路上に打ち捨てられ、あんまりだと思って、桜子と拾い集めたものだ。
 だからこそ、人目なんか意識していない。当然商店街の、あの場所に居た人たちには見られている。
「わかった」
 お袋と三人の食事をパーにしたことも詫びずに、親父は県警本部に戻っていった。
「どうしちゃったんだろ、お父さん?」
 オレ以上にお袋は分かっていなかった。

「桃斗、夕べ警察の人が来たよ」

 あくる朝、学校で会うと「おはよう」も忘れて、桜子が言った。
「で、なにかあった?」
「それがね、紀香のもろもろ入れた袋をね……」
「持っていったのか?」
「持っていくって言ったけど断った。だって下着とかも混じってるんだもん」
 こういうところは、相手が警察でも令状でもない限り渡すような桜子ではない。
「で、どうした?」
「こないだの相良さんてお巡りさんが混じってて、それなら袋だけでもって、紙袋に古新聞突っ込んで持ってった」
「う~ん……このこと誰にも言ってないよな?」
「うん、桃斗がはじめて」
「人に聞かれたら、みんな警察が持っていったって、言った方がいい」
「え、相良さんも、そう言ってた」

 どうやら警察は、桜子の手許には何も残っていないということをアピールするために芝居を打ったようだ。

 警察は、ミヨシクリーニングにも出張り、放置されたもろもろのものを親族立ち合いのもとに運び去った。
 これも、全てのネタは警察にあるというジェスチャー。むろん地元の商店街や関係の人たちを守るためだ。

 紀香一家が居なくなったことは、現段階では、ただの夜逃げ。親族の捜索願が出て、やっと失踪という認定にはなったけど、まだ事件にはなっていない。
「紀香、どうしちゃったんだろう……」
 通学路を駅へと歩きながら桜子が独り言のように言う。
「危険を感じて出て行ったんだ、きっとどこかで無事にいるよ」
 気休めを言う。気休めと分かっていても「うん」と桜子は頷く。なにか言ってないと、オレも桜子も不安だから。
 紀香一家が失踪してから、開いていた桜子との距離が縮んだ。
 桜子もオレも、基本的には友だち思いなんだ。でも、こうやって二人でいないと不安でたまらない。お互いの弱さもよく分かる。

 季節だけが、確実に春に向かっている……。

🍑・主な登場人物

  百戸  桃斗……体重110キロの高校生

  百戸  佐江……桃斗の母、桃斗を連れて十六年前に信二と再婚

  百戸  信二……桃斗の父、母とは再婚なので、桃斗と血の繋がりは無い

  百戸  桃 ……信二と佐江の間に生まれた、桃斗の妹 去年の春に死んでいる

  百戸  信子……桃斗の祖母 信二の母

  八瀬  竜馬……桃斗の親友

  外村  桜子……桃斗の元カノ 桃斗が90キロを超えた時に絶交を言い渡した

  三好  紀香……クラスメートの女子 デブをバカにしていたが様子が変

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