大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・時かける少女・8『エスパー・ミナコ・3』

2019-02-13 06:52:11 | 時かける少女

時かける少女・8
『エスパー・ミナコ・3』
      



 気づくと、わたしは男の子を庇って電柱の陰に隠れていた。

 電柱からは、火薬の臭いがした。十メートルほど先には、銃を構えた米兵たちが怯えと敵愾心をむき出しにして、自分たち以上に怯えた日本人たちと対峙していた。

「ケリー、撃つんじゃない。イイ子だからな」
「しかし、大尉、このガキは、オレのことを『くそオクラハマ』ってバカにしやがった!」
「相手は子どもだ、それよりも、周囲を警戒し、状況を把握しろ!」
「状況なんて見てのとおりだ。卑怯なジャップが橋を落として、俺たちの命を狙った。で、このガキが、オレのことバカにして、その女セーラーが、邪魔をしたんだ!」
 大尉は、ケリーが再び上げた銃口を下げさせた。
「ジョン、後続の部隊に連絡。日本人の妨害に遭遇。目標ブラボー手前の橋が落とされ、戦車一両が転落。負傷者四名。目標地点に着くまでは、警戒を厳となせ」
「イエッサー!」

 落ち着いて見ると、橋が壊れて戦車が川に落ちている。幸い戦車は横倒しになることもなく、衝撃で負傷した戦車兵が、ハッチから救出されている最中だった。どうやら米兵たちは日本人が、戦車の通過に合わせて橋を破壊したと思いこんでいるようだった。

 ミナコは、自分が時間と場所を飛び越えてしまったと、すんなり理解した。電柱の住所は、先ほどまで居た鹿児島ではなく、横浜であること。米軍の進駐が始まっていることから、数週間はたっていると理解した。
 二つだけ不思議だった。自分が、なぜ新品のセーラー服を着て、お下げにしていないのか。そして、なんで米兵たちの英語が分かるのか。

 でも、混乱することは無かった。氷室一飛曹たちを助けてから、自分には不思議な力がついていることが分かっていたから。

「大尉さん、これは妨害行為じゃないわ、ただの事故よ」
「君は、英語が分かるのか」
「そうみたい。ちょっと東部訛りだけど、いいかしら」
「かまわん。しかしなんで、そんな水兵の服を着ている。軍属か?」
「これは、女学校の制服なの。それより、そこの橋の注意書きを読んであげるわ」
「注意書き……ああ、これか?」
「注意、重量制限25トン」
「え……25トンだと?」
「ええ、そのシャーマン戦車は30トン。橋は落ちて当然ね」
「大尉、こんな怪しい女の言うこと聞いちゃいけませんよ」
「しかし、こんな街中の橋が25トンしか耐えられないのか?」
「そういう国を相手に戦争したのよ、あなたたちの国は」

 米兵たちの間からは、安心からくる失笑が浮かんだ。

「笑い方には気を付けて、日本人は侮辱には敏感よ。表情には出さないけど」
「でも、そのクソガキは、オレのことを侮辱したんだ!」
「ケリー、ささいなことだ、気にするな」
 大尉が、たしなめた。
「いえ、はっきりしておきましょう。この子は、ケリー、あなたのことを侮辱なんかしてないわよ」
「でも、確かに、このがきは『オクラホマのクソ野郎』って、言いやがった!」
「それって、『オーキー!』でしょ?」
「おまえまで!」
「頭にこないの、ケリー。『オーキー』というのは、日本語で『大きい』という意味なの。この子は、いきなり見た、あなたの姿を見て、『大きい人だ!』って、感心してびっくりしただけなのよ。そうでしょオオニシ伍長」
 わたしは、日系米兵のオオニシさんに言った。
「そうなのか、ゴロー?」
「は、自分はオクラホマ弁には慣れておりませんので」
「ま、とにかく誤解なんだ。キミ、済まないが日本語でこの人たちに説明してあげてくれないか」

 わたしは日本語で説明した。表情は変わらないが、あきらかに安堵の空気になった。

「どうやら、少しは分かってくれた……かな」
「日本人の感情表現は、こうなんです。それより、この戦車と橋をね……」
「工兵隊を呼ぶ。仮設の橋も含めて二日もあればできるだろう」
 大尉の言葉には、微妙な優越感があった。わたしは無用な対抗心を出してしまった。

「わたしなら、二分でやる。この橋が二日も使えないんじゃ迷惑だわ」
「に、二分だと!?」
 米兵は笑い、日本人たちは意味が分からず、ただ当惑した。
「ちょっと、そこ空けてください」
 橋のこちら側にいた横浜の人たちに頼み、わたしは、オモチャの戦車を持ち上げるような仕草をした。戦車は、その動きに合わせて、ソロリと持ち上がり、橋のこちら側に着地した。その一分ほどの間に橋も元の場所に戻って落ち着いた。
 橋に関しては、時間をまきもどしただけ。どうやら三十分ぐらいなら、物の時間を戻せるようだ。

 米兵からも横浜の人たちからも賞賛の声があがった。

「スゴイ、キミはエスパーだ。よかったら、私たちの駐屯地まで、きてくれないか。ゴローもよくやってくれるが、キミが居てくれたら、百人力だ。あ、わたしは、海兵第五大隊のカリー大尉だ。キミは?」
「ミナコって、呼んでください」

 わたしは、笑顔で握手をした。

 実のところ、苗字も思い出せないほど、わたしの記憶は薄くなってきていたのだ……。
  

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高校ライトノベル・🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!・38『クローン』

2019-02-13 06:44:50 | ノベル2

🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!

38『クローン』


 シャンプーしていると、すぐ横の浴槽で気配がした。

「マッサージするように洗わなきゃ禿げちゃうよ」
 浴槽のヘリに顎を載せて、至近距離に桃が現れた。
「桃、おまえベッドの中にしか現れないんじゃないのか?」
「お風呂にも来れるみたい。たぶんお兄ちゃんがリラックスできているのが条件みたいよ」
 ベッドの中に現れた時ほどドギマギはしない。桃の首から下が湯船に浸かって見えないからだろう。
「お兄ちゃん、てっぺんの髪が細くなってきてるよ……こりゃ、二十代の半ばくらいで禿げはじめるね」
「なってみなきゃわからないだろ」
「幽霊には分かるんだよ。遺伝だろうね、お兄ちゃんのお父さんも禿みたいだし」
 お袋は子連れの再婚だったので、オレと桃は生物学上の父親が違う。
「流すぞ」
 泡を流そうとしてシャワーに手を掛けると、桃に先を越される。
「あたしが流してあげる」
「いいよ」
「お兄ちゃんがやると、浴槽にまで泡が飛ぶんだもん。大人しくしなさい」
 手際よく、シャンプーの泡を流してくれる。目はつぶっているけど、桃の存在を間近に感じる。子供のころを思い出ししんみりとする。

「お兄ちゃん……紀香さんて、クローンなんだよ」

 さり気にとんでもないことを言う。
「クローン……て、スタ-ウォーズとかに出てくる人間のコピーってことか?」
 石鹸を泡立てる手が止まってしまう。
「世界的な製薬会社が中心になって、17年前に5人のクローンを作ったの。ま、プロトタイプね。で、ずっと実用試験をやってきて、一番優秀だったのが、ミヨシクリーニングの娘として育てられてきた紀香さん」
「そうなのか?」
「うん。でも、このところ調子が悪くって、ちょっと乱暴なやり方で回収されてしまった。それが三好一家失踪事件」
「クマさんのUSBは?」
「紀香さんの記録。当然クローン計画のあれこれも入っている。二分割されていて、両方のUSBをいっしょにしなければ情報は取りだせない。紀香さん自身が、万一を予想してやったことみたい」

「……紀香は無事なんだな」

「うん、病気は病気なんだけどね……船の中で紀香2号が言っていたとおり」
「紀香2号……どうりでソックリなわけだ」
「紀香さんの不調は体だけじゃないの……」
「というと……?」
「心がね……人を好きになる感情がコントロールできなくなってきている」
「それは……?」
「言いにくいけど、お兄ちゃんを好きになったのは……その異常からなの」
「え!?」
「あ、まったく好意が無いわけじゃないのよ。ま、過剰反応。その分、他のクローンたちは人を好きになるという心の働き自体が欠落している」
「だから……」
「そ、紀香2号に感じた違和感は、それなの……お兄ちゃん、背中に手が届かないの?」
「あ、ほんのちょっとだから構わないんだ」
「太りすぎ。あたしが洗ったげよう!」
 ザブっと音を立てて、桃が浴槽から出てきて、目と鼻の先に桃の裸が突き付けられる。
「お、おまえ、前くらい隠せよ!」
 狭い浴室なので、桃が出てくると洗い場は一杯になり、桃の体のあちこちが背中に当たる。で、オレの体は反応してしまう。

「も、お兄ちゃんも異常だよヽ(`Д´)ノプンプン!!」

 幽霊でも男の心と体は分からないようだ……。

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