大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・堕天使マヤ・第三章 遍路歴程・17『「し」んだいしゃ・3』

2019-02-02 17:38:23 | ノベル

堕天使マヤ・第三章 遍路歴程・17
『「し」んだいしゃ・3』
        

 

 

 

 大きい方か……?

 

 五分経って思った。

 フレンチとイタリアンと焼き魚定食を食べたのだ、もよおしてきてもおかしくはない。

 十五分経った。トントン、ドアをノックしてみる……返事がない。もう一度ノックしてみる……気配がない。

 おかしい。

 ノブに手を掛けて回して……回してみようと思ってもノブが掴めない。よく見るとノブは壁に3Dに描かれただけのものだ。

 フェイク?

 透視してみると、壁の向こうは隣のコンパートメントになっていてドアが開いたままになっている。

「やられた」

 右の人差し指をクルリンと回してドアを開錠、通路に出ると13号車を目指した。

 乗車した時のアナウンスでピンときていた。12両連結の列車に13号車はあり得ないだろう。

 だが実際にはあるのだ。何事も無ければ見逃すつもりでいたが、恵美を拉致されては放っておけない。

 ガラ……ガラ……ガラ……

 三回ドアを開け、二つ後ろの車両に入ると、通路に女性の車掌が立っていた。

「お客様、どうかなさいましたか?」

「ちょっと人を探しているの」

「それならわたしが探します、お名前と特徴をお聞かせください」

「そうやって時間を稼ぐつもりね」

「え?」

「車掌さん、ストッキングが白いのはどうしてかしら?」

 車掌は、可愛そうなくらいに動揺した。

「あ、え、えと、これは……」

「それは看護婦さんのストッキング、あなた、看護婦さんね?」

 マユは、あえて看護師とは言わなかった。看護師ならば、偽車掌はこんなに動揺しなかっただろう、この女のアイデンティティは看護婦という呼称こそ相応しいのだ。

「看護婦と呼ばれた時代に生きていたのよね、邪魔しないでね」

 それだけ言うと、彼女の脇を抜けて次の車両に移った。看護婦は口をパクパクさせるだけでマユを阻むことはできなかった。

 

 いよいよ十二両目にやってきた。

 

 十二両目は、後ろ半分が特別寝台車になっていて、完全な個室だ。鍵はかかっていたが、マユの手に掛かれば無いも同然。

 人差し指一本振ったで開けてしまうと、ズイズイと中に踏み込んだ。

「やっぱりね……」

 ドアこそは特別寝台車だが、内部はまるで病院の処置室だ。

 簡単な手術なら出来そうなベッドに無影灯、デスクに診察台、レントゲンやらさまざまな医療機械が置かれている。

 そして、なによりニオイだ。消毒のニオイと若干の血のニオイが混ざっている。

 パーテーションで隠された一画を覗くと、点滴用のポールに大きめの血液パックがぶら下がっている。パックの先は機械に繋がっていて、その構造から輸血ではなく、たった今抜かれた血液のようだ。

 透視してみる……あきらかに恵美の血液だ。

 十二両目の向こうは暗闇の中に鉄路が伸びていてカタンコトンと音を立てている。

 当たり前に見たら、この列車はこの十二両目が最後尾だ。

 

「我は堕天使マヤ、 このようなまやかしは通じはせぬぞ……」

 

 目の前に十字を切ると、静かに朗誦しはじめた。

 I swear by Apollo the physician, and Aesculapius, and Health, and All-heal, and all the gods and goddesses, that, according to my ability and judgment, I will keep this Oath and this stipulation…………

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高校ライトノベル・ライトノベルベスト『学校の神さま・1』

2019-02-02 08:04:58 | ライトノベルベスト

ライトノベルベスト
『学校の神さま・1』
     


 振り返ってしまった、もう二度と振り返らないつもりだったのに……。

 担任の……担任だった多田先生は、深々と頭を下げてくれた。学年主任の長沼は、とっくに背中を向けて、廊下を職員室に向かって歩いているのが見えた。廊下と言っても二階だ。わたしの学校……だった外苑高校の玄関は二階までの吹き抜けで、校門の所から玄関の大きなガラスの格子を通して二階の職員室への廊下まで丸見えなんだ。ってことは、長沼はあたしを見送ったあと、すぐに二階へ上がる階段を上ったというわけ。多田先生は、玄関から、この正門までちゃんとあたしを見ていてくれたということ。
 悔しさと後悔がいっぺんに来て、視界がぼやけた。多田先生にペコリとお辞儀したら、地面のコンクリートにシミがポツポツと付いていった。なけなしの笑顔で手を振ってわたしは地下鉄の駅目指して走った。

 青山公園で顔を洗った。
 
 今日は控えめにしてきたメイクだけど、マスカラとかが溶けて、多分タヌキみたいな顔になっている。こんな顔で地下鉄なんか乗れやしない……と思ったら、ハンカチが無かった。

 音梨メイは、どこまでドジなんだ。そう思ったら横からタオルが差し出された。

「ん……?」

「使いなさいよ、それだけベチャベチャにしちゃったら、ハンカチじゃ間に合わなくってよ」
 時代外れな丁寧語が、頭の上から降ってきた。
「わりー、どうも……」
 タオルで顔を拭きながらチラ見した、その子は時代遅れのセーラー服を着ていた。髪もきっちりお下げで、足は黒のタイツみたくで、ピッタシのローファーを履いていた。
「ありがと」 
 そう言って、タオルを返すと、スカートのポケットにしまった。でも、あれだけのタオルなのにポケットがちっともモコモコしていない。
「喉かわいたでしょ、召し上がれ」
 今度は、両手に妙な形のビンを持ち、片方を差し出した。
「……ラムネ。こうやって飲むのよ」
 その子は美味しそうに半分ほど飲むと、可愛くゲップをした。
「ハハ、ごめんなさい」
 わたしはチャレンジしたが、ひと口飲むと中のビー玉が詰まって飲めなくなる。
「コツがあるのよ。この窪んだとこにビー玉が動かないようにして……こういう角度で、ソロッとね」
 見本を見せてくれる。アゴから喉にかけての線がとてもきれいで、飲むたびに動く喉が、健康的な色気になっている。
 あたし、勉強はだめだけど、こういうことの飲み込みは早い……期せずしてオヤジギャグになったけど、あとはラクチンに飲めた。まさか心に浮かんだオヤジギャグが分かったわけじゃないだろうが、その子は、上品で健康的に「ハハハ」と笑った。
「ゲプッ!」
 大きなゲップが出て、その子もわたしも大笑いした。上品と、そうでない別はあったけど、さっきの正門のときの気持ちは消えていた。

 なんだか自然に二人でベンチに掛けた。

 ラムネのビンはタオルと同じようにポケットにしまったけど、とてもタオルとビン二本が入っているようには見えない。
「メイちゃん辞めちゃうんだね」
「あたしのこと、知ってんの……?」 
「うん。一年B組の音梨メイちゃん。入学して一カ月半で辞めちゃうんだよね」
「……あんたは?」
「外苑園子かな。メイちゃん、さっき文学的に『その子が、どうとか』思ったでしょ。だから園子です」
「まじめに聞いてんだけど」
「まじめよ。わたし外苑高校の神さまだもの」
「……え?」
「息苦しいんで、飛び出してきちゃった。ウフフ」
 
 そのとき、あたしは気づいた。園子には影がないことを。

「いけない、影忘れてきちゃった!」
 園子はきれいな口笛を吹いた。すると学校の方から、すごいスピードで影だけが走ってきて、園子の前で一礼をした。
「いけない子。ご主人様についていないとウェンディーがピーターパンにしたみたいに縫いつけちゃうわよ」
 それだけはご勘弁というふうに首を振ると、影は、おとなしく、あるべき位置に収まった。
「じゃ、とりあえず渋谷にでも繰り出しましょうか?」

 園子は、わたしの返事もろくに聞かないで、駅の方に歩き出した……。

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高校ライトノベル・🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!・27『三好紀香』

2019-02-02 06:50:24 | ノベル2

🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!

27『三好紀香』


「……昨日は……その…………あ…………ありがとう」

 消えてしまいそうな声で三好紀香が言った。意外な人物の意外な言葉に反応ができなかった。
「えと……ジャージは、桜子に預けたの」
「あ、ああ、今朝もらったよ……ドライクリーンニングしてもらって恐縮」
「うちクリーニング屋だから……気にしないで」
「あ、そうなんだ」
「じゃ、じゃ、これで……」
 三好は、それだけ言うと、オレの前を通ってドアに向かった。

「三好さん、それだけでいいの?」春奈先生が呼び止めた。

「え……えと…………」
 ドアに手を掛けたまま、三好は赤くなった。
「いちど、医者に診てもらえよな。持久走で二回も倒れるなんて、どこか悪いのかも……って、オレも言えた義理じゃないけどな。この太り方は医者に行った方がいいんだけどな……分かっていても、なかなかな……アハハ」
「そ、そだね……じゃ」
 三好は、そのまま出て行った。余計なことを言ったかな……。

 春奈先生が小さくため息をついた。それを汐に、オレは保健室を出た。

 下足室に行くと三好が靴をつっかけたままボンヤリしていた。
「あ………」
 オレに気づくと、びっくりした猫みたいな顔になって固まってしまった。
 なんか気まずく、オレはロッカーの島を逆に回って出口を目指した。三好の気配を感じながら、島の向こうに出ると、ブレザーの裾がなにかに引っかかった。
「う……」

 振り返ると、三好が、さっきよりも顔を赤くして、ブレザーの裾を掴んでいた。

「三好……」
「ごめんね、いままでデブとかブタとか言ってばっかし……ほんとは、最初に救けてもらったときもお礼言わなきゃって思っていたんだけど……友だちの手前、とっても意地悪なこと言って……百戸くんは、それ分かっていたはずなのに、きのうも救けてくれて、もっときちんとお礼言って、謝らなきゃいけないのに、ジャージだって、自分で返さなきゃいけなかったのに、桜子に預けて……保健室にも春奈先生に頼っちゃって……ほんとに、ほんとに……」
「三好……デブなんか嫌いだ! って言って、出口に走れ」
「え……?」
「出口の向こうに、三好のお仲間がいる……振り向くな! さっさと叫んで行くんだ!」
「言えないよ、そんなこと」
「言わなきゃダメだ」
 オレは、とっさに三好の胸を掴んだ。
「う……!?」
「これなら言えるだろ?」
「デ……デブなんか嫌いだ!」
 三好の叫び声は、外の取り巻きにまで聞こえたようで、いくつもの視線が突き刺さった。三好は、そのまま駆けて行って、取り巻き達も振り切って、校門を出て行った。
「「「「紀香ア!」」」」
 取り巻き達が叫んで、三好の跡を追いかける。
「これでいい、デブに礼なんか言ったら、ハミゴにされるからな」

 頭がカーっとしてきた、三好の胸の感触が、やっと押し寄せてきたのだ。

 カバンを持って歩き出すと、ロッカーの島の向こうに人影が走った。

 あれは、クラスの島田大輔……? 

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