大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・堕天使マヤ・第三章 遍路歴程・21『「す」市・2・スイッチ町前編』

2019-02-14 12:01:09 | ノベル

堕天使マヤ・第三章 遍路歴程・21
『「す」市・2・スイッチ町前編』

 

 

 恵美は心細い。

 

 これまでマヤと旅をしてきたが一人になるのは初めてなのだ。

 おまけに「す」市には戒厳令が出ていて物騒だ。駅のアナウンスは――駅の構内は安全です――と言っていたけど、アナウンスが終わるやいなや男の人が流れ弾に当たって死んでしまった。

 やっとホームに入ってきた電車はスイッチ行き。この電車は恵美一人で乗った方がいい。静かに、でもキッパリした声でマヤが言う。自己主張が苦手な恵美は「でも」も「だって」も言えずに六両目の一番後ろに座っている。

 やがて列車は『スイッチ町』に着いた。

 前方の一両目二両目からゾロゾロと乗客が下りていく。改札が前の方なのだろう、六両連結の分だけ人より余計に歩いて改札を潜る。

 一人だけ同じ車両だったオバサンは、とっくに先に行ってしまった。

――最後尾でいい、どうせ時間つぶしなんだし――

 ほとんど溜息みたいな独り言をこぼして駅前の名ばかりの広場に立つ。

 ちょっとしたデジャブ。

 広場は幼稚園の運動場ほどで、分度器を寝かせたような半円形。三十度刻みに道が六本伸びている。

 駅を中心に放射状に道が伸びていて、放射状を同心円に道が交差している様子、田園調布の街に似ている――わたしって、田園調布に住んでたのかなあ――思ったけど確信は無い。

 パチンと音がして「正解、正解」の声。

「幸先がいいわ、いきなり正解スイッチだったわ!」

 さっきのオバサンが、三番目の道のところでガッツポーズしている。

「なにが正解なんですかあ?」

 間抜けな声に、自分でも恥ずかしくなる恵美。

「知らないの? この町は、あちこちにスイッチがあって、自分に合うスイッチを押すと運が開けるのよ。願い事が叶うとも言ううわ」

「そうなんだ」

「でもね、一個じゃダメなのよ。十個はスイッチ押さないと効き目が無いの」

「じゃ、わたしも……」

「どーぞ」

 ニコニコのオバサンのところまで行く。

「えと、どこにスイッチが?」

「交差点がスイッチ。どっちかに行ってごらんなさい」

「はい」

 試してみるが手ごたえがない。

「ああ、やっぱりね」

「なにが、やっぱりなんですか?」

「人それぞれに合ったスイッチがあってね、適応してないところは反応しないのよ。まあ、交差点はいっぱいあるから試してみるのね」

 そうなんだ……元気をなくしてため息つくと、町のあちこちからパチンパチンと音がしているのに気付く。

「わたし、こういうのダメ……」

 当てものとか福引とか当たったことが無い恵美は気力がわかない。マユがいっしょなら、後ろからついて回ることもできるんだけど……。

「最低一個でもスイッチ見つけないと、帰りの電車には乗れないわよ」

「え、そうなんですか!?」

「そうよ、気を落とさずにがんばってね」

 そう言うと、オバサンは次の交差点に向かった。オバサンが角に差しかかると小気味よくパッチンの音、「ヤッター」と少女のような声を残して角を曲がった。

 もしかしたら……オバサンが曲がった交差点まで行ってみるが、恵美にはなんの手応えもない。

 無反応な交差点を十いくつ通ったところで心が折れてうずくまってしまう恵美だった……。 

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高校ライトノベル・時かける少女・9『エスパー・ミナコ・4』

2019-02-14 07:00:19 | 時かける少女

時かける少女・9
『エスパー・ミナコ・4』
        


 進んでポリグラフにかけてもらった。

 自分のことは「ミナコ」という名前しか分からない。着ていたセーラー服から学校を探してもらったが、校章や名前に関わる物がいっさい付いて居らず、そこからの捜索の道も絶たれた。
 ただ、知識だけは信じられないくらい持っていた。スラングも含め英語は完ぺき。独、仏、中、それに、ロシア語、中国語、朝鮮語も話せた。
 まだ、試してはいないが、他の外国人でも、わたしの目の前に立てば、その人物の言語中枢とリンクして、どんな言葉でも喋れそうだった。
 アメリカを含む外国の知識は、同席した外国人の知識が、そのままミナコの知識になった。日本人についても同様である。だからミナコは数日のうちに、自分の世話をしてくれているポーランド系アメリカ兵、コワルスキーが水虫で悩んでいることも分かった。
 コワルスキーは、陽気なポーランド人で。水虫のことも戦友だと喜んで人に見せては面白がっている。
 二日目にあった陸軍大佐が、フィリピンで、日本兵捕虜の殺害を部下に指示したことが分かったときは衝撃だった。

「ヘンドリック大佐、メモを落としましたよ」

 わたしは、彼の記憶のままに、彼の筆跡で、捕虜処分の命令書を書いて渡した。
 ヘンドリック大佐は、動揺したが、そのメモを黙って握りつぶした。
 ほんの悪戯のつもりだったが、その時、彼の日本人への拭いがたい蔑視と敵意、そして日本人捕虜処刑の情景がまざまざと湧き上がり、気が付いたら、大佐自身が書いた命令書が手許にあった。
「こんなもの、行くべきところに行くがいい!」
 そう思うと、その命令書は、ミナコの手から消えた。

 そうやって、ミナコの言語能力と知識は膨大なものになった。

 ただ、自分のことはサッパリ分からない。エスパーとしての自覚は生まれつつあったが、その能力は、戦車と橋を元通りにしてからは、手品程度のことしか人には見せない。

 で、情報部が持っているポリグラフに、自分からかけてもらうように頼んだ。情報部もおもしろがって様々な質問を用意した。
 ポリグラフは、基本的に「NO」で答える。その時の心拍数や発汗の変化でウソを見抜くのである。
 情報部長の趣味で、ニューヨ-クヤンキースの質問が多く、結局、ヤンキースのこれまでの成績、選手の癖を全部答えさせられ、今シーズンの成績の予想までさせられた。数か月語、ヤンキースの成績がドンピシャだったので、情報部長と仲良くなり、知らない方が良かった情報まで知ることになった。

「コワルスキー、妹さんが重病よ!」

 ある日、コワルスキーが好きなポーランド語で喋っていると、急にコワルスキーの妹の情報が、頭の中に飛び込んできた。
「ユリア、十七歳。セント・ホプキンスハイスクールの二年生ね。一昨日雨の中をオープンカーで走って、肺炎、一晩平気そうな顔して寝ていたのが手遅れの原因」
「ほ、ほんとかよ!?」
「今、見せてあげる……」
 日頃封印しているエスパーの力を使って、廊下の鏡にユリアの姿を映してあげた。
「ユ、ユリア……!」
――今夜が山です――
 ドクターが、人の良さそうなお母さんにそう告げた。
――先生、なんとかならないんですか。息子は日本に行ったままだし。あたしは、どうしたら――
「ママ、ユリア!」
「ペニシリンが使えればね……」
 ペニシリンは特効薬で、軍事医療用が優先され、民間への使用は、この秋になってようやく認可されたが、バカのように値段が高く、シカゴのポーランド系移民の手の届くシロモノでは無い。ドクターも知っていながら、母には伝えなかった。
 いつも陽気なコワルスキーが、身をよじりながら泣いている。普段陽気にしている分、その悲しみの深さは言葉では表せないくらいだ。
 ミナコは、自分の力でできることを考えた。飛行機にコワルスキーを乗せて、アメリカに帰してやることは容易かった。大隊長のカリー大尉か、情報局の部長に頼めばできるだろう。でも、それでは、妹さんの葬式に間に合うのがやっとだ。ドクターの心を動かしてペニシリンを使わせようとしたが、ドクター自身もペニシリンは持っていない。日本から、アメリカ人の心を操作し、ペニシリンを使わせるには、何人もの心を動かさなければならず、それでは間に合わない。

「そうだ、コワルスキー、戦友と別れてちょうだい」
「え、戦友……?」

 というわけで、わたしは、コワルスキーの長年の戦友である水虫の白癬菌をペニシリンに変えた。水虫の原因菌もペニシリンの原料も、もとは青カビ、白癬菌と、似たような菌である。
 ミナコは、コワルスキーの足の表面の白癬菌をペニシリンに変態させ、そのまま、ユリアの体の中にテレポートさせた。大きな物は無理だが、ペニシリン程度のものなら送ることができる。

――信じられん。こんな回復、ペニシリンでも使わなきゃあり得ないのに!――

 海の向こうのドクターは驚きの声をあげ母娘は泣いて喜んでいた。
「あ、ありがとうミナコ!」
 日本でも、コワルスキーがミナコを抱きしめて喜んでいた。

「わたしってば、バカだ。日本の米軍が持っているペニシリンを転送すればすんだのに!」
 この独り言は、日本語だったので、コワルスキーには通じなかった。
「なにか、お礼がしたいよ、ミナコ」
「ん~……じゃあね、今度コワルスキーのポーカー必勝法を教えて」
「ようし、オレの一番の弟子にしてやる!」
 ミナコは、ポーカーなどをするときには、絶対自分の力を使わなかった。フェアじゃないからだ。
 だから、元々の博才の無さがもろに出て、勝った試しが無く、米軍の仲間からは、そういう点でもかわいがられた。

「う~ん、ミナコの血は半分か四分の一、アングロサクソンの血が混じっているね。アゴや額の線、目の形に表れているよ」
 中佐の階級を持つ人類学者の先生がそう言った。
 わたしの記憶が戻らないので、カリー大尉が、軍属の先生を二人連れてきて調べてくれた。
「わたしは、相当な高等教育を受けていたと思わ。この気品と立ち居振る舞い、それに教養が、それを物語っている」
 居合わせた……というより、押しかけてきた米兵たちは大喜びした。無論、コワルスキーのような友情もあるが、優れたモノは、みんな自分たちの仲間だという、白人優位主義が感じられたが、ミナコはおくびにも出さず、ただみんなといっしょに驚いておいた。

 その中で、ただ一人面白くない顔をしている将校がいた。日本人捕虜を殺したヘンドリック大佐が……。

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高校ライトノベル・🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!・39『百戸君おはよう』

2019-02-14 06:49:10 | ノベル2

🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!

39『百戸君おはよう』


 このところ、親父が食事に誘ってくれない。

 捜査一課長の身でありながら、親父は、ほんの1時間でも余裕ができれば、オレとお袋を食事に誘っていた。
 たいがい県警本部の近所で間に合わせていたが、職業柄なのか、元来マメなのか、食事をする店はいろいろだった。店はいろいろだったが、食事中の話題は親子三人の身の回りのことが多く、多い割には、その背景にある事情に興味が薄い、あるいは詳しくない。だから準備不足のトーク番組のように空々しい。
 オレもお袋も、この家族ごっこは、ヘタクソな教師の授業を受けているように苦痛だった。
 でも苦痛だと口に出して言ったことは無い。言ってしまったら、この仮面家族はあっけなく崩壊する。

 妹の桃が生きていたころは、こうではなかった。

 桃は、学校や友だちのこと、ファッション、好きなテレビ番組、SNSやネットでのあれこれ、果てはご近所で子猫が生まれたことなど、いろんなことに興味があるやつだった。また、桃が興味を持っていることだから、オレたち家族には新鮮だった。
 ご近所の子猫のときなんか、桃が撮ってくる写メを見ながら、どんな名前が付けられるか、みんなでワイワイ楽しめた。
 その子猫は成長して2回子猫を生んだが、うちの家族は、もう関心を示さない。

 桃が死んでから、親父は食事会をやるようになった。生真面目な先生の授業のような食事会。

「お父さんも忙しいんだよね」
 お袋は、そう言ってため息をつくが、どこかホッとした響きがある。

 で、じっさい親父は忙しい。

 紀香一家が失踪したことは、背景に国際的製薬会社が絡んだクローン人間の開発と、開発にともなう様々な事件が背景にある。
 オレは巻き込まれて知ってはいるが、なにも証拠はないので喋るわけにもいかないし、言ったところで信じてももらえないだろう。

「百戸君おはよう」

 上履きに履き替えたところで声を掛けられた。
「……紀香」
 振り返ると、紀香でないことはすぐに分かった。目の光が違う。
「2号か……?」
「え、なにそれ? しっかりしてよ百戸くん。心配かけたけど、今日から復活。よろしくね」
「待てよ、紀香じゃないことは直ぐに分かる。みんなを混乱させるだけだ、すぐに帰れ」
「なに言ってんの、紀香は紀香よ。あ、レイカ、ごめん心配かけて!」
 紀香のソックリは、下足室に入って来たお仲間たちに駆けよっていった。

 どうなるかハラハラの半日だったが、紀香はちょっとやつれたということで簡単に溶け込んでしまった。 
 

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