大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・クリーチャー瑠衣・6『一休みしにきた宇宙人・1』

2019-02-22 06:55:31 | 小説3

クリーチャー瑠衣・6
『一休みしにきた宇宙人・1』



 Creature:[名]1創造されたもの,(神の)被造物.2 生命のあるもの 


「ちょっと一休みさせてもらってるよ」

 朝、ベッドで惰眠をむさぼっていると声がした。

――……だれ?――

 心で聞いてみた。まだ頭は半分眠った状態なので、ほとんど夢のように思っていた。
「ちょっとでいいから、目を覚ましてくれると嬉しいんだけど……最後の日の加藤瑠衣さん?」
 自分の名前を呼ばれたことと「最後の日」という言葉にびっくりして本格的に目が覚めた。
「最後の日ってどういう意味? て、なんであたしの名前知ってんの?」

 部屋には人の気配はしなかった。かといって誰かがテレキネシスで送り込んできた想念でもなかった。

「……だれ? どこにいるの?」
 瑠衣は、すでに起きて掃除機をかけているお母さんに聞こえないように聞いてみた。
「机の上の本立ての上のさらに上の棚の上」
 そこは、捨てる決心がつかないというか、整理し損ねたというか、瑠衣のガラクタがまとめて無秩序に積んであった。ガラクタの一つ一つに目をやったが、これだというものが見当たらなかった。

「ハハ、ここだって、ここ」

 その声でやっと気づいた。ガラクタ箱の間に挟まった人形から、その声がしている。むろん口も体も動いてはいない。瑠衣の特殊な能力で、やっと感じられるくらいに、例えば耳から外したイヤホンから聞こえてくるほどにか細かった。
 その人形は、中二のときにはじめてネット通販で買った「乃木坂学院高校の制服」を着たコスプレドールだった。
 瑠衣は中学の頃は乃木坂学院に入りたかった。『はるか 乃木坂学院演劇部物語』という小説を読んで「ここだ!」と思った。体験入学にも行ってみた。気にいった……でも二つのことが足りなかった。

 お金と成績……お母さんに、そうそう無理は言えない。奨学金という手もあったけど、成績に自信がなかった。留年したら奨学金は打ち切られる。見かけによらず気弱な瑠衣は体験学習で諦めた。

 それから、しばらくして世田谷の我楽多市で、乃木坂の制服を着た人形を見つけて衝動買いした。
 最初は、そうは思わなかったけど、傍に置いておくと、なんとなく自分に似てきた……ように思えた。
 それにお母さんが心苦しく思うんじゃないかと思って、半月ほどでガラクタの棚の上にやって、それっきり忘れていた。

「でも、瑠衣の想いがこもっているんだよね」
 人形は、器用に棚からジャンプして、ベッドの上にやってきた。
「ちょっと、埃だらけじゃんよ!」
「ああ、ごめんごめん」
 人形は、水に落ちた猫が体を震わせて水を弾き飛ばすようにしてホコリを振り落した。
「ちょ、ちょっと!」
「ごめん。でも、こんなに埃だらけにしたのは瑠衣なんだからね」
 自分によく似た人形が口をとがらせて抗議した。

「で、あんた誰なの?」

 瑠衣は直感で感じていた。この人形には別の心と言うか魂というかが憑りついていることを。
「あたし、お父さんと同じシータ星人……ただし、体は、もう動かないから、心だけ、この人形に宿っているの。少しの間休ませてくれる?」
「お父さんと同じ……シータ星人!?」
「そう、名前はミュー。瑠衣が目覚めるまで起きてたから眠い。ちょっと寝させてね」
 そう言うとミューは、本当に目をつぶって眠ってしまった。
「いつまで寝てんのよ!?」

 お母さんに起こされるまで瑠衣も眠ってしまった……。

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高校ライトノベル・時かける少女・17『ピンチヒッター 時かける少女・4』

2019-02-22 06:49:11 | 時かける少女

時かける少女・17 
『ピンチヒッター 時かける少女・4』 
      



 ミナコの視界は、しだいに暗くなってきた……。

 それもそのはず、ミナコは目をつぶっていたのである。
「ミナコちゃん!」
 ミナコは、そっとスマホの画面に触れた。血圧、心拍、体温測定器が音もなく停止した。
「大丈夫、騒がないで。それより冷蔵庫から、ありったけの氷り持ってきて、そこのビニール袋に小分けして持ってきてくれる」
「わ、分かったわ」
 和子巡査は言われたとおりにやった。ミナコは氷りの袋を、脇の下、股の付け根、首筋にあてがった。
「これでよし」
「この胸の血は?」
「あ、夕べの晩ご飯に出たケチャップ」
「プ、でも、なんでこんなことを?」
「あのスナイパーたちをまくため」
「やっぱり、撃たれたの?」
「窓ガラス見て」
 和子巡査は窓辺によった。そして発見した。
「ここのガラスって、防弾ガラスだったのね」
「防弾にしたの」
「え……?」
「わたしが」
 ミナコは、スマホを示した。
「そこのカメラにもダミーの映像をかましてある。わたしが大人しく寝てる画像をね。廊下には和子さんのホログラム。そのドアスコープから見て」
「……ほんとだ、わたしがドアの前で立ってる……でも、どうして?」
「言ったでしょ、スナイパーたちをまくためだって」
「どんな、組織なの、そいつらは?」
「未来人たちが使っているアンドロイド」
「ミナコちゃんの時代の?」
「いいえ、もっと未来の……ああ、寒い。もういいでしょ」
 ミナコは、氷袋を外した。
「この部屋は、たいていのセンサーはブロックできるようにしてあるけど、あっちの方が進んでるから、その計測器と、わたしのサーモグラフィーだけは停められなかった。計測器じゃ心臓停まったことになってるのに、体温が下がらなきゃおかしいでしょ。二度近く下がったから、死体の体温低下としては自然でしょ。おお寒う!」
 ミナコは、ベッドの毛布をひっかぶった。
「お茶でもいれようか?」
「すみません、お願いします」
「ミナコちゃんは、どれくらいの未来から来たの?」
「二十六年後。2019年から。お父さんのピンチヒッターとして」
「ピンチヒッター?」
「お父さん、心臓弱くて、タイムリープに耐えられないから」
「どうぞ……」

 ミナコは、お茶を一口すすって確信を持った、が、まだ言わない……。

「和子さん、お茶入れるの上手ですね」
「そう、お世辞でも嬉しい」
「お世辞じゃないわ。このお茶っぱと水で出せる最高の香りと味わい。ほら」
 スマホを、和子に見せた。そこには二つのグラフが重なっていた。
「あら、ほんと。わたしってば、この条件で出せる最高の線いってるのね」

 二人で、ゆっくりお茶を飲み干したところで、ミナコは切り出した。

「和子さん……」
「はい……?」
「あなたも未来人でしょ?」
 和子は、一瞬戸惑ったような顔になった。でも演技じゃない、本当の戸惑いだ。
「どうして、そんなこと思うの?」
「和子さん、わたしが未来のテクニック見せても、あまり驚かないし、理解も早い。今のお茶のグラフなんて、なかなか見ただけじゃ分からないわ」
「それは、ミナコちゃんが未来の人だから」

 まだ、和子は正体を現さない。

「『平成狸合戦ぽんぽこ』の公開は1994年、今は1993年。制作は、まだラフの段階でタイトルも未定、それを、どうして知っていたのかしら?」

 この一言で、和子はフリーズした……。

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高校ライトノベル🍑MOMOTO🍑デブだって彼女が欲しい!・47『クンパ・1』

2019-02-22 06:42:37 | ノベル2

🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!

47『クンパ・1』


 クンパと呼ぶ。普通に約めればクニパだけれど「ニ」が促音の「ン」になってクンパとなる。

 そのクンパと呼ばれるクニトミパークは、県内の遊園地が大規模テーマパークに押されてバタバタ潰れた中で唯一残ったものだ。
 県の中心にあって、駅を出ると目の前がクンパのゲートという利便性。戦前からの遊園地なので敷地が広く家族連れや恋人同士が気楽に行くのに持ってこいなのだ。

 改札を出るとテーマ曲の『クンパルシータ』が流れている。

 この曲がテーマ曲なのは、ただのごろ合わせだ。だけど、この軽快でノスタルジックなアルゼンチンタンゴを聞くだけで、大げさに言えば非日常の夢の世界に連れて行ってもらえる。
「どのアトラクションにする?」
 腕輪式のフリーパスを付けてもらいながら桜子に聞く。「百斗が乗りたいのならなんでもいいよ」とは言わない。
「あれ!」と桜子が指差した先はヘルダイバー。クンパ一押しのフリーホール。高さ45mから最高90km/hで一気に垂直落下する、まさに地獄マシーン。

「え……まだ上がるってか」
「これがいいんじゃない」

 横一列のシートは、いったん停止して――まだまだこれから――という感じで、さらに上昇する。45mの高さはハンパではない。
 ブー! ブー! ブー! アラーム音が響く。演出効果と分かっていても心臓に悪い。

 ブー!!

 アラームがひときわ大きく鳴って、シートが垂直落下!

「「「「「「「「「「「「「「ウッワー!!」」」」」」」」」」」」」」

 横並びのシートに並んだ客が一斉に叫ぶ。110キロの体重を一瞬感じなくなる。落下による無重力で体重を感じなくなるのだ。
 で、そのぶん減速に入った時のGは、桜子の倍以上。むかし乗った時とは体重が違うので覚悟はしていたが、これほどだとは思わなかった。
「百斗、ひどい汗!」。 で、同情してくれるのかと思ったら「これ、10回も乗ったら痩せるかもね」と、真顔で呟く。
「さ、次いくよ!」
 ハイテンションの桜子は、それから立て続けに5つのアトラクションにオレを引っぱって行った。そのことごとくが絶叫系。
「ごめんね、桃斗苦手なのに」
 6つ目を乗り終えて、桜子が労わって言う。
「いいよ、桜子はめったに乗れないんだし」
 桜子には歳の離れた弟と妹がいる。遊園地に来るときは弟妹に合わせるので絶叫系には乗れないんだ。

 昼。クンパのレストランはどこも一杯だ。

 で、結局は中学生のときに行ったのと同じオムライスの店に入った。
「どうして、ここなら座れるんだろう?」
「きっと運命だ」
「運命?」
「あのころの二人に戻るには、トレースしなきゃならない道があるんだよ」
「かもね……」
 ほんとうは園内をグルグル周っているうちに、ランチタイムのピークが過ぎたというところかもしれない。でも、それを運命と思えるくらいに二人の心は温まっていたんだ……。

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