大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・時かける少女・1『その始まり・1』

2019-02-06 07:21:50 | 時かける少女

時かける少女・1
 『その始まり・1』                

 
 湊子(みなこ)は二人の自分と戦っていた。

 十七の娘として、ごく当たり前に生き続けたいと願う自分。
 早く楽になって、向こうの世界で、もうじきやって来るあの人を待ちたいと願う自分。

 生き続けたいと願うのは、もう非現実的で、覚悟のない弱い心からだと思った。
 楽になりたいと願うのは、単なる逃避でしかないと思った。それでは、あの人を待ちたいと願う心が言い訳になってしまう。

 わたしの取るべき道は、あの人の最後を見届け、全てを受け入れてから旅立つこと。湊子はそう思い定めていた。
 
「僕より先に逝くんじゃないよ……」
 三日前、最後の見舞いに来てくれた健一は、久々に洗髪したサラサラの髪を撫でながら、そう言った。
「だいじょうぶ……」
 かすれる答えるのがやっとだった。

 三月十日の大空襲では、奇跡的に軽いヤケドしか負わなかった……見た目には。
 でも、熱気と煤を吸い込んで、気管支がやられ、半月ほど咳が続いた。タンに血が混ざるようになって肺炎であると海軍病院の軍医に言われた。良い薬が無いことと、栄養失調であることが病状を進めたようだ。海軍少将の父は無理を言って、海軍病院に入院させてくれた。父の生涯で、最初で最後のわがままだと思った。

 さすがに個室というわけにはいかず、新島竹子と同室だった。竹子も同じ女学校で、彼女も胸をやられていた。竹子は、カーテンで仕切られた向こうのベッドで眠っている。毎朝目がさめると、目だけで話した。

――おはよう。今朝も生きてたね――

 いま、竹子は静かに眠っている。
 湊子は、発熱と胸の痛みで眠れなかった。付き添いの姉は、もう船を漕いでいるだろう.

 いつしか湊子は、熱に浮かされながら健一とかわした屁理屈遊びを思い出していた。
「X=3 Y=3をグラフに書いてごらん」
「なによ、国民学校の四年生でもできるわよ」
 湊子は、グラフ用紙に自信満々で点を打った。
「間違ってるよ」
「え、どうして、どうしてよ!?」
「いいかい、X=3 Y=3というのは点なんだ。点というのは面積を持たない。湊子ちゃんが書いたのは虫眼鏡で見れば円だ。円には面積がある……だろう」
「そんなの屁理屈だ。学校ではこう習ったもん」
「海軍じゃダメだね。大砲の照準を決めるときは、この図の百倍は精密だよ。弾を撃って、0・1度の誤差は、三十キロ先の弾着地点では五百メートルの誤差になる」
「ええ、そんなに!?」
「そうだよ、だから何発も撃って修正しながら命中弾を出すんだ」
「そうなんだ。海軍さんはスゴイ!」
「今頃分かったか」
 湊子はポコンとされたのを思い出した。
「正解はね、これだ」
 健一は何も書いていないグラフ用紙を見せた。
「え、なんにも書いてないですけど?」
「点というのは、頭のなかでしか認識できないもので、紙になんかは書けない。ただ、このグラフ用紙を見て思いこむしか手がない。真実って、そんなもんだ」

「ハハハ、じゃ、山野、これはできるか?」

 いつの間にか入ってきたお父さんが針とマッチ棒を持ち出した。
「この針の穴に、マッチ棒を通せっていうんでしょ。まず湊子さんから」
「こんなもの、通るわけないじゃないですか、バカにして!」
 湊子は、オヤジと新品少尉にからかわれたようで、むくれてしまった。
「僕なら、戦艦長門でも通してしまう」
「え、あんな大きな物!」
「こう、やるんですよ……」
 健一は、針の穴を思い切り目に近づけた。
「ほら、湊子さんが入った!」
 健一とまともに目が合った。健一は針の穴を通して、しっかりと湊子を掴まえてしまった。
 
 あれから三年近くがたち、今では懐かしい思い出になってしまった。

 湊子は、思い出に感謝した。これで、今夜は無事に目の覚める眠りにつけそうだ。

 そのとき、病室のドアにかすかな気配を感じた……。



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高校ライトノベル・🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!・31『けしからんこと』

2019-02-06 06:50:52 | ノベル2

🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!

31『けしからんこと』


 トイレに下りると、リビングで音がする。

 

 カサカサ



 ヒョイと顔を向けると、テーブルでお袋ががなにか書いている。
 開けっ放しのドアから入るが集中しているお袋は気づかない。そのままお袋の後ろに回った。
―― あ、親父に手紙書いてんだ。 ――
 びっくりしたら屁が出た。
「あ、桃斗……(*ノωノ)」
 まるでラブレターを書いているところを見られた女子高生みたいに狼狽える。
「手紙書いてんだ……」
「きのう、イタリアンだったでしょ……忙しい中、お父さん、時間つくってくれたから……だから、気持ちだけね」
「うん、そうなんだ……」
「う……くさい」
 屁が臭いだした。
「あ、トイレいく途中だったから!」

 気まずさを屁に助けられる。

「今日も、学校休みなの!?」
「うん、ポンプ室が直らなくって!」
 廊下を挟んで、リビングとトイレでやりとり。気まずさは、ひとまず飛んで行った。

 捜査一課長が時間を工面して家庭サービスの食事。そのたびごとに手紙を書くお袋。
 なんだか無理していると思う。この無理は、妹の桃が死んでから、ずっと続いている。
 桃に聞いてみたくなるが、こういう話をふられそうなときは姿を現さない。ま、幽霊なりに考えてはいるんだろう。

 クソをしたあと二度寝しようと思うが、ちょっと寝られない。

 三好……紀香のことを考えてしまう。

 オレのことを好きだって言った。紀香から気負いやデブに対する偏見を引くと……けっこうかわいい。
 身長は150センチくらい……ダッコとオンブをやった感じでは45キロくらい、胸は……Bカップくらい。背中と右手で感じた感触が……なんだかなあ……愛おしい。

 紀香が彼女だったら……たぶん、嬉しい。

 だけど、紀香の「百戸くん、好き」は、どこか無理を感じる。
 たしかに、持久走でへばっていたのを二回救けた。
 でも。あいうことは、その場に居合わせたら誰だってやるだろう。島田大輔が、そこに居たって同じことをやっただろう。じゃ、島田が救けたとして、紀香は島田を好きになっただろうか?
 オレの脳みそは「ノー」と言っている。
 じゃ、紀香が人知れずオレの事を好きだったから。で、その気持ちが持久走の救助で火が付いた……無いよなあ。それまでの紀香との関わりを考えても無い。
 でも、紀香の気持ちに嘘も無いようだ……飛躍はしているけど。
 もし、このまま紀香の気持ちを受け入れたら、念願の彼女……いかん、紀香とエッチしているところを妄想してしまう。紀香はダッコとオンブをしているので、肌の感覚や柔らかい身体がリアルに蘇ってくる。持っていきようによっては、できないことじゃないかも。
 だが、彼女は欲しいけど、こういう傾斜の仕方をしていることに付け込んじゃいけない。
 くそ、若いんだから、欲望に走ったって……。

 悶々としていると電話がかかってきた、桜子からだ。

―― 桃斗、紀香が家族もろとも居なくなっちゃった! 桃斗、桃斗、聞いてる!? ――

 一瞬、けしからんことを考えたせいだと思った。



🍑・主な登場人物

  百戸  桃斗……体重110キロの高校生

  百戸  佐江……桃斗の母、桃斗を連れて十六年前に信二と再婚

  百戸  信二……桃斗の父、母とは再婚なので、桃斗と血の繋がりは無い

  百戸  桃 ……信二と佐江の間に生まれた、桃斗の妹 去年の春に死んでいる

  百戸  信子……桃斗の祖母 信二の母

  八瀬  竜馬……桃斗の親友

  外村  桜子……桃斗の元カノ 桃斗が90キロを超えた時に絶交を言い渡した

  三好  紀香……クラスメートの女子 デブをバカにしていたが様子が変

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