大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・ライトノベルセレクト№79『ホームラン王 残念さん』

2019-02-20 11:26:17 | エッセー

ライトノベルセレクト
『ホームラン王 残念さん』


 

 三郎は今日も不採用通知を受け取った。これで59社目である。

 最初のころは封筒を開けるまでドキドキした。「ひょっとしたら!?」という気持ちがあったからである。
 友だちが合格通知を封筒ごと見せてくれて分かった。

 合格通知はその後に必要な書類や注意書きが入っていて分厚いのである。友だちのそれは80円で足りず90円切手が貼ってあった。
 それから、三郎は封筒を持っただけで分かるようになった。定形最大は25グラムまでである。不採用通知はA4の紙切れ一枚。10グラムもない。持てばすぐに分かる。
 次ぎに、三郎はポストの中のそれを見ただけで分かるようになった。二枚以上の書類が入っているものは、微妙に膨らみ方が違う。
 次ぎに、三郎はポストに入る封筒の音で分かるようになった。A4一枚の封筒が郵便受けに入る音は、ハカナイほどに軽い。

 三郎は、名前の通り三男ではない。単に父が二郎であったことから付けられた名前である。しいて理由を探すと三人姉弟で、上二人が女で、男女雇用機会均等法の精神からすれば不思議ではない。これを思いついたときは、自分でおかしくなり、だらしなく、ヤケクソ気味に笑った。

 運動不足で、緩んだ体から緩んだ屁がでた。まるで老人のアクビのように締まり無く、長ったらしい屁で、自分でもイヤになった。

 ヤケクソ半分でバットを持ち出して銀行強盗……などは思いもせずに、淀川の河川敷に行った。
 河川敷の石ころを拾っては、川に向かっていい音をさせてバットで打ち込んだ。高校時代から使っている金属バットで、それなりに大事にしていたが、万年一回戦敗退の4番バッターでは、煩わしいだけのシロモノに成り果てていた。

 カキーン…………!

 ええなあ……音だけは。

 そのささやかな、ウサバラシも、心ないお巡りの一言ですっとんだ。
「ニイチャン、ここでバット振ったらあかん。そこの看板に書いたあるやろ」
「野球はアカンとは、書いたあるけど……」
「バット振るのも野球のうちや」
「あの……」
「なんや……」
 また緩んだ屁が出た。偶然お巡りは風下に居た。
「わ、く、臭い! イヤガラセのつもりか!」
「そんなん、ちゃいます……」

 お巡りが行ったあと、三郎は、つくづく情けなく、落ち武者のように河原に座り込んでしまった。
「懐かしい臭いであったのう……」
 気づくと、三郎の横に本物の落ち武者が座り込んでいた。
「あ、あんたは……!?」
「素直な性格をしておるの。お察しの通り、わしは落ち武者じゃ。もう、かれこれ四百年ほど、ここにおる」
 落ち武者は、槍の穂先で大きな頭ほどの石を示した。
「墓……ですか?」
「土地の者は『残年さん』と呼んでおる。少しは御利益のある、まあ、神さまのなり損ない、成仏のし損ないじゃ」
「はあ……」
「慶長二十年、わしは、ここで討ち死にした。徳川方二十余名に囲まれてのう。名乗りをあげようとすると、さっきのおぬしのように長い締まりのない屁が出てな。臭いはおぬしそっくりであった。臭いにひるんだ三人ほどは槍先にかけたが、所詮多勢に無勢。ここで朽ち果てることになったのよ」
「はあ……」
「同じ臭いの縁じゃ。なにか一つだけ願いを叶えてやろう。ただし、残念さんゆえ、大した願いは叶えてやれんがな」
「就職とか……」
「無理無理、ワシ自身が仕官の道が無いゆえ大坂方についたんじゃからの」
「じゃ、彼女とか……」
「……無理じゃのう、その面体では」
「じゃ、じゃあ、ホームラン打たせてくださいよ!」
「ほ、ほーむらん?」
「あ、このバットで、このボールを向こう岸まで打ち込みたいんです!」
「おお、武芸の類じゃのう。それなら容易い。今ここで打ってみるがよい」
 
 三郎は、高校時代の思い出のボールを思い切り打ち込んだ。

 カキーン…………!

「また、おまえか!?」
 さっきのお巡りが、本気で怒ってやってきた。落ち武者の姿はすでになかった。

 偶然だが、このボールは、向こう岸で女の人を刺し殺そうとしていたオッサンの頭に当たって気絶せしめた。あとで、そのことが分かり、府警本部長から表彰状をもらった。

 その後、三郎は阪神タイガースのテスト生の試験を受けて合格した。バッターとしての腕を買われたのである。
 半年後、目出度く一軍入り。代打者として、またたくうちに名を馳せた。満塁ツーアウトなどで代打に出ると、必ずホームランをうち逆転優勝に持ち込んだ。

 そして、その年、タイガースはリーグ優勝してしまった。
 三郎はめでたくベンチ入り、日本シリーズも優勝し、いちやく時の人になった。

『イチローより三倍強いサブロー』がキャッチフレーズになった。『神さま、仏さま、サブローさま』ともよばれた。

 そして、これが三年続いた。

 なぜか、タイガースの人気が落ちてきた。必ず勝つタイガースは関西人の趣味に合わなかったのだ。
 阪神は、三郎を自由契約として、事実上首にし、ほどよく負けるようになって、チームの人気が戻ってきた。

 その後の三郎が、どうなったか、3年もするとだれも分からなくなり、甲子園球場の脇に石ころがおかれ、誰言うともなく、サブローの残念塚と呼ばれるようになった……とさ。

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高校ライトノベル・クリーチャー瑠衣・4『瑠衣が真実を知った結果』

2019-02-20 07:22:55 | 小説3

クリーチャー瑠衣・4
『瑠衣が真実を知った結果』



 Creature:[名]1創造されたもの,(神の)被造物.2 生命のあるもの 


 岸本先生は、四階の外階段から落ちたが一命は取り留めた。救急車の中で「痛い、痛い……」と子供のように泣き叫んだ。

 瑠衣は、高坂先生への詫びの言葉が出ないことが悔しかったが、それ以上に自分の力が恐ろしくなった。
――高坂先生を無傷で助けたのも、校長の悪巧みを知って制裁をくわえたのも、都庁まで往復のテレポーテーションをやったのも自分の力なんだ――と理解した。

 ショックだった。自分がまるで化け物のように思われて、その日とあくる日は外にも出られなかった。

 校長は、あくる日に懲戒免職になった。岸本先生は六カ月の重傷、そして高坂先生は、そんな岸本先生のことをまだ気遣っていることを家に居ながら知ってしまった。テレビからでもなくネットの情報でもなかった。これも自分の力だと理解した。理解はしたが、ただ恐ろしかった。自分は化け物中の化け物だと思った。

「瑠衣、ちょっと話があるの……」

 母の心にはバリアーか何かがあるようで読めなかったが、なにか、より恐ろしい話が聞かされそうで、瑠衣は家を飛び出した。
 あてもなく歩いた。無意識にテレポしてしまい、景色が渋谷、銀座、原宿、秋葉原などところころ変わった。
 途中、歩きスマホをやっている人たちのスマホを全部壊した。
「あれ……」
 歩道を猛スピードで走っていた自転車のニイチャンが前のめりになりながらたまげた。自転車のペダルが急に重くなり、歩道を走るのにふさわしい時速8キロにまで落ちてしまった。
 コンビニを出ようとして、車のブレーキとアクセルを踏み間違えたオジイチャンは、車が飛び出さずにホッとした。
「いつのまに安全装置を付けたんだろう……?」オジイチャンは不思議に思った。

 無意識ではあるが、全て瑠衣の力であった。

 一時間後、瑠衣は母の部屋に連れ戻された。

「少しは落ち着いた? お母さんは瑠衣みたいな力はないから、連れ戻すのに苦労した」
「あたしは、いったい何者なの……?」
 思ったよりも落ち着いた気持ちで訊ねることができた。かすかにラベンダーの香りがするような気がした。どうやら母の仕業らしい。
「瑠衣のお父さんは死んだって言ってきたけど、そうじゃないの」
「どういうこと……?」
「お母さん、二十二歳の歳にひどい失恋をしてね、今日の瑠衣みたいに街をほっつき歩いて、気が付いたら、あるビルの屋上にいたわ……で、飛び降りちゃった……高坂先生みたいにね」
「高坂先生のこと知ってるの?」
「わたしは、このパソコンを操作しなきゃ分からないけどね……聞いてね。お母さんを助けてくれた人がいるの、高坂先生にとっての瑠衣のように」
「あたしが、高坂先生を助けたの……?」
「そう、あとの不思議なできごともね。瑠衣の力が覚醒したのよ。いつかはと思っていたんだけど、急だったんで、慌てちゃって。でも、瑠衣は、悪いことには力は使っていない。少し安心した」
「どうして、こんな力が……」

 ラベンダーの香りが少し強くなったような気がした。

「瑠衣のお父さんは……」
「あたしが赤ちゃんのころに……」
「亡くなってはいない……お父さんはシータ星の数少ない生き残りなの」
「宇宙人……」
 瑠衣の頭にシータ星の宇宙座標や、シータ星の情報が流れ込んできた。瑠衣は悲しそうな顔になった。
「そう、滅びかけ……お父さんが、助けてくれたのは瑠衣と同じ『死なないで!』という良心から。お母さんお礼がしたくて、間をすっ飛ばして言うと、彼のために、あなたを産んだの。一か月ほどはお父さんいっしょにいてくれたけど、宇宙に散った仲間を探しに飛んでいってしまった」
「連絡とかは?」
「事情があって連絡できないの……瑠衣がインストールした情報で想像はつくでしょ」
「……そういうことなんだ」

 自分の部屋に戻ってもラベンダーの香りは付いてきたが、瑠衣の心には大きな穴が開いた。そして母は最後に言った。

「力をコントロールできるようになりなさい。そしてなんのために力を使えばいいか考えてゆっくりでいいから」

 瑠衣は、たった一人、海の真ん中に放り出されたように寄る辺ない気持ちになった……。 

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高校ライトノベル・時かける少女・15『ピンチヒッター 時かける少女・2』

2019-02-20 07:16:10 | 時かける少女

時かける少女・15
『ピンチヒッター 時かける少女・2』
      



 ミナコは、科学技術庁の預かりということになった。

 ミナコの持ち物や身につけているものが、1993年の技術では説明の付かないものがいっぱいあったからだ。

 制服が、当時存在しない学校のものであることは大して問題にならなかった。そんなものはいくらでも作れるからだ。問題になるものは他にあった。


 ヒートテックのシャツ。この時代では発売はおろか、繊維の発明もされていない。
 ナプキンの高分子ポリマーが、この時代のものではない。
 電波式腕時計が、アンテナ内蔵式で、1993年の技術ではできていない。
 スマホの液晶画面が、この時代の技術ではできない。
 アイポッド及び、それに使われている青色発光ダイオードは、この時代では作れない。
 携帯ゲーム機が、この時代の技術を、遥かに超えた技術。

 持っていた千円札が、この時代のD号券(夏目漱石)ではなく、まだ発行されていない野口英世である。
 五千円札も、樋口一葉で、この時代のものではない。
 持っていた貨幣のほとんどが、1993年以降のもの、とくに500円玉は、材質デザインが異なる。

 どうやら、科学技術庁はダミーで、もっと他の組織が絡んでいるらしいが、よく分からない。まあ、ミナコには想定内のことではあったが……。

「どう、なにか思い出した?」
 引き続き、ミナコの身辺警護の沖浦婦警が聞いてきた。ちなみに、女性警官という呼称は2000年にならないと生まれない。
「ううん、なにも……」
 沖浦婦警に、こう答えるのは心苦しかった。
 実は、ミナコはほとんど全てのことを知っている。それは父のピンチヒッターとして、2013年から、この時代にタイムリープするときに、意識コントロールできるように、父が脳の記憶野に手を加えた。

 なんの目的で、この時代に派手に白昼、渋谷のハチ公前をパトロ-ル中の巡査の上に落ちたか。また、この時代に無いものを、ヤツラが不審に思わない程度に持ってきて、今のように隔離されるか。ミナコは全て知っていた。ただ、催眠術をかけても、ポリグラフにかけても、意識の裏に隠せるようになっていた。

 科学技術庁の保護を受けるようになってから、奥多摩の施設に移送された。

 その場所はミナコには秘密にされたが、スマホのGPSで場所は把握していた。スマホは、ロックがかけられていてミナコ以外には操作できない。ミナコは、担当者の目の前で、シャメの機能だけは披露したが、あとは秘密にしてある。
 担当者は、隙を見ては、スマホを調べようとしたが、セキュリティーがついていて、ミナコの許可無く触ったり、持ちだそうとするとパトカーのサイレン並の音がして、一度試されただけで、二度とは行われなかった。

 青山通りのセダン爆発事故は、原因究明がかなり進んでいた。進んではいたが、分からない事が多かった。
 なんと、このセダンは、自衛隊の90式戦車の榴弾で破壊されていることが分かったのだ。榴弾の破片が出てきたのである。さらに詳しく調べると、同時刻、富士の総合火力展示演習のとき、不発弾として、弾着地点を中心に捜索され、未だに発見されていないものであることが確認され、当然のごとく、この情報は非公開にされた。

「あ、やられた!」

 沖浦婦警は、交代で自分の実家に戻ってテレビのチャンネルを回して叫んだ。
「どうしたの和子?」
 母が晩ご飯の用意をしながら尋ねた。
「あ、偶然出くわした事故なんだけど、わたし写り込んでるかも……ああ、こんなバカ面で!」
 と、ごまかしたが、むろん自分が、いま関わっていることを隠すためである。

 テレビは、偶然渋谷をロケ中の帝都テレビが写していたドラマの収録のバックに写りこんでいた。

 画質は悪いが、空中にミナコが現れ、宮田巡査の上に落ちてくるのがハッキリ分かった。編集中に気づいた帝都テレビは、近くにいたお上りさんが、落下直後のミナコや付近の様子、救急車の到着までを克明に撮っていたのを買い上げて、特集番組にしたのだ。
「みなさん、ここに注目してください。彼女の腕時計。拡大できますかね……」
 MCのビートたけしが言うと、時計のアップになった。アナログなので不鮮明だが、メーカーのロゴが分かる。
「メーカーに問い合わせましたところ、このデザインのものは作っていないそうであります」
「どこかのパチモンじゃないすかね?」
「そういう、おまえがパチモン。だいたいこのメーカーのパチモン作る? ほいで、買うかね、女子高生が?」
「でも、その女子高生がさ、こんな制服の高校はスタッフが調べた限り、どこにもないって」
「う~ん、今のお前がいっぱしの芸人で通っているより不思議だけどな。なんと、このかわい子チャン。入院した病院から、忽然として姿を消した!」
 和子は、心配になってきた。どこまで秘密が守れるんだろう。

 和子は、職務を超えてミナコに同情心を持ち始めていた……。

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高校ライトノベル🍑MOMOTO🍑デブだって彼女が欲しい!・45『親父のマチウケ』

2019-02-20 07:08:22 | ノベル2

🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!

45『親父のマチウケ』


「それで桃斗……」

 4回目だ。
 映画でレコード針が跳んで、同じ音ばかり繰り返すシーンがあったのを思い出した。
「父さん、それって4回目だよ」
 二皿目のカルボナーラをフォークに絡めながら親父に言った。
「え……なんか言ったか?」
 聞きながら、ビーフシチューの皿にスプーンを突っ込む。とっくに空になっているので、スプーンは虚しく空気をすくう。それさえ気づかずに、親父はスプーンを口に入れる。
「ん? いつのまに……?」
「さ、そろそろお開きにしましょう。三人とも食べ終わったみたいだし」
「あ、そうか?」
 オレは、カルボナーラを流し込む。
「もう、たっぷり一時間たちましたし」
 お袋がアナログ腕時計を示す。
 
 きょう久々に食事会をやった。

 例によって親父の空き時間。でも、空き時間があればいいというものでもない。親父は抱えている事件の事で頭が一杯。
 刑事の性で、食事は呼吸するのと同じように無意識でも済む。でも肝心の家族の会話はできない。「それで桃斗……」を4回、「母さん……」を3回言っただけで、すぐに捜査一課長の思考の中にもぐってしまう。
 親父は、お袋やオレの顔も見ることなく、スマホを見ながら県警本部に帰って行った。
「親父、スマホのマチウケ替えてたね」
「え、そう? 相変わらずの桃のでしょ、誕生日の?」
「今度のは、親父の誕生日に撮ったやつだった」
「そうなんだ」
「両方とも同じ服だから、一見区別がつきにくいけどね」
「ああ、お父さんが『似合ってる』って、誉めてたやつよね」
「カーディガンは、お袋が編んだやつ。カチューシャは……してなかった」
「そうだっけ」
「親父の誕生日のときは、まだカチューシャは持ってないから」
 あのカチューシャは、たった一回、オレが誕生祝に桃にプレゼントしたもんだ。二人っきりの時に渡したから、親父もお袋も知らないかもしれない。
 桃を棺に収める時、その三点セットを身に着けさせてやった。そのことは言わない。思い出せば、きっと今でも涙になるから。
「でもさ、気まずいわりには、あっという間の一時間だったね」
 オレは、もう一皿くらい食べたかった。
「そうね……」
 お袋は隠しもしないでアナログ腕時計の針を戻していた。

 その夜、桃は膝小僧を抱えてベッドの隅に現れた。

「どうした、今夜は遠慮してんな?」
「だって、お兄ちゃん嫌がるもん」
 口を尖らせて、どうも拗ねている。
「そんな顔してると幽霊みたいだぞ」
「ム~、桃は幽霊だもん」
 そうだ、桃は幽霊だった。このごろ忘れることが多い。
「くっ付いていいから、その顔はやめろ」
「ちゃんと抱っこしてくれなきゃヤダ」
 ちょっと不憫になる。桃が人のぬくもりを感じられるのは、オレ一人しかいない。
「……わかった。抱っこしてやるから」
「ほんと!」
 桃が胸に飛び込んできた。ガキンチョのころのようにギューっとしてやる。
「桃……こんなにちっこかったんだ」
 涙が出そうになる。
「デブになったから、そう思うんだ。110キロなんだもんね!」
「おい、腹の肉つまむな」
「この余計な肉、あたしの体重と同じなんだよね」
 祖母ちゃんも同じことを言ってた。あまり嬉しくはない。
「桃、どうして最後に着せてやったナリで出てこないんだ?」
「あたりまえでしょ、火葬場でみんな焼けちゃったわよ」
「あ、そうなんだ……親父、スマホのマチウケにしてたよ」
「お兄ちゃんは、してくれてないんだ」
「そういう趣味ないんだ」
「薄情もの」
「痛て!」
「罪滅ぼしに、もっとしっかり抱っこ!」
「わ、分かったよ。ギュ-ッ!!」
 幽霊だからか意地になっているのか、桃は「苦しい!」とは言わない。
「……やっぱ、背中にまわれ!」
 桃を背中に投げ飛ばす。
「キャー! なんでよ!?」

 身体を丸くして、理由は言えない。
 

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