大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・メタモルフォーゼ・1・ここまでやるとは思わなかった!

2019-02-28 06:55:30 | 小説3

メタモルフォーゼ・1

『ここまでやるとは思わなかった!』   


 ここまでやるとは思わなかった!

 ツルツルに剃られた足がヒリヒリする。なけなしの産毛のようなヒゲまで剃られた。
 なによりも、内股が擦れ合う違和感には閉口した。

 部活のディベートに負けてぼくは女装させられているのだ。

 ワケはこうだ。

 コンクールを目前にして、わが受売(うずめ)高校演劇部の台本が決まらない。そんな土壇場に、やっと顧問の秋元先生が書き上げた本にケチを付けてしまったのだ。

 他の部員は、先生の本がいい(本当のところは、なんでもいいから、とにかく間に合わせたい)ので、反対者はぼく一人だった。
 
 ぼくが反対したのは作品がウケネライだからだ。これが喜劇のウケネライなら、多少凹んだ本でも反対しない。

 でも、タイトルも決まっていない秋元先生の本をざっくり読んで、このウケネライはダメだろうと思った。
 震災で疎開した冴子という少女が、津波に流されるうちに妹の手を離してしまう。数日後妹は死体で発見される。それが、冴子のトラウマになり、妹の姿を見るようになる。むろん幻だ。
 妹の幻が無言で現れはじめてから、ある男の子と仲良くなって、疎開先で少ない友だちの一人になる。やがて、その子にも妹の姿が見えていることが分かる。
「実は、ぼくは幽霊なんだ。交通事故で死んだんだ。冴子ちゃんに見えているのが幽霊か幻か、ぼくには分からない。でも、これは言える。冴子ちゃんが妹を殺したんじゃない。事故死なんだ、事故死ということでは、ぼくも冴子ちゃんの妹も変わらない。だから、そんなに気に病むことはないよ」
 そう言うと、男の子と妹はニコニコしながら消えていく……ファンタスティックな大団円。

 ぼくが反対したのは、交通事故と、あの震災で死んだのは……うまく言えないけど。違うと思ったからだ。
 秋元先生の本は、最初に和解によるカタルシスがあって、そのための材料としてしか震災を捉えていない。だから読み終わって後味が悪かった、これが反対の理由。

 カタルシスのウケネライはダメだろうと思った。そのために震災をもってくるのはもっと悪い。

 また、変な験担ぎかもしれないけど、秋元先生はフルネームで秋元康という。そうAKBのドンと同姓同名。で、去年も先生の本で県大会までいった。「作:秋元康」のアナウンスではどよめきが起こったぐらい。
「まあ、みんなで話し合えよ」
 先生は、そう言って職員室に戻ってしまった。
 で、ディベートみたくなって、「負けたら女装して、女子の場合は男装して、校内一周!」と言うことになった。
 で、6:2で負けてしまった。勝ったのは全員女子。もう一人の杉村という男子はガタイがデカく、用意した女子の制服が入らない。それに一年生なのでボクが引き受けることになってしまった。

 こういうときの女子というのは残酷なもので、目に付くむだ毛は全部剃られてしまった。髪もセミロングのウィッグ。カチュ-シャまでされて、もう、どうにでもしてくれという気持ち。

「あ、これって優香のじゃん……」
「当たり前じゃん。自分のって貸せないわよ」
 ヨッコが言うと、杉村以外のみんなが頷く。

 上着を着せられるとき、身ごろ裏の名前で分かった。優香は、この春に大阪に転校。制服一式をクラブに蝉の抜け殻のように置いていった。身長は同じくらいだったけど、こんなに適うとは思わなかった。
「あたしが後ろから付いていく。ちゃんと校内回ってるの確認」

「「「「「「トーゼン!」」」」」」」

 女子の声が揃った。

 部室を出て、いったんグランドに出て、練習まっさかりの運動部員の目に晒される。
「そこのベンチに座って」
 意地悪くヨッコが言う。チラチラ集まる視線。自分でも顔が赤くなるのが分かった。
「次ぎ、中庭」
 あそこは、ブラバンなんかが至近距離で練習している。正直勘弁して欲しい。
 でも、中庭のブラバンは秋の大会のために、懸命な個人やパートの練習で、女装のぼくに気づく者はほとんどいなかった。同級の新垣がテナーサックスを吹きながらスゥィングしていた。
「後ろ通る」ヨッコは容赦がない。
 新垣の後ろは桜の木があって、隙間は四十センチも無い。

 あに図らんや、やっぱ、新垣の背中に当たってしまった。
「ごめんなさい~!」
 頭のテッペンから声が出た。
 新垣は怒った顔でこちらをみて、そして……呆然とした。後ろで、ヨッコが笑いをかみ殺している。
「次ぎ、食堂行ってみそ……」
「え……」

 こんなに食べにくいとは思わなかった。

 髪がどうしても前に落ちてくる。ソバを音立てて食べるのもはばかられた。ここでも帰宅部やバイトまでの時間調整に利用している生徒が多く、視線を感じる。中にははっきりこっちを見てささやきあっている女生徒のグループもいる。
「カオルちゃん、食べにくそうね」
 ヨッコがニタニタ笑いながら、横の髪を後ろでまとめてくれる。これは断じて親切ではないぞ、完全なオチョクリだ!
「次ぎ、職員室」
「ゲ!」
 どうやらヨッコは、仲間とスマホで連絡を取り合い、仲間はぼくが分からないところから観賞して、指示を出しているようだ。

 職員室の前には芳美が待っていた。

「部室閉めたから鍵返してくれる。荷物とかは、あの角で他の子が持ってるから」
「さあ、行って」
 ヨッコが親指で職員室のドアを指す。芳美がノックして作り声で言う。
「演劇部、終わりました。鍵を返しにきました」
 部室の鍵かけは教頭先生の横にある。なるべく顔を伏せていくんだけど、ここでも惜しみない視線を感じる。
 なんとか終わって「失礼しました」と、無声音で言う。で、ドアを開けると、なんと顧問の秋元先生。
「うん……」
 万事休す。ヨッコたちはカバンとサブバッグだけ置いて影も形もない。
 秋元先生は、幸いそれだけで職員室に入った。
 
 もうトイレで着替えるしかない。

 男子トイレに入ろうとすると、まさに用を足している三年生と目が合う。きまりが悪くなって、今は使っていない購買部の横に行く。
 そこで気がついた。カバンまで優香のと替えられていた。

 そして、あろうことか、ぼくの制服が無かった……!?

 つづく

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高校ライトノベル・時かける少女・23『プリンセス ミナコ・5』

2019-02-28 06:40:10 | 時かける少女

時かける少女・23 
『プリンセス ミナコ・5』 
       



「オネーチャン、大変だよ!」妹の真奈美がドタドタとやってきた。

「なんやのん、ドタバタとお。真奈美が標準語で騒ぐと……」
「ろくでもないんよ! 見てよ、この号外!」

 号外を見てミナコはタマゲタ。電車の中でボンヤリ生駒山を見つめている上半身の自分の姿が『ミナコ公国王女確定!』のキャプションとともに写っていた。ただし、目の所は緩いモザイクをかけてあるが、ミナコを知っているものには一目で分かる。
「ええ、これはヤバイやんか!?」
「大阪市在住の未成年の女性……こんなもん、噂たつのん一発やで、トコとかメグとか、放送局やで!」

 そこに、スマホがかかってきた。

「ダニエルだ、号外は気にするな。手は打ってある。ちょうどニュースの時間だ、テレビを見てごらん」
 あとを聞こうとしたが、ダニエルはすぐに切ってしまった。姉妹は母親と共にテレビに釘付けになった。

「「「え……うそ!?」」」

 母子三人は、同時に声をあげた。
 テレビのリポーターは興奮した声をあげていた。
「いま、号外通りのワンピースを着て、松下リノが事務所に入って行きました。リノさん、あなたが王女だってもっぱらの噂ですが、本当なんですか? ねえ、リノさん! 一言リノさん!」

 それはMNB48の松下リノであった。アイドルにしては地味なセミロング。母親がフランス人なので、同じワンピースを着ると、ミナコと区別がつかない。こんな偶然が……。
 そこに再びダニエルからスマホに電話がかかってきた。

「うまくいった。リノはきのう同じ電車に乗っていたんだ。もっとも一本あとの快速だけど……ああ、むろん、あのワンピースは着ていない。暗示をかけて、リノの部屋のクローゼットに同じワンピースをしこんでおいた。で、暗示通りに、あの服を着て、事務所にいかせた……都合が良すぎる? ハハ、これがおれ達の仕事だからさ。いっそミナコに暗示を掛けた方が早いんだが、ボスから硬く禁止されている……ボス? ミナコのパパの母親さ。ま、こんな小細工、いつまでも持たない。早く決心してくれることを望んでいるぜ。それから、しばらくは学校に迎えがくるから、大人しく乗ってくれ」

 また切れてしまった。

 明くる日、テスト後で、そんなこと忘れてメグやトコといっしょにマクドに行こうと校門を出たところで掴まった。近所の竹内のオッチャンだ。
「お母さんが用事あるて呼んではる。すぐ車に乗って!」
 わたしはダニエルは警戒していたが、竹内のオッチャンに警戒心はない。あっさりと乗ってしまった。

 四天王寺の東側の、地味な道路で青色ナンバーのリムジンに乗り換えさせられた。案の定ダニエルが乗っている。
「竹内さんは仕事に困ってらっしゃったので、とりあえずミナコ公国の臨時職員になっていただいた。むろん日本の企業名にはなっているがね」
「ほんなら、竹内さんに、そのまま領事館に行ってもらうか、ダニエルが直接迎えにきたらええやんか!」
「毎日、彼の車が領事館に来たら怪しまれる。オレがリムジンで学校に行ったら、もっと目立つ」

「ごめんなさいね。昨日の今日の呼び出しで」

「はい、こんなに早いとは……」
「ヨーロッパの事態は、日本ほど安定していないのよ。あれを見て、ミナコ」
 お祖母様が指差した方向にヤジロベエ式の振り子が付いた時計があった。振り子の両側には「ヨー」と「ロッパ」という文字がダイヤで飾られていて、支点は「MINAKO」と小さな文字盤を足もとにはめ込んだ女神像になっている。
「EUが出来たときに、エリザベス女王に頂いたの」
「え……イギリスってEUに加盟してたっけ?」
「してますよ。ただ、ユーロはつかってないけどね。まあ、ミナコの知識は、平均的な日本人のそれでしょう」
「そやけど、この時計の意味は解ります。ミナコ公国がヨーロッパ安定の支点になってることは」
「支点というのは外交辞令。我が国に、それほどの力はありません。ただ指標にはなっています」
「指標?」
「昔、炭坑夫が炭坑に入るとき、必ずカナリアの鳥かごを持っていったの。これぐらいはわかるでしょ?」
「有毒ガスが出たとき、まっさきにカナリアが死ぬから……」
「そう、水準ちょっと上の答えです」
「つまり……ミナコはヨーロッパのカナリアということ?」
「そう、それを美しく表現すると、あの時計になるの。その役割は十分理解しています」
「そやから、お祖母様は1975年のクーデターも、自分でドガチャガにしたんですね」
「ドガチャガ?」
「ああ、大きなとこでがっちり掴んで、物事を上手く処理することです」
「そう、まさにドガチャガだったわ。あれを放置していたらヨーロッパ中に波及したでしょう。ダニエルの本を読んだのね?」
「ええ、感動しました」
「ありがとう。今は、あの時ほどのパワーは無いけどね」

 そのとき、ノックしてダニエルと、お医者さんが入ってきた。

「陛下、お注射の時間でございます」
「もう、そんな時間……ほんと、じゃ、お願い」
 女王は、慣れた手つきで腕をまくった。注射のあとが点々とついていた。
「お祖母様、どこか悪いのん?」
「大したことは無いの、ちょっとしたガン」
 医者とダニエルが慌てた。ミナコも心臓がドキンとした。
「いいの、国家機密だけど、この子には知ってもらっていたほうがいい」
「どこのガンなんですか……?」
「それ以上は言えないわ。ただ見かけより歳をとっているから進行は遅いのよ。気にしないで」

 女王が、始めて気弱に笑った。医者もダニエルも俯いて涙を堪えているのがよく分かった。
 ミナコは、涙目になって、せき上げる思いを吐き出した。

「わたし、王女になります。お祖母ちゃんみたいに偉いことは、ようせんけど、それでお祖母ちゃんが、ちょっとでも楽になって、ヨーロッパやら世界の人のためになるんやったら……!」
「ミナコ!」
「お祖母ちゃん!」

 互いに椅子から立ち上がり、ハッシと抱き合う祖母と孫であった……。

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高校ライトノベル🍑MOMOTO🍑デブだって彼女が欲しい!・53『そこじゃないとこ』

2019-02-28 06:28:41 | ノベル2

🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!

53『そこじゃないとこ』


 普通エキストラは下請けのプロダクションが引き受ける。

 ただ、急に特殊なエキストラが欲しい時は間に合わないで、助監督がツテやコネを使って個人技で集めてくる。
 オレたち15人のデブがそうだ。
 バスタオルをまとった桜子たちは、ごく当たり前の女子学生エキストラとして、きちんと某プロダクションから派遣されて来ている。だから、きちんとマネージャが付いている。

 そのマネージャが、小出助監督に噛みついている。

「だまし討ちみたいな撮影に抗議します! 入浴はあくまでオフの時間です。それをドッキリカメラみたいな仕掛けで撮影して! 許せないわよ!」
「それはお詫びします。ここじゃなんですから、応接室借りてますんで、そちらの方へ。女の子たち風邪ひかないように、スタッフよろしく……」
 小出助監督と女性マネージャが建物に消えて行くと、スタッフたちが厚めのパーカーを着せながら女の子たちを誘導し始めた。

「ワクワクするわね!」

 女の子の群から抜け出て、桜子が寄って来た。
「か、風邪ひくぞ」
「大丈夫、しっかり浸かって上がったところだったから」
「え、えと、どうして、ここにいるんだ?」
「桃斗のメール見て、あたしもエキストラのアルバイト。エントリーしたら、ドンピシャここだった」
 桜子は、入浴中に15人のデブが覗きの果てに、浴室の壁をぶち破って乱入してきたことを楽しんでいるようだった。
「やるもんよね。バスが遅れたんで、撮影は明日から。で、油断させて、こんなの撮るんだもんね」
 ちょっと上気して、桜子は勢いを付けて腕を組む。パーカーがパフっと鳴って空気が漏れた。湯上りの香りがホワッとオレの鼻を刺激する。撮影現場という非日常性が大胆にさせているんだろうか、いつもの桜子では考えられないことだ。そんな桜子に、ちょっと意地悪を言ってみたくなる。
「桜子、ホクロがあったのな」
「ホクロ……首筋?」
 そこは以前から知っている。
「そこじゃないとこ」
 それで分かったんだろう、桜子の頬がカッと赤くなった。

 寝床の会議室に戻ると、親父からメールが入っていた。

――お母さんの居所を教えてくれ――
 アっと思った。お袋は若作りしてバイトに行ってしまったが、オレはバイト先を知らない。知らないことに疑問も感じていなかった。
――泊りがけでアルバイトに行くって言ってた。バイト先はわからない。ごめん――
 そう返事して考えた。前の親父と別れてからは、スーパーとかホカ弁のパートに行っていたのは知っているが、泊りがけで行くようなもんじゃないだろ。正直に分からないと答えるしかなかった。
 
 寝床に入ると、また桃が現れた。

「大丈夫、ほかの人たちはしっかり眠ってもらっているから」
 少し怒ったような声で文句を言いそうなオレの機先を制した。どうも桃は反則技を使ったようで、同室のデブたちは静かな寝息を立てて熟睡しているようだ。
「しかたないなあ」
 いつものように、ヒッツキ虫の桃を抱っこした。ちょっと子どもじみて感じたが、すぐに眠りに落ちてしまった……。

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