大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・堕天使マヤ・第三章 遍路歴程・20『「す」市・1戒厳令の街』

2019-02-12 13:39:45 | ノベル

堕天使マヤ・第三章 遍路歴程・20
『「す」市・1戒厳令の街』
     

 

 

 似ていると思った。

 

 三重県の津市。

 ひらがなで書くと『つし』。『し』は行政単位を示しているのだから、地名としては『つ』。たった一音節の地名。

 恵美と降り立った駅は『す市』。音だけ聞くと寿司を思い浮かべるが、そんなに美味しそうな街ではなさそうだ。

 意外に大きな街のようで、駅のホームも五つあって、乗り場は1番から10番まである。

 いつもなら、直ぐに街に入るのだが、中央改札には『戒厳令のため駅の外には出られません』の札が掛かっている。

 コンコースの向こうに見える駅前には兵隊が一杯で、軍靴の音も物々しく、ホイッスルの音や怒鳴り声も聞こえる。

「どこにも行けませんねえ」

 虚脱したように恵美がこぼす。

「本線は、明日まで電車は来ないようだな」

 臨時の時刻表は午前九時発の急行以外は(運休)の印が入っている。

 

 パパパパーーーーーーーーーン!

 

 駅前の方から連続した発砲音がした。ホームにいる人たちが一斉に身を低くする。

――駅は厳重に警備されていますので安全です、駅は安全です――

 構内放送が入って、人々はホッと胸をなでおろすが、中年男が前触れもなくパタリと倒れ、少し遅れて駅前から銃撃戦の音がした。

「なんでぇ?」

 恵美が怯えた声をあげる。

「音速よりも弾のスピードが速いからだ」

「じゃなくて……」

「ここにはいない方がいいな」

 マヤは恵美を従えて乗り換え線のホームに向かった。

「『スイッチ方面行き』……これが一番早く出るようだ。恵美、これに乗れ」

「うん……え? マヤは乗らないの?」

「ここで待ってる。一人で行ってこい」

「え? だって……」

――スイッチ行きの電車、間もなく発車いたします――

 放送が入ると、いま気づいたという感じで半分の乗客が下りて行った。下りた乗客は臨時の時刻表を見ては、ほかのホームに向かっていった。

――ドアが閉まります――

 プシュー

 ドアが閉まると、ガクンと衝撃があって列車が動き始めた。ホームにいる人たちが思い思いに手を振ったり頷いたり、車内の乗客もホームに手を振り返している。恵美も、マヤの姿を見つけて手を振った。

 気づくと、乗客は全員去り行くホーム側に身を寄せて、しばしの別れを惜しんでいる。

 みんな連れのいる人たち?

 列車は加速して、あっという間に駅が小さくなっていった……。

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高校ライトノベル・時かける少女・7『エスパー・ミナコ・2』

2019-02-12 06:35:22 | 時かける少女

時かける少女・7
『エスパー・ミナコ・2』
       






 陛下のお声はよく聞き取れなかった。でも、あの部分で全てが分かった。

――耐え難きを耐え……忍びがたきを忍び――


 あの瞬間の間に、あの方の真情が籠められているとミナコは思った。あの大勢の人たちの死はなんだったんだろう。慟哭したい……そんな人間的な思いも押さえ込み、あの方は淡々とラジオで、神官の霊静めの祝詞のように言葉を紡いでいる。

 ミナコはおののいていた。あの日ミヨちゃんのお人形と気持ちが通じ、氷室さんたちを敵の航空母艦に誘導した。
 敵は、ちょうど本土空襲のために出撃準備中だった。その真ん中に氷室さんたちの飛行機が突っこんだ。

「生きて!」

 ミナコは心で叫んだ。その瞬間、氷室さんたち三人は鎮守の森に戻ってきた。神さまのお陰……と思われたが、ミナコは知っている。

 あれは、わたしがやったんだ……。

 敵とはいえ、二千人近い人の命を、この手で奪ってしまった。敵も、航空母艦一隻沈められても、すぐに交代の母艦から攻撃隊を出撃させた。その規模は、復讐と志気鼓舞のため、倍近い勢力で空襲をかけ、当然、その損害も倍近くになってしまった。
 ミナコは、ただただ怖ろしくて、防空壕で小さくなっていた。そして、そのうちに直撃弾の気配がした。
 爆弾というのは、遠くに落ちるのはヒューって音がする。直撃弾は、機関車が落ちてくるように、シュシュシュー!という音がする。
「だめだ、ありゃあ、直撃弾だ!」
 在郷軍人のオジサンが、覚悟を決めたようにまわりの子供たちに覆い被さるようにした。

「それろ、それろ、それろ、それろ……」

 ミナコは、そう祈り続けた。すると……爆弾は、ヒューって音に変わり、かなり外れた場所に落ちた。
 それでも空襲は止む気配がない。敵も復讐の鬼になっていた。

「いっそ、爆弾ごと、敵の飛行機は爆発しちゃえ!」

 そう、恨みに燃えたら、上空のあちこちで、異様な爆発音が続いた。
「て、敵の飛行機が、空中で次々に爆発している!」

 正直、その時はやった! と思った。

 空襲が終わって分かった。ミナコの力で、空襲の効果は2/3ほどで済んだ。しかし、ミナコの大事な人がみんな死んでいた。ミナコの防空壕を逸れた爆弾は、山の方に流れていき松根油をとりにきていた隣の中学校の生徒を全員殺した。ミナコは、ポケットに入っていた不思議なメモの意味が分かったような気がした。

―― みなこ やまのちゅうい ――

 このことだったんだ……。

 他にも、空中で爆発した敵機の残骸をまともに体に受けて、カヨさんが首を飛ばされて死んでいた。
「わたしの力って、結局自分が助かるだけ。災いはみんな、他の人に行くんだ」
 自分の力がイヤになった。
 それでも、この玉音放送を聞くまでに、やまれず、力を使ってしまい、敵味方、仲間を数百人殺してしまった。あの神官の霊静めの祝詞のように言葉を紡いでいるお方も同じ気持ち……いや、もっと大きな苦しみと虚脱感に襲われているに違いない。そうミナコは感じた。

「……もう、消えてしまいたい」

 そうポツンと独り言を言うと、蝉の声が一瞬途絶えた。目の前が真っ白になり、ミナコは真っ白い空中に放り出された。まるで海の中か、重力のない空中を漂っているようだった。
 気づくと、垢じみたブラウスとモンペではなくなっていた。入学したてのころのように新品の制服を着て、髪も、お下げではなく、肩胛骨のしたあたりまでのサラサラの髪になっていた。

「わたし、死ねたんだろうか……」

 あまりの清楚さに、そう思ったとき、夏の終わり頃の、弱々しい蝉の声が聞こえ始めた。

 そして殺気、ミナコは思わず身をかわした……!

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高校ライトノベル・🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!・37『お兄ちゃんのバカ!』

2019-02-12 06:28:44 | ノベル2

🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!

37『お兄ちゃんのバカ!』


 桜子にだけは話しておこうと思った。

 でも、どう話していいか分からない。紀香は病気で、それを治すために世界的な製薬会社が絡んでいて、紀香にソックリな女の子が居て、その子が紀香のふりをしようとしていた。で、オレは国富港の沖まで船で連れまわされた。
 こんなことを聞かされても訳が分からないだろう。ソックリ女には聞きそこねたが、くまさんのUSBも謎のままだ。
 話しても、いたずらに不安にさせるだけだ。

――心配かけてごめん。まだ分からないことだらけ、分かったら話すから、もう少し待って――

 そうメールしてスマホを投げ出し寝返りを打った。
 ムニュ……なにか柔らかいもので顔を塞がれた。
「エッチ」
 柔らかいものから離れて首を巡らせると、桃の顔があった。
「桃……久しぶりに現れたかと思ったら、実体化してんのか?」
「そうみたい」
「……ということは、生き返ったってことか?」
「残念だけど、そうじゃない。こんな風に実体化するのは、お兄ちゃんの部屋のベッドの上だけ」
「なんで、オレのベッドなんだよ!?」
「起きちゃダメ、桃消えちゃうよ」
 桃が腕をつかんでいるが、オレの片足はベッドから出しまっている。とたんに桃の姿が半透明になっていく。
「だから、言ったでしょ」
 そろっと足を戻すと、桃の姿がはっきりとしてくる。
「お兄ちゃ~ん」
 桃が抱き付いてきた。
「生きてた頃は、こういうの絶対いやがったよな」
「うん、死んでみると、こういうのがとっても懐かしい……」
「いっしょに寝るなんて、幼稚園以来だな……」
「いまのお兄ちゃん、トトロみたいだ」
「120キロのデブだからな……ん、桃、おまえ裸なのか!?」
「裸じゃない……素っ裸だよ」
「そ、それはダメだろ!」
 飛び起きると、とたんに桃の姿が儚くなっていく。
「お兄ちゃん」
「あ、消えちゃうんだよな……で、でもな」
「すぐにベッドにもどって」
「いや、それは……」
 情けないことに、オレの体は、桃を女として反応している。もどるわけにはいかない。
「お兄ちゃ……」
「桃……!」
 桃の体は完全に消えてしまった。

――お兄ちゃんのバカ! 大事な話があったのに……!――

 最後の一言が心に響いて、それっきりになった……。
 

 

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