大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・クリーチャー瑠衣・5『希望野高校の百年桜』

2019-02-21 06:34:20 | 小説3

クリーチャー瑠衣・5
『希望野高校の百年桜』



 Creature:[名]1創造されたもの,(神の)被造物.2 生命のあるもの 


 二日ぶりに外に出てみる気になった。

 力を使わずに、普通の人間として出られるか心配だったが、二日前のようにテレポすることもなければ、通りすがりの歩きスマホ人のスマホを壊しまくることも無かった。ただ、行く先々の信号が全て青になっていたことには気づかなかった。

 気が付いたら学校、グランウドに面したベンチに腰かけている。

「お、瑠衣じゃねえか。珍しいな、日曜の学校に、こんな早く……なんか用か?」
 野球部の杉本は、早朝練習で学校に来ている。そこに、かねてから心を寄せていた瑠衣が来たのだから、年相応に気持ちが飛躍した。
「学校の百年桜を見に来たの!」
 杉本の心が、自分に開かれるのを感じて、とっさに言った。
「ああ……もう八分咲きだもんな、そっか、じゃあな」
 杉本は、ジョギングとストレッチに心を戻して、グラウンドの向こうに行ってしまった。

 瑠衣は振り返ってみた。そこには言い訳に使った百年桜があった。

 どこにでもあるソメイヨシノであったが、並の樹齢の倍は生きていて、今年も立派に花を付けていた。
 腕を組みながら桜を見上げている男の人が現れた。不思議なことに古めかしい飛行服を着ている。穏やかな凛々しさに、瑠衣は思わず立ち上がってしまった。
「お、お早うございます」
 男の人は、びっくりして瑠衣を見た。そして周囲を確かめると口を開いた。
「きみ、ぼくのことが見えるのかい?」
「はい……人間じゃないんですか?」
「人間だよ。七十五年前の卒業生だけど」
「え……?」

 瑠衣は、やっとピンときた。この人は生きてる人じゃないことに。

「こいつは、学校が創立したときに記念に植えられたんだ。これを見るのが楽しみでね、年に一度、こうして楽しみにくるんだ」
 男の人から、微かに噴煙の臭いがした。
「あの……昔の軍人さんですか?」
「ああ、学徒兵だけどね。あ、学徒兵というのは……」
 その言いだしだけで、瑠衣には、その人のことが分かった。この人は、昭和十八年の学徒出陣で狩り出され、特攻要員に使われた帝国大学の学生さんだ。
「……喜んで行ったわけじゃない。でも強制……でもない。僕らだって、戦争が始まった時は小躍りしていたからね。共同幻想ではあったけど、それなりの身の処し方をしたつもりさ」
「特攻機で、アメリカの船に飛び込むとときも?」
「うん。あれしか無かった。死にたいわけじゃなかったし、納得していたわけでもない。でも、あれしか残っていなかった……僕が最後に部隊に送った無線分かるかい?」
「……お母さん?」
「それほどマザコンじゃない……海軍のバカヤロー!……さ」
「恨んでたんですか?」
「言葉って言うのは、いろんな意味を同時にこめられる。逆に言えば察する気持ちが無ければ、言葉の本当の意味なんか分からないけどね……今の人間は、それを自分に引きつけて好きなように解釈してるだけだ……お、運命の孫がやってきた」
 学徒兵の視線の先には、近寄って来る初老の男の人が見えた。

「お早うございます、校長先生」

 男の人はびっくりした顔をした。まだ誰にも自分が希望野高校の新校長だとは言っていない。昨日辞令をもらったばかりで、明日の初出勤を前に、人知れず学校の様子を見に来たのだから。
「どうして、僕が新校長だって分かったんだい……?」
「あ……お顔が校長先生してましたから、つい……」
「生徒に見破られるようじゃ、まだまだだね」
「先生は、喜んで校長を引き受けられたんですか?」
 学徒兵の影響だろうか、瑠衣は確信をついた質問をした。
「そりゃ、そのために校長昇任試験を受けたんだからね」

 言葉にはいろんな意味がこめられるんだと、瑠衣は、さっそく認識した。やっぱりね……そう思って横を向くと、学徒兵の姿は、もう無かった。
「先生のお爺さんて、特攻隊員だったんですね……」

 新校長が改めて目を丸くした。

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高校ライトノベル・時かける少女・16『ピンチヒッター 時かける少女・3』

2019-02-21 06:27:13 | 時かける少女

時かける少女・16 
『ピンチヒッター 時かける少女・3』 
      


 

 窓の外の茂みがカサリと動いて、ミナコは慌ててベッドから転げ落ちて床に這いつくばった。

「どうかした!?」
 婦警の沖浦和子が、ピストルを構えて、病室に入ってきた。
「いま、そこの茂みがカサリと動いたの」
「……動かないでね」
 和子は、ガラス越しに、茂みのあちこちに狙いをつけた。

 やがて、タヌキが出てきて山のほうに逃げていった。ミナコの部屋は監視カメラがついているので、すぐに警備室から、様子を確かめる無線がかかってきた。
「大丈夫です、ミナコちゃんが、窓の外のタヌキに驚いただけです」
 ミナコは、スマホの画面を簡単に操作した。この部屋の平面図が出てきた。ミナコは、その平面図の窓ガラスを指でなぞった。図面の窓ガラスが、太くて青い線になった。和子の目が、こちらに向いたので、急いで画面を変えた。
「どう、今の沖浦さん。いかにも女性警官って感じで、警察のポスターにでも使えそうよ」
「へへ、なんだか、照れるわね。おお……画面が大きくなった!」
「もっと、大きく出来るわよ。ほら」
「ウ、ドアップ。なに、この数字は」
「沖浦さんの肌年齢。十九歳だって」
「うわ、すごいんだね、これ!」
「まあ、デジカメの進化系。プリンターがあれば、印刷できるんだけどね……」
「すごいね、未来の技術は……でも、少し思い出してきたんじゃない?」
「こういう、つまらないことに関してはね。肝心なことはサッパリです」
「まあ、あせらないことね」

 正直、ミナコはあせっていた。

 これだけの証拠を持って、派手に白昼の渋谷に現れ、マスコミにも取り上げられた。自分よりはるか未来からやって来ている未来人たちが気づかないわけがない。
「やあ、いらっやい」と現れるか、いきなりズドンか……その両方が考えられる微妙な状況だが。
「ミナコちゃん、さっき変な言い方したわね」
「え……?」
「女性警官って、なんだか下手な英文和訳みたい」
「あ、この時代は婦人警官なんだ」
「え、未来は女性警官になるの?」
「あ、二十世紀の終わり頃に法律で変わったの、男女雇用ナンタラ法で」
「へえ、雇用に関しては、男女平等が進むのかな!?」
「一応ね。で、仕事の名前が、女性警官とか保育士とか看護師とかに変わんの」
「あら、看護士なら、今でもあるわよ。男の看護職」
 看護婦の秋山が入ってきた。
「今のドタバタで、血圧計や心拍計が外れちゃったから、ちょっと付けなおすわね」
「読み方は、いっしょだけど、教師の師になるの」
「なんだか、偉そうね、師なんか付いたら」
「婦って字がいけないんだって。女偏に帚で、女性差別なんだって」
「それで、女性警官か」
「でも、それって間違ってる。帚というのは、もともとは、大昔の日本や中国で神さまをお祀りするときに使った神聖な道具で、それを扱う巫女さんなんかを『婦』って字で現したんだよ」
「だよね、看護師じゃ性別分からないものね。『女看護師』なんか言葉として半熟だよね。わたしは、やっぱり看護婦さんがいいな」
「わたしの時代でも、患者さんたちは看護婦さんて言う人多いよ」
「ミナコちゃん、少しずつ戻ってきたんじゃない、記憶が!?」
「わたしも言ったんだけどね、肝心なことはサッパリだって」
「まあ、午後にも検査あるから、ゆっくり思い出しなさいよ」

 大村さんが出て行って、また窓の外でカサコソと音がした。

「また、タヌキね」
「元々、ここはタヌキの多いところだったからね。ほら、ジブリの『平成狸合戦ぽんぽこ』の舞台になったところだからね」
 そこで和子の無線に小言が入った。
「はいはい、すぐに持ち場に戻ります。ハハ、怒られちゃった」
 和子はウィンクして、部屋の入り口の持ち場に戻った。

 外は爽やかそうな五月晴れ。できるなら窓を開けたかった。でも、警備上、この窓は開かないハメ殺し、わたしは、缶詰半殺し……などと、呑気にアクビなどしていたら、急に前の窓ガラスに、ビシって音がして、放射状にヒビが入った。胸に手を当てるとパジャマの胸が真っ赤に染まり、ミナコは、ゆっくりと倒れていった。
 倒れながら気がついた。『平成狸合戦ぽんぽこ』の公開は1994年、今は1993年。どうして沖浦さん知ってるんだろう……。

 その沖浦和子が拳銃を構えて入ってきた。
「ミナコちゃん、大丈夫!?」

 ミナコの視界は、しだいに暗くなってきた……。
 

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高校ライトノベル🍑MOMOTO🍑デブだって彼女が欲しい!・46『間に合う!』

2019-02-21 06:20:42 | ノベル2

🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!

46『間に合う!』


「……お父さん帰ってこられないわけだ」

 ポットの湯を湯呑に注ぎながらお袋が言う。キッチンに梅昆布茶の香りが満ちる。
 モーニングショーが『国富港に5人の水死体!』のニュースを繰り返している。キャスターが解説するまでもなく、特徴から紀香の家を荒らしていたやくざ者だということが分かる。
 ナポリタンの大盛りをレンジに放り込んだところで、捜査一課長の親父が50型の画面に現れる。記者会見の上半身は、ほとんど等身大だ。
「あら、お父さん」
 レンジの前から見ると、お袋の向こうがテレビなので、なんだか、親父がそこに居て語っているような感じになる。
 事件と捜査方針を語る親父は能弁で、昨日の食事会とはまるで様子が違う。不見識だがイキイキしているように見える。こんなイキイキした親父を家で見るのは、一昨年の桃の誕生祝以来だ。

 やっぱり桃の存在は大きかった。桃だけが家族全員と繋がっていた、血の繋がりだけじゃなくってね。

 朝食をナポリタンの大盛りだけで我慢して駅前に行く。
 10分前に着くと、ロータリーのバス停近くに、もう来ていた。
 桜の花柄なんて、どうかすると子ども子どもしてしまうんだろうけど、ワンピース姿の桜子にはとても似合っている。
「ごめん、待たせたかな!」
「あ、ううん、あたしも来たとこ!」
 売店のオバチャンが、右手で3左手で0を作った。
 オバチャンに目礼すると、桜子が「え?」という顔をして振り返る。オバチャンはニンマリ笑って親指を立てる。売店のお客さんが不思議そうにオレたちとオバチャンを見るので、ドギマギして歩き出す。
「よく買い物とかしたから、憶えられてるのね」
「そうだな」
 桜子が30分も前から待っていたことには触れない。

 オレと桜子は、きのうスマホで約束した。思い出のクニトミパークへ行こうって。

「あ、プラットホーム逆だよ!」
 いつもの癖で、学校に行く側のホームにきてしまった。クニトミパークは反対側だ。そう気づいた時には、その反対側に電車が入ってくるところだった。
「間に合う!」
 階段を駆け下りて反対側のホームに向かう。
 こういう時、デブは不利だ。桜子が子犬のように先を行く。揺れるポニーテールからシャンプーの良い香りがした。

 オレたちは、失った一年を取り返そうとしていたんだ。
  


🍑・主な登場人物

  百戸  桃斗……体重110キロの高校生

  百戸  佐江……桃斗の母、桃斗を連れて十六年前に信二と再婚

  百戸  信二……桃斗の父、母とは再婚なので、桃斗と血の繋がりは無い

  百戸  桃 ……信二と佐江の間に生まれた、桃斗の妹 去年の春に死んでいる

  百戸  信子……桃斗の祖母 信二の母

  八瀬  竜馬……桃斗の親友

  外村  桜子……桃斗の元カノ 桃斗が90キロを超えた時に絶交を言い渡した

  三好  紀香……クラスメートの女子 デブをバカにしていたが様子が変

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