大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・クリーチャー瑠衣・1《覚醒の兆し》

2019-02-17 08:25:45 | 小説3

クリーチャー瑠衣・1
《覚醒の兆し》



 Creature:[名]1創造されたもの (神の)被造物. 2 生命のあるもの 


 

 それは、突然瑠衣の心に飛び込んできた。

 地表に激突するしかない隕石のような絶望感!

 絶望感の発信源に吸い寄せられるように走り出した。
 校舎の角を曲がったところで、外階段の一番上を見上げる。

 !……悲しみの発信源は音楽の高坂麗花先生だ。

 


――先生!――

 

 声を上げる前に高坂先生は前のめりになり、そのまま鉄柵を鉄棒の前回りするように墜ちてきた。

 ダメーーーーーー!

 瑠衣は心の中で叫んだ。先生が地面に激突する音は聞こえなかった。ショックで意識が飛んだのかもしれない……恐るおそる目を開けると……目の前に高坂先生がよろめきながら立っている。
 瑠衣も高坂先生も言葉が出ない。
「先生……」
「あたし……」

 不思議さに気おされて、二人ともしばらく声が出ない。そして混乱と疑問が校舎周りの生垣の花々の香りと共に押し寄せてきた。

「高坂先生、飛び降りようとしたんですよ……ね?」
「あ、あたし……」
 高坂先生の混乱は、再び深い悲しみと入れ替わり、瑠衣の心に突き刺さってきた。

 内示書……岸本先生……校長先生……高麗花(コレイファ)という言葉の断片が悲しみの隙間から見えてきた。

「先生、内示書ってなんですか?」
「何でもないわ」
 先生は、そう言ったが、意味は高坂先生の心の痛みとして瑠衣の心に入ってきた。

 

――内示書というのは、来年度の教員人事の移動が都教委から校長に極秘資料として送られてきたもの。それは校長しか見られないこと……それが大量に印刷され職員室に積まれていたこと……そこには高坂先生の秘密にしていた本名高麗花と書かれていること……それを、心を寄せていた岸本武先生が見て表情が変わったこと――
 そんな諸々のことが、瑠衣の心で再構築されていく。

「校長先生、見せちゃいけない資料を増し刷りした……そして、先生の本名が分かっちゃって、岸本先生が、それを見て……心変わりした。それが先生が死のうと思ったほどの悲しみだったんですね……」

 春めいた風が二人の頬を撫でて行ったが、二人の心は凍り付いたままだった。

「どうして、そんなことが分かるの……」
「どうして……え……ええ? どうしてか、あたしにも分からない……」

 

 都立希望野高校一年生宇野瑠衣覚醒の兆しは、こんな風に訪れた……。

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高校ライトノベル・時かける少女・12『エスパー・ミナコ・7』

2019-02-17 06:32:33 | 時かける少女

時かける少女・12
『エスパー・ミナコ・7』
       



「ジーンの様子はどうだ!?」

 GHQから宿舎にしているアメリカ大使館に着くまで、マッカーサーは平然としていた。
「閣下、どちらまで?」
 そう聞いてきた警備司令にも軽口をたたいていた。
「いや、ジーンの犬が風邪をひいたんで、ドラッグストアまで」
 車の中では無言だった。
 いつものサングラスにコーンパイプだが、煙は出ていない。

 で、大使館の居住スペースに着いて、軍医を見つけると、食いつかんばかりの近さで聞いた。いや、怒鳴った。
「今朝、わたしを見送るまでは、いつものように元気にしていた……!」
 最後の言葉は、ベッドの上のジーン夫人の姿を見て飲み込まれてしまった。
「閣下以外は部屋から出てくれ」
 軍医の言葉で、ジーン夫人の部屋は、ドクターと大尉階級のナースが残っただけである」
「ジーン、もう大丈夫だ、わたしがいるからな」
「わたしのことなんて……お仕事が大事だわ」
「今は、これが一番の仕事なんだ。あとのことはホイットニーがうまくやってくれる。GHQは、わたし一人が抜けても機能するように作ってある」
「……でも、あなた」
「まあ、何日もというわけにはいかんがね、GHQの最高司令官の頭を髪の毛以外正常に保つのが、ジーンの大事な仕事だからね。つまり……わたしはGHQの一番大切な仕事をしているわけだ。気に病むことはないよ。なあに、慣れない日本で疲れが出たんだろう。いや、思ったより元気だ。こんなに話もできるし。ゆっくり休みなさい」
「閣下……」
「ああ、分かった。ちょっと心配性の軍医殿を安心させてくるよ」 

「ケリー、どういうことだ、あの様子はただ事じゃない!」
 ジーンの寝室から二つ離れた部屋で、マッカーサーは軍医のケリー大佐に詰め寄った。
「心臓がとても弱っています。今は、量を加減しながら強心剤を打っていますが、正直言って、奥様の心臓は八十代の後半です」
「そりゃ、ジーンの母親の年齢だ。病院に搬送は出来ないのか?」
「病院まで、持たせる自信がありません……正直、今夜が山です」
「そこまで……」
 マッカーサーはGHQの最高司令官としてではなく、妻の突然な死病になすすべのない、ただの初老の男として、ソファーにくずおれた。

――閣下、お話があります――

 ミナコの声が、直接心に飛び込んできた。
 声に誘われ、マッカーサーは廊下に出た。廊下にミナコが立っていることを不思議に思った。
「わたしも、マッカーサーの一族。成り立てですけど」
「ああ、そうだったな」
 ミナコの不思議な優しさに、マッカーサーは自然に頷いた。
「サングラスの視力を良くしておきました。それで、もう一度奥さんを見て上げてください」
「部屋の中で、これじゃ……いや、そうしてみよう」

 三十秒で、マッカーサーは戻ってきた。

「あいつは、誰だ? ジーンの枕許にいる薄汚い奴は!?」
「サングラスを外すと見えなくなるでしょ?」
「ああ、つまみ出そうとしたが、手応えがなかった」
「あれは、死神ですから」
「死神……?」
「あいつが、奥さんの枕許に居る限り、奥さんは今夜中には亡くなります」
「なんとか、ならんのか?」
「わたしに任せていただけますか?」
「悪魔払いでもやろうってのか。ミナコはエクソシストか!?」
「そんな、力はありません。ただ死に神を騙すことは出来るような気がするんです」
「……任せよう。ただし看護婦のジェシカは同室させるよ」
「ジェシカさん、少々のことでは驚いたりしませんよね?」
「大戦中は、ずっと最前線にいた奴だ。かわいい顔をしているが、平気で男の手足を切り落とせる奴だ」
「じゃ、それでけっこうです」

 このミナコは、オリジナルな湊子ではない。しかし、その同質な意識を十分に持っていた。具体的な方法は見つからなかったが、何とかなるだろうという、根拠のない楽観があった。もう四五十年先なら、立派なアイドルになれたかもしれない。

 ミナコは、ゆっくりと部屋に入り、看護婦のジェシカと目が合った。

 この人となら、上手くやれそう。ミナコは、そんな気がした……。

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高校ライトノベル🍑MOMOTO🍑デブだって彼女が欲しい!・42『……そうか』

2019-02-17 06:27:07 | ノベル2

🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!

42『……そうか』


「どうせなら、朝に現れてくれないかな」

 背中でヒッツキ虫になっている桃に言う。
「幽霊に、朝に現れろって言う、ふつー?」
「ここんとこ起きにくいからさ、朝に現れて起こしてくれたりすると嬉しい」
「桃は目覚まし時計じゃないよ!」
「イテ!」
 思い切りわき腹をつねられる。
「ハハ、デブでも痛いんだ」
「あたりまえだろ」
「でも、体の表面積はこんなに広いじゃん。その分単位面積当たりの痛覚って少なくなるんじゃないのかな……?」
「ならねーよ」

 ため息一つついて大人しくなる。今夜も桃の寝息をたっぷり聞いて眠りにつく。

「いいかげんに起きなさい」

 三回目のお袋の声で起きる。冬よりも春の方が圧倒的に起きにくい。

「またナポリタン……」

 特盛のナポリタンにお袋が眉を顰める。
「大盛り二人前じゃないし」
 不毛な言い訳をする。
「ハー」
 盛大なため息。オレの朝食ナポリタンにことよせていることは分かっている。ここんとこ親父は家に帰ってこない。捜査一課長だから仕方ないんだ。
 でも、なにくれと時間を都合して親子三人の食事の時間を作ってくれていたのも無くなってきている。
 あればあったで、気を遣うお袋だけど、いざ途絶えてしまうと不安なようだ。もどかしいもんだ。おれは受け止める時間も余裕もないので、気づかないふりをして家を出る。

 角を一つ曲がって、前方を桜子が歩いているのに気付く。

 ゆったり歩いているように見えているのに桜子に追いつかない。なんとか次の角を曲がったところで追いつきたい。少し駆け足して、感覚的には8メートルぐらい縮めて次の角を曲がる。
「あれ?」
 桜子の姿が見えない。全速力で走っていたとしても見えているはずなのに。

「「ワ!」」

 驚かす方と驚かされた方の声が重なる。
「びっくりするなあ」
「桃斗が後ろから来ると、空気の圧で分かる」
 どうやら、曲がって直ぐの自販機の陰に隠れていたようだ。こういうのは小学生だったころのノリだ。
「ガキの頃みたいだな、桜子」
「楽しかったね、あのころは……」
 そう言ったきり、二人とも沈黙になる。
「もうじき桜だ、黙ってちゃもったいない」
「プ、どういう関連よ?」
 瞬間、桜子はペースを取り戻すが続かない。駅の改札が近づいてくる。
「三十日に引っ越す」
「……そうか」
 こみ上げてくるものがあるが、言葉にならない。
「あ、お昼ご飯買っていくんだった!」
 そう言うと、出しかけたパスケースを持ったまま立ち止まる。
「ごめん、パン屋さん寄ってくから、先に行って」
 ポニーテールをぶん回して、桜子は道の向こうに走っていった。

 パスケースを取り出した鞄には、ちゃんとランチボックスの巾着が見えていたのに……。

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