せやさかい・177
夕べの紅顔 朝(あした)の白骨……て知ってる?
子どものころに、お祖父ちゃんが本堂で檀家さん相手に法話をしてるのを聞いてびっくりした言葉。
夕べに頬っぺたが赤々するくらいに元気やった者が、朝方には死んで白骨になってるという例え話で。
テーマは『この世の無常』です。
つまり、世の中一寸先というか一秒先は分からへんということ。
子どものわたしは、コウガン言うのを別の意味に思てて、ひとり真っ赤な顔をしてた。
キン〇マが白骨になる!?
白骨になるということは、骨が入ってるわけで、お父さんとお風呂には行ったときシゲシゲと見て面白がられた。
詩(ことは)ちゃん、どないしたん!?
学校終わって山門の前まで帰って来ると、ちょうど向こうから帰って来る詩ちゃんと出くわしてビックリした。
「え?」
自覚のない詩ちゃんはマスクの上の目ぇでビックリした。
「マスク、血ぃだらけ!」
詩ちゃんがかけてるマスクの真ん中へんが真っ赤に染まって、なんや日の丸みたいになってる!
「え、あ……」
「ちょ、詩ちゃん!」
マスクを外して、真っ赤になってるのに気ぃついて、フラ~っと気絶しそうになる!
「こ、詩ちゃん! ちょ、だれか、だれか来て! 詩ちゃんが、詩ちゃんが!」
詩ちゃんを支えながら、うちは山門の中に向かって呼びかけた。
すぐに、庫裏の方からお祖父ちゃんとおばちゃんが出てくる気配。
広い境内や言うても街のお寺、十秒もかからんと山門にこられるはずやねんけど、顔色真っ青の詩ちゃんを支えてるうちは、めちゃめちゃ長く感じた。
今朝、朝ごはんの時はうちの方が元気なかった。
中学生のくせにと思われるかもしれへんけど、ネットで大統領選挙のあれこれ見てるうちにパソコンの前で寝てしもて、お布団に入ったのは午前五時ごろ。
二時間も寝てへんので、もうヘゲヘゲで、規則正しい生活を心がけてる詩ちゃんに「ちょっと、大丈夫?」と心配されたぐらい。
お祖父ちゃんとおばちゃんが来てくれるまでに、妄想が頭の中を駆け巡る。
先月、美人の女優さんが自殺しはった……アイドルの女の子が真っ青になったかと思うと半日後には死んでしもた……一晩で優勢やったトランプさんが負けそうになってる……夕べの紅顔 朝の白骨……
「詩(ことは)、どうしたの!?」
「はよ、寝かさなら、お祖父ちゃんが背たらうわ」
お祖父ちゃんが詩ちゃんを抱える。
「大丈夫、詩ちゃん?」
「あ、あ……ごめんなさい、血を見たら気が遠くなって……」
三人で詩ちゃんをリビングのソファーまで運んで寝かせる。
「いや、大したことじゃないの……部活で唇切っちゃって……後輩に慣れないトランペット教えてたら、高音出したとたんに……あ、また……」
きれいな形した下唇から、また血が湧きだして、おばちゃんがタオルで押さえにかかる。
「今は、喋らない方がいいわよ」
「ぐ、ぐめんなさい……」
それだけ言うて、詩ちゃんは目ぇつぶっておとなしなった。
美白美人の詩ちゃんが白い顔して寝てると、なんや、めっちゃ心配になってくる。
白血病やったっけ、出血したら止まらんようになってしまう病気。
マンガとかラノベやったら、そういうヒロインは不治の病に侵されて……あかんあかん、なにを縁起でもないことを。
で、けっきょく詩ちゃんはあくる日は学校休むことになった。
それで、詩ちゃんが引き受けてたお寺の用事をわたしが引き受けることになった……という前置きの話でした(;^_^A。