大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・186『呪をかける』

2020-11-25 14:14:10 | 小説

魔法少女マヂカ・186

『呪をかける』語り手:マヂカ    

 

 

 階段を上がってきたあたりから古典の先生の様子が分かってきた。

 

 卜部兼近(うらべかねちか)という先生で京都にある大きな神社の三男坊。社格の高い神社で、卜部家は男爵に列せられている。男爵家と言っても三男坊なので男爵家の家督は継ぐことができず、古典や神道の歴史を研究して身を立てようとしている実直な人らしい。

 この先生を刺激しよう。

 ノートの端っこに『卜部兼近』『野々村典子』と書いて、そっと息を吹きかける。

 もう百年以上使っていない呪をかける作法だ。

 

「転校生は、このクラスだったんだねえ……渡辺真智香さんと野々村典子さん」

 出欠点呼が終わって、先生は、わたしの顔はあっさりと、ノンコの顔をしみじみと見た。

 もう、呪が効いている。

「えと……野々村さんのお家はご維新までは嵯峨野にあったのですよね?」

「え?」

 驚いてはいるが、呪が効いているので余計なことは言わないノンコ。

「奇遇です、卜部家も京都で、野々村家とは親交がありました」

 級友たちが「え?」という顔をする。卜部先生が知っていて、それも親交のある家ならば、それなりの由緒のある家格に違いないからだ。

「もう大正の御代です。昨年の震災で、世の中も元気がありません。夢のあるお話なので、野々村さんについてお話してもいいですか?」

「あ、はい」

 呪が効いている間、ノンコは余計なことは喋らない。

「みなさん、京都の嵯峨野に『野宮神社(ののみやじんじゃ)』があることは御存じですね?」

 みながコクコク頷き、松平さんが手を挙げた。

「はい、松平さん」

「伊勢神宮に仕える斎王が身を清められる由緒ある神社です。古くは源氏物語の『賢木の巻』にも出てまいります」

「そうですね、斎王とは未婚の内親王がお勤めになる、伊勢神宮でも、とても大事なお務めです。最年少は二歳、最年長は二十八歳までの内親王方がお勤めになられました」

 まあ二歳で!? 二十八歳!

 驚きの声が上がる。

 二歳は若いと言うよりも幼すぎ、二十八歳と言うのは歳が行き過ぎている。多感な少女である級友たちは、それを聞いただけで、想像力を刺激されるのだ。

「そう、みなさんが驚いたように、斎王におなりになる内親王様片にはさまざまな事情や背景があります。中には、すでに心に決めたお方のいる内親王様もおいでになりました。典子内親王というお方が居られましたが、この内親王様は、その想い人がおられ、斎王に選ばれたことを光栄に思いながらも悲しんでおられました。それをお知りになった時の帝は内親王様を憐れに思し召し、野宮神社に着いたところでお隠れになったということにされたのです。お隠れになったとあれば斎宮にならずとも良いのですが、人としては存在しないことになります。帝は、人をお遣わしになって想い人である公卿にお知らせになりましたが、公卿は典子さまにお会いになれないことをはかなんで、前の日に亡くなっておられました。典子さまは、斎王になることも、生きた人間に戻ることもできません。こんな儚いことは無いとご落胆になられましたが、それからは、嵯峨野で亡き公卿を回向しながら野宮神社にお仕えしてお過ごしになられました。典子さまのお世話は腹違いの妹君である何某の君がみられ、典子さまの没後に帝は野々村姓をお与えになって、代々の東宮様にもお伝えになっていかれました……ここまでご披露すれば、みなさんお分かりになると思います」

「野々村さんは……では、典子内親王様の裔でいらっしゃいますのね(´;ω;`)ウッ…」

 浅野さんが素っ頓狂なことを言う。

「典子さまは、独身をとおされましたよ」

「あ、あ、そうでございますわね(;゚Д゚)、失礼なことを申し上げました」

 早とちりなんだけど、教室には暖かな笑いが満ちた。

「腹違いの妹君の御子孫なのですよ」

 まあ…………( ゚Д゚)!

 感嘆の声が上がり、ノンコは顔を真っ赤にして俯いてしまった。

「野々村の人たちは、以来、野宮神社を守ってこられ、ご維新で男爵位を得られたのです。お仕事が神社のお世話なので、やっと近年になって東京にもお住まいを持たれたと承っております。なにか付け加えることはありますか?」

 先生は、ニッコリと笑顔を向けられる。

 ノンコは頬っぺたを真っ赤にしてコクコクと頷いて、その姿が、とても可愛いと評判になった。

 ちょっと、呪が効きすぎたか(;^_^A

 

※ 主な登場人物

渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員

要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員

藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 

野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員

安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長

来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令

渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る

ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員

ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 

春日         高坂家のメイド長

田中         高坂家の執事長

虎沢クマ       霧子お付きのメイド

松本         高坂家の運転手 

 

 

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やくも・09『不〇投棄禁止』

2020-11-25 05:57:04 | ライトノベルセレクト

・09『不〇投棄禁止』   

 

 

 学校をちょっと出たところに不〇投棄禁止の札がある。

 

 なんで不〇投棄禁止なのかというと、通学路の立て札なんて、そんなにきっちり見たりはしないもんね。

 不〇投棄禁止なんだから、常識で考えれば不法投棄禁止だ。

 

 あることで、その不〇投棄禁止の札をまじまじ見ることになったというお話……。

 

 ちょっとだけ学校に慣れてきた、ちょっとだけね。

 クラスで喋れる子も二三人……まだ紹介はしないけどね。だって、友だちになり損ねて挨拶もしなくなったら見っともないじゃやん。

 あ、あの時は友だちだって言ったじゃん。なんて目で見られるのやだもん。

 先生も覚えた。覚えたというのは、授業以外で出会っても――あ、数学の先生だ――ぐらいに分かったということよ。

 まだ名前は憶えていない。だって、ほんの二週間前に転校してきたばかりだしね。

 そんな先生の中に、一人だけ名前を覚えた、ちょっと雰囲気のいい先生がいる。いつも幸せそうなオーラを発散している。

 幸田幸子って、名前からして幸せいっぱいな人だ。

 はつらつポニテを高々と結って、ポニテのせいか、目尻がほどよくキリリとしている。

 ほら、ポニテって、髪をまとめて耳より上の所でくくるじゃない。ポニテにすると顔の皮膚がリフトアップされて元気に見えるのよ。

 一度、トイレで出会った。

 階段の手すりが汚れていて、気持ち悪いんで手を洗いに行ったんだ。

 すると、幸田先生が鏡の前で髪をとかしていた。

「オッス、ごみほりにいったら、チョークの粉とか入ってて、髪に付いたみたいでさ……」

 さすがに髪を下ろしていた。ポニテを解くとロングでしょ。

 ロングなんだけど、やっぱはつらつ美人なんだ。

 

 ひょっとしたら、いろいろ理由を付けて生徒のトイレに来るのかも。

 そんで、偶然を装ってコミニュケーションとったり、生徒を観察したり。

 怖い顔して張り番されるよりは、ずっといいよね。

 

 その幸田先生が不法投棄をしているのを見てしまった。

 

 ほら、例の不〇投棄禁止のとこ。

 なんかレジ袋みたいなのをぶら下げていて、不〇投棄禁止のとこでポイと捨てちゃった。

 見てはいけないものを見てしまった……そんな気がして、目線をそらすと、そそくさと現場を離れた。

 それが、昨日、また見てしまった。

 

「困るんですよ、そんなの捨てられちゃ」

 

 オバサンの声がしたんで不可抗力で目が行ってしまう。思わず自販機の陰に隠れる。

「いくら先生でも、こういうことは困るんです。ほら、今までの分も持ってってくださいな!」

 オバサンは特大のゴミ袋みたいなのに入ったのを幸田先生に付き返した。

 チ!

 先生の舌打ちがここまで聞こえてきた。

「いいですね、不〇投棄禁止!」

「わーったよ、くそババア!」

 憎たらしい捨て台詞吐いて、先生がこっちにやって来る。

 わたしは、自販機の陰で小さくなって息をひそめる。

 前を通る。

 横顔なんだけど、見たこともない不貞腐れて土気色の顔で通り過ぎて行った。

 

 オバチャンの気配もなくなったんで、不〇投棄禁止の札の所まで行ってみる。

 札と注意書きがハッキリ見える。

 

 不幸投機禁止! ここは町内の、ちょっとした煩わしさや憂さの捨て場所です。不幸そのものを捨てないでください、処理できませんので。

 それから、幸田先生を見かけない。もう自習が三回も続いている。

 

 

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かの世界この世界:143『ユグドラシルを目指して・1』

2020-11-25 05:45:29 | 小説5
かの世界この世界:142
 
『ユグドラシルを目指して・1』タングリス          
 
 
 
 
 ロキの元気がない。
 
 船尾の手すりに寄り掛かってウェーキ(船の航跡)ばかり見ている。
 ウェーキと言っても時間が停まっているので、ほんの五十メートルほどしかないのだが、見ていればウェーキが伸びて、自分の記憶も戻るのではないかと祈っているようにも感じられる。
 
 トール元帥がパラノキアとクリーチャーを引き受けてくれたので、やっとユグドラシルを目指して進めるようになった。
 
 しかし、いざ目指すことになると、ユグドラシルについての知識が致命的に乏しいことに気づいた。四号の乗員の誰もユグドラシルには行ったことが無いのだ。
 島の中央には世界樹ユグドラシルが生えていて、その麓の泉には時を司る三姉妹の女神が住んでいる。
 
 過去を司る長女のウルズ  現在を司る次女のヴェルサンディ  未来を司るスクルド
 
 ヘルムの守護神ヤマタが力を失って、それを補うためにヴェルサンディだけは姿を現したが、ウルズ、スクルドは消息不明だ。
 
 だからロキに聞いてみた。
 
 ロキはウルズの子どもなのだ。この旅の目的の一つがロキを母親の元に帰すことだった。先の大戦で戦災孤児になったロキはシュタインドルフの孤児院に従弟妹のフレイ・フレイア共々預けられていた。狭い四号に三人は乗せられないので、とりあえずロキ一人を預かったのだ。
 
 しかし、ロキが母親とはぐれたのは、ほんの幼児のころだ。
 
「うん、ユグドラシルというのはね、大きな泉があって、お母さんや叔母さんが水を汲んではユグドラシルの樹にやるんだ。空気は澄んでて、小鳥たちは夜明けとともに囀りだして、俺たちに『早く遊びに出ておいで』って呼びかけるんだ。お母さんは長女だから、一番ユグドラシルの幹に近いところに住んでいて、ユグドラシルに水をあげたあとは、おれの事を抱っこして、ゆっくりユグドラシルの見回りをするんだ。所々に休憩するところがあって、遅れてやって来る叔母さんたちを待ち合わせ、その日一日の予定を話し合ったりしてね、ブルーベリ-とかストロベリーとかが実っていたりしたらジュースにして飲ませてくれたり……」
 
 楽し気に話してはくれるのだが、では、そこに行くにはどこを通ればいいのか?
 
 
「えと……えと、それはね……」 
 
 肝心なことを聞くと、ロキは答えられない。
 
 ヴァィゼンハオスで、フレイとフレイアと喋っているうちに故郷ユグドラシルの話が出来あがってしまったのではないだろうか。
 
 毎日話しているうちに、ほんとうにそうであったかのように思い込んでしまい。行き方や詳しい様子を聞いてみると詰まってしまって、なにも答えられなくなる。
 
 そして、自分は何も知らないことに気づいて、落ち込んで過ぎ去るウェーキばかり見ているというわけなんだ。
 
「でも、世界樹っていうくらい大きいんだったら、遠くからでも見えるんじゃない?」
 ケイトが気楽に言う。
 ちょっと唖然だ。
「ユグドラシルというのはよほど近くに寄らなければ目には見えないものなのだぞ」
「そうなの?」
「それに、ユグドラシルの島は世界樹ユグドラシルの根に絡まったもので出来ていて海に浮かんでいるだけのものだから、ヘルムの島のように一定のところには居ないのよ」
 ユーリアが補足してくれる。
 
 思い出した、ケイトとテルは異世界の住人なのだ。この数か月の旅で完全に仲間になってしまったのだが、この世界では微妙に常識が違うはずだ。
 
 はてさて、取りあえずはチームワークの醸成であろうか。
 
 気づくと、ポチが寄り添って元気づけてくれていた。
 日が暮れることのない航海だが、夕飯までには元気になってくれるだろう。
 
 

☆ ステータス

 HP:20000 MP:300 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・300 マップ:12 金の針:60 福袋 所持金:450000ギル(リポ払い残高0ギル)

 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)

 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)

 白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 

 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)  思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士

 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 

 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児

 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 
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