大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・016『修学旅行・16・元帥の質問』

2020-11-02 13:27:52 | 小説4

・016

『修学旅行・16・元帥の質問』穴山彦   

 

 

 児玉元帥が身を乗り出してまで聞いてきたのは、僕が扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子だからだろう。

「将軍陛下の地球ご訪問は噂になっているんだろうか?」

 高校生に聞くには直截的過ぎるし、元帥と言う立場からして軽すぎる。

 

「将軍は、修学旅行の見送りにも来てくださいました(^▽^)!」

 未来が嬉しそうに応える。

 そうなんだ、将軍は書院番の中尉を引き連れただけの身軽さで扶桑宇宙港に見送りに来てくださった。

 わざわざの見送りではなく、日課の馬駆けの途中に扶桑三高の修学旅行の出発を耳にしたという体裁をとっていた。

「地球は私たち火星人の心のふるさとだ。特に日本は、この扶桑の国の大本だから、大いに楽しんでおいで。勉強に行くんだと思ったら肩に力が入っちゃうからね。楽しむことができたら、おのずと知見は広まる。わたしは忙しくて、なかなか地球に足を向けることはできないけれど、こうやって、君たちの顔を見ることで、想いを馳せることができる」

「チョ-グン、せっかくだかや、握手してほしいのよさ!」

 テルが提案すると、将軍は「それはいい、せめてわたしの体温だけでも地球に届けておくれ!」と笑顔で、僕たちの列に近づいてこられ、一人一人に握手してくださった。

「おお、君は新右衛門さんの息子じゃないか!」

 初めて気が付いた感じで握手された。

「恐縮です将軍」

「憶えているよ、十年前だろうか、新年のお祝いに新右衛門さんが君を連れてこられて。そうだ、新右衛門さんに抱っこされてわたしとハイタッチしたんだ。あの時の小さいけど暖かい手を憶えているよ。そうだ、十年ぶりにハイタッチしよう!」

 将軍が、そうおっしゃると「わたしも!」「オレも!」と広がって、結局全員とハイタッチされた。

 スターとかが、こういうことをやると、居合わせた人たちが我も我もと集まって収拾がつかなくなるんだけど、宇宙港に居合わせた人たちは、みんな控え目なにこやかさで見ていてくれていた。

 火星の扶桑人というのは三河武士的な武骨さを持ちながらも、こういう優しさとも含羞ともつかないものがある。僕たち若者には、ちょっと歯がゆいと思うところでもあるんだけど、この時はありがたく思った。

「あたし、ダッシュに肩車してもらってハイタッチしたのよさ(^▽^)/」

 テルは、そのままでも将軍が屈んでハイタッチしてくださるんだけど(じっさい、小柄な女子なんかには、そうなさっていた)わざわざそうやった。僕にあやかって、そうすれば何年か後には、また将軍に会えると縁起を担いだのだ。

 僕が思い出したことで、みんなは将軍のことで話が盛り上がって、元帥も嬉しそうに聞いてくださる。

「そうか、そんな楽しいことがあったんだね。そうだ、わたしもあやかって握手しよう」

「もう一度ですか?」

「さっきのは、ただの挨拶だよ。将軍陛下との握手やハイタッチを知ったらまったく別の握手になるよ!」

「は、はい!」

 もう一度あらためて握手する。元帥は、それ以上には将軍の来訪については聞いてこなかった。

 おそらくは、僕たちの話と反応から印象を受け取って判断されるのだろう。

 正直、僕も将軍には地球来訪のご希望があるようにお見受けしている。

 盛り上がったところにヨイチ准尉がやってきて元帥に耳打ちした。

 なにやら緊急事態で、僕たちとの歓談はこれでおしまいかと思ったら、振り返った元帥は花が咲いたような笑顔だった。

「諸君、陛下が君たちにお会いになりたいと仰せになっておられるぞ!(^▽^)/」

 え…………ええ!?

 四人揃ってぶっ飛んでしまった。

 

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まりあ戦記・028『友子のリップクリーム』

2020-11-02 06:34:43 | ボクの妹

戦記・028
『友子のリップクリーム』    



 

「まりあ、前から言おうと思っていたんだけどさー」

 指先でシャ-ペンを器用に回しながら友子、いかにも勉強に身が入りませんというオーラを発散している。
「なによ……」
 明日の試験に向けて一心不乱にノートの中身を暗記しようとしているまりあは生返事。
「まりあのお肌、荒れてなくない? 転校してきたころの瑞々しさないよ」
「いろいろ気ぃつかってるからね~」
 友子の顔も見ないで生返事。友子も真剣な物言いではない。勉強が億劫なので、なんとなくの話題をふってみただけである。
 だけど、女子の無駄話というのは、まったく根のないものでもない。確かにまりあの肌は荒れている。ヨミとの三回の戦い(一度は異空間での戦いで、一般には知られていないが、まりあには一番苦しい戦いだった)、見えてこない戦いの見通し、慣れないカルデラでの生活。そういうものがまりあの心身を蝕んでいる。そういうところを、ヨタ話のきっかけとは言え、友子は見通しているのだ。

――わたしの擬態は完璧だ、肌の荒れ具合までシンクロできている(o^―^o)――

 まりあ(実はマリア)は思った。本物のマリアは、まだ家に居る。
 まりあに成り代わって三日になるが、今日あたり、なにか起こりそう……マリアは、そう思っている。
 なにが起こるかまでは分かっていないが、この漠然とした不安は的中すると、マリアは思っている。
「このリップつけてみそ」
 友子がリップを取り出した。
「え、あ、うん」
 ノートに目を落としたまま、半身になってリップを受け取ろうとした。
「あたしが塗ったげるよ」
 まりあの顔を両手で自分の前に持ってきて、リップを構える友子。
「はいはい」
 ヘタレ眉になりながらも、大人しく友子にされるままになる。
「唇が荒れすぎ、こんなんじゃ、だれもキスしてくれないぞ」
「まさか、男が寄ってくるような成分入ってるとか?」
「喋っちゃダメ!」
「う、うん……」
 唇を動かさないで返事をする。なんだか間の抜けた声になる。
「こうやって見ると……まりあって男好きのする唇だね……なんだかそそるよね~」
 すると、友子は、いきなりリップ塗りたてのまりあにキスした。
「ウップ……ちょ、ちょっと!」
「アハハ、まりあの初めてを奪ってやった!」
「オヨヨヨ、お嫁に行けなくなった~」
「ウハハ、上等上等、みんな、あたしといっしょに独身を貫こーーぜ!」
「そういう魂胆か……でも、このリップって、雪見大福の香りがする」
「メーカーいっしょだから、食品会社って、こういうところに繋がっていくんだねー」
「リップでも頭よくなるのかなー?」
「それはどーかなー……」
 
 そこへカノンと妙子が帰って来た、手にはレジ袋をぶら下げている。

「ほれ、雪見大福!」
「あ、今日は買えたんだ!」
「一人二個まで。二人で行って正解だった」
 
 第二首都高には、テスト前に雪見大福を食べると成績が上がると言う伝説があるのだ。

「オ、ひょっとして、まりあも友子の犠牲者?」
 妙子が、まりあの唇に気が付いた。
「あー、これで一生独身決定だって」
「ハハ、あたしらは朝やられたよ」
 カノンが自分の唇を指さした。
「でも、こんないい女を独身のままにしておいたら、ヨミが出なくったって世界は滅ぶね」
「そう言や、ヨミってのは環境破壊とか温暖化が原因で、習っているように太陽風とか地磁気とかは関係ないって言いだしてるよね」
「そうよねえー、ヨミ出現の公式とか予測計算とかやってらんないわよ」
 友子は、鼻の下にシャーペンを挟んだ。
「あ、その顔キュートだよ!」
「ほんと?」
 キュートと言われて、友子は嬉しくなった。
「一生独身だったら、キュートとか関係ないじゃん」
「独身でも、キュートがいい!」
 手鏡を出し、友子は自分の顔を映してみた。
「あれ、校門のとこに大勢人が……」

 友子が発見するのと校内放送が入るのがいっしょだった。

――二年A組の安倍まりあ、至急玄関前まで来てください。繰り返します……――
 

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ポナの季節・82『オレンジ色の自転車』

2020-11-02 06:22:00 | 小説6

・82
オレンジ色の自転車』
                            


 蝉しぐれの歩道を五人の女子高生が歩いてくる。

 SEN48のメンバーだ。

 車道の向こうからT自動車の新型が走ってきた。
 蝉しぐれの街、SEN48メンバーの日常、新型車のカットバック。
 ケラケラ笑って車道にはみ出すメンバー、迫りくる新型車。メンバーの驚く顔、ブレーキがかかって停まる新型車。
 ライブで汗を流すSEN48、様々なアングルから。
 ペコリと車に頭を下げるメンバー、車走り出し、SEN48は見とれながら見送る。

――はみ出た青春受けとめます――

「かっこいい……」
 一昨日から始まったT自動車のCMを見るたび、夏はため息をつく。
「夏、T自動車が好きなの?」
「え、ああ、ううん」
 テレビのスイッチを切ると、もの言いたそうな母を背に家を出た。母と話したら、来週に迫った二学期のことを言われそう。

 まだ学校に行く自信はない。

 キャ!!

 ボンヤリしていたんだろう、前から来た自動車が急ブレーキかけてクラクションを鳴らした。
――すみません――心に言葉が浮かんでも、つい無言で車をにらみつけてしまう。SEN48のCMとまるでちがう。
「あたしは受け止めてもらえないんだ……夏はダメな子だから……」
 汗だくになりながらペダルをこいだ。
 自転車は、中一の時『はるか ワケあり転校生の7ヵ月』の主人公の愛車に憧れて買ってもらったオレンジ色の自転車。
 主人公の坂東はるかは、夏と同じように両親が離婚している。でも、それを乗り越えて高校演劇に打ち込み、プロの女優になっていく。
「それに比べて、あたしは……」
 ますます自分がみじめったらしく思え、こんど車に当たりそうになったら、そのまま跳ねられてしまえばいいと思った。

 車に当たる前に目が回った。水分補給もせずに一時間も走っていた……。

「どう、少しは楽になった?」

 聞き覚えのある声がして、夏は体をひねった。オデコの氷嚢が落ちた。
「あ、ママさん……」
「救急車呼ぼうかと思った」
「あ、どうして……」
「洗濯物干してたら、マンションの方に向かってくるなっちゃんが目に入って、ここの前を通り過ぎたところで自転車ごと倒れたのよ。あたしに用事だったの?」
「いいえ……ただやみくもに走ってたら、ここに来たみたいです……」
「そうなんだ……熱とかないようだし、シャワー浴びて着替えなさい。着替え洗面所に置いてあるから」
「あ、すみません……」
 ソファーから体を起こすと、腋の下と股の付け根に置いてあった氷袋が落ちた。
「すみません、こんなにしてもらってたんですね……あの……」
「だいじょうぶ、お母さんには、まだ連絡してないから」
「すみません」
「すみません三連続だ。早くさっぱりしてきなさい」
「はい……」

 あ!?

 リビングに大きなポスターが貼ってあるのに気付いた。それはSEN48と寺沢新子のポスターだった……。


☆ 主な登場人物

父     寺沢達孝(60歳)   定年間近の高校教師
母     寺沢豊子(50歳)   父の元教え子。五人の子どもを育てた、しっかり母さん
長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉
次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員、その後乃木坂の講師、現在行方不明
長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官
次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。死んでペンダントになった。

高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子
橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長
浜崎安祐美 世田谷女学院に住み着いている幽霊
吉岡先生  美術の常勤講師、演劇部をしたくて仕方がない。
佐伯美智  父の演劇部の部長
蟹江大輔  ポナを好きな修学院高校の生徒
谷口真奈美 ポナの実の母
平沢夏   未知数の中学二年生

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かの世界この世界:120『四号戦車試乗会・3・スゴイことになってきた』

2020-11-02 06:10:52 | 小説5

かの世界この世界:120

『四号戦車試乗会・3』語り手:ブリュンヒルデ       

 

 

 丘の上はお祭り騒ぎになった。

 

 一度に九人の子どもたちを乗せて丘に登る。

 その様子は、町内どころかヘルム中は大げさだけど三キロ離れた所からでも見えるのだ。

 ロートルの四号はエンジン音が大きく一キロ先からも聞こえ、五百メートルくらいだと試乗している子どもたちの歓声まで聞こえるらしい。

 その音やら歓声やら武骨な四号の姿を見た人たちが予想外に集まった。

 歩いてくる人やマウンテンバイクで登って来る若者、車でやってくる人、中にはブルドーザーやユンボに乗って、少しでも戦車に近い気分で登って来ようという人などで、四回目の九人を運び終わった時には数百人のヘルムの人たちが集まってしまった。

「だれか仕切らないと収拾がつかないぞ」

 タングリスが呟いたのはもっともだが、これは――自分以外に誰かが――という意味が隠れている。

 じっさい、テルは視線を逸らすし、ヤコブは工具箱を弄りだす。ロキとケイトはMCが入るほどにおもしろいイベントになるのかとキョロキョロ。ポチまでも「探してくるう~!」と飛び立っていく。

「し、仕方がない。わたしがやってやろうじゃないの」

「それは良い考えです!」

 タングリスが白々しくガッツポーズをするのに送られて丘の上に雛壇状になった岩に駆け上がる。

 雛壇は二段になっていて、一段目に足を掛け、ジャンプして空中一回転をして二段目に着地したときには漆黒の姫騎士の出で立ちになっていた。我ながら気合いが入ってしまった。

「よく来た皆の者! 我こそは主神オーディンの娘にして堕天使の宿命を背負いし漆黒の姫騎士にして四号戦車の車長、ブリュンヒルデなるぞ!」

 調子よく名乗りを上げると、ファンファーレが鳴り響いた。

 パッパカッパッパッパーーーーーーン🎵

 いつのまにか雛壇の下にブラスバンドが並んでいる。ポチが自慢げにその上を飛んでいる。

「麓で練習していたら、面白そうなので登ってきたんです。この妖精さんに声をかけていただいて!」

 よく見ると、シュネーヴィットヘンで入港した時のハイスクールのブラバンだ。

 さらに目を凝らすと①~⑧までの小さなプラカードが並んで、そのプラカードごとに出演者たちが屯している。

「いったい、どこから集めてきたんだ?」

 得意そうに飛んでるポチに聞いてみる。

「なんか、この丘はいろんなグループの練習場になってるみたい!」

「よし、というわけで、ヘルム市民文化フェスティバルをやっちゃうぞ!」

 なんか、スゴイことになってきた。

 ブラバンのほかに、ジャズのビッグバンド、マジック友の会、大道芸研究会、大学のグリークラブ、チアリーディング、詩吟の会、ハングライダークラブと色々だ。

「よし、一チーム十分づつの出し物をやってもらうぞ! なに? そんなに長くはできない。そっちは、もっと時間をくれ? よし、出たとこ勝負でいっくぞお!」

 オオーーーーーー!!

 突如始まった『ヘルム文化フェスティバル』はノッケからのハイテンションになってきたぞ! 

 

☆ ステータス

 HP:9500 MP:90 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・70 マップ:7 金の針:0 所持金:500ギル(リポ払い残高25000ギル)

 装備:剣士の装備レベル15(トールソード) 弓兵の装備レベル15(トールボウ)

 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)

 白魔法: ケイト(ケアルラ) 

 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士

 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 

 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児

 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

 

 

 

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