銀河太平記・016
児玉元帥が身を乗り出してまで聞いてきたのは、僕が扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子だからだろう。
「将軍陛下の地球ご訪問は噂になっているんだろうか?」
高校生に聞くには直截的過ぎるし、元帥と言う立場からして軽すぎる。
「将軍は、修学旅行の見送りにも来てくださいました(^▽^)!」
未来が嬉しそうに応える。
そうなんだ、将軍は書院番の中尉を引き連れただけの身軽さで扶桑宇宙港に見送りに来てくださった。
わざわざの見送りではなく、日課の馬駆けの途中に扶桑三高の修学旅行の出発を耳にしたという体裁をとっていた。
「地球は私たち火星人の心のふるさとだ。特に日本は、この扶桑の国の大本だから、大いに楽しんでおいで。勉強に行くんだと思ったら肩に力が入っちゃうからね。楽しむことができたら、おのずと知見は広まる。わたしは忙しくて、なかなか地球に足を向けることはできないけれど、こうやって、君たちの顔を見ることで、想いを馳せることができる」
「チョ-グン、せっかくだかや、握手してほしいのよさ!」
テルが提案すると、将軍は「それはいい、せめてわたしの体温だけでも地球に届けておくれ!」と笑顔で、僕たちの列に近づいてこられ、一人一人に握手してくださった。
「おお、君は新右衛門さんの息子じゃないか!」
初めて気が付いた感じで握手された。
「恐縮です将軍」
「憶えているよ、十年前だろうか、新年のお祝いに新右衛門さんが君を連れてこられて。そうだ、新右衛門さんに抱っこされてわたしとハイタッチしたんだ。あの時の小さいけど暖かい手を憶えているよ。そうだ、十年ぶりにハイタッチしよう!」
将軍が、そうおっしゃると「わたしも!」「オレも!」と広がって、結局全員とハイタッチされた。
スターとかが、こういうことをやると、居合わせた人たちが我も我もと集まって収拾がつかなくなるんだけど、宇宙港に居合わせた人たちは、みんな控え目なにこやかさで見ていてくれていた。
火星の扶桑人というのは三河武士的な武骨さを持ちながらも、こういう優しさとも含羞ともつかないものがある。僕たち若者には、ちょっと歯がゆいと思うところでもあるんだけど、この時はありがたく思った。
「あたし、ダッシュに肩車してもらってハイタッチしたのよさ(^▽^)/」
テルは、そのままでも将軍が屈んでハイタッチしてくださるんだけど(じっさい、小柄な女子なんかには、そうなさっていた)わざわざそうやった。僕にあやかって、そうすれば何年か後には、また将軍に会えると縁起を担いだのだ。
僕が思い出したことで、みんなは将軍のことで話が盛り上がって、元帥も嬉しそうに聞いてくださる。
「そうか、そんな楽しいことがあったんだね。そうだ、わたしもあやかって握手しよう」
「もう一度ですか?」
「さっきのは、ただの挨拶だよ。将軍陛下との握手やハイタッチを知ったらまったく別の握手になるよ!」
「は、はい!」
もう一度あらためて握手する。元帥は、それ以上には将軍の来訪については聞いてこなかった。
おそらくは、僕たちの話と反応から印象を受け取って判断されるのだろう。
正直、僕も将軍には地球来訪のご希望があるようにお見受けしている。
盛り上がったところにヨイチ准尉がやってきて元帥に耳打ちした。
なにやら緊急事態で、僕たちとの歓談はこれでおしまいかと思ったら、振り返った元帥は花が咲いたような笑顔だった。
「諸君、陛下が君たちにお会いになりたいと仰せになっておられるぞ!(^▽^)/」
え…………ええ!?
四人揃ってぶっ飛んでしまった。