大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・019『修学旅行・19・上野の成駒屋』

2020-11-22 10:22:59 | 小説4

・019

『修学旅行・19・上野の成駒屋』大石一   

 

 

 ウッヒョーーーー(^▽^)!

 

 箸に絡めた納豆を頭の上まで伸ばしてテルが喜ぶ。

「ちょ、浴衣の前(^_^;)!」

 箸を上げたまま立ち上がってはだけた浴衣の前をミクが注意する。

「だってさ、こんなに伸びりゅんだよ! やっぱり本場の納豆は違うのよさ!」

「ああ、分かったから。帯もこんなに上がっちゃってえ」

 自分の箸をおいて、着崩れた浴衣を直してやるミク。

 なんだか、家族旅行にやってきた母親と幼子だ。

 皇居を後にした俺たちは憧れの修学旅行専用の宿に向かった。

 不忍池のほとりにある成駒屋は三百年続く伝統的旅館だ。

 修学旅行専用というのは看板の文句で、シーズンオフなら一般の宿泊客も受け入れているんだがな。まあ、心意気だよな。

 今どき、オートどころかアルミサッシですらなく、二十年に一度は取り換えると言う正面玄関の四枚の硝子戸は、国産ヒノキの木製で金文字の『成駒屋』もゆかしい。

 玄関を上がると一面に敷かれた赤じゅうたん。左側のフロントにはコンピューターのインタフェイスも見当たらず(後で聞いたら、カウンターの下に目立たないようにしてあるらしい)。右手のお土産売り場と相まって、二百年の時空を超えて旅人を令和以前の日本に誘ってくれる。

 この雰囲気を平成ノスタルジーと捉えるか昭和レトロと捉えるかで、楽しい論争をしながら本物の水道水をを使った風呂に入った。

 二十三世紀のいまは、水はパルス殺菌されて、ほとんど超純水と変わりがないんだけど、この成駒屋の風呂は文化庁の許可で二十世紀の水道水と同じ塩素殺菌をやった上に日替わりの『温泉の素』を入れているという念の入れようで、塩素でゴリゴリ殺菌した皮膚に温泉の素の養分が乱暴に染み込んでくる感覚は、ほどよく心身を刺激してくれて、二十世紀の野生を取り戻す。

 ニ十世紀の野生は、浴室前の卓球台を見逃さず、四セットも卓球をやって、また風呂に入りなおした。

 そして、入浴後の晩御飯に俺たちはシビレまくっているというわけだ。

「でもしゃ、火星の重力って地球の半分もないのに納豆のネバネバはこんなには伸びにゃいよ」

「レプリケーターだからな。それにテル面白がってかき混ぜすぎだ」

 たしかにテルの納豆は白いスライムのようになっている。

「ハンバーグもエビフライもOGビーフのサイコロステーキも付け合わせにナポリタンスパゲッティも椀そば(お椀に一杯だけのそば)も味噌汁も卵焼きもサラダも浅草海苔も、お新香しゃえも微妙に違うニャ!」

「そうね、重要文化財は建物だけじゃないのよね」

「これも、御在位二十五周年の特別メニューなのかなあ」

「いや、成駒屋は日ごろからだそうだよ。お客に出すものは絶対レプリケーターを使わないんだそうだ」

「ってゆうことは、これ、みーんな人間が作ってゆってことにゃの!」

「ああ、特別なのは料金の方さ。これだけのものを人の手で作ったらレプリケーターの五倍くらいの値段になってしまうけど、ご大典の期間は二十世紀の値段に据え置きなんだそうだ」

「そうなんだ」

「でも、高校生の修学旅行に、こんな贅沢していいのかなあ」

「アハハ、ミクは貧乏性にゃ、ラッキーな時に来たって喜べばいいのにゃあ(^▽^)/」

「そうだ!!」

「うっ……喉に詰まるじゃないか!」

 ミクがテーブルを叩いて立ち上がった。

「ね、明後日の富士登山もアナログで登ってみようよ!」

「あ、しょれいいのよしゃ(^▽^)/!」

「え、3776メートルもあるんだぞ!」

 ミクとテルがその気になって、ヒコはニヤニヤ。

「おい、ヒコ、なんか言えよ」

「まあ、明後日の事だ。明日は上野近辺で休養、のんびり考えよう」

 そう言うと、残ったご飯にお新香を載せてサラサラとお茶漬けにするヒコであった。

 

 

※ この章の主な登場人物

大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い

穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子

緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた

平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女

 ※ 事項

扶桑政府   火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる

 

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やくも・06『マップメジャー・2』

2020-11-22 06:54:28 | ライトノベルセレクト

・05『マップメジャー・2』  

 

 

 今日も杉野君と二人。

 

 マップメジャーで遊んでいる。

 いろんな地図で試しては、小さく「へー」とか「ほー」とか言う。

 そんなに面白いというわけでもないんだけど、こういうことに程よく熱中していた方が距離がとれるし、ひょっとしたら可愛げのある女子と思われるかもしれない。

 程よい可愛げというのは大事なんだ。ハミゴはごめんだし、へんにベタベタされるのもいやだ。ちょっと愛嬌のあるNPCぐらいの存在でありたい。杉野君はあいかわらずラノベばっか、その横に座っているだけと言うのは、三日目にもなるともたないもんね。変に話しかけるのもあれだし……それに、杉野君はラノベ読みながら、時々、時々だけど、ニヤッと笑ったり、ポッと頬を赤くしたりする。人間関係もほとんどないのに、そういう人の横には、ちょっとね……。

 国土地理院の地図は、この街しか分からない。

 他の地図は知らないとこばかりなので興味が湧かない。

 それで、地図の付いている本を適当に出してはマップメジャーを転がしてみる。

 東京大阪間は550キロと出てきた。逆に大阪東京間で計ると570キロになる。

 まあ、アナログなんで転がし方によって出る誤差なんだろう……三回測ってみる、数キロの違いは出てくるけど、どう測ってみても、大阪からの方が遠い。

 歴史の本を出して、江戸大坂間を測ってみる……縮尺が書いてない。ま、適当に……140里。

 え?

 140里という数字が地図の東海道の上に浮き出てきた。

 変だよね、ふつうマップメジャーの文字盤に矢印が指すんだ。それが地図の東海道に沿ってホワ~っと現れた。

 十秒もたつと消えてしまう。もう一度あてがうと、また出てくる。

 これは、アナログに見えてたけど、デジタルなのかもしれない。ほら、バーチャルキーボードってあるじゃない。パソコンの前にキーボードが投影されたのをリアルキーボードみたく操作できるやつ。

 今度は戦国時代の地図。

 信長のいる京都と秀吉のいる備中を測ってみる……100と出てきた。むろん地図の上。

 光秀のいる丹波と京都、めちゃくちゃ近いにちがいない。近いからこそ、光秀は謀反を起こす気になったんだ……あれ?

 ∞?

 8の横倒し……無限大だと分かるまで、数秒かかった。

 無限大って?

 戸惑っていると――心理的距離――と出てきた。

 京都丹波間……110?

 ああ、信長は秀吉と同じくらい光秀を信用していたんだ。光秀が一人距離感じてたんだよなあ。

 レトロなスタイルしてるのに、このマップメジャーはスゴイ!

 

 今度は、ポケットから図書委員のローテーション表を出す。

 

 図書部の先生と自分を測ってみる……350、無限大よりはマシだけど、まあ、こんなもんか。

 杉野君とわたしを測ってみる……30……うそ!?

 方向を逆にして、わたしから杉野君……180? これって、杉野君がわたしを?

 あり得ない、今もカウンターでラノベに夢中だ。

 

 う~ん

 

 ロ-テーション表の裏に、うちの家族を書いてみる。わたしを中心に、お爺ちゃん、お婆ちゃん、お母さん。

 お爺ちゃんが100 お婆ちゃんが90 お母さんが20   ま、こんなもんか。

 逆にわたしからの距離を測ってみる。

 お爺ちゃんへは2000 お婆ちゃんへは1800 お母さんへは800  なんだこれは……。

 

 すみませーん、貸出おねがいしまーす。

 

 カウンターで声。女子がわたしを呼んでいる。杉野君はトイレにでも行ったんだろう。

「はーい、ただ今」

 カウンターに戻って貸し出し手続きをしてあげる。

 図書カードをボックスに入れていると、ハンカチを仕舞いながら杉野君が戻ってきた。

「あ、ごめん……」

 自分が席を立った間に貸し出しがあったので、ポッと顔を赤くしている。

「ううん」

 180を100くらいに縮める笑顔で返事して、マップメジャーに戻る。

 

 あれ? どこを探してもマップメジャーは見当たらなくなってしまった。

 

 少し遅れて完全下校のチャイムが鳴った。

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かの世界この世界:140『パラノキアの幽霊船』

2020-11-22 06:41:37 | 小説5

かの世界この世界:140

『パラノキアの幽霊船』語り手:テル        

 

 

 体が夜を欲している。

 

 R18的な言い回しだが、そんな意味ではない。

 ヘルムの守護神ヤマタが活動を停止して地上から光が無くなった。

 そのピンチヒッターに世界樹ユグドラシルの三神の一人ヴェルサンディが現れたのだが、いかんせんヴェルサンディは現在の時間を司る女神。過去の時間を司るウルズ、未来の時間を司るスクルドの三神が揃わなければ時間は動かない。

 我々は世界樹の島ユグドラシルを目指して船出した。ウルズ、ヴェルサンディの二神を起こすためだ。

 当直を終えてキャビンに戻るのだが、なんせ二百トンのフェリーボート。駅の待合室ほどでしかないキャビンはカーテンを閉めても真っ暗にはならない。アイマスクなどもしてみるのだが、体が夜とは認識しないのだ。露出した手足だけではなく、服を通しても光は感じるようで、熟睡することができない。

 エンジンがうるさいから!

 ケイトは言う。たしかにマーメイド号のエンジンはうるさいし、振動もハンパではないが、四号のそれと比べるといい勝負だ。それでも四号の狭い車内で睡眠はとれた。

「おい、次の次の当直だろ、そろそろ起きておけよ」

 ケイトの方を揺さぶる。

 キャビンに戻ったら、次の次を起こすことになっている。起こしておかないと交代の時にブリッジが無人になる時間ができてしまうためだ。

 ……ところが、ケイトは起きない。

 あれほど「熟睡できない!」と文句を言っていたが、疲労のレベルが高くなると自然に眠れるのだろう。これが子どもの健康さだ。他の者を起こしてもまずい、時間になったら起こしてやればいい、どうせ微睡む程度の眠りしか得られないのだからな……。

 

 そろそろ起こそうかと体を起こすと、スピーカーからタングリスの声がした。

――テル、ちょっとブリッジまで来てくれ――

 わたしが眠れないでいるのはお見通しのようだ、ケイトをそのままにしてブリッジに向かった。

 

 ブリッジへのラッタルに足を掛けたところで気づいた。左舷十時の方角に見覚えのある船が見えるのだ。

 パラノキアの巡洋艦……

 シュネーヴィットヘンを襲ってきた巡洋艦……たしか撃沈させたはずなのに。

 一人では判断できない、一気にブリッジに向かった。

「同型艦か?」

「これで覗いてみろ」

 タングリスの双眼鏡で覗いてみる。あちこち傷だらけで、第二砲塔のあたりはハッキリと断裂の痕がある。そうだ、あの巡洋艦は艦首がぶっ千切れて、砲塔が吹き飛んでしまったはずだ。やはり、同型艦?

 いや……あきらかに五海里ほど彼方の海を白波を蹴立てて進んでいる。

 洋上を航行中だったら、時間が止まった時に静止してしまって動けないはずだ。

「おそらく、クリーチャーと融合してしまったんだ」

「クリーチャーと?」

「パラノキアは、クリーチャーとの共存を謳っている。沈没したところに時間が止まってしまって、クリーチャーに憑りつかれてしまったんだろう、クリーチャーは時間が停まっても活動できるからな。まだ憑りつかれて間が無いんだろう、修復と変態の真っ最中といったところだな」

「逃げを打つしか手が無いな」

「面舵三十度……逃げるぞ!」

 タングリスは、ソロリと舵輪を回した……。

☆ ステータス

 HP:20000 MP:300 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・300 マップ:12 金の針:60 福袋 所持金:450000ギル(リポ払い残高0ギル)

 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)

 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)

 白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 

 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)  思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士

 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 

 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児

 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

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