大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

オフステージ・143「本館四階の生徒会倉庫」

2020-11-06 12:02:53 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)143

『本館四階の生徒会倉庫』瀬戸内美晴     

 

 

 我が空堀高校の本館校舎は百年以上昔の大正時代に建てられた。

 大正時代は実質15年に満たない短い時代だけど、1918年を境にして様子が異なる。

 1914年に第一次世界大戦が起こって、日本は勝ち組の米英仏側について、しかも戦場は地球の裏側のヨーロッパで行われたので、空前の好景気になったらしいわ。

 その好景気を背景にして作られた学校なので、贅沢で余裕のある造りになっている。

 先日、大阪都構想の投票を前々日に控え、取材の為に上空を飛んでいた民放のヘリコプターが空の上で故障して、迷うことなく不時着を決めたのがうちのグラウンド。なんと言っても府立高校の中で一番広いグラウンドなんだ。

 そのグラウンドでは、大阪一グラウンドの狭い北浜高校の野球部に(貸したくもない)グラウンドを貸す貧乏くじをかけて京橋高校野球部との試合が行われていた。

 北浜高校は第一次大戦後の不景気な時代に作られたので設備も敷地も空堀高校に比べると数段堕ちる。設備は、戦後府下有数の進学校になって集中的な整備が為されたけど、グラウンドの狭さはどうにもならなくて、うちや京橋高校を狙ってきたと言う訳よ。

 試合そのものは、ヘリの不時着もあってお流れとなり、北浜高校も部員の中にコロナウィルスに感染者が:出てしまい、部活そのものが休止になってしまったことは、みなさんご存知よね。

 

 わたしは、本館四階の生徒会倉庫で資料の整理をしている。

 

 本館はグラウンドに負けず劣らずの贅沢な作りで、四階にガラス張りの展望室がある。

 終戦直後は進駐軍がカフェやらダンスパーティーに使っていたと言うから、その贅沢さが分かってもらえると思うわ。

 その展望室は令和に時代の耐震基準を満たしていないので、教室としての使用は禁じられていて、阪神大震災以降は生徒会の倉庫として使用されている。

 甲府の曾祖母のお屋敷から帰って、わたしは生徒会の資料整理を思い立ったのよ。

 甲府では、瀬戸内本家を継ぐ約束をなんとか躱して戻ってきたんだけど、曾祖母、ひいお祖母ちゃんの悩みや大事にしていることも分かるようになった。

 古いから、鬱陶しいからということでお祖母ちゃんもお母さんも本家の事からは逃げてきた。

 でも、ただ逃げてばかりじゃダメなんだ。

 ちゃんと理解したうえで、やれることやれないこと、やってはいけないことを見極めなくちゃならないんだ。

 わたしは、そういう視点で生徒会と空堀高校を見直そうと思っている。だから、この展望室の資料庫を整理して、来し方行く末に思いをいたして、今の生徒会にとって大事なものを見つけようとしている。

「ふう……今日は、ここまでかな」

 一段落つけて、午後の紅茶を飲んで一息つく。

 飛行船の風防のような(飛行船なんて見たこともないんだけどね)丸い凸窓から中庭を見下ろす。

 そこには見慣れた二人がお互いを意識しながらソッポを向いている。

 演劇部の小山内啓介と沢村千歳だ。

 そして渡り廊下の三階の窓から、その二人をニヤニヤと見下ろしているのが超三年生の松井須磨。

 関わるとろくなことが無い演劇部だけど、この二週間余りの彼らは、ちょっと面白い。

 でもって、ちょっと放っておけないところがある。

 あまり、お節介はしたくないんだけどね。

 わたしは、椅子をグルンと回して跨ると、背もたれに顎を載せて三人を見守った……。

 

 

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まりあ戦記・032『あたしの好奇心』

2020-11-06 06:26:19 | ボクの妹

・032
『あたしの好奇心』     



 

 六日目だけど、まだ慣れない。

 特任少尉になったことじゃない、少尉待遇というだけで軍務があるわけじゃないし、覚悟していた訓練も無い。
 年末年始は、ベースのあちこちを探検したので退屈もしなかったし、ストレスも無かった。
 ベース住まいになったことでもない。あたしは、子どものころから逆境には慣れている。早くから親のいない生活だったし、お兄ちゃんも死んじゃったし、三年前には、とうぶんボッチの生活だろうとすんなり覚悟できていた。
 なんていうんだろ、家族の都合で「一週間一人暮らしよ」と言われたような感じ。少し心細いけど、一週間たてば、みんな帰ってくるという安心、それまでは好き放題やってられる、そんな感じ。
 人生いつまでもボッチじゃないと思っている。大人になってしまえば、嫌でも人とのしがらみが出来て、煩わしいくらいボッチじゃなくなる。二十歳を過ぎたら、そんな状況になるだろうと思う。それまでの数年間は、家族がいない一週間と同じくらいのスパンだ。言い換えれば、あたしの日常は、それくらい忙しい。さっきも言ったけど、自分の外のものに拘束されてじゃなくて、自分の好奇心に振り回されて忙しいって言えば分かってもらえるかしら?
 ベースを探検して面白いことはいろいろあったんだけど、下手に語りだすと際限がないことが分かっているので、語りません。

 う~~~ん。

 でもね、二つだけ言うよ。
 ベースにいたら、何十回何百回も見るやつ。

 なんで敬礼ってするんだろ?

 普段の生活じゃ、朝出会った時に「お早う」って言うよね。そのあと、同じ人に出会ったら、ニコッと笑って目礼したり、ちょっと目の端で「また会ったね」ぐらいのシグナル。それが軍隊じゃ出会うたんびに敬礼。あたしも少尉待遇なんで、下士官や兵隊さんには敬礼される。見よう見まねで敬礼を返すんだけど、サマになってないようで、三日ほどは階級に関係なく笑われてしまった。
 で、慣れたころに疑問が湧いてきた。なんで敬礼なんだろ? 肩の上まで手を上げるって、運動量の面からいうと過剰だ。胸のあたりに留めておけばラクチンだと思うんだけどね。昔流行った「宇宙戦艦ヤマト」とか「進撃の巨人」とかじゃ胸のあたりで済ましてるよ。
「そんなもん、昔からだわよ」
 みなみ大尉に聞くと、めんどくさそうな中身のない返事しか返ってこない。
「こんど時間のある時に」
 徳川曹長に聞くと、この返事。
 マリア……えと、テレジアに聞けば分かるんだろうけど(あの子のCPUはベースのマザーとリンクしてるので、なんでも知ってる)あの子に聞くのは業腹だ。

 とまあ、敬礼一つとってもこれだから、もう語らない。

 え、慣れないって話だったわよね?

 そー慣れないの! このキモオタ部屋!

 ベッドに腰かけて正面を向いただけで百個ほどのフィギュア! 魔女っ子ペルルやラブ戦士クーデル、古いのじゃスーパーそにこにラブライブ、TOHEART、ほかに名前も分からないのがいろいろ。フィギュアたちの後ろにはタペストリーやポスターがぶら下がり、隙間には理解不能のグッズが詰め込まれている。
「技研の平賀主任の方針でカスタマイズされてるんで、なにか意味があるんだと思うよ」
 徳川曹長は、そう言うけど、あたしはキッパリ言ってやった。
「こんなのに意味なんてないわ、平賀っていう人の度を越した悪趣味よ!」

 ブーーーーーーーーーー! ブーーーーーーーーーー!

 そこに、もう来ないんじゃないかと思っていた、あたし専用の非常呼集がかかった。

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ポナの季節・86『イントレに登っちゃいけない』

2020-11-06 06:17:33 | 小説6

ポナ・86
『イントレに登っちゃけない』
        


 

「イントレに登っちゃいけないよ」

 照明のチーフから注意されて「はい!」と夏は元気よく返事をしてしまった。
 今日はアシスタント見習いの初日。チーフは夏が中学生なので「やってはいけないこと」から教えてくれた。その最後の注意が「イントレに登っちゃいけない」だった。

 スタッフは揃いの黒のTシャツにガチ袋ぶら下げて首にはタオルを巻き、頭は黒いキャップかタオルをファッショナブルに巻いている。夏も同じ格好をするとイッチョマエに見えるが、中身はずぶの素人であり、ただの中学二年生だ。
「なっちゃんは、ケーブルを言われたところに運ぶのと巻き上げるのが仕事。注意もしたけど、危ないと思うことはやらないこと。いいね」
「はい!」
 ケーブルだけと言われて「なんだ」という気持ちがあったが、トラックの荷台を見てびっくりした。
 ケーブルだけでも軽トラック一杯分ほどもある。
「ケーブルに番号がついてるから、図面を見ながら置いていって」
 渡された図面は、ちょっとした電子回路みたいだ。
「とりあえず上のからやるか……」
 一番上のケーブルを二つ持って、夏はつんのめった。
「重い……(;゚Д゚)」
「一巻で八キロとか十キロとかあるからね、一巻ずつ運べばいいよ」
 チーフは軽々と二つも三つも運んでいた。
 お盆を過ぎたといっても、まだまだ八月、ケーブルを持って三回も往復すると汗みずくになる。
 額から流れた汗が目に入る。
「ウ、沁みる!」思わず目をつぶってしまう。

「あ、危ない!」夏の後ろをケーブル持って小走りしていたスタッフがぶつかりかけた。

「すみません!」ここ二三年口にしたことがないお詫びの言葉が出てきた。
「なっちゃん汗かきみたいだから、鉢巻したほうがいいよ」
「え、鉢巻?」夏はタオルをよじって頭に巻いてみた。
「ハハ、こうするんだよ……」
 スタッフは器用にタオルを巻きなおしてくれた。自分で巻いたのより幅広で頭にフィットした。
「なるほど、これで汗を吸い取ってくれるんですね」
「そう、それに少し大人っぽく見えるな」
 なるほど何人かいる女性スタッフも同じようにやっている。
「ただのファッションじゃなかったんだ」

「おーい、その24番のケーブル持ってきて!」

 足場の上のスタッフから声がかかった。
「はい、ただいま!」
 夏ははりきって足場を登って行った。
 十キロのケーブルを担いで、幅十センチほどのラッタルを上がるのは一苦労だ。
「ア、アアー!!」
 背の高さほど上がったところで夏は足を踏み外した。一瞬死ぬと思った。
「え……」
 体がなにかに受け止められた。
「チーフに言われたでしょ、イントレには登っちゃいけないって」
「あ、安祐美さん!?」
「心配だから見に来たの」
 安祐美は素早く夏を地面に立たせてくれた。夏は一瞬目が回った。
「大丈夫か、なっちゃん!?」
 チーフが顔色を変えてやってきた。

「あ、イントレって足場のことだったんですね」
「もっと分かりやすく説明すべきだったな」
 チーフは恐縮したが、知ったかぶりで生返事した自分が悪いと反省する夏。
「でも、安祐美さんは?」
「え、安祐美なら、まだ東京だぜ」
「え、でも……」
「さ、早いとこ設営してしまおう」

 夏の不思議は汗を一拭いすると、どこかへいってしまった。福島はまだ夏の盛りだった。


☆ 主な登場人物

父      寺沢達孝(60歳)   定年間近の高校教師
母      寺沢豊子(50歳)   父の元教え子。五人の子どもを育てた、しっかり母さん
長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉
次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員、その後乃木坂の講師、現在行方不明
長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官
次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。死んでペンダントになった。

高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子
橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長
浜崎安祐美 世田谷女学院に住み着いている幽霊
吉岡先生  美術の常勤講師、演劇部をしたくて仕方がない。
佐伯美智  父の演劇部の部長
蟹江大輔  ポナを好きな修学院高校の生徒
谷口真奈美 ポナの実の母
平沢夏   未知数の中学二年生

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かの世界この世界:124『プレパラートの攻撃!』

2020-11-06 06:08:02 | 小説5

かの世界この世界:124

『プレパラートの攻撃!』語り手:テル           

 

 

 ヘルムの島を二つに割ってヤマタは勝負に出たようだ。

 

「いったん戻った方がいいような気がする……」

「四号も飛べるようになったみたいだし、出直した方がいいような……」

 ロキとケイトが気弱になる。

「四号が飛んだのは火事場の馬鹿力だ、安定的に出せるものではない」

 ブリュンヒルデは自分のウィンドウを開いて見せた、黒魔法のフライはレベル5に過ぎない。なによりMPの残量が8しかなく、ファイアとかの初級魔法を二度ほどやったら枯渇するレベルだ。

 ブーーーーン

 小さな扇風機のような音をさせてポチが下りてきた。

「ユーリアの残像が山の方に続いていたよ。それと、なんだか分からないけど禍々しい気配が目の前の林からするよ」

 突然の地震にビックリして飛び上がってしまったんだろうが、一応の偵察はやったようだ。

「機会があったらライブラの能力を付けてやるといい。報告の内容が、もっと具体的になる」

「うん、そうするよ。ポチ、中に入って休んでろ」

「分かったあ、ポチ休むの~」

 みんな無事であることに安心したんだろう、通信機のベッドからは直ぐに可愛い寝息が聞こえた。

 

 サワサワサワサワサワ……

 

 灌木林の木々が一斉に葉っぱを揺する音がし始めた。

「これは……」

「車内に戻った方がいい、ハッチを閉めて、あの窪地に向かいます」

「分かった」

 タングリスの勘に従ってわたしもブリュンヒルデも車内に戻る。

「亀が手足をひっこめるみたいだ」

「ほんとだ」

 こども二人が分からんことを言う。

「だれが亀なんだぁ?」

「呼吸が合っているから亀が首や手足を引っ込めるのに似ている」

「四号のことだよ」

 

 ブーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン

 

 ポチの時とは違う羽音が響いた。数が多い……なんてものじゃなかった!

 ペリスコープから見える灌木林が振動しているように見える、いや、灌木林の木々の葉っぱが全て振動しているのだ。

「来るぞ!」

 ブウウウーーーーーーーーーーーン!

 羽音が大きくクレッシェンドしながら向かってくる!

「プレパラートだ!」

 カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ!

 無数のプレパラートが四号の車体を叩いていく!

 四号の装甲が削り取られることはないのだろうが、まさに身を削られるような不気味さ。例えて言うなら、数百人の歯医者に取りつかれて歯を削られているような気持ちの悪さだ。

 そんな想像をしてしまったからか、プレパラートの衝突音はシュウィーーーーーーーーンという高速音に変わった。

 プレパラートの衝突音が収まった時には、みんなレモンを丸カブリしたように酸っぱい顔になっていた。

 歯医者のドリルを想像したのは、わたし一人ではなかったようだ。

「わ、スゴイことになってる!」

 開けたハッチから真っ先に飛び出したポチが驚きの声をあげた。

「「「「「オオーーーーーー!!」」」」」

 

 四号の塗装は全て削り取られて金属の地肌が露出していた。

 そして……

 露出した地肌は鈍色の鉄ではなく、眩いまでの金色であったのだ!

 

☆ ステータス

 HP:11000 MP:120 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・80 マップ:9 金の針:5 所持金:1500ギル(リポ払い残高20000ギル)

 装備:剣士の装備レベル45(トールソード) 弓兵の装備レベル45(トールボウ)

 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)

 白魔法: ケイト(ケアルラ) 

 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士

 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 

 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児

 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

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