大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

まりあ戦記・029『火柱まりあ!』

2020-11-03 06:25:22 | ボクの妹

・029
『火柱まりあ!』   


 

 

 玄関前に集まっていたのは街の人たちだった。

 三百人近く居るだろうか、それも、しだいに増えつつある。
――思ったより早く集まってる、まりあと入れ替わっていて正解だった――
 学校の玄関は吹き抜けになっているので、二階から階段を下りながら玄関の様子が観察できる。

「あ、安倍さん」

 担任のエッチャン先生が小さく呟いたのを校長も街の人たちも見逃さなかった。ざわめきが収まり、三百人分の視線が集まる。
「あなたが安倍まりあね!」
「ウズメのパイロットだな!」
 年かさの二人がまりあを指さすと、まりあを取り囲むように三百人が動いた。
「ここは手狭です、表に出てください」
 そう言いながら、まりあ(マリア)は歩を緩めずに校舎の外に出る。
――立ち止まったら終わりだ――
 そう思って、まりあはグラウンドを目指した。
 グラウンドに出ると、友子やカノンたちが校舎の窓から心配げに見ているのが分かった。

「この人たちは、ウズメのことで話があるとおっしゃっている、質問にお答えしたら早く下校しなさい」

 校長の言葉はアリバイだ、もう四百人になろうかという群衆は、大人しくまりあを帰しそうになんかない。
「ヨミが攻めてくることは、もうない!」
「ここ三か月は何もない!」
「ウズメは税金の無駄遣いだ!」
「ウズメみたいなものを保有していたら、それが原因で、いつかヨミの攻撃が始まる!」
「あなたを二度とウズメには乗せない!」
「ウズメに乗るな!」
「「「「「「乗せるなーーーーー!」」」」」」
 群衆が、一斉に拳を上げた。

――予想していたより激しい――

 そう判断したまりあは、両手をメガホンにした。
「みなさんは間違っています! ヨミの攻撃は続きます! ヨミが攻撃してくる原因や理由は分かりません、分かりませんが、現に攻撃があることを無視はできません。ヨミの攻撃が1パーセントでも予想される限り、わたしは、ウズメに搭乗することを止めません!」
 こんなことをシャウトすれば火に油なのは百も承知、むしろ焚きつけている。
「話して分からないようなら、乗れないようにするしかない!」
「なにを言われても、わたしは乗る! 乗ります!」
「乗せるか!」
 最前列のオッサン数人が跳びかかって来た。
「来ないで!」
 地面を転がって二人のオッサンをいなし、起き上がるついでに、もう一人に足払い、起き上がると被さってきた奴の顔に頭突き、オッサンは顔を血で染めてひっくり返った。
 数メートル走った! 通せんぼしている四人にフェイントをかまし、できた隙間を駆け抜ける!

 殺気を感じた。

 視野の端に拳銃を構えた男! 斜めにジャンプ! 同時に銃声! 前に居た女子大生風の額に穴が開き、糸の切れたマリオネットのように崩れる!
 二度目の銃声! レポーター風の女の首筋に当たり、穴の開いた水道管のように血が噴き出る!
「させるか!」
 怒鳴り声といっしょにガソリンが降って来た。ヤバイ! 思うと同時に目の前が赤くなった、誰かが火をつけたのだ!
「殺してしまえ!」
 だれかが叫ぶと、石ころ、金属バット、トンボ、野球のボール、槍投げの槍、グラウンドにあるあらゆるものが飛んできた!

――ここで燃え尽きるわけにはいかない――

 燃える制服を脱ぎながら駆け、校舎裏に逃げる!
 跳び込んだ校舎裏に数人の人影、手にホースのようなもの!?
 思った瞬間には、爆発するような炎に包まれた! 火炎放射器だ!
 瞬間、まりあは火柱になった!

 ギャーーーー!!

 渾身の叫び声をあげ、まりあはフェンスにぶつかる!
 フェンスにほころびがあったのか、まりあの必死の力か、まりあはフェンスを突き抜け、崖下の林に転げ落ちた!

 ここのところ続いた異常乾燥で、瞬くうちに林は火に包まれ、消防自動車が到着してなを、まりあを呑み込んだ林は日の暮れるまで燃えていたのだった。

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ポナの季節・83『アゴダ劇場演劇祭』

2020-11-03 06:12:50 | 小説6

ポナ・83
『アゴダ劇場演劇祭』
          


 T駅で降りると、酷暑の日差しの中を五百メートルも歩かなくてはならない。

 そこで真奈美ママさんは夏といっしょにタクシーでアゴダ劇場に乗り付けた。
「……アハハ、運転手さん姉妹だと思ってましたね!」
 タクシーを降りた夏は吹き出してしまった。
「ポナのファンは若い子が多いから目立たない格好って、これになるのよね」
「そうね、お姉ちゃん」
 夏も調子を合わせ、二人そろって劇場のガラス戸に姿を映してみた。どこから見ても中学生と高校生の姉妹だ。
 埋まり始めた観客席の中ほどに座った。

 大輔は友だち六人を連れてかぶりつきの席に着いた。遠慮して後ろの方に座ろうかと思ったが、友だちみんなが席をとったので、それを言いわけにして「今日ぐらいはいいだろう」と自分を納得させた。

 SEN48のメンバーはバラケて客席の後ろの方にいる、まとまって座ると目立ってしまう。SEN48はメジャーになりつつあるのだ。

 父の達孝は佐伯美智たち演劇部の生徒を連れて大輔たちの二つ後ろにいる。コンクールに向けての刺激になればと連れてきたのだ。

 田中ディレクターは調光室でカメラを構えている。ポナやSEN48の新しい可能性が見つけられそうな気がしている。

 幕が上がった。

 あれから十年後のクララが、部屋中に散らかった服を楽しげに片付けている。クララは友子が演じている。
 
 ややあって、ポナが演ずる新人メイドのシャルロッテが「手伝います」と現れるが、なぜか断るクララ。ようく見ると正面のモニターにはクララのチャット相手のアナタが写っている。クララは父やロッテンマイヤーさんには内緒でチャットをやっていたのだ。

「お願いシャルロッテ、お父さまにもロッテンマイヤーさんにも内緒でね」

 シャルロッテはクララの気持ちを飲み込んで「はい、わかりました!」と胸を叩く。
 アナタとの会話の中で、クララが引きこもりになっていることが分かる。

 歩けるようになってからのクララにはいろんなことがあったようだ。画面のアナタも引きこもりの女の子だ。
 時々ロッテンマイヤーさんにバレそうになるが、シャルロッテの協力でなんとか乗り越える。
 アナタと心が通じ合ったころ、ハイジが「クララ遊ぼう」とやってくる。
 クララはハイジに負けないような服を着ていかなければと思い込み、持っている服を全部出して相応しいものを探しにかかる。

「服なんかどれでもいいでしょ! ありのままのクララさまで!」

 シャルロッテに言われ、そのままで部屋を飛び出すクララ。もうハイジは行ってしまった。
「すぐに戻ってくるわ、間に合わなかったと言っては、この繰り返しなんだから」ロッテンマイヤーさんの諦めたような声。
「いいえ、今度こそは大丈夫。だって初めてご自分の、いつもの服で出かけられたんですから」
 
 クララを信じながら、その行方を見守るシャルロッテ。
 明るいヨーデルが流れるうちに幕が下りる。満場の拍手。

 夏は涙が止まらなかった。

「なっちゃん……」
「あたしも……クララといっしょ、あたしもハイジみたくなりたい……」
 真奈美ママは夏の手をとった。
「おいで、あたしといっしょに!」
 真奈美は意を決して夏を引っ張って楽屋に急いだ。
「新子ちゃん」
「お母ぁ…………真奈美さん」
「お願いがあるの……」

 真奈美ママは、グイっと夏を前に押しやった……。


☆ 主な登場人物

父     寺沢達孝(60歳)   定年間近の高校教師
母     寺沢豊子(50歳)   父の元教え子。五人の子どもを育てた、しっかり母さん
長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉
次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員、その後乃木坂の講師、現在行方不明
長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官
次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。死んでペンダントになった。

高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子
橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長
浜崎安祐美 世田谷女学院に住み着いている幽霊
吉岡先生  美術の常勤講師、演劇部をしたくて仕方がない。
佐伯美智  父の演劇部の部長
蟹江大輔  ポナを好きな修学院高校の生徒
谷口真奈美 ポナの実の母
平沢夏   未知数の中学二年生

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かの世界この世界:121『四号戦車試乗会・4・ユーリアのたくらみ』

2020-11-03 05:58:26 | 小説5

かの世界この世界:121

『四号戦車試乗会・4』語り手:ブリュンヒルデ       

 

 

 四号戦車試乗会はヘルム文化フェスティバルになってしまい、プログラムが進むうちにアイデアが出て、ますます賑やかになってきた。

 

 大道芸人友の会のパフォーマンスが終わると『大声コンテスト』になり、二十四人が手を挙げて声を競った。

 ウオーー! ガオーー! 猛獣のような叫び声をあげる者もいれば、バカヤローー!とうっ憤を晴らす者、愛してるーー!と叫んで、誰を愛してるんだーー!? と聴衆に迫られ、とうとうその場でプロポーズをさせられてしまう者まで現れた。子どもたちもなにかやりたい! ということで、ハングライダークラブが紙飛行機コンテストを始めた。丘の上には麓から上昇気流が噴き上がってきているので、どの紙飛行機も大空高く飛び上がり、優勝した紙飛行機は、とうとう姿が見えなくなるまで飛んでしまい「素晴らしい! 五年ぶりの視界没が出ました!」と盛り上がった。

 ……という段取りで。

 わたしがMCをやっている間に乗員たちと出し物グループとの話がついて、ハングライダーグループが子どもたちを連れて体験飛行をやり、それと並行して四号の主砲で花火を打ち上げることになった。

「わたしも参加する!」

 宣言したのはユーリアだ。

 いつの間にかハーネスを付けてヘルメットにゴーグルの飛ぶ気満々の出で立ちになっている。

「ユーリアは先月までうちのクラブにいたんですよ」

 グループのリーダーが準備を手伝いながらニコニコしている。ユーリアはなかなかの腕のようだ。

「花火のタイミングは、わたしが出すからね」

 ユーリアと無線のチェックをする。

「自分も飛ぼうかなあ」

 見ていたヤコブもその気になるが「体重減らしてからに……」とリーダーに言われて諦めた。

 ブラバンが『ペガサスマーチ』を奏でる中、ハングライダーチームは次々と空に舞った。

 子どもたちを抱えている者はゆるゆると安全飛行を心がけたが、単独で飛んでいる者は華麗にターンや宙返りなどのパフォーマンスを繰り広げ、丘の上で見物している者たちから喝さいを浴びた。

 それは、リーダーとユーリアがコンビでパラレルターンを決めた直後だった。

 

―― 花火! ――

 

 ユーリアの無線。テルにキッカケを出して四号は最大仰角に上げた主砲から立て続けに花火が打ち上げられた!

 七発上げたところで、ユーリアの声が木霊した。無線がビッグバンドのスピーカーにリンクしていたのだ。

―― 今から向かいます! ――

 どこへ?

―― これから、ヤマタの神のもとに行きまーーす! だいじょーーぶ! ちゃんと役目は果たしまーす! さよならお兄ちゃん! ありがとう四号のみなさーん! 行ってきまーーす! ヘルムのみなさーーん! ――

 そこまで言い切ると、サッとターンして、ハングライダーとは思えぬスピードで東を目指して飛んでいく。

 やられた、この漆黒の姫騎士までも、まんまとたばかりおった!

「乗員は四号に乗れ!」

「どうすんの、戦車じゃ追えないよ!?」

 ケイトが当然の疑問をぶつける。

「わたしの力を見くびるな、ユーリアは漆黒の姫騎士の心に火をつけおったぞ!……いくぞ! 四号発進!」

 ゴーーーー!!

 我が意を受けた四号は、唸りを上げて浮揚し始めた……

 

☆ ステータス

 HP:9500 MP:90 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・70 マップ:7 金の針:0 所持金:500ギル(リポ払い残高25000ギル)

 装備:剣士の装備レベル15(トールソード) 弓兵の装備レベル15(トールボウ)

 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)

 白魔法: ケイト(ケアルラ) 

 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士

 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 

 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児

 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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