大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・178『代理でお見舞い』

2020-11-15 13:18:06 | ノベル

・178

『代理でお見舞い・1』さくら   

 

 

 あ、さくらちゃん。

 

 キョロキョロしてたら看護師さんに声をかけられた。

「え?」

 一瞬分からへん。

「いつも留美がお世話になって(^▽^)」

 マスクの上の目がへの字になって分かった。留美ちゃんのお母さんや!

「あ、え、こんにちは(^_^;)」

「お見舞い?」

 胸に抱えた花束を見て聞いてくれはる。

「はい、内科で入院してはる橘謙譲さんのお見舞いなんですけど、病室が見当たらへんで……受付で聞いた病室は、ここなんですけど」

 教えられてやってきた病室には別の人の名前がかかっていたんですわ(^_^;)

「あら、内科のフロアは一つ上よ」

「え……?」

「ここは六階で泌尿器のフロアだから」

「え! え? 七階やなかったんですか? ここ(;'∀')?」

 エレベーターで、ちゃんと⑦を押したはずやねんけど。

「あー、エレベーター修理中でね表示パネルが間に合わせなんで、時々迷う人がいるのよね」

 書いてある番号の上のボタンを押したんやけど、ほんまは下のボタンをさ押さならあかんみたい。

 アハハハ

 照れ笑いをして、ちょうどやってきたエレベーターに乗りなおす。

 乗ってから、たった一階やねんから階段を使たらええねんと思いなおす。焦るとろくなことはありません。

 ほんまは詩(ことは)ちゃんが来るはずやったんやけど部活で唇を切ってしもて、これ以上切れたらヤバイんで、わたしにお鉢が回ってきた。

 橘謙譲さんいうのは、専念寺のゴエンサン(浄土真宗では住職のことをゴエンサンという)。お祖父ちゃんと同年配やねんけど、後継ぎがいてはれへんので、まだ現役でやってはる。

 持病を持ってはって、去年の春も入院して、うちのおっちゃんとテイ兄ちゃんがゴエンサン代行をやってた。今度も、おっちゃんとテイ兄ちゃんに加えてお祖父ちゃんも、ちょっと手伝うてる。

 おばちゃんが見舞いに行くと気ぃつかいはるということで、うちが花束抱えて専念寺さんの病室を目指してるというわけですよ。

 あった、ここや!

 病室の前の名札に『橘謙譲様』の名札がかかってる。

 病室の前のアルコールで消毒し……ようと思たら、言い争う声がして、花束抱えたまま固まってしまう。

 

『鸞があと継がんと、寺には居れんことになるんやでえ』

『そんなん言われても、坊主は嫌や』

『なあ、鸞、今は如来寺さんが助けてくれてはるけど、いつまでも頼ってるわけにもいかへん』

『お兄ちゃんが居てるやんか』

『親(ちか)を当てにしてたら、いつになるか分からへんやろ』

『戻って来るて、お祖父ちゃんも、まだ七十にもなってへんねんから、気弱になったらあかへんやんか』

『たとえ直っても、元のようにはでけへん』

『元気出しいや、鸞がしっかり看たるさかいに。元気になったら、そんな気弱さどっかいってしまうさかい。お祖父ちゃん、病気で気弱になってるだけやねんて』

『鸞……』

『うちは、まだ中二やねん、そんな大人になってからのこと言われても』

『なにも、今すぐに坊さんになれ言うのんとちゃうや。な、せめて得度だけでも、得度は子どもでもでける』

『堪忍してえよ、もう』

『鸞が得度もせんままにお祖父ちゃんが逝ってしもたら、ほんまに、寺には居られへんねんで』

『もう、この話はおしまい!』

『鸞』

『ちょっと、外の空気吸うてくる!』

 ガラ!

「うわ!」

 いきなりドアが開いてビックリした(*_*)!

 なんとか身をかわして、鸞いう子ぉは速足で階段の方に行ってしまう。

 病院のドアいうのは、開けたら自動で閉まるもんやけど、あんまり勢いよう開けたもんで、なにかが引っかかったか外れたかして、開けたまま止まってしまう。

「あ……どちらさんかな?」

 専念寺のお爺さんと目ぇが合ってしもた……。

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まりあ戦記・041『ケティのスタンドバイミー』

2020-11-15 06:21:31 | ボクの妹

・041
『ケティのスタンドバイミー』    


 

 えーーーなに考えてんのよ!

 頭のてっぺんから声が出てしまったみなみ大尉だった。


 金剛武特務少佐が、いそいそと大尉を誘ったのはサンオリのケティランド、そのデコレーションケーキのようなゲートの前だ。

「小さいころにケティちゃんで遊んだことないかい?」
「ないわよ! 五歳の時にヨミの浸食が始まって、逃げ回ってばかりだったんだから!」
「だったら、ちょうどいい。オレ入場券買ってくるから」

 

 意外だった。たいていのアミューズメント施設はスマホなどの携帯端末で入場券を買うのが常識だ。
 チケット売り場に列をなして入場券を買うなんて古典的な設定は映画やドラマの世界にしかない。

 それでもスマホのデジタルチケットをアナログなペーパーチケットにしたい人はいるので、それなりの列は出来ている。

 でも、金剛少佐のように一からチケットを買おうというのは、システムを理解していない八十歳以上の老人か、よほどの好事家である。

 で、ゲートの前には、お父さんや彼氏が疑似アナログチケットに交換するのに並んでいる間、ワクワクしながら待っている家族連れやローティーンの女の子が結構いる。
 実際より若く見えるとはいえ、自分と同じ年頃の女性は、みんな子供連れの母親だ。
『ね、あの人のスタジャン『ケティのスタンドバイミー』の……』
『ほんとだ、あれはシブイよねー』
 そんな会話が聞こえてきた。どうやら自分のことを言っているらしい。さりげなくゲートのガラスに映る姿をチェックする。

 大尉が着ているのは、先日、少佐に押し付けられたデート用の衣装だ。

 スタジャンは、裏地こそピンクのチェック柄だが、表はカーキ色のタンカースジャケットだ。ちょっとレトロだけども、年齢に関係なく着られるアイテムで、ここで待っている人たちの中にも似たようなものを着ている人が結構いる。あまり目立たない衣装なので、すっかり安心していた。

 

「あのう、突然ですみません!」
 高校生ぐらいの二人連れの女の子が声を掛けた。
「え、あ、はい!」
 女子高生みたいな返事をしてしまった。
「そのスタジャン、どこで買ったんですか?」
「ぶしつけですみません!」
 二人は目をキラキラさせていて、周囲の人たちも憧れのまなざしで見ている。なんとも居心地が悪い。
「あ、えと、人からもらったものなんで……」
「そーなんですか!」
「ひょっとしてプレゼントしてくれた人って、いっしょに来てます?」
「あ、えと、それは……ていうか、この地味なタンカースジャケットが、なんで?」
 周囲の人たちから笑い声が上がった。
「あの、そのスタジャンはですね『ケティのスタンドバイミー』って不朽の名作でですね、あーーー思っただけで涙があーーー」
「えと、ケティちゃんが家出してですね、家出にはふかーい訳があるんですけど、ウウウウウ……」
「グス、けつろん言いますとね、ケティちゃんが彼の愛情に気づいた時に、なんでもないスタジャンに愛のシグナルが現れるんです」
「シグナルは、気づいて現れるんですけど、彼氏が、すぐそばにやってくると輝きを増すんです!」
「あーーー、でも、これはただの……」
 大尉が見た限り、ただのタンカースジャケットなのだ。

 オーーー!!

 その時、周りの人たちから感嘆の声があがった。
「せ、背中です、背中!」
「いま、輝きが!」
 大尉は、ジャケットを脱いで背中を見てみた。

 背中には、ケティの満面の笑みと I love You! の文字がキラキラ輝いていたのだ!

 人だかりの向こうには、少佐がニタニタ笑って二枚の入場券をヒラヒラ振っていた……。

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かの世界この世界:133『スキルアップしたのだ!』

2020-11-15 06:10:08 | 小説5

かの世界この世界:133

『スキルアップしたのだ!ブリュンヒルデ       

 

 

 わたしが本物だから!

 

 そう主張するユーリアは、八メートルほどの間隔を開けて、それぞれにこんぐらがっていた。

「ハーネスを切って下ろして!」の声も前後して五人分聞こえる。

「うかつに下ろせないぞ……」

 タングリスの言う通りだ、クリーチャーというのは擬態する。五人のうち四人のユーリアは擬態したクリーチャーだ、下ろしたとたんに襲い掛かって来るだろう。

「早くして! 頭に血が上る~!」

 ほとんど逆さになったユーリアが顔を赤くしている。

「腕が千切れそう~!」

 右腕を絡み取られたユーリアの指先が痙攣している。

 他の三人ももがいているうちに増々苦しくなっていく。

「ウグッ!」

 一人が蔦を首に絡ませてしまった!

「じっとしてろ!」

「待て、テル!」

 タングリスの制止も間に合わずテルが飛び出した。わたしもタングリスも飛び出す! 万一の時はテルを助けるためだ。

「来るな!」

 叫びながらテルは地面を蹴る! 

 セイ!

 ユーリアのすぐ脇を通る瞬間に剣を抜き放って蔦を切断した!

 自由になったユーリアは地面に落ちる寸前に大きな蜘蛛に変身、糸を吐き出しながら密林の中、テルを追い掛け回す。

 

 シャーーーーーーー!

 

 たった今までユーリアだったそれは、溶けた飴のように糸を引きながらテルを追いかけ回す!

「いま助けるぞ!」

 地面を蹴った! 瞬間でクリーチャーに追いつきツィンテールを振り回して、そいつの背中をたたっ切る! わずかに届かなかったが、引きずった糸を切断した。

 ベチャ!

 糸の切れたそいつは、その瞬間のエネルギーの方向にすっ飛んで木の幹にぶつかってプリンのように四散した。

「姫!」

 タングリスの叫びを最後までは聞かなかった。視界の端に迫りくる三体のクリーチャーを認めたからだ!

「セイ!」

 横っ飛びにジャンプ! 旋回しながらツインテールの一閃をくれてやる! クリーチャーの伸びきった糸を切断! さっきのと同じように地面に激突すると四散した!

 空中で一回転! 次に供えようとしたら、テルとタングリスも一体ずつ倒していた。

 

「……ということは、こちらが本物か」

 

「ありがとう、低空を飛んでいたら、急に触手のようなのが伸びてきて絡み取られたの(^_^;)」

 見えない敵に四の字固めをくらったような姿勢で礼を言うユーリア。

「いま、助けるから。テル、そっちを、姫は頭の方を」

 三人で囲むようにしてユーリアに絡まったハーネスやら蔦を切り取る。

「ありがとう、やっと助……」

 その瞬間、ユーリアは手足を広げたかと思うと八畳敷きのチューインガムのように広がって三人を包み込んだ!

 グシュッ グシュグシュ グシュッ

 数秒で捕らえた三人を圧縮すると、圧縮に反比例して地面が口を開ける!

 ズボッ!

 瞬間の吸引力で吸い込まれると、地面は閉じてしまって静寂が訪れた。

 

「もういいですよ……」

 

 ポチの声がかかって、我々は茂みから顔を出した。

 ちょっと信じられない光景だった。四体のクリーチャーをやっつけて、振り返ると、わたしを含めた三人がユーリアを助けようとしているところだった。「隠れて」という囁きで身を隠していたら、いまの顛末になったのだ。

「ポチ、いまのは空蝉の術だったな」

「なんか、とっさにやっちゃった……」

 どうやら、ポチの新しいスキルが覚醒したようだ。

「少し後退しよう」

「後退?」

「すれば分かります」

 タングリスの言うままに。密林の中を五十メートルほど後退した。

 ズズズズーーーーーン

 くぐもった地響きがしたかと思うと、次の瞬間、それまで居た密林が山のように膨らんでから爆発した!

 

 ズッボーーーーーーーーーン!!

 

「ポチの空蝉に思念爆弾を仕掛けました」

「わたしも、何かを仕掛けた気がする。もう少し下がろう」

 みんな知らないうちにスキルアップ! なんか面白くない!

 

 ドッガーーーーーーーーーーン!

 

 前の数倍の爆発が起こり、我々も吹き飛ばされたが、空中で二回転して着地した。

 密林の中、野球場ほどに木々がなぎ倒され、その中央はクレ-ターとなって口を開けていた。

 目的の場所、ヤマタの居場所は、このクレーターの向こうのようだ……。

 

☆ ステータス

 HP:15000 MP:200 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・280 マップ:11 金の針:60 福袋 所持金:400000ギル(リポ払い残高0ギル)

 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)

 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)

 白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 

 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)  思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士

 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 

 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児

 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

 

 

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