大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

まりあ戦記・037『まりあの事情』

2020-11-11 05:40:06 | ボクの妹

戦記・037
『まりあの事情』   



 

 チ!

 もう百回は舌打ちした。


 レールガンを装着するたびにタイムロスが出る。
 一回につき0・2秒から0・8秒のタイムロスだが、十回装着すれば2~8秒のロスになる。
 これでは確実にヨミの攻撃に追い越されてまう。
 むろんウズメは改造されていて、ヨミのパルス弾を1000発受けても致命傷を受けることはない。
 一発の命中弾を受けると、ウズメは一秒ちょっとで衝撃を大気に逃がすので装甲を削られることがなく、いつも完璧な状態でヨミに対することができる。これをリペア機能という。
「でも、百回に一回は複数の命中弾を受けて、ダメージが蓄積されるのよ。で、百回に一回が十三回続くとウズメのリペア機能が低下し、反撃することができなくなってフルボッコされてしまう」

――だからこそのリバースでしょ――

「「リバース!」」

 大尉の声と重なったのが癪だけど、まりあは、シートごとウズメの後頭部から射出され、これで七回目のリバースを行った。
 アクトスーツはヨミが予測不可能な軌道を描いて飛翔して、その間は確実にヨミの攻撃を引き付ける。その間にウズメはフルリペアを済ませて、まりあの帰還を待つ。
 このセパレートアタックを続けていれば、時間はかかるがヨミを倒せる。

「だけど、見てよ、このありさまを!」

 ヨミに勝利した後、カルデラの内も外も25%の被害である。
「これを四回繰り返されたら、ベースも首都も壊滅するわよ!」
――だからこその訓練でしょ、タイムロスが無くなれば被害も小さくなる。さ、もう一度最初から――

「もう、おしまい!」

 プツンとノイズがして、大尉はまりあと会話できなくなった。

 ブチギレたまりあは、ウズメのジェネレーターを切って、シュミレーターを飛び出した。
「まりあがエスケープしたわ、みっちゃん追いかけて!

 大尉に命ぜられて、みっちゃんこと中原少尉はCICを飛び出し、まりあの軌跡をトレースした。
 五分後、みっちゃんは第三ブースに入ったところで動けなくなっていた。

――セキュリテイーガ……ス……――

 その一言を連絡したところで気絶してしまった。
「知恵がついたわね、ダミーをかましてセキュリテイーを乗っ取ったのね」
「大尉、ベースからマリアの痕跡が消えました」
「行先は分かってる、ちょっと行ってくるわね」

 大尉は、指令室のあるフロアーに上って行った。

 フロアーに上がって、二つ目の角を曲がると、不機嫌マックスの唸り声が聞こえた。
「卑怯よ、こんな超アナログで足止めするなんて!」
「アナログもデジタルも何でもありなのが、高安みなみさまなのよ」
 マリアは畳一畳分はあろうかと思われる巨大粘着マットにギトギトに絡めとられていた。
「ヌーーー! パルス弾の直撃にも耐えられるスーツがああああああ!」
「司令への直訴を諦めて訓練を再開するなら開放したげるわ」
「だあから~、あの訓練は~、え、みなみさん、粘着マット平気なの?」
 大尉は涼しい顔で、ゴキブリのように絡めとられたまりあの横に立った。
「それ、アクトスーツの組成にしか反応しないの」
「き、きったねーー!」
「だって、他の人間がかかったらまずいでしょ」
「かくなる上はーーっ!」
 まりあは左肩にある緊急脱衣ボタンを押した。まるでバナナの皮がオートで剥けるような感じでスーツに切れ目が走り、脱皮するようにまりあは抜けて行った。
 成功!……と思ったら、抜け出たすぐそこで、再び絡めとられてしまった。
「グ、ググ、なんで? スーツ脱いだのにさあ!」
「緊急脱衣したら、十分間は保護機能が働いて、まりあの皮膚をスーツと同じ組成にして保護するのよ。最初に説明したでしょ」
「く、くそ、こんな状態で十分間も~」

 スーツを脱いだまりあはカエルのように這いつくばった格好で十分間の我慢である。

「ね、スーツを脱いだあたしって、素っ裸のスッポンポンなんですけど!」
「ま、十分間だけの辛抱だから」
「だ、だってーー!」

 廊下の向こうから休憩時間になって持ち場を離れた隊員たちの気配が迫ってくるのであった。
 

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ポナの新子・91『池の向こうで』

2020-11-11 05:22:25 | 小説6

・91
『池の向こうで』
             
  

「へえ……竹下通りにこんなとこがあったんだ」

「うん、通りからほんの何十メートルだけどね。穴場だよ」
「ポナがこんなとこ知ってるなんて意外だな……ほ……見直した」
「フフ、言いなおしたわね。ほ……なにかな?」
 東郷神社は、もう十月初旬の涼しさ。でも、ポナに見つめられて大輔は汗が流れてくる。
「ここね、先月お父さんとお母さんのお誕生会をやったの。それまではあたしも知らなかったんだ……電話もらったときに、会うならここだと思った。正解だったわね」
「そ、そうだな……」
「池の向こうにベンチがあるの、座ろっか」
「あ、うん」
 中州を貫いて、池の向こう側にかかるカギ型橋の中ほどにさしかかると、どちらともなく立ち止まった。
「うわあ、コイがいっぱい!」
 エサをもらおうと赤や錦のコイが目の下に群れ集まっている。
「すごいな、コイのエネルギーって……」
「ちょっと待っててね」
「うん……」
 ポニーテールをぶん回し、ポナは小走りに橋のたもとへ。残ったシャンプーの香りに大輔はうろたえた。
「はい、コイのエサ。二人でやろう」
「そうだな」

 エサを撒くと、コイの数はさらに増えてきた。

「アハハ、すごい、すごい!」
「すごいって言葉はコイが語源なのかもな」
「プ、駄洒落だ……はい、コイさんたち、おっしま~い! 行こう」
 二人がベンチに腰掛けてもコイたちは群れている。
「ほんと、コイってすごいね……大輔くんも」
「ん……?」
「今日は一度もあたしの目を見てないよ」
「そ、そうか……?」
「そうだよ、なんだか苦しんでる……あたしが悪いんだよね」
「そんなことないよ」
「ううん、前はもっと……男のくせにって思うほどお喋りだったし、まっすぐあたしを見ていたよ」
「……あのさ、オレ夢を見たんだ」
「どんな?」
「それがさ、バッカな夢。結婚式の直前で、ポナはきれいなウェディングドレス着ててさ、オレはちっぽけなミツバチ。で、ポナがオレの名前を呼ぶんだ、するとオレは人間の姿にもどるんだけど、その……」
「その……?」
「そういう夢、バカだろミツバチなんて。ゆうべ『ウェディング』って映画観てたらミツバチが迷い込んで大騒ぎしたからだろうな」
「それ、肝心なとこ抜いてるでしょ、きちんと言いなさい。ちゃんとあたしを見て」
 ポナは両手を添えて大輔の顔の向きを変えた。
「その……」
「その……やらしい夢なの?」
「やらしくないよ。ただ、結婚式の前にキスの練習しようって……ポナが言うんだぞ」
「あたしが?」
「うん、大輔くんは下手だから、式の前に練習しとこうって。あ、映画にそんなシーンあったから」
「で……?」
「ここが笑っちゃうんだけど、二人の顔が近くなるとミツバチに戻ってしまって、離れると元に戻って、その繰り返し。そのうち鐘が鳴ってさ、ポナが時間だよって。そこで目が覚めたら授業が始まってて、つまり、ポナとの関係はそこまでって、神さまの戒めだな。まあ、そういうことだから、笑って安心してくれよ」
「アハハハ」ポナが笑う。
「アハハハ」大輔が笑う。
「あ、あそこ!」
「ん……ウッ!」

 大輔が指差した方を向いている間にポナは大輔の頬にキスをした。

「ごめん……こんなキスで。あたしって、一度にいくつも追いかけられない子だから……」
「分かってるよ、ポナにはSEN48があるからな」
「それだけじゃ……ううん、そうだね、SEN48だけでも……だよね」
「ポナ……」
「ね、さっき言いかけた(ほ)ってなに?」
「あ……ほ、誉めなくっちゃ、だな」
「ん……惚れなおし……かと思った」
「う、うん……」
「いつか、もっときちんと大輔くんに向き合えたらね……それまでは……」
「ポナ……」
「ごめんね、いまは……」

 ポチャンと池で音がして、大きなコイがはねた。ピリオドにもスタートの徴にも思えるコイだった。


※ ポナと周辺の人々

父      寺沢達孝(60歳)   定年間近の高校教師
母      寺沢豊子(50歳)   父の元教え子。五人の子どもを育てた、しっかり母さん
長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉
次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員、その後乃木坂の講師、現在行方不明
長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官
次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。死んでペンダントになった。

高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子
橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長
浜崎安祐美 世田谷女学院に住み着いている幽霊
吉岡先生  美術の常勤講師、演劇部をしたくて仕方がない。
佐伯美智  父の演劇部の部長
蟹江大輔  ポナを好きな修学院高校の生徒
谷口真奈美 ポナの実の母
平沢夏   未知数の中学二年生

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かの世界この世界:129『灌木林の中に美容院!』

2020-11-11 05:11:56 | 小説5

かの世界この世界:129

『灌木林の中に美容院!語り手:テル        

 

 

 努力の甲斐あって開けたところに出てきた。

「もう、髪がビチョビチョのネチャネチャーーー!」

 

 ブリュンヒルデの髪は獰猛な植物たちの樹液に染まって薄っすらと緑色に染まり、その水分で重くなって、ぶん回すことを止めると大雨に降られたライオンのタテガミのようになった。

「よく頑張られました、すこし休憩しましょう。姫、シャンプーさせていただきます」

「こんなところでシャンプーできるの?」

「回復アイテムの中にシャンプーがあります……」

 タングリスがホルダーにタッチすると、美容院のシャンプー台が出てきた。

「立派なのが出てきた!」

 それだけではなかった、シャンプー台の周囲がムクムクと変化して本格的な美容院になった。

「おお、すごい!」

「ここまでとは!」

「ドライシャンプーくらいのものかと思っていた」

「ああ、これはいい! 一瞬の魔法でやるよりもリラックスできるし!」

「美容師までは付いていないようだな」

「セルフサービスだよ、この方が面白いかも!」

「テル、わたしたちもやろう、気分転換になる」

「あたしもやりたい!」

 ポチも手をあげて交代でシャンプーすることにした。

「わたしは最後でいいぞ」

 ブリュンヒルデが似合わぬ遠慮をする。

「そうですか、それではポチからやってやろう」

 女と言うのは髪をいじるのが大好きだ。人をシャンプーしてやることも十分癒しになる。

 ブリュンヒルデが遠慮したのが意外だったが、最後にやってみて分かった。

「なんで、こんない長いんだあ!」

 リラックスしたブリュンヒルデの髪は五メートルほどの長さになった。まるでラプンツェルだ。

「ふだんは短くしているのだ、フン!」

 気合いを入れると普段の長さに縮む。

「おもしろーい!」

 ポチが面白がって髪を体に巻き付ける。フンッ! ホー フンッ! ホー オッサンがメタボの腹をペコペコさせるように気合いに加減をくわえると、ブリュンヒルデの髪はピュルピュルと伸び縮みを繰り返す。夏祭りや縁日で売っている『ふきもどし』にそっくりだ……ん? なんで見たこともない『ふきもどし』を知っているんだ?

 ときどきおこるデジャブに思考をとられていると、周囲の様子が変わってきた!

 美容院の床や壁がグニャグニャに波打ったかと思うと、美容院は袋状になって急速に縮みながら蠕動運動を始めた。

「しまった、罠だぞ!」

 タングリスが叫んだ時には蠕動運動が起こって、ポッカリ穴の開いた床に飲み込まれていった……。

 

 

☆ ステータス

 HP:11000 MP:120 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・180 マップ:10 金の針:50 福袋 所持金:350000ギル(リポ払い残高0ギル)

 装備:剣士の装備レベル45(トールソード) 弓兵の装備レベル45(トールボウ)

 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)

 白魔法: ケイト(ケアルラ) 

 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士

 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 

 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児

 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

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