大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

まりあ戦記・030『ずらかるわよ!』

2020-11-04 06:36:44 | ボクの妹

戦記・030
『ずらかるわよ!』    


 

 

 どこ触ってんのよ!?

 思ったけど声に出せなかった。

 まりあは、大きなクマさんのぬいぐるみの中に入って、運送屋に化けた兵士の肩に担がれている。


「まりあ、ずらかるわよ!」

 朝帰りのみなみ大尉に言われたのは、ついさっきだ。大尉に続いて運送屋に化けた兵士が五人入って来た。一人は徳川曹長だ、曹長は部下にテキパキ指示をすると熊の大きなぬいぐるみをひっくり返し、ジッパーを開けると、こう言った。
「安倍まりあは死んだことになったので、これに入れて運ぶよ」
「え、なに? どゆこと?」
 曹長はニッコリ笑って、まりあにぬいぐるみを被せると、部下に指示して担がせたのだ。
「どうも、お世話になりました」
 大尉は、お隣りさんには声を掛けておいた。
「あら、急なお引越しなのね!」
「はい、急な異動で」
「大変ね軍隊は……あ、まりあちゃんは?」
「あの子は……一足先に、すみません、ご挨拶もさせないで」
 大尉は顔を伏せながら言いよどんでおいた。
 おや? お隣りさんは不審に思ったが、大尉の目が潤んでいるので聞いてはいけないと思った。
 そして朝刊を見てビックリした。

――第二首都高校女生徒焼死!――

「ま、まりあちゃん!?」
 お隣りさんは、まりあが『焚火の火が燃え移って焼死』したのだと信じた。

 怒れる群衆によってリンチにされ、そのあげく焼き殺されたということは完全に伏せられた。
 大掃除で出たゴミを校庭の隅で焼却中に、誤って混入していた古い花火に引火し、まりあの制服に燃え移ったとされた。
 まりあは火だるまになりながら、フェンスを突き破り崖下に落下。崖下の林は半日燃え上がり、まりあの遺体は発見に至っていないと続いていた。

 ウワーーー!!

 荷解きしていたまりあは、チョービックリした。

 ベース特有の無機質な音がしてドアが開いた時は、みなみ大尉か徳川曹長かと思った。
 焦げた臭いに顔を上げると、そこには焼けただれたゾンビが立っていた。
「ちょっと失礼ね!」
 文句を言うと、ゾンビはブルブルと振動し、炭のような焼け焦げを振るい落した。
「ウワー、寄るな触るな!」
「邪険にしないでよ、まりあの身代わりになってきたんだからさーー」
 ゾンビは、ほとんど焼け焦げの骸骨のようになり、そこだけ真っ白な歯をカタカタいわせた。
「え……マリア?」
「あったりー!」

 ウワーーーーー!!

 それだけ言うと、電池が切れたようにグッタリし、百以上のパーツに解けてまりあに覆いかぶさてきた。
 あまりの臭さと驚きで、まりあは泡を吹いて気絶してしまった。

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ポナの季節・84『予感していたわけじゃない』

2020-11-04 06:26:54 | 小説6

・84
『予感していたわけじゃない』
       


 予感していたわけじゃない。

 ただ一日だけ休んでエンジンを休めたかった。
 エンジンと言っても自動車ではない。ポナの頭であり、心でもあり、体でもあるが、ひっくくって言えばエンジンになる。
 とにかく、ほんの一日クールダウンしてみたかった。

 それが、アゴダ劇場から帰って家の玄関ドアがグニャリとゆがんだかと思うと意識が無くなった。
 ぼんやり意識がもどると、お母さんに裸にされていた。赤ちゃんの頃の記憶がもどってきたような気がした。

――……そうだ、こんなふうに体拭いてもらってたなあ――
――やっぱり救急車よんだほうがよくない?――
――ただの立ちくらみだって――

 そうして、また意識が無くなった。

 夢の中にポチが現れ、ポナのホッペを舐める。

――ありがとうポチ、心配してくれてるんだよね……フフ、くすぐったいよ――
 ポチはパジャマの隙間からもぐりこんできた。
――ポチ……ちょっと、どこ舐めてんのよ、ちょ、ちょっと……あ、あれ……――
 ポチが舐めたところから幽体離脱のように半透明のポナが抜け出していく。完全に抜けきると、半透明はポナから離れプワプワと浮き始めた。
――ワン!――
 一声吠えると、ポチは半透明に食いついて、あっという間に食べつくしてしまった。
――そんなの食べたらお腹こわしちゃうよ――
――……ゲフ!――
 ゲップをすると、その勢いでポチはロケットのように吹き飛んでいった。
――ポチ……――
 ポチの行方を見ているうちに、ポナはまた眠りに落ちた。

「ポナ、起きていいの?」

 朝食の片づけをしながらお母さんが訊ねた。
「うん、一晩よく寝たから。さあ、久々の休みだ、くつろぐぞー!」
「くつろぐのはいいけど、ポナ二晩寝てたのよ」
「うそ……」
「ほら、新聞」
「え、十九日!?」
 びっくりしたポナは、パジャマのボタンを外しながら自分の部屋へ。
「あれだけ熱出たんだから、お医者さんに行かなきゃ」
「大丈夫、治ったから……おっと、シャワ-だけしとこ」
 歯を磨きながらシャワー浴びて、制服に着替え、いぶかるお母さんをしり目にオレンジジュースだけ飲んで家を出た。
「一日休みをとって正解だったな」
 ポナは子どものようにスキップした。見上げた空に消えかけている飛行機雲が、あの半透明のように見えた。

 今日は、夏をSEN48のメンバーに紹介する日なんだ。新鮮な予感のする朝だった。
 

☆ 主な登場人物

父     寺沢達孝(60歳)   定年間近の高校教師
母     寺沢豊子(50歳)   父の元教え子。五人の子どもを育てた、しっかり母さん
長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉
次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員、その後乃木坂の講師、現在行方不明
長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官
次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。死んでペンダントになった。

高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子
橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長
浜崎安祐美 世田谷女学院に住み着いている幽霊
吉岡先生  美術の常勤講師、演劇部をしたくて仕方がない。
佐伯美智  父の演劇部の部長
蟹江大輔  ポナを好きな修学院高校の生徒
谷口真奈美 ポナの実の母
平沢夏   未知数の中学二年生

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かの世界この世界:122『四号空を飛ぶ!』

2020-11-04 06:18:06 | 小説5

かの世界この世界:122

『四号空を飛ぶ!』語り手:テル          

 

 

 四号が空を飛んだ!

 

「何かににつかまって振り落とされないようにしろ!」

 タングリスが叫んだ。

 砲手席には手すりが無いので、砲尾の薬莢バスケットの枠を右手で、左手でハッチのハンドルを掴んで耐えた。他の乗員も、それぞれ手近の突起物やレバーに掴まっている。

 ブリュンヒルデ一人がコマンダーシートに立ったままで、上半身をキューポラの外に晒している。

 その姿で察した。

 四号を飛ばしているのはブリュンヒルデだ。

「姫の中で何かが覚醒した! しかし不安定だ、どうなるか分からん! しっかり掴まっていろ!」

「「「「ウワーーーーー!!」」」」

 急に降下して一瞬無重力状態になり、すぐに、降下した分を取り返すように急上昇。みんなあちこちぶつけたようで悲鳴が上がる。

「ポチ、外に出て様子を見ろ、ふつうに飛べるのは、お前ひとりだ」

「わ、わかった!」

 無線機の上の定位置から、器用に体をくねらせてコマンダーハッチから外へ飛び出していく。

「完全にいっちゃってるよブリュンヒルデ! 目が座ってトランス状態だよ!」

 砲手席からはコマンダーシートに立ち上がった脚しか見えないが、その力の入りようからも異常なのが分かる。

 普通、ハッチから上半身を晒していても、腰はハッチの縁に預けてリラックスしている。

 いまのブリュンヒルデはシートに接着された等身大のフィギュアのようだ。仁王立ちの姿勢のまま固着している。

 よく見ると、シートとブーツの底の間に微弱な火花が散っている。ブリュンヒルデの体からエネルギーが発せられて四号の車体を牽引しているのだと推察される。

「みんな無事か?」

 タングリスが、やっと落ち着いた声で聞く。アアとかハイとかの返事が返って来るが、オッサン一人分が足りない。

「ヤコブがいない」

 ヤコブはフェンダーの上に居たはずだから、四号が飛び上がった拍子に墜ちてしまったんだろう。

「ポチ、姫の具合はどうだ?」

「こわいよお、目が白目だけになって、髪の毛が逆立ってるよお!」

「姫! 殿下! 聞こえますか!?」

 応えは無い、皆の視線がブリュンヒルデに集まる。

 

――気を付けろ、クリーチャーの群れが現れるぞ――

 

 ブリュンヒルデの声が直接頭の中に響いた。

 ペリスコープで外を確認する。

 前方数百メートルの空間に滲みが現れ、みるみるシミのように大きくなっていく。ハングライダーのユーリアが通るところだけ漂白剤を落としたように開けているのだ。

――シリンダーの群れだ、みな外に出て戦え!――

 簡単に言うな、ここは足場一つないヘルムの空の上なんだぞ。

 

☆ ステータス

 HP:9500 MP:90 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・70 マップ:7 金の針:0 所持金:500ギル(リポ払い残高25000ギル)

 装備:剣士の装備レベル15(トールソード) 弓兵の装備レベル15(トールボウ)

 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)

 白魔法: ケイト(ケアルラ) 

 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士

 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 

 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児

 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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