大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・024『噂の13号艇』

2021-01-05 14:37:06 | 小説4

・024

『噂の13号艇』 ダッシュ   

 

 

 名は体を表すって言うよな。

 

 俺は、友だちにはダッシュって呼ばれてるけど、本当は漢字の一(いち)だ、大石一。ときどきハジメと読まれてしまうけど、親は一と書いてイチとルビを振って出生届を出したから紛れもなく一(いち)なんだ。

 なんで一かっていうと、親父とお袋にとって最初の子どもだからだ。めちゃくちゃ分かりやすいだろ。

 でも、子どものころからダッシュって呼ばれる。

 一はダッシュって読めるだろ。

 それと、子どものころから足が速かったから、ミクなんかに言わせると「足だけじゃないでしょ」ともいう。まあ、ニックネームだけど、やっぱ名は体を表してる。

 

 未来は、未来に向かって欲しいって、これも親の気持ちが現れてる。

 火星は独立したとはいえ、まだまだ開拓途上の星だ。だから、明るく元気に未来を見つめて欲しい、未来に明るい将来がある子に育って欲しい、そんな願いが込められている。じっさい、明るくサバサバした性格で、ともすればダッシュしすぎてしまう俺の手綱を締めてくれる姉さん気質の幼なじみ。

 

 彦は、父親が幕府(扶桑の政府は幕府のシステムをとってる)の若年寄という地球的に言うとセレブなやつなんだけど、火星と言うのは大統領だろうが将軍だろうが、子どもは普通に育てる。

 だから、町医者の娘(未来)とか、ラーメン屋の息子(俺)とかもふつうに付き合ってる。

 彦ってのは古い言葉で『男』を意味する。生まれた時に分かってるのは性別だけだから、とりあえず『彦』ってことらしい。ま、とりあえず普通に育って欲しいくらいの親の気持ち的な。

 そういう普通名詞的な名前なもんだから、素直な、特徴のない(内面は違うと思ってるんだけどな)男で、目立たないことをモットーにしているようなところがある。

 

 テルは本名・平賀照(ひらがてる)。実年齢は十歳。飛びぬけて能力が高いものだから、飛び級で俺たちの同級生になってる。舌ったらずなのは脳みその発達に体が付いてこないからだと、本人はいたって平気。

 こまっしゃくれて、クソ生意気な子供に見えるが、なかなかのムードメーカーで、俺たちのグループだけじゃなく、周囲の人間を明るく照らしているようなところがある。やっぱり、生まれた時に、親が持って生まれた性格を見抜いていたんじゃないかと思う。

 

 でも、世の中には例外ってやつがいるもんで、その代表みたいなのが俺たちの前に居る。

 

 姉崎すみれ

 名は体を表しているなら、お姉さんのように優しい、ちょっと古風な感じのベッピンさん。

 ところが、この姉崎すみれは、どこからどう見てもマッチョなオッサン。

 髪は硬い五分刈りで、前の学校では『剣山』というあだ名があったそうだ。頭突きを食らわされると突き刺さるって噂だぞ。

 その五分刈りの下は猫がエッヘンしそうなくらいに狭い額で、その下にはぶっとい毛虫が二匹いるような眉毛に金壺眼(まなこ)で、かぎ型の鼻っ柱は生まれつきと言うよりはケンカの後遺症みたいだ。口はマンガみたいに大きくて、特技は、握ったままの拳が口の中に入ることで、このマッチョの唯一の宴会芸であるらしい。

 その姉崎すみれが、それだけでテルの胴体ぐらいありそうな腕を組んで俺たちを睨み据えている。

「貴様らのお蔭で余計な仕事が増えた! さっさとシャトルに乗れ!」

 長い説教が始まるのかと思ったら、ショートメールのような一喝だけで、薮の中のシャトル(連絡艇)を顎でしゃくった。

「ゲ!?」

 テルが蛙のような声をあげる。

 連絡艇は、この修学旅行が終わったら学園艦のゴミを積載させたうえで丸ごと廃棄されるって噂の13号艇だ。

 旧式の貨物艇で、ろくなシートも無くって、大昔の電車みたいなつり革がぶら下がっているだけという噂だ。

 間近で見るのは初めてで、かねがねポンコツ艇らしく汚い塗装がしてああると思っていたのが違った。

「ちょ、チュギハギだやけ!?」

 色や材質の違うので修理されているので、汚らしいまだらの塗装に見えていただけなんだ。

「ひょっとして、ゴミを積載して、そのまま廃棄されるって、わたしたちのことじゃないわよね?」

「まあ、学園艦に戻るまでの辛抱だ」

 ヒコが締めくくると、ハッチを閉めた姉崎すみれが宣告した。

「学園艦は修学旅行が終わるまでは周回軌道を離れられない、おまえたちは別の船で帰ってもらう」

「「「「ええ……」」」」

「で、先生、つり革は?」

「壁と床にフックがあるだろ、固定しておけ」

 いよいよ貨物扱いだ……。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任

 ※ 事項

  • 扶桑政府   火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる

 

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妹が憎たらしいのには訳がある・21『AGRの存在』

2021-01-05 06:53:41 | 小説3

たらしいのにはがある・21
『AGRの存在』
          

   

 
 ようやく三日目に学校は再開された。

 幸子は筋向いの佳子ちゃんといっしょに先に行く。
 出かけるときに、ちょっとしたドラマがあった。

「おはようございます」

 トイレに行こうと廊下に出たところで、玄関に立っている佳子ちゃんと目が合った。
「おはよう……」
「あの、はっきりしときたいんやけど」 
「は?」
「お兄ちゃんのことは、なんて呼んだらええのかしら?」
「あ……なんとでも」
「お兄ちゃん……はサッチャンの言い方やし。ウチが言うたら、なんやコンビニのニイチャン呼んでるみたいやし、お兄さんは、なんかヨソヨソしいし……」

「そのときそのときでいいんじゃない」

 幸子が割って入った。

「そやかて……」
「なんなら、太一さ~んとか呼んでみる」
「いや~そんな恋人みたいな呼び方(n*´ω`*n)」
「じゃ、いっそ恋人になっちゃえばいいじゃん!」
「「へ!?」」

 プ

 びっくりして……オナラが出てしまった。

 十分遅れて家を出た。でも、なんとか遅刻せずにすむだろう。しかし、朝から佳子ちゃんの前でオナラ……なんだか、ついていない一日になりそう予感がした。

 予感は的中した。

「佐伯太一君だよね?」

 懐から定期を出そうとして声を掛けられた。実直そうな公務員風のオジサンと、その後ろに娘とおぼしき女の子が立っていた。女の子は真田山の隣の大阪フェリペの制服を着ていた。AKRの矢頭萌に似たカワイイ子で、そっちの方に目がとられた。

「申し訳ないが、一時間ほど時間をいただけないかな」
「あ、でも学校が……」
「……こういうものなんだが」
 出された警察のIDみたいなものには「甲殻機動隊副長・里中源一」と書かれていた。
「お願い、太一さん……」
 フェリペが切なそうな声で頭を下げる。ホワっとシャンプーの香り……こいつは破壊的だ!
「娘のねねだ。学校には、役所の名前で公欠扱いにしてもらう」
 俺は、公欠ではなく、ねねちゃんの「太一さん」と香りに頷かされた。

 それは、一見どこにでもあるセダンだった。

 ただ、ドアを開けたとき、ドアが分厚いのが気にかかった。

「これは甲殻機動隊の機動車でね、超セラミック複合装甲で、対戦車砲の直撃にも耐えられる。サイバー防御も完ぺきで、ここでの会話は、アナログでもデジタルでも絶対に漏れない」
「は……で、お話は?」
 俺は、後部座席の横に座ったねねちゃんの温もりでときめいていた。
「幸子ちゃんのことだよ」
「幸子の?」
「ああ、君も知っているだろうが、あの子の体は義体だ。それも特別製のな」

 幸子のことを知っている……一瞬警戒したが、すっとぼけられるほど器用ではない。

 一呼吸置いて、素直に質問した。

「どう特別なんですか?」
「義体とは、機械のボディーに生体組織を持ったロボットやサイボーグのことだ。技術はパラレルの向こうの世界のものだ」
「それは知ってます」
「あの子の義体は予測のつかない進化をし始めている」
「それも、なんとなく感じています。ちょっと怖ろしいぐらいです」
「そうなんだ……」

 ねねちゃんがため息をついた。いい香りが増幅されて目がくらみそうになった。

「あの子の頭脳もそうだ。数パーセント残った神経細胞が頭脳を急速に発達させている。夕べ、向こうの幸子ちゃんと入れ違っただろう」
「……そんなことまで知ってるんですか?」
「ああ、君たちのことは二十四時間監視している。今朝、佳子ちゃんの前で屁が出たこともな」

「え!?」

「フフ……」

 ねねちゃんが笑った。可愛さのオーラが車内に満ちあふれた。

 ねねちゃんが居なければ、オッサンの威圧的な雰囲気には耐えられないだろう。

「幸子ちゃんが入れ替わったのも、あの子がやったことだ。正直予想以上の進歩だ」
「あれ、幸子がやったんですか!?」
「ああ、無意識でな。理由は分からんが、あの子の頭脳が必要と判断したんだろう……話は前後するが、我々はグノーシスだ」

「え……」

「甲殻機動隊は、こちらの世界のグノーシスのガーディアンだ。ムツカシイ理屈は後回し。幸子ちゃんは、両方の世界にとって、非常に大事な存在なんだ」

 ねねちゃんが、ボクの顔を見て真剣な顔で頷いた。

「両方の世界で科学技術の進歩と人間の心のバランスが崩れ始めてる。新潟に原爆が落とされたことなんかが、その例だ。こっちの世界じゃ、極東戦争とかな」
「ああ……」
「君のお父さんが、営業から外れていたことの理由も、ここにある」

「え……?」

「お父さんは、自分の会社が戦争に絡んで儲けているのに抵抗があったんだ。対馬の戦闘はお父さんの企業が絡んで起こったものだ。まあ、あれで日本は勝利できたんで、評価は分かれるとこだがな」
 愕然とした。お父さんは、単に営業に向いていないから外れたんじゃないんだ。
「向こうの世界じゃ、今それが起ころうとしている。俺たちグノーシスの主流は、密に交流しあうことで、互いに健全な発展を図っているんだ」
「それと幸子と、どう関係があるんですか?」
「幸子ちゃんの頭脳は、成長すれば、世界中のCPにアクセスし、争いを回避させる潜在能力がある」
「CPだけじゃないわ、人の心にも働きかける力があるかも……」
 ねねちゃんが、熱い眼差しで呟いた。
「それは、まだ仮説中の仮説だがね……グノーシスの中には違う説を言う者もいる。そいつらが幸子ちゃん無しで、パラレルな世界が個別に発展した方がいいと考え、幸子ちゃんの抹殺を企んでる」
「こないだの美シリ三姉妹の飛行機事故……」
「そう、我々も極秘でガードさせてもらうが、君もよろしく頼むよ」
「……はい」
「幸子ちゃんが、その力を持つのは、ニュートラルで君に自然な感情が示せるようになった時だ」

 そのとき、車が勝手に走り出した。

 里中さんもねねちゃんも、左側に倒れ込んだ。ねねちゃんは俺の方をを向いていたので、もろに体が被さってきて、俺は右半身で、ねねちゃんの胸のフクラミを受け止めてしまった!


 ドッカーーーーーーン!!


 車が走り出した直後、それまで車を停めていた路面が大爆発した。

『ガス管の亀裂を感知したので回避しました』車が喋った。

「それ、先に言ってくれ」里中さんがぼやく。
『回避を優先しました。悪しからず』
「ガス会社のPCにリンクして、事故の原因を精査」
『了解、多分AGRでしょう』
「AGRって?」
「グノーシスの反主流派。多分、痕跡も残ってないでしょうけど」
「ねねちゃん、その声……?」
「フフ、ばれちゃった?」
「ハンス……か?」
「こちらの世界に来たときの義体」

「ええ!」

 鳥肌がたった。


「なによ、こないだ見たハンスも義体よ」
「性別含めて、オレにも分からん。ただ、こっちの世界じゃ、オレの娘ということになってる」
「よろしくお願いします」

 ハンス? ねねちゃんは元のかわいい声に戻って、にっこりした。

 車から降りると、ガス爆発で飛行機事故以上の大騒ぎになっていた……。

 

※ 主な登場人物

  • 佐伯 太一      真田山高校二年軽音楽部 幸子の兄
  • 佐伯 幸子      真田山高校一年演劇部 
  • 大村 佳子      筋向いの真田山高校一年生
  • 大村 優子      佳子の妹(6歳)
  • 学校の人たち     倉持祐介(太一のクラスメート) 加藤先輩(軽音) 優奈(軽音) 健三(軽音)

 

 

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やくもあやかし物語・50『セーラー服の卒業生』

2021-01-05 06:05:35 | ライトノベルセレクト

物語・50

『セーラー服の卒業生』     

 

 

 アイロンをかけただけなのに清々しい。

 

 転校して来て数カ月しかたっていないので、他の子の制服よりはおニューなんだけど、それでも数か月分はくたびれている。

 でも、アイロンという魔法は制服も主のわたしをも清々しくしてくれるのだ。

 襟の折り返しとかポケットの縁とかスカートのヒダとかが小気味よくエッジがたっている。

 むろんヒダとかにはパーマネント加工がしてあって、アイロンをあてなくてもピンとしてるんだけど、やっぱシャキッとした感じになっている。

 姿見の前でクルリンと回ってみる。

 上着もスカートもフワっと広がる。

 なんだか春の妖精になったみたいで気持ちがいい。

 こんどは両手を水平まで上げて、勢いをつけてクルリン!

 スカートが広がり過ぎておパンツが見えてしまう。家の中でよかった。

 机の上の俺妹女子キャラたちが笑ったような気がした。

 

 式場には卒業生より早く入る。あ、ここから卒業式当日ね(^▽^)/。

 卒業生が入場して来るのを迎えるためらしいんだけど、わたしは教育的配慮からだと思う。

 雰囲気に慣れさせて、自分たちの時に失敗とかさせないために。式場の席に着いたら足を組んだりしないことを注意されたんだけど、そんなやつは居ないだろう……と思っていたら、何人かが開式までに注意されていた。かくいうわたしも、一瞬足を組みそうになって軽くおたついちゃったよ。開式直前には「深く座れ!」と注意される、ガサゴソとかガタっという音がして、かなりの子が座りなおす。

「ネクタイやリボンは歪んでないかあ?」

 生活指導の先生が注意、ふたたびガサゴソ。でも、言った先生のネクタイが微妙に歪んでいるのは御愛嬌。

 やがて『威風堂々』のBGが静かに流れて卒業生が入場してきて令和〇年度卒業式が始まった。

 式の最中もいろいろあるんだけど、触れていたら肝心なことが書けないから割愛するよ。

 割愛って字で書くと変だね、割って愛する。どんな愛だ? なんだか人の仲を割って愛する……いけない恋みたい……妄想してる場合じゃないよ(#'∀'#)。

 

 それは、滞りなく卒業式が終了し、卒業生がクラスごとに退場する時に起こった。

 

――六組、退場――

 声が掛かって、三年六組の先輩たちがザザっと起立。六組が最後のクラスだから、一時間余りの緊張が緩む気配がする。早い子は座り方を浅くしたり、脚を組む子もいるんだけど先生も、ここに至って注意はしない。少し緊張がほぐれる中、担任の先導で式場真ん中の通路を通って六組が退場していく。

 男子が前で女子が後ろ。

 その女子の最後尾、わずかに離れて一人の女子が胸を張って過不足のない卒業生の雰囲気で歩いている。

 歩き方も態度もキチンとしていて、卒業生の見本という感じ。

 だから違和感は無いんだけど、ひとつだけ気になる。

 その子の制服は、三十年くらい前に廃止になった昔のセーラー服だったよ。

 

 最後の人、昔のセーラー服だったよね?

 

 ちょっと前のわたしなら周りの子に聞いていたと思う。

 でも、いまのわたしは騒がずに、そっと胸に収めておくのだ。

 だって、セーラー服の卒業生は、きっと他の子には見えていないだろうから……。

 

 

☆ 主な登場人物

    • やくも       一丁目に越してきた三丁目の学校に通う中学二年生
    • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い
    • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
    • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
    • 小出先生      図書部の先生
    • 杉野君       図書委員仲間 やくものことが好き
    • 小桜さん      図書委員仲間
    • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫
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