大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

滅鬼の刃・9『水たまり』

2021-01-28 09:43:01 | エッセー

 エッセーノベル    

9・『水たまり』   

 

 

 昔は、あちこちに水たまりがありました。

 水たまりと言うのは沼とか池とかいうものではありません。沼とか池なら天気に関わらず存在します。

 水たまりは、雨が降らなければ出現しません。

 ちょっとした大雨が降った後など、ここはベニスか!?というくらい風景が一変したものです。

 

 低学年のころ、家から小学校までの舗装道路というと、学校の前の150メートルほどだけでした。

 学校までは一キロ近くありましたから、ほとんどが明治のころからそのまんまというような地道でした。

 地道と言っても、二車線半くらいの道幅で、地域に中小企業も多くあって9時ごろには、けっこうな交通量になります。

 小中学生の登校は、その三十分ほど前には完了しているので、交通安全的には黄色い帽子を被る程度の事でした。先生たちが通学路に立つことも、PTAや地域の人たちが交通安全の旗を持って横断歩道に立っていることもありません。そもそも横断歩道がありませんでした、横断歩道の縞模様というのは舗装道路がなければ描けませんしね。横断歩道が、あると、ちょっと都会だなあという感じがしたものです。

 横断歩道があるようなところには水たまりは少なかったように思います。道を舗装するということは、下水や排水の設備も充実させることだったんでしょう。地道には下水の存在を示すマンホールは無かったように思います。

 その地道でも、登校時間を外れた時間帯にはけっこうな交通量です、車が通るので道路にはけっこうな凹凸がありました。

 そこに雨が降ると、ここは川か湖かというくらいの水たまりができました。

 途中に五十メートルほど暗渠工事がされていない昔の農業用水路が残っていて、近隣の雨水が、そこをめがけて流れ込んでいきます。ひどいときは、水没した道路と旧農業用水路との区別がつかなくなって、いささか危険でした。高学年のニイチャンやネエチャンが手を引いてくれたりオンブしてくれたりということもありました。

 ときどき、車が脇を通って盛大な水しぶきをあげます。とっさに傘を傾けるのですが、腰から下に水を浴びるのはしょっちゅうでした。

 女の子は、すかさずハンカチを出して拭いたりしていましたが、男子は、構わずにそのままにして、乾くと、迷彩のシャツのようになることもあります。靴は、学校に着くころにはグチュグチュと小動物の鳴き声のような音をあげたりしました。

 当時の校舎は木造で、教室も廊下も板張りです。板張りと言うのは、けっこう吸水性があるので、傘や靴から(時にはずぶ濡れになった服から)漏れ出た雨水で濡れることはあっても、後年のリノリウムのように滑ることは無かったように思います。

 後年、自分が教師になったころは完全なリノリウムになり果てていて、大雨が降った時は、昇降口から階段にかけて何度もモップ掛けをしたものです。日ごろ、ていねいな掃除をしていないこともあって、あちこちに黒くなったジュースのシミができていて、雨水を吸ったモップはシミを拭うのにもってこい……ズボラなことをしていたものです。

 雨にはニオイがあります。

 軽い雨だと、埃のニオイ。雨が微細な砂や埃を舞いあげるので、今のように湿っただけのニオイではありません。

 片仮名でニオイとしたのは『臭い』と『匂い』の両方の意味があるからです。

 わたしには『匂い』でしたね。

 激しい雨になると、地面や建物に染みついアレコレが溶け出てきて、ちょっと妖めいたニオイになります。日ごろは、穏やかなすまし顔でいる街が、その身に秘めた、大げさに言うと古代のヤマト時代からの本性を現したようで、ちょっとワクワクしました。

 水たまりというのは絶好の遊び場にもなるもので、わざと長靴で水たまりに入って、水を蹴飛ばしたり、長靴を通して感じる水圧やヒンヤリと足が冷やされるのを楽しんでいました。

 運動場や近くの公園などは、半分以上が海のような水たまり。

 学校の運動場は無理でしたが、近所の公園には家に帰ってから自転車で出撃して、まるで大海原を最大戦速で突っ走る駆逐艦みたいに水しぶきあげて喜んでいました。

 昔の水たまりは、こんなもんじゃない。

 高校の時、大雨が降った日の授業で先生が言いました。

 先生は台湾からの引揚者で、わたしが通っていた高校の卒業生でもありました。二期生とおっしゃっていましたので、入学は昭和29年ごろでしょう。

 学校は、校舎こそできていましたが、塀をつくる余裕がありません。グラウンドの周囲は道路との境が判然としていなくて、生徒たちは、好きなところから校舎に入ってきました。

 むろん、雨が降ると、あちこち水たまりだらけです。

 日直で早く来た先生は、そんな雨降りの風景を三階の窓から見ておられました。

 もう、ほとんど雨は止んでいたのですが、女生徒たちは制服が濡れるのを気にして傘をさしています。男の傘は、たいてい黒一色ですが、女子の傘は、赤やピンクや色とりどりで、きれいなものです。

 その傘の一つが、突然水たまりに花が落ちたように浮かんでしまいます。

 瞬間で傘の持ち主が異世界に転送されて傘だけが残されたようになりました。

 アニメならここからワンクール13回のドラマが始まるでしょう。

 直後、周囲の生徒たちが騒ぎ始め、男子二人が上着を脱いで腕まくりして水たまりに腕を突っ込みます。

 やがて、全身水浸しの女子が助け上げられ、女子は、少し逡巡したあと、男子にお礼を言って、そのまま家に帰っていきました。

 その水たまりは、空襲で出来た穴で、日ごろ人の通る道筋でもないので埋め戻しが遅れていたもののようでした。

 さすがに、わたしたちのころは、そういう気合いの入った水たまりは無かったですね(^_^;)

 

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誤訳怪訳日本の神話・15『天岩戸(あまのいわと)』

2021-01-28 06:37:20 | 評論

訳日本の神話・15
『天岩戸(あまのいわと)』   

 

 日本史上はじめての引きこもりです。

 

 スサノオの乱暴にブチギレたアマテラスは天岩戸に引きこもり、固く入り口を閉ざしてしまいます。

 やってられっかあああああああああ!!

 すごい怒りで岩戸を閉ざします。現代の引きこもりのような湿っぽさは微塵もありません。いじけた様子もありません。

 湿っぽくいじけたようになってしまったのは、岩戸の外の世界です。

 なんといっても、アマテラスは名前の如く太陽神で、それが隠れてしまったのですから世の中は真っ暗です。

 疫病や天変地異の災いが頻発し、高天原でさえ院隠滅滅のありさまです。

 

 こういう危機的な状況には英雄が現れ、艱難辛苦の果て、多大な犠牲を払った上で解決します。RPGで勇者や姫騎士、魔導士などが活躍するパターンですね。危機的状況=英雄出現フラグであります。

 ところが、記紀神話では困じ果てた神さまたちが天の安河原(あめのやすのかわら)に大集合して対策会議を始めます。

 なんとも日本的な景色ですなあ。和を以て貴しとなすであります。

 日本は緊急事態になった場合、往々にして出足が遅れます。和を以て貴しとなすために容易に結論が出ません。時間がかかり審議審議で時間ばかりがたって、ようやく決まった時には時間遅れだったり、変化した状況にあわず失敗することもあります。頭のいい奴が「これでいこう!」と提案しても「前例に無い」「共通理解に至らない」とかで却下されてしまいます。欧米的に「そいつにかけてみよう!」には、なかなかなりません。従ってドラマにもRPGにもなりません。

 東日本大震災のおり、いち早く米軍が救援の手を挙げて『ミッショントモダチ』で助けてくれたのは記憶にも残っていると思います。

 阪神淡路大震災のときも米軍は神戸沖に空母を派遣して物資輸送やヘリコプターの展開の拠点にしようと提案しましたが、時の政府はあっさりと断っています。会議と情報収集の繰り返しに時間がとられ、本格的な救援活動はあくる日にずれ込んだという体たらくでした。

 しかし、いったん話し合いで結論を出し行動にうつすと世界に類のない力を発揮します。

 万博やオリンピックなどの国家的なプロジェクトが概ね上手くいったのは、そういう国民性の現れなのでしょう。

 近代国家には学校教育が不可欠!

 そう決まると、一心不乱に制度と学校を作り、二十年もかからずに世界に冠たる義務教育とそれ以上のハードとソフトを整えてしまいました。

 例えば、国内の小中高の学校でプールの無い学校はありません。

 これは、世界的には非常に珍しいことなのですが、昭和何年だったかに、水泳教育は必須であるということに決まり、決めたことによって、予算化され設置計画が立てられ、きわめて短時日の間に成し遂げてしまうのです。

 横道に入り過ぎました、次回は天の安河原の会議と天岩戸解放作戦の中身に触れたいと思います。

 

 

 

  

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妹が憎たらしいのには訳がある・44『桃畑律子の想い』

2021-01-28 06:18:37 | 小説3

たらしいのにはがある・44
『桃畑律子の想い』
         

    


 エレベーターのドアが開くと中年の男性が降りてきた。

 頭頂部が禿げかかって、どこか人生に疲れた中間管理職風だ。

 男は二三歩歩いたところで、緩んだオナラをした。それが情けないのか、ため息一つついて、再びトボトボと廊下を歩き出した。
 突き当たりの廊下を曲がって、バンケットサービスの女の子がワゴンを押しながらやってきた。女の子は壁際に寄り男性に道を譲って一礼をする。
 そして、男性を体一つ分見送ると、ワゴンからパルス銃を取りだして男性の背中を至近距離で撃った。男性は、また緩んだオナラをすると、前のめりに倒れ、廊下の絨毯を朱に染めた。同時にスタッフオンリーのドアから警察官が現れ、一瞬状況の判断に迷って隙ができた。女の子は、警察官を羽交い締めすると、持っていた銃で、警察官のこめかみを撃ち抜き、パルス銃を握らせると、派手な悲鳴を上げてその場にくずおれ失禁した。

「これは……」
 優奈はじめ、ケイオンの一同は声も出なかった。
「この録画が、律子を変えたんだよ……」
 桃畑中佐が、静かに言った。

 ケイオンの選抜メンバーは《出撃 レイブン少女隊!》をより完ぺきなものにするために、極東戦争で亡くなったアイドル桃畑律子の兄である桃畑空軍中佐の家を訪れていた。そして、見せられた映像が、これであった。
「これは、後で解析した映像なんだ、もとのダミー映像が、これだ」


 女の子が、ワゴンを押しながら壁際に寄ったところまでは、いっしょだが、そのあとが違った。警察官がスタッフオンリーのドアから現れて、いきなり男の背中を撃った後、自分のこめかみを撃って自殺している。


「我々は、この映像に三時間だまされた。警官がC国の潜入者か被洗脳者かと思い、その身辺を洗うことに時間と力を削がれた」
「殺された男性は」
 加藤先輩が、冷静に質問した。あとのメンバーは声もない……俺も含めて。
「統合参謀本部の橘大佐。C国K国との戦争を予期して、極秘で作戦の立案をやっていた。正体が見破られないように、あちこちのホテルや宿泊所を渡り歩いていた」
「あのオナラには、意味がありますね……」
 幸子がポツリと言った。
「さすがに佐伯幸子君だ。あのオナラは、参謀本部のコンピューターで解析すると圧縮された作戦案だということが分かった。で、二回目のオナラはセキュリティーだ。自分に危害を加えたものにかます最後ッペ。ナノ粒子が、加害者の体に被爆されるようにできている。ナノ粒子なんで、服を通して肌に付着し、さらに、吸引されることによって、半月は、その痕跡が残る。C国はそこまでは気づかなかったようだ」
「でも、同じ現場に居たわけだから、ナノ粒子を被爆していてもわからないんじゃないですか?」
「至近距離にいた警官よりも、離れていたバンケットサービスの女の子の被爆量が多いのは不自然じゃないかね……」
 中佐は、録画の先を回した。

「君の被爆量が多いのは不自然だね……」

 ホテルの職員出口を出たところで、バンケットサービスの女の子は呼び止められた。とっさに女の子は、五メートルほど飛び上がると、走っている自動車のルーフに飛び乗った。次々に車を飛び移ったあと、急に彼女は、どこからか狙撃されて道路に転げ落ち、併走していた大型トラックの前輪と後輪の間に滑り込み、無惨にも頭を轢かれてしまった。その場面は我々にも見せられるようにモザイクがかけられていた。
 幸子には辛かっただろう。幸子の目にモザイクなんかは利かない。そして、なにより自分が死んだときとそっくりな状況だったから。でも、プログラムモードの幸子は、他のメンバーと同じような反応しかしなかった。

「これを見て律子さんは……」

「亡くなった警官は、メンバーの恋人だった。そのころは公表できなかったけどね」
「そうなんだ……」
 優奈は、ショックを受けたようだ。
「でも、これはきっかけに過ぎない。律子は勘の良い子でね『同じようなこと、日本もやってるんじゃないの?』と、聞いてきた」
「日本にもあるんですか?」
「近接戦闘や策敵は、素質的には女性の方が向いている。ほら、女の人って、身の回りのささいな変化に敏感だろう」
「家のオヤジ、それで浮気がばれた!」
 ドン謙三が言って、空気が少し和んだ。
「で、この能力は15~18歳ぐらいの女の子が一番発達している。身体能力もね。そこで、空軍の幼年学校の生徒から志願者を募り、一個大隊の特殊部隊を編成した。戦史には残っていないが、これが対馬戦争の前哨戦だよ」

 映像の続きが流れた。

 対馬の山中での百名規模の戦いだ。主に夜戦なので、画面は暗視スコープを通した緑色の画面ばかり。でも、息づかいや、押し殺した悲鳴、ちぎれ飛ぶ体などが分かった。


「これで、対馬の基地への敵の潜入が防げた」
「これって、宣戦布告前ですよね」
「ああ」
「これ、政府のトップは知っていたんですか?」
「……知ってはいたが、無視された」
 ねねちゃんといっしょにお仕置きした的場防衛大臣の顔が浮かんだ。
「この大隊長は、里中……」
「ん?」
「いえ、なんでもありません」
 俺は、ねねちゃんのお母さん里中マキが隊長であったと確信した。

「律子は、これを見て《出撃 レイブン少女隊!》を書き上げて作曲し、怒りと悲しみをぶつけて平和を勝ち取ろうとしたんだよ」

 桃畑中佐は、そう言うとリビングのカーテンをサッと開けた。モニターの画面は薄くなったが、みんなの心は火が点いたままだった……。  

 

※ 主な登場人物

  • 佐伯 太一      真田山高校二年軽音楽部 幸子の兄
  • 佐伯 幸子      真田山高校一年演劇部 
  • 千草子(ちさこ)   パラレルワールドの幸子
  • 大村 佳子      筋向いの真田山高校一年生
  • 大村 優子      佳子の妹(6歳)
  • 桃畑中佐       桃畑律子の兄
  • 青木 拓磨      ねねを好きな大阪修学院高校の二年生
  • 学校の人たち     加藤先輩(軽音) 倉持祐介(ベース) 優奈(ボーカル) 謙三(ドラム) 真希(軽音)
  • グノーシスたち    ビシリ三姉妹(ミー ミル ミデット) ハンス
  • 甲殻機動隊      里中副長  ねね(里中副長の娘) 里中リサ(ねねの母) 高機動車のハナちゃん
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