大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

かの世界この世界:166『帰還』

2021-01-18 09:40:18 | 小説5

かの世界この世界:166

『帰還』語り手:テル(光子)    

 

 

 カテンの森で野営の準備をしていた。

 テントのペグを打とうとすると、森の奥から百年分の雷が落ちるような音がして、すぐに四号の仲間と共に駆けつけると、トール元帥の戦車部隊がグチャグチャに撃破され、森の木々をなぎ倒して無残な姿をさらしていた。

 最前線で手ひどくやられ、全滅する寸前にワープして撤退してきた様子だ。

 戦車と言うものは、外骨格の怪物で、撃破されても形は残るものだ。

 それが、超重戦車の六号でさえ、ひしゃげた缶詰のように形を留めていないものがある。

 その残骸たちに囲まれてトール元帥が瀕死の重傷で横たわり、タングリスが駆け寄って、装具を解いたかと思うと、野戦服まで脱ぎだして、身一つになって元帥の上に身を投げ出した。

「お、おまえらは見るな!」

 ヒルデが小さな体で立ちふさがって、とても、その華奢な体で隠しきれるものでは無いのだが、その切実さにたじろいでしまう。

 すると、切羽詰まったヒルデの顔の向こう、空の上からポチがクルクルと舞い降りてくるのが目に入った。

 慌ただしく立ち止まったせいか、急に空を見上げる姿勢になったためか、数秒間の間に目にした衝撃的な光景のせいか、視界が鈍色の闇に狭窄されて、意識の糸が切れてしまった。

 

 ……さん。

 …井さん。

 寺井さん。

 光子。

 

 懐かしい名前で呼ばれて、うっすらと目を開けると和室の天井……胸元まで掛けられたお布団の感触。

 これは…………?

「よかった、やっと目が覚めた!」

「もう、戻ってこないかと……心配で心配で」

「泣くんじゃないわよ、寺井さん、ちゃんと戻ってきたんだから」

「う、うん」

 この人たちは……。

「何度もフリーズして、クラッシュを繰り返して……」

「もう、戻って来れなくなってしまいそうで、時美と二人で回収したのよ。このままじゃ、寺井さん、もたなくなっちゃうから」

「あ、もう少し寝ていて、完全に戻って来るには、もう少し時間がかかるから」

 そう言われて、お布団から出した手を見ると、指の先が、まだ半透明だ。

 この二人は……?

 そこで、指の第二関節まで色が戻ってきた。

「中臣先輩! 志村先輩!」

 数年ぶり、ひょっとして数十年ぶり、数百年ぶりで、こちらの意識が戻ってきた……。

 

☆ ステータス

  •  HP:20000 MP:400 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
  •  持ち物:ポーション・300 マップ:13 金の針:60 福袋 所持金:450000ギル(リポ払い残高0ギル)
  •  装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)
  •  技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)
  •  白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 
  •  オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)  思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― この世界 ――

  •  寺井光子  二年生   この長い物語の主人公
  •  二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば逆に光子の命が無い
  •   中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
  •   志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

―― かの世界 ――

  •   テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
  •  ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
  •  ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
  •  タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
  •  タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
  •  ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
  •  ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態

 

 

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誤訳怪訳日本の神話・5『イザナギ・イザナミの神生み』

2021-01-18 07:30:29 | 評論

訳日本の神話・5
『イザナギ・イザナミの神生み』
          


 日本の八百万(やおよろず=たくさん)の神さまの総元締めは伊勢神宮の天照大御神(あまてらすおおみかみ)であります。

 ヨイショっと、ここで自分に掛け声を掛けます。


 なんちゅうか……アマテラスが生まれて、神さまの総元締めになるには、むかしジブリの宮崎駿らが映画のアニメ『腕白王子のオロチ退治』を書いた話をクライマックスとして、そのあとのエピローグで、さらにもう一本長編アニメが作れるぐらいの質と量があります。

 今日は、とりあえずイントロのところだけ語ってみたいと思います。

 国々を生み終つて、イザナギ・イザナミは、さらに神々を生みます。
 これはキリスト教で万物は神がお創りになったということとモチーフは一緒です。

 とりあえず、生まれた順に並べてみます。はまずオホコトオシヲの神、次にイハツチ彦の神、次にイハス姫の神、次にオホトヒワケの神、次にアメノフキヲの神、次にオホヤ彦の神、次にカザモツワケノオシヲの神。そんで、次に海の神のオホワタツミの神、次に水戸の神のハヤアキツ彦の神とハヤアキツ姫の神を生み。オホコトオシヲの神からアキツ姫の神まで合わせて十神。
 ヨイショ! 
 でもってハヤアキツ彦とハヤアキツ姫が河と海とでそれぞれに分けて生んだ神は、アワナギの神・アワナミの神・ツラナギの神・ツラナミの神・アメノミクマリの神・クニノミクマリの神・アメノクヒザモチの神・クニノクヒザモチの神。
 アワナギの神からクニノクヒザモチの神まで合わせて八神です。次に風の神のシナツ彦の神、木の神のククノチの神、山の神のオホヤマツミの神、野の神のカヤノ姫の神、シナツ彦の神からノヅチまで合わせて四神です。このオホヤマツミの神とノヅチの神とが山と野とに分けて生んだ神は、アメノサヅチの神・クニノサヅチの神・アメノサギリの神・クニノサギリの神・アメノクラドの神・クニノクラドの神・オホトマドヒコの神・オホトマドヒメの神。アメノサヅチの神からオホトマドヒメの神まで合わせて八神です。
 次にトリノイハクスブネの神(天あめの鳥船とりふね)。そんでオホゲツ姫の神を生みます。

 ああ、長い……そして、最初の大転換。

 次にホノヤギハヤヲの神(ホノカグツチの神)。

 この子どもの神さまは、とんでもない火の神さまで、生んだイザナミは御陰(みほと……わかりますか、よく東京都のマークによく例えて描かれる女性のデルタ地帯ですな)が焼かれて病気になり。イザナミの反吐でできた神がカナヤマ彦の神とカナヤマ姫の神、ウンコでできた神はハニヤス彦の神とハニヤス姫の神、オシッコでできた神はミツハノメの神とワクムスビの神。この神の子はトヨウケ姫の神。こんな具合でイザナミの命は、ジブリ映画でいえば、近いところで『風たちぬ』の里見菜穂子、古いところでは『ハウルの動く城』のソフィー、ディズニーで言えば『アナ雪』のエルサ女王がクソまみれ反吐まみれで子どもを産んだのと同じ描写になります。

 こんなアニメを作ったら、さすがのジブリや京アニでも客はそっぽを向くでしょう。

 これは母神が苦悩の果てに神々を生んだことにより、お産の大変さを今に伝えるとともに、さらに先に用意されているアマテラスの出現を荘厳するための前奏曲です。
 でもって、火の神を生んだため、ついに亡くなってしまいます。

 しかし、下ネタというかスカトロじみてばかリというのは、子どもの感性でもあると思います。子どもと言うのは、そういう話が好きですね。ちょっと前『うんこドリル』というのが流行ったことがありました。子どもが苦手とする算数をウンコを入れることでとっつきやすくしたものだったと思います。日本民族も黎明期の日本は、人手例えると子どもの時代に当るのかもしれません。

 そして、これらの神さまは、ただのエキストラではなく、古事記・日本書紀に時々顔を出します。日本が多神教であることの萌芽がここにあります。

 一つだけ例を。ホノヤギハヤヲの神=火の神さまは、怒ったイザナギによって切られます。ところがホノヤギハヤヲの神は切っても切っても分裂してあちこちで山火事などをおこします。風の強い乾燥した日など、自然に森や山が火事になることがあります。そういう自然現象の畏怖から生まれたものでしょう。

 次回は、このあたりから繋いでいきたいと思います。

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妹が憎たらしいのには訳がある・34『編成替えして夕陽丘』

2021-01-18 07:10:59 | 小説3

たらしいのにはがある・34
『編成替えして夕陽丘』
          

      


 
 加藤先輩! 話あるって! 放送室!

 ちぎったように言うと、真希ちゃんは、さっさと行ってしまった。
「なんやろ……?」
 ドラムの謙三が、真希ちゃんの残像に声をかけるように呟いた。
 
 うちのケイオンは規模も大きく、技量も三年の選抜メンバーなどは、スニーカーエイジなどでもトップクラス。だけど、それ以外は、マッタリしたもので、軽音楽部というよりは、ケイオン。楽器を通じて結びついている友だち集団に過ぎず、そういう緩い結びつきのバンドの連合体みたいなのが実態で、口の悪い先生は「国連みたいやなあ」という。加藤先輩と言えど、日頃の他のバンドを呼び出したり、指導したりということは、ほとんど無い。

 狭い放送室のスタジオは、先輩達と楽器で一杯。俺たち四人が入るとギュ-ギューだ。

「ごめん、こんなクソ狭いとこに呼び出して」
 加藤先輩が言うと、他のメンバーが楽器をスタジオの隅に寄せて、スペースを作ってくれた。
「あのう、なんでしょうか?」
 一応リーダーの祐介が声を出した。
「メンバーの編成替えやりたいねん」

 唐突だった。

 メンバーの編成は自然発生的に出来たものを優先し、先輩達が口を出すのは、編成が上手くいかなかった時に調停役をやるときぐらいで、今年の編成は、どのグル-プも出来上がっていた。


「太一、あんた、うちのギターに入ってくれる」
「え、ギターは田原さんが……」
「ギター二枚にしよ思て。ボーカルがウチとサッチャンやんか。自分で言うのもなんやけど、この二人のボーカル支えるのには、田原クン一枚では弱い」
「でも、ギターなら、他に上手い奴は一杯いますよ」
「そやけど、サッチャンの兄ちゃんは太一一人や。サッチャンは演劇部と兼部や。練習は、演劇部の休みの日と、向こうの稽古が終わった五時半からや。どうしてもツメがが甘なる。そこで太一やったら兄妹やさかいに、呼吸も合わせやすいし、家で調整もできるやんか」
「はあ……」
「そっちのギターは真希ちゃんに入ってもらう」

 真希ちゃんが、さっさと行ってしまったのは、このことを知っていたからだろう。俺たちは決定事項の追認を迫られているだけだ。

――こんなの横暴だ――

 メンバーみんなが、そういう気持ちになったが、誰も口には出さなかった。

 加藤先輩たちに逆らって、この学校ではケイオンはやっていけない。

 それに、今年のスニーカーエイジを考えると、加藤先輩と幸子がボーカルをやるのはベストだし、そのメンバーに俺が入るのも妥当だろう……一般論では。
 幸子は義体で、普段人前で見せている個性はプログラムされたそれで、けしてオリジナルではない。ただ、そういう刺激が、幸子の中に僅かに残ったオリジナルな個性を、ゆっくり育てていることも確かだ。今度いっしょのメンバーになることが、どのくらい幸子にプラスになるか分からないが、俺は四捨五入して前向きに捉えようとした。

 その日は、練習そっちのけで、みんなで保津川下りに遊びにいく話ばかりした。むろん新メンバーの真希ちゃんも含めて。俺たちは何より争うことを恐れる。だから、必死で、たった今言い渡された理不尽を、触れないということで乗り越えようとした。

「太一、ちょっと付き合わへん?」

 保津川下りの話を過ぎるほど明るくしたあと、俺たちは早めに帰ることにした。で、優奈がいきなり切り出してきた。
「え、ああ、いいけど」
「太一に見せたいもんがあるねん」
 
 そして、二十分後、ボクと優奈は四天王寺の山門前に来ていた。
「ここから見える夕陽は日本一やねん」
「え、ほんと?」
「昔はね……せやから、このへんのこと夕陽丘て言うねん。ナントカガ丘いう地名では、ここが一番古い。大昔は、ここまで海岸線で、海に落ちる夕陽が見事やねんで」
 太陽はビル群の間に落ちようとしていた。正直、東京で観る夕陽と代わり映えはしなかった。
「想像してみて、ここは波打ち際。見渡す限りの海の向こうにシルエットになった淡路島、六甲の山並み、その間をゆっくりと落ちていく夕陽……」
 優奈は目をつぶりながら話していた。優奈の目には古代の夕陽が見えているんだろうか。
 一瞬微妙な加減で、夕陽がまともに優奈の横顔を照らした。優奈の横顔が鳥肌が立つほど美しく見えた。

 こんな優奈を見るのは初めてだ……。

 その微妙な一瞬が終わると同時に優奈は目を開けた。


「いま、ウチのこと見とれてたやろ」
「え……うん」
「アホ。こういうとこはボケなあかんねん。シビアになってどないすんねん」
「だって、優奈が……」
 潤んだ優奈の目に、あとの言葉が続かなかった。
「バンド解散するときに、一回だけ太一に見せたかってん」
「夕陽をか?」
「うん。そんで、おしまい。明日は、また新しい朝日が昇る。そう言いたかってん」

 そして、優奈は目の前の道が「逢坂」といい「大阪」の語源になったことや、ここから北に向かって並んでいる天王寺七坂のことを説明してくれた。ずいぶん博識だと思ったら、お父さんが社会科の先生であることを教えてくれた。一年間同じバンドにいながら、俺は優奈のことはほとんど知らなかったんだと思い知った。

 気づくと、優奈は『カントリーロード』を口ずさんでいた。

 ……カントリー・ロード 明日は いつもの僕さ 帰りたい 帰れない さよなら カントリー・ロード♪

「うまいな」
「当たり前、ボーカルやでウチは……あ、行きすぎてしもた」
 ボクたちは逢坂を下って、松屋町通りを北上していた。
「ま、ええわ。この先が源聖寺坂や。ええ坂やで」
 確かにいい坂道だった。道幅は狭いけど石畳で和風の壁に囲まれ、途中緩くZの形に道が曲がっている。坂を登り切って振り返ると、太陽はとっくに西の空に没し、残照が西にたなびく雲をファンタジックに染め上げていた。
「ほんと、きれいだなあ……来た甲斐あったよ」
「優奈のとっておきでした。ほな地下鉄乗ろか……」

 そうやって、振り返ると……その手のホテルが建っていた。

「あ……」
「惜しいなあ、制服着てなかったら入れたのにね……」
「ゆ、優奈!」
「アハハ、赤こなった。太一のエッチ!」

 優奈は、大阪の女の子らしく、俺をイジリながら、コロコロ笑って地下鉄の駅にリ-ドした。
 大争乱が始まる前の、ボクたちのささやかな青春の最初の一コマだった……。

 

※ 主な登場人物

  • 佐伯 太一      真田山高校二年軽音楽部 幸子の兄
  • 佐伯 幸子      真田山高校一年演劇部 
  • 千草子(ちさこ)   パラレルワールドの幸子
  • 大村 佳子      筋向いの真田山高校一年生
  • 大村 優子      佳子の妹(6歳)
  • 桃畑中佐       桃畑律子の兄
  • 青木 拓磨      ねねを好きな大阪修学院高校の二年生
  • 学校の人たち     加藤先輩(軽音) 倉持祐介(ベース) 優奈(ボーカル) 謙三(ドラム) 真希(軽音)
  • グノーシスたち    ビシリ三姉妹(ミー ミル ミデット) ハンス
  • 甲殻機動隊      里中副長  ねね(里中副長の娘) 高機動車のハナちゃん
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