かの世界この世界:166
カテンの森で野営の準備をしていた。
テントのペグを打とうとすると、森の奥から百年分の雷が落ちるような音がして、すぐに四号の仲間と共に駆けつけると、トール元帥の戦車部隊がグチャグチャに撃破され、森の木々をなぎ倒して無残な姿をさらしていた。
最前線で手ひどくやられ、全滅する寸前にワープして撤退してきた様子だ。
戦車と言うものは、外骨格の怪物で、撃破されても形は残るものだ。
それが、超重戦車の六号でさえ、ひしゃげた缶詰のように形を留めていないものがある。
その残骸たちに囲まれてトール元帥が瀕死の重傷で横たわり、タングリスが駆け寄って、装具を解いたかと思うと、野戦服まで脱ぎだして、身一つになって元帥の上に身を投げ出した。
「お、おまえらは見るな!」
ヒルデが小さな体で立ちふさがって、とても、その華奢な体で隠しきれるものでは無いのだが、その切実さにたじろいでしまう。
すると、切羽詰まったヒルデの顔の向こう、空の上からポチがクルクルと舞い降りてくるのが目に入った。
慌ただしく立ち止まったせいか、急に空を見上げる姿勢になったためか、数秒間の間に目にした衝撃的な光景のせいか、視界が鈍色の闇に狭窄されて、意識の糸が切れてしまった。
……さん。
…井さん。
寺井さん。
光子。
懐かしい名前で呼ばれて、うっすらと目を開けると和室の天井……胸元まで掛けられたお布団の感触。
これは…………?
「よかった、やっと目が覚めた!」
「もう、戻ってこないかと……心配で心配で」
「泣くんじゃないわよ、寺井さん、ちゃんと戻ってきたんだから」
「う、うん」
この人たちは……。
「何度もフリーズして、クラッシュを繰り返して……」
「もう、戻って来れなくなってしまいそうで、時美と二人で回収したのよ。このままじゃ、寺井さん、もたなくなっちゃうから」
「あ、もう少し寝ていて、完全に戻って来るには、もう少し時間がかかるから」
そう言われて、お布団から出した手を見ると、指の先が、まだ半透明だ。
この二人は……?
そこで、指の第二関節まで色が戻ってきた。
「中臣先輩! 志村先輩!」
数年ぶり、ひょっとして数十年ぶり、数百年ぶりで、こちらの意識が戻ってきた……。
☆ ステータス
- HP:20000 MP:400 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
- 持ち物:ポーション・300 マップ:13 金の針:60 福袋 所持金:450000ギル(リポ払い残高0ギル)
- 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)
- 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)
- 白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術
- オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト) 思念爆弾
☆ 主な登場人物
―― この世界 ――
- 寺井光子 二年生 この長い物語の主人公
- 二宮冴子 二年生 不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば逆に光子の命が無い
- 中臣美空 三年生 セミロングで『かの世部』部長
- 志村時美 三年生 ポニテの『かの世部』副部長
―― かの世界 ――
- テル(寺井光子) 二年生 今度の世界では小早川照姫
- ケイト(小山内健人) 今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
- ブリュンヒルデ 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
- タングリス トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
- タングニョースト トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属
- ロキ ヴァイゼンハオスの孤児
- ポチ ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態