大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・026『飯の用意をしろ』

2021-01-22 09:09:28 | 小説4

・026

『飯の用意をしろ』 ダッシュ   

 

 

 怪我人が出なかったのはすみれ先生のおかげだろう。

 

 見てくれはゴリラみたいな筋肉バカだが、ここ一番の緊急事態で的確な判断と操船ができるのはさすがだ。

「みんな、けがは無いか!?」

 安否確認も、俺たち生徒を先にして、元帥と森ノ宮親王を後にした。

 副官のヨイチは、とっさに体ごと雑のうを元帥と親王殿下の背中にあてがって、主人と貴人の安全を計っていた。

「無事なようでなによりだ……」

 全員の無事が確認できると、親王殿下が安堵の声をあげられる。

 華奢な体つきなのに、穏やかな声には、不思議に人を安心させる響きがある。

「姉崎先生、フライトレコーダーは無事ですか?」

 元帥が声をあげると、すみれ先生はインタフェイスの画面を数回タッチした。

「精度はよくありませんが、残っています。ご覧になりますか?」

「頼みます」

 24インチほどの画面に全員の視線が注がれる。

「貨物艇なので、正確な攻撃地点までは分かりませんが、学園艦の爆発の瞬間の姿でおおよその見当はつくでしょう」

 フライトレコーダーのフレームレートは80と出ている。大昔のVR画面くらいだろうか……すみれ先生が調整すると、少しブレた感じで学園艦の断末魔が映し出された。

 学園艦はくの字に折れて、余ったエネルギーは鈍角に折れた船体のあちこちの破孔から飛び出している。

 不謹慎だけど、去年の卒業ボウル(パーティー)の時に天井から吊ってあったミラーボールを思い出した。

「船体の折れから推測すると、北アメリカのどこかだな」

「北アメリカ……」

 俺たちがいるからだろう、大人たちは、それ以上の推測を控えているが、俺たちにも見当がついた。

 アメリカの西海岸には漢明国の勢力が入り込んで、合衆国でも把握できない軍事施設があるという噂だ。

「もういいでしょ」

「了解」

 親王殿下が言って、元帥が頷きすみれ先生が小さく了解しながらジョイスティックを倒した。

 13号艇は小柄な割には大きな弧を描いて進路を変え始める。

「おまえらは、飯の用意をしろ」

 すみれ先生は宿泊学習の指導をするような気楽な声で命じた。

 分かってる、13号艇が大きく回頭するときに、キャノピーいっぱいに学園艦の残骸が見えてしまう。それを直接目にしないように気を配ったんだ。

 でも、一部の残骸は、まだ火を噴いていて、それがレプリケーターのアクリルの反射している。レプリケーターは食品合成機だから、こんな貨物艇でも清潔が保たれていて、アクリルは磨き抜かれたガラスのようだ。

「ウ」

 未来が抑えた悲鳴を上げた。

 俺と同じものを見たんだ。

 残骸に混じって浮遊している同級生たちの切れ端を。

 13号艇は、北米大陸を避けるように地球の裏側に回ってから、進路を月に向け始めた。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 児玉元帥
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官

 ※ 事項

  • 扶桑政府   火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる

 

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誤訳怪訳日本の神話・9『イザナギの勝利!』

2021-01-22 06:35:54 | 評論

訳日本の神話・9
『イザナギの勝利!』
   


 千引岩(ちびきのいわ)を挟んでイザナギとイザナミの言い合いになります。

 元夫婦の神さまの言い合いなので、ただの悪態のぶつけ合いではすみません。
「このヘタレのイザナギ! こうなったら、あんたの国の人間を一日1000人ずつ殺してやるからね!!」
「な、なにをぬかす! それならなーーー! オレはがんばって、毎日1500人ずつ子どもを作っちゃうんからな!!」

 この言い合いの結果、人間の世界では1500-1000=500で、毎日500人ずつ人口が増えることになりました。

 そして、この 千引岩(ちびきのいわ)は島根県東出雲町に残っています。
 島根県は古代の昔は、大和勢力に対抗していた出雲勢力の中心で、今でも神話の故郷であります。
『怪談』を書いたラフカディオハーンを魅了し、小泉八雲として日本に帰化させたほどに魅力に満ちた地方です。宍道湖を中心とするあたりはUFOが頻繁に見受けられ、現代においても楽しい謎とおとぎ話に溢れていますが、大国主命などで触れることになりますので、ここでは深入りしないことにいたします。

 イザナギは言い合いに勝利して、人類をイザナギの呪いによる滅亡から救った後、筑紫の国(福岡県)に向かいました。

「あーー、きったねえ! 黄泉の国になんか行くから、あっちこっち穢れてしまって、かなわねー!」
 橘の小門のアハギ原(タチバナノオドノアハギハラ)というところで、身ぐるみ脱いで清めます。アハギ原は福岡市博多区住吉の住吉神社付近の他に宮崎市塩路と鹿児島県曽於市末吉町の説がありますが、いずれも住吉神社に関係があります。住吉神社については改めて触れることがあると思います。
 でもって、脱いだ服やら杖やらから、いろんな神さまが生まれますが、煩わしいので省略します(^_^;)。これらの神さまは、このあと生まれてくる大事な三人の神さまの露払いであります。分かりやすく言うと、真打が出てくる前の前座、紅白歌合戦のの前半に出てくる新人や初出演にあたると思えば正解です。
 そうして、紅白ならオオトリの森進一や松田聖子(古いなあ(*ノωノ))にあたるのが、以下の神さまです。

 イザナギが左の目を洗うと現れたのが天照大神(あまてらすおおみかみ) 右の目を洗った時に現れたのが月讀命(つくよみのみこと) 鼻を洗った時に(いささか汚いですが、ウンチやオシッコからも生まれる神さまがいるので、ま、良しとしましょう)建速須佐之男命(たけはやすさのおのみこと)であります。天照大神が左目から生まれたのは意味があります。日本では古くから左が上位とされてきたことの現れです。右大臣より左大臣が上位ですし、明治の途中まで雛祭りの男雛は左側に飾っていました。

 イザナギはアマテラスに天上の世界を、ツクヨミに月を象徴とする夜の世界を治めさせます。

「じゃ、スサノオ……」
 スサノオの方を向くと、男の子のくせにビービーと泣いてばかりです。
「これはしばらく、オレの手元に置いておくしかないか」
 と言って育てました。
 しかし、スサノオは大の大人になって髭が伸びるようになっても泣きわめいてばかりです。
 スサノオの馬力はものすごくて、スサノオが泣いただけで、地震や嵐になってしまいます。
「こりゃ、なんとかしなきゃ、どーにもならないなあ」

「そうだ!」

 イザナギはいいことを思いつきました!

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妹が憎たらしいのには訳がある・38『ハナちゃんの向こう傷』

2021-01-22 06:12:36 | 小説3

たらしいのにはがある・38
『ハナちゃんの向こう傷』
          

 

    

 水っぱなを袖で拭いたような向こう傷がついてしまった。

「やっぱり、流れ弾……」
『どうしよう、顔に傷がついちゃったあ(^_^;)』
 一見ぶっそうな会話だけど、これは、俺と高機動車ハナちゃんとの会話。

 東京での『メガヒット』の帰りの空でハナちゃんは、向こうの世界から飛び込んできたパルス弾の流れ弾がかすめて傷が残ってしまったのだ。ハナちゃんは、フロントグラスを赤くして恥ずかしがった。
「ニュースで、老朽化した人工衛星が落ちてきたって言ってるよ……」
 チサちゃんが、スマホを見ながら言った。
「ウワー、怖い~、ヤバイとこだったんだ」
 幸子は、プログラムモードで、佳子ちゃんや優子ちゃんといっしょにブリッコしている。
『カッコ悪いから、ハナ、メンテにいってきますう。太一さん着いてきて~』
「え、オレ?」
『メンテナンスは、太一さんの担当!』

 そういうわけで、明くる日が休みということもあって、俺はハナちゃんに乗って甲殻機動隊のハンガーまで行くことになった。

「かすり傷でよかったな」
 出迎えた里中副長が開口一番に言った。
「やっぱり、向こうの流れ弾ですか?」
「ああ、夕べ相模湾で、大規模な空中戦があったみたいだ」
「相模湾で?」
「ああ、こっちに遅れた分、かなり派手な戦争になっているみたいだ。亜空間に穴が空いて流れ弾が飛び込んでくるぐらいだからな。ごまかすために、人工衛星を一基落とすことになった」
『装甲にも異常なしだから、チョチョイと塗装して、おしまいでしょ♪』
「いや、状況分析のPCに問題がある。丸一日は検査だな」
『え、どーしてえ。ハナの解析じゃ、異常無しなんですけどオ……』
「じゃ、なんで、メンテナンスに太一君が着いてくるんだ」
『あ、太一さん、どうして?』
「どうしてって、おまえが着いてきてくれって言ったんじゃないか!?」
『そう……だっけ?』
「まあ、オフィスで休んでくれよ」
 里中副長の仕業だと思った。

 オフィスの応接に通された。

「いらっしゃい。また、パパの無茶につきあわされそうね……」
 ねねちゃんが豚骨醤油ラーメンの大盛りを持ってやってきた。
「ねねちゃん……いやあ、ありがたいな。まだろくに晩飯食ってないんだ」
「ハナちゃんが、そう言ってたから。ハンバーガー一個だけなんでしょ?」
「そうなんだよ、食べ盛りの女の子が四人もいたし、幸子のメンテで、放送局の弁当も食べられなかったし……うん、美味い!」
「ハハ、ほんとに美味しそう」
 お盆で顔の下半分を隠して笑うねねちゃんは、とても自然だった。
「食いながら聞いてくれ」
 里中副長が、くわえ煙草で入ってきた。
「だめでしょ、たばこは体に悪いの」
「これは、電子タバコだよ」
「電磁波吸ってるようなものよ」
 ねねちゃんは、里中副長がくわえたままのタバコの先を、ハサミでちょんぎった。里中副長はびっくりし、それから、固まった。
「……どうかしましたか?」
「い、いや、昔、カミサンによくやられたもんだから……」
「ひょっとして、プログラム外の行動ですか?」
「パパのタバコを止めさせるのは、これが一番」
「ねね、ちょっと外してくれ」
「はいはい」
 ねねちゃんは――頼むわね――というような目配せをして出て行った。

「……こないだ、君をインスト-ルしてくれてから、ねねのやつ少し変なんだ」
「自律的になってきたんですね……」
「ああ、今のようにな」
「興味深い変化ですね……」
「で、一つ頼みがあるんだが……」

 里中副長が複雑な顔をして、オレの顔を覗き込んだ……。

 

※ 主な登場人物

  • 佐伯 太一      真田山高校二年軽音楽部 幸子の兄
  • 佐伯 幸子      真田山高校一年演劇部 
  • 千草子(ちさこ)   パラレルワールドの幸子
  • 大村 佳子      筋向いの真田山高校一年生
  • 大村 優子      佳子の妹(6歳)
  • 桃畑中佐       桃畑律子の兄
  • 青木 拓磨      ねねを好きな大阪修学院高校の二年生
  • 学校の人たち     加藤先輩(軽音) 倉持祐介(ベース) 優奈(ボーカル) 謙三(ドラム) 真希(軽音)
  • グノーシスたち    ビシリ三姉妹(ミー ミル ミデット) ハンス
  • 甲殻機動隊      里中副長  ねね(里中副長の娘) 高機動車のハナちゃん

 

 

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