大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

オフステージ・150『家庭科クラブの謎・1』

2021-01-02 12:01:44 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)150

『家庭科クラブの謎・1』 ミリー    

 

 

―― 家庭科クラブ 家庭科クラブの部員は直ぐに家庭科準備室に集合しなさい ――

 

 NHKに女子アナウンサー部というのがあって、そこに、NHKの会長から懇願されて定年を五年も過ぎて現役で女子アナウンス部の部長がいたらこんな風だという感じで杉本先生はアナウンスした。

 待つこと15秒ほどで最初の「失礼します!」の声があって、その後1分以内に七人の部員が集まった。

 学年章で二年が二人と一年が五人と分かる。男は二年の男子が一人で、あとは全員女子。

「演劇部のミリーと一年のSさんが、たくさんお弁当作ってきてくれたから、勉強のため、みんなでいただきましょう」

 え、さすがに十人で食べる量じゃないんだけど。

 おなじ思いなんだろう、家庭科クラブのメンバーも戸惑ったように顔を見かわしている。

「大丈夫よ、わたしの試作品も用意してあるから、調理室の方にいきましょ(^▽^)/」

 先生が準備室と調理室の間のドアを示す。

「あ、先生」

「なに?」

 振り向いた杉本先生は笑顔なんだけど目が怖い。大河ドラマで見た徳川家康の顔を思い出した。

「お昼済ませてきちゃって……」

「野球部のマネージャーの打合せが……」

「テニス部のコート整備が……」

「吹部の楽器の……」

「美術部の……」

 一年は、みんな他の部活とかけもちのようだ。

「あ、そ……無理を言ったわね。二年は大丈夫よね?」

「「は、はい!」」

「じゃ、一年はいいわ。あとでテイクアウトのパックにしてあげるから、五時間目が始まるまでに取りに来てくれる」

「あ、始業ギリギリになるかもしれません」

「ぼくたちが届けますよ」

「先輩、そんな……」

「放課後に跨ったら忘れるかもしれないし、先生もずっと待ってなきゃいけないから」

「そうね、じゃ、そうして」

「「「「「はい! ありがとうございます!」」」」」

 明るく返事して、それより大きな声で「「「「「失礼します!」」」」」を合唱して消えてしまった。

 調理室に入ると、二つのテーブルに五人分に分けて昼食の準備がされていた。

 片方のテーブルにはテイクアウト用のパックが真ん中に置かれていて、どうやら杉本先生は一年生の反応をあらかじめ予感していた感じがする。

「じゃ、お味噌汁いれて、五人でいただきましょう」

「はい!」

 空気に飲まれたのかSさんが大きな声で返事をする。

 煮物と揚げ物とサラダということしか分からないけど、先生が用意したものは、そのままデパートの食堂に出せるくらいのクオリティに見える。

「じゃ、二人のは真ん中に置いて、取り皿で分けましょう……あ、そうそう、二人を紹介しておくわね」

 二年の家庭科クラブに視線を送ると、いったん座った席から立って自己紹介してくれる。

「家庭科クラブ部長をやってます、二年の蜂須賀小鈴(こりん)です」

「えと、副部長の蜂須賀小七(こしち)。よろしく」

 え、苗字いっしょ、名前も似てる。

「二人は従兄妹同士なの、日ごろは下の名前でいいわよ」

「は、はあ」

「じゃ、いただきましょうか」

 なんかありそうな家庭科クラブなんだけど、初対面だし、雰囲気も変だし、質問もできないまま昼食会が始まる。

 質問できなかったのには、もう一つ理由があるのよ。

 わたしとSさんのお弁当も美味しかったけど、杉本先生が作ったのは見かけ以上の美味しさで、色気よりも食い気の女子高生は、ごちそうさまを言うまで食べることに専念してしまったからね。

 そのあと、ごちそうさまをして、わたしとSさんも手伝ってテイクアウトの配達に向かたよ。

「なんか変でしたね……」

 預かった二人分を届けてSさんがこぼす。

 たしかに、もらった一年生は「ありがとうございます」とお礼は言うんだけども、気持ちの底に迷惑そうな感じがしたのよ。

 でも、こういう謎めいたことが好きなようで、Sさんが少し元気を取り戻したのは嬉しいよ。

 そして、家庭科クラブの謎は、放課後再会した蜂須賀小七君が教えてくれた。

 

 

☆ 主な登場人物

  •  小山内 啓介      二年生 演劇部部長 
  •  沢村  千歳      一年生 空堀高校を辞めるために入部した
  •  ミリー・オーウェン   二年生 啓介と同じクラス アメリカからの交換留学生
  •  松井  須磨      三年生(ただし、六回目の)
  •  瀬戸内 美晴      二年生 生徒会副会長
  •  姫田  姫乃      姫ちゃん先生 啓介とミリーの担任
  •  朝倉  佐和      演劇部顧問 空堀の卒業生で須磨と同級だった新任先生

 

☆ このセクションの人物 

  • 杉本先生
  • Sさん
  • 蜂須賀小鈴
  • 蜂須賀小七
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妹が憎たらしいのには訳がある・18『臨時休校』 

2021-01-02 07:07:47 | 小説3

たらしいのにはがある・18
『臨時休校』
          

 

      

 明くる日は臨時休校になった。

 奇跡的に死傷者が出なかった(グノーシスたちがやったんだけど)とはいえ、飛行機が校舎に突っこんできたんだ。警察や、国交省の運輸安全委員会の現場検証は今日が本番だ。それに、突っこんできたのは視聴覚教室だけど、他の校舎や施設も無事ではない。復旧には一週間はかかる……と、これは俺の希望的観測。

 ケイオンで視聴覚教室を使っていたのは加藤先輩たち中心メンバー。先輩達の楽器はおシャカになってしまったけど、そこは選抜メンバー、みんな自分ちにスペアの楽器を持っている。加藤先輩は、昨日は幸運にもスペアの方だったので、ギブソンのアコステは無事だった。

――アタシらはスタジオ借りてレッスン、あんたらは適当に――

 加藤先輩からは、こんなメールが来ていた。いかにもアバウトなケイオンだ。
 で、俺達のグループの楽器はオシャカになってしまったので、自主練と称してカラオケに行った。

 五曲歌ったところで、みんな喉にきた。


 いかに普段マッタリとしか部活をやっていないか、メンバー全員が自覚した。自覚したが反省なんかはしない。俺たちがケイオンに求めているのは、一に掛かって、このマッタリした空気なんだからな。


「しかし、祐介、とっさに優奈庇ったのは大したもんやったな」
 ドラムの謙三が、ジンジャエールを飲み干して言った。
「うん、オレ、ひょっとしたら優奈に惚れてんのかもな」
「祐介のは、ただのどさくさ紛れ。庇うふりして、わたしのオッパイ掴んでた!」
「うそ、そんなことしてへんて!」
「病院で検査してもろたとき、赤い手形がついてた」
「とっさのことやから。祐介も力入ったんやろ」
 ジンジャエールでは足りず、俺のウーロン茶まで手を出して、謙三がフォローした。
「そやかて、両方のオッパイやで!」
「惜しいことしたなあ。オレ、その時の感触全然覚えてへんわ」
 大阪弁というのは、こういうことをアッケラカンと言うのには最適な言葉だと実感した。


 そして、良かったと思った。


 ハンスたちグノーシスが時間を止めて処理していなければ、プロペラの折れは、祐介の背中を貫通して、庇った優奈ごと串刺しにしていたに違いない。
 それに、なにより、あの時の祐介の顔は、真剣に優奈を守ろうとしていた。普段はヘラヘラした奴だが、本当のところは、情に厚く、優奈のことも本気で好きなんだと思う。
 謙三は体育とか苦手で、ドン謙三(ドンクサイ謙三の略)などと言われているが、本気になれば意外に俊敏。いつか、その俊敏さが、ドラムのスキル向上に役立てばいいんだけど、俺同様マッタリケイオン。望み薄かな……。

 そのころ、幸子はギブソンの高級ギターを持ち出して、大阪城公園駅から大阪城ホールに行くまでの道で路上ライブをやっていた。ここは、大阪の路上ライブの聖地の一つ。京橋や天王寺などは、大容量のアンプを持ち込んでガンガンやる悪質なパフォーマーが多く、幸子のように生声、生ギターで演るものまで締め出しにあうが、ここは比較的に緩い。佳子ちゃんが、例によって警戒とパーカッションを兼ねて付いていくれている。

 それに気づいたのは、優奈がスマホで動画を検索している時だった。

「ちょっと、これサッチャンちゃうん!」
「ええ……!」

 俺たちが、大阪城公園に行ったときは、優奈のスマホで見た何倍もの老若男女が幸子の生歌に聞き惚れていた。リクエストに応えてやっているようで、松田聖子の歌を唄っていた。

 ……若いころの松田聖子そっくりに。

 思い出した。

 夕べ、パラレルワールドの説明をしているときにパソコンに映った幸子の顔を垂れ目にしたら、幸子は自分の顔も垂れ目にして、俺をおちょくった。幸子は確実に進化しているんだ。
 オーディエンスは次々に増え、四百人ほどになったが、どういうわけか、みんな行儀良く座って聞いている。そして、道路の半分はキチンと空けられて通行人の邪魔にもなっていない。
 お巡りさんが、向こうのアンプガンガン組の規制をしはじめた。
「あいつらが、おったら、この子の歌があんじょう聞こえへん」
 六十代とおぼしきオッチャンが、お巡りさんに注意したようだ。
「あんた、警察に顔きくねんなあ」
「ええ音楽は静かに聞かなあかん」
 その顔つきの悪さから、その筋の人か、お巡りさんのOBかと思われた。

 そのころ、幸子は、盛大な拍手の中で神田沙也加のそっくりさんになっていた……。

 

※ 主な登場人物

  • 佐伯 太一      真田山高校二年軽音楽部 幸子の兄
  • 佐伯 幸子      真田山高校一年演劇部 
  • 大村 佳子      筋向いの真田山高校一年生
  • 大村 優子      佳子の妹(6歳)
  • 学校の人たち    倉持祐介(太一のクラスメート) 加藤先輩(軽音) 優奈(軽音)
  • グノーシスたち   ビシリ三姉妹(ミー ミル ミデット) ハンス

 

 

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やくもあやかし物語・47『土筆を食べる・1』

2021-01-02 06:47:53 | ライトノベルセレクト

物語・47

『土筆を食べる・1』      

 

 

 土筆と書いて○○○と読む。

 

 知った時には感動した。だって、普通に読んだら『どふで』とか『つちふで』だもんね。

 あなたは読めるかしら?

 つくしって読むんだよ。

 知らなかったでしょ?

 そいでもって食べれるんだよ。

 ほんとだよ。

 そうだ、いちど食べてみよっか!?

 だめだめ、食べれるって言っても、そのまま食べれるわけじゃないんだよ。

 ちゃんと、処理してお料理しないとね。

 

 以上、わたしの独り言。

 

 図書館で借りた本を開いてみると、窓から差し込む日差しが柔らかくなっているのに気が付いた。

 本立ての横に並んだ『俺妹女子キャラ』たちも眠そうに見える。春眠暁を覚えずだよ。

 開きかけた本を閉じて庭に出てみた。春の日差しの中で読書してみようって気分になったんだ。

 でも―― 春は名のみの風の寒さや~🎵 ――と、歌にもある通り、日差しの割には肌寒い。

 

 いっちょ、からだ動かすか!

 梅の花が盛りを過ぎてポタポタと落ちている、椿の赤い花とか何とかいう黄色い花とか。

 よく見ると、どこからか飛んできた種が芽を噴き出してもいる。去年取り切れていなかった枯葉とかも残っている。

 熊手と塵取りとスコップを持ってきて掃除に掛かる。

 全部やるつもりはない、ほっこり体が温まったら十分。

 うちは、表こそ立派な塀があるけど、裏は垣根と言うか生け垣と言うかがあるだけで、その生け垣根の向こうは緩い斜面になっている。

 その斜面に土筆が生えているのに気が付いた。

 そいで、テンションが上がっていたわたしは、つい誰かに話しかけるみたいになっていたんだ。

 塵取りじゃあんまりなんで、ざるを持ってきて土筆を摘む。

 育ちすぎのは硬かったりするだろうから、五センチくらいに顔を出した柔らかそうなのを摘んでいく。

 

「フフフ、お料理の仕方とか知ってんのかなあ?」

 

 可愛い声に顔をあげると……えりかちゃんが立っていた。

 

 ほら、駅のホームで慰めてくれた女の子。

 なんだか、春の妖精めいていた。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきた三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君       図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん      図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け
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