大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・192『霧子の横・4・団子坂の喫茶店』

2021-01-16 15:21:40 | 小説

魔法少女マヂカ・192

『霧子の横・4・団子坂の喫茶店』語り手:マヂカ    

 

 

 ここに落ち着こう。

 新畑が指差したのは坂道の中ほどにある喫茶店だ。

 震災直後に開いている喫茶店などあるはずも無いだろうが、凌雲閣の地下に出入り口があったところから、おそらくは霧子の心象風景、あるいは異世界……いや、礼法室の上に楼閣が存在していたところからおかしい。おかしい世界だ。

 しばらくは流されるままに見ておくしかないか。

 喫茶店には、わたしたちの他にもお客はいるのだが、視野の端に捉えている分には普通に見えているが、視線を向けると解像度が落ちたようにボンヤリしてしまう。

 仕方がない、明らかに見えるところだけを見て、聞こえるだけのことを聞こう。

 一階にも空席はあるのに、新畑は当然のように二階の窓際席に誘った。

 席に着くと、すでにアイスコーヒーが三つ置いてある。グラスの表面が汗をかいたようになっているのにコースターは濡れていなくて、たった今置かれたようだ。

 窓の外は通りを挟んで古本屋がある。チラリと見える本棚には洋書や大学の教養課程で読むような本が並んでいて、近くに大学か旧制高校がある気配。

 ひょっとして、団子坂か? すぐ南には東京大学とかがあるぞ、この時代は東京帝大か。

「そっちに気を取られると別の物語が始まってしまう。悪いが、僕の話に集中してほしい」

「ああ、すまなかった」

 ブラインドの紐を操作して閉じると、テーブルは天井のランプが照らし出すセピア色に落ち着いた。

「霧子さん、君には覚醒してもらいたいとは思っているけど、無鉄砲に震災直後の東京を見るべきじゃない」

「はい、でも、開けられる扉はこれしかなかったの。いつもみたいに迎えに来てくださるのを待っていたら、いつのことになるか分からなかったし。わたし、やっと決心したんです。父や兄になんと言われても、自分の目で確かめて行動しなくてはいけないって」

「うん、それは嬉しい。でも、震災直後の惨状だけに気をとられていては、息の長い活動はできないよ。君のように覚醒できる女性は少ないんだから」

 こいつは主義者なのか? しかし、こんな妖同然に異世界めいたところに現れるのは、そもそも、こいつが化け物である証拠だろう。

「きのうは、ご先祖の夢をみたでしょ?」

「ご存知なのですか?」

「貴女の事は何でも知っている。大事な人ですからね」

 霧子のやつ赤くなった……この男、何を企んでいるんだ。

「高坂光孝公の夢を見てどうだった?」

「伏見大地震の後に真っ直ぐ伏見城に駆けつけておられました、自分の屋敷や、近隣の御大名や庶民の災難には目もくれずに、天守の崩れた跡に立っている千成瓢箪の馬印の許に」

「それで?」

「ちょっと、おべっかが過ぎるように見えたんですけど、光孝公は、わたしの頭をグシャっと撫でて、こうおっしゃいました『この天下の大変に、一番大事なことは、天下が揺るがぬことだ。たとえ石垣は崩れ天守が倒れようと、天下の礎は微動だにしておらぬことを示さなけれなならぬのじゃ。天下様の御威光に揺るぎはなく大丈夫であることが復興への力になるのじゃ。天下様が御無事お元気に采配を振るわれてこそ、諸侯も天下万民も、秩序をもって復興に力をつくそうと思うのだ。我らが気ままに己が不幸だけ目を向けていては、この世から秩序が無くなる。そうは思わぬか』と……」

「それで、外に出てみようと言う気になったんですね?」

「ええ……」

「不足なようですね」

「秀吉は好きじゃありません」

「ハハ、ぼくは好きだけどね。ああ、そうだ、今日は『赤い鳥』の発売日だ。霧子さん、申し訳ないが、向かいの本屋で買ってきてくれないだろうか。いや、妹が楽しみにしているんだけど、どうも、大の男が買いに行くのは恥ずかしくって……」

 そう言うと、新畑は財布から一円札を取り出した。

「まあ、いくらわたしが世間知らずでも雑誌の値段くらい知っていましてよ。一円なんて出したら本屋の御亭主はお釣りにこまりますよ」

「じゃ、お釣りが間に合うまで、他の雑誌も買ってごらんなさい」

「他の雑誌も?」

「霧子さんの傾向が知りたい」

「まあ、ご親切なのか意地悪なのか……」

 そう言いながら、霧子は嬉しそうに階段を下りて、向かいの本屋に向かった。

「さて、これで、あの本屋で殺人事件は起こらない」

「あなた、やっぱり明智小五郎?」

「あれが生まれるのは三年先ですよ。実は、君にも頼みがるんだ、魔法少女くん……」

 新畑の目が怪しく光って、思わず身構えてしまうわたしだった……。

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
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銀河太平記・025『同乗者』

2021-01-16 09:14:16 | 小説4

・025

『同乗者』 ダッシュ   

 

 

 二十三世紀も中ごろ近くの現代、動力のほとんどはパルス機関になった。

 

 パルス機関は相当な大型船(古典的な言い方では宇宙船)でも亜光速が出せて、今では太陽系が、到達時間ではかつての地球内交通の規模に縮小してしまった。つまり、人類の行動半径が太陽系いっぱいになったということで、人類のフロンティアは四光年ちょっと離れたプロキシマ・ケンタウリbに移りつつあるが、行って帰って来るだけで九年近くかかるので、まだまだ無人機による探査の段階だ。ロボット科学者たちが探検への名乗りをあげているが、ロボットへの人権意識も高まった現在では、それも困難な状況だ。

 亜光速になっても慣性エネルギーの相殺ができるようになったのは、この二十年くらいのことだ。

 慣性エネルギーと言うのは、例えば車が急発進するとシートに押さえつけられるような圧を感じるだろ。逆に、停止する時には前に飛び出しそうになる。左に曲がると右に、右に曲がると左に持っていかれそうになる。まあ、Gってやつだな。

 慣性エネルギーの問題が解決しなければ、亜光速なんて簡単には出せない。

 急加速したら、すさまじいGがかかって、体がペッタンコになってしまう。物理的なGに慣れるだけなら数時間で亜光速に順応できる計算なんだが、人間の神経はデリケートで、物理的な要件をクリアーしただけの時間では障害が出る。軽いのは手足のしびれぐらいのものだが、ひどくなると幻視や錯乱状態になったりする。だから、軍用船でも24時間、民間船だと数日間をかけて亜光速にしていた。

 今では慣性エネルギーをコントロールする……なんとか云う技術(理系は苦手なんで、勘弁してくれ)で克服されて、短時間で亜光速が出せるようになった。

 しかし、いま乗っている13号艇は廃棄寸前のゴミ箱みたいなボートなので、慣性エネルギーを相殺することができない。

 だから、二百年前のスペースシャトルの乗員並みのGを感じさせられながら、取りあえずの地球の周回軌道に載ろうとしている。

「ちょ、拷問だわよさあああ(#゚Д゚#)!」

 身の軽いテルは、足の縛着が間に合わず、頭と上半身のベルトが天井フックについただけなので、狭い艇内で糸の切れた凧のようにクルクル回っている。

「オレに掴まれ!」

「ちょ、じっとして!」

 みんなが救いの手を差し出すが、Gが掛かっているので、思うように手が伸ばせず、ヘタッピーばっかりのスカイダイビングのように混乱している。

「掴まえた!」

 未来がやっとテルのチノパンの裾を掴んだ。

「あ、ああああああ!」

 下手に一点だけで掴まえたので、掴まえられた裾を支点にしてクルクル回るテル。

 ズコ! ドコ! ベシ!

 テルの手足がボートのあちこちや同乗者にぶつかる。

 フギャ! オエ! グエ!

「あ、脱げた!」

 チノパンが脱げてしまって、テルはクマさんのパンツだけで、さらに激しく飛びまわっている。

「先生!」

 無駄なことなんだけど、すみれ先生に声をかける。

 このまま加速されてはケガ人が出る。

 加速を中断すると、しばらくは周回軌道を取らざるを得ず、出発がさらに遅れる。

 言うだけ無駄だろう、少しの間ガマンしろ、テル……

 そう、観念したら、スーーっと加速が止んでしまった。

 え?

 すみれ先生って意外に優しい?

 みんな、自分の目を疑った。

「おまえらのためじゃない、緊急の同乗者だ」

 同乗者?

「大使館からの要請だ、しばらく待て」

 そう言うと、すみれ先生はキャノピーのシャッターを開いた。

「おお」

 ニ十キロほど先に地球を背景に学園艦が見える。

 乗っていた時は型落ちのポンコツだと思ったけど、13号艇に比べれば豪華客船だ。向こうからも、こっちが見えるだろう。クラスの仲間たちや先生たちが『また、あの問題児たちか』とか『ざまあみろ』とか言ってるような気がする。

「あれは?」

 視力のいいヒコが最初に見つけた。

 学園艦の方から、13号艇よりさらに小さい、たぶん四人ほどしか乗れない小型艇が接近してきた。

 ガチャリ

 古式銃がリジェクトするような音がしてドッキングが済むと、二人の同乗者が乗り移ってきた。

「やあ、また出会ったね」

「元帥!?」

 懐かしそうに笑顔を向けてきたのは児玉元帥だ。先日と違って、儀礼服ではなくて、階級章が無ければ後方勤務の女性兵士と変わらない事業服だ。

 元帥に続いて現れたのは、優しい目元が特徴の……でも、俄かには信じがたい。

 森ノ宮親王さまだ!?

「ちょっと、事情があって火星までご一緒するよ」

「ご迷惑おかけします。森ノ宮です、よろしく」

 宮さまは、簡単に、でも心のこもった挨拶をされる。突然のことに、ろくな挨拶も返せない俺たちだ。

「元帥、残りの荷物を取りにいこうと思うのですが……」

 軍用の雑のう二つを持って現れたのは、元帥の副官のヨイチだ。

「いまさら戻っては学園艦に迷惑が……」

 そこまで元帥が行った時、キャノピーの彼方に見えていた学園艦が大爆発した!

「なんでもいいから掴まれ! 衝撃波が来るぞ!」

 すみれ先生が叫んで、みんな、咄嗟にフックやあれこれに掴まる。

 ドッゴーーーン!!

 13号艇は嵐の中の木の葉のように吹き飛ばされていった……。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 児玉元帥
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官

 ※ 事項

  • 扶桑政府   火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる

 

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誤訳日本の神話・3『日本列島を生む!……その②』

2021-01-16 05:38:46 | 評論

 日本の神話・3
『日本列島を生む!……その②』
     


☆オノゴロジマから淡路島

 イザナギ・イザナミの両神は、前回説明にもたついた矛で、サラダオイルにクラゲがプニプニしているところをコウロコウロ(昔の擬音は面白いですなあ)とかき混ぜて、矛を引き上げ、引き上げた矛から滴った一滴がサラダオイルにクラゲの所に落ちて、オノコロジマができました。

 なんとなく『ひょっこりひょうたん島』を思わせる名前ですね。

 そこに大きな柱をお建てになって、その柱をそれぞれ逆に回って出くわします。ここからが世界にも稀な即物的でおおらかな性描写になります。
「いやあ、ナミちゃんおひさ~! ところでさ、ナミちゃんの体ってどうなってんの? 男子って平気な顔しながら、とっても興味あんだよね(^▽^)/」
「ウフフ、あたしはね、一か所未完成で、溝になったままのところがあんのよ(n*´ω`*n)」
「え、そーなんだ!」
「そういうナギの体こそ、どうよ?」
「オレね、オレは完成しすぎて、余ってるとこがあるんだ。ね、だからさ、ナミちゃんの未完成で溝になってるとこに、オレのさ余っちゃってるとこ差し込んだら、国なんか出来ちゃうんじゃないかなあ(#^0^#)」

 なんというストレート! 

 この部分を訳して外人さんに言うと、みなさん嬉しそうに笑われます。外国ではキリスト教ができるまで、初めての人間はオオカミの子であったり、大きな鳥の卵から生まれたり(一種のトーテミズム)で、ごまかしております。聖書では、五日半かけて神が大地や自然を創ったあと、泥をこねあげて、自分の姿に似せてアダムが作られています。こんなアッケラカンと性描写しているのは、日本の神話ぐらいではないでしょうか。神代の日本人は大らかだったのですなあ(^▽^)/

 脱線しますが、日本には、その昔には歌垣(うたがき)という風習がありました。

 春だったか秋だったかのお祭りの夜に、ファイアーストームのように真ん中に火を焚いて、その周りを若い男女がハッチャケて歌い踊り、その間に気の合った男女が一組二組と抜けていき、そこいらへんの薮の中でイザナギ・イザナミと同じ行為に及びます。万葉集だったか日本書紀だったかに、こんな歌があります。

「小林(おばやし=薮)に 我を引入れて せし人の 面(おもて)も知らず 家も知らずも」

 実に大らか、そのものです。これ以外にも夜這いの習慣が、歴史的に、ごく最近と言われる明治期までありました。年頃になった娘は部屋を一つあてがわれ、毎夜村の若者がこっそり訪れていたすのです。そのうちに娘は目出度く妊娠します(今なら大問題ですが)両親は大喜びで娘に聞きます。
「で、父親は、いったい誰なんじゃ?」
 すると、娘はアッケラカンと指を折ります。
「えと、与作に吾作に喜六に清八……それから……」
 名前を挙げられた男子は、全員身に覚えがあるので、女の子の家に呼ばれます。で、娘はルックスや体格、人柄がアドバンテージで、絶対的な指名権があります。

 西南戦争(明治10年)の時、夜中に集団で陣地移動するときに、西郷隆盛が、あまりに真剣な移動に、思わず、こういいます。

「まるで夜這(よべ)のごたる」

 移動していた真剣な薩摩軍のあちこちから、忍び笑いの声がしたそうです。西郷の人柄を物語る有名なエピソードですが、当時でも夜這いが一般化していた証であろうと思われます。

 本題にもどります。

「それ、いよねえ(〃´∪`〃)。ね、テンション上げるために、もう一回りして、あたしの方からコクっちゃうから🎵」
 そう言って柱を回って、イザナミの方からコクります。
「う~ん、マブイ男じゃん。よろしくやっちゃおうよ!」

 こういうノリでいたして生まれた子が水蛭子(ひるこ)という手足の骨のない子で、葦の船に乗せられて流されてしまいました。

「これは、女子から声かけたんでまずかったんだぜ。今度はオレの方から声かけっから、やり直してみよーぜ!」
 と、二柱の神さまはお励みになり、今度は淡路島を生みました。だから、今でも淡路島には「日本最初の島だ!」という精神的な文化遺産があり、島の誇りになっています。

 水蛭子のことが気にかかりますが、水蛭子は、その後流れ着いたという伝承が各地にあり、恵比寿信仰のもとになったりしました。

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妹が憎たらしいのには訳がある・32『チサちゃんの墓参り』

2021-01-16 05:24:57 | 小説3

たらしいのにはがある・32
『チサちゃんの墓参り』
          

 

   


 日ごとにチサちゃんは変わってくる。

 チサちゃんは向こうの世界の幸子で、ひいひい祖父ちゃんの一人が違う(向こうの世界では、新潟に原爆が落とされ、源一というひいひい祖父ちゃんは亡くなっている)けども、五代もたつと、ひひ孫になる幸子とチサちゃんのDNAの違いは6・25%に過ぎず、見た目には、まったく区別がつかない。だから、こちらの世界で保護するときには、髪を短くしたり眉の形を変えたりしたが、挙措動作はまるで同じ。幸子がプログラムモードのときなど、薄暗がりだと区別がつかなかった。

 それが、最近微妙に変わってきた。

 例えば、ティーカップを持つときに小指を立てるようになった。呼びかけて振り返ったりすると微に小首を傾げて、幸子とは違った可愛さになる。念のため、幸子が可愛いのはプログラムモードのときだけ(俺以外の第三者がいるとき)で、本来のニュートラムモードでは、あいかわらず愛想無しの憎たらしさだ。ま、幸子本来の神経細胞は数パーセントしか生きておらず、うまく感情表現ができないのは仕方がないのかもな……と思ってもムカつくけどな。

「お父さんのお墓参りがしたいんです」

 チサちゃんが言い出した時は驚いた。チサちゃんの記憶は全てがバーチャルである。甲殻機動隊の担当が元ゲ-ムクリエーターで、そいつが創り上げたもので、バーチャルであるための不足や、矛盾が当然ある。
「ここがお墓。この日曜日が四十九日だから」
 ウェブで検索したら、《佐伯家の墓》というのが実際出てきた。

『その程度のことなら、もうバーチャル処理済みだ』

 里中副長の一言で墓参りに行くことになった。

 半分ピクニックみたいなお気軽なもの……それはチサちゃん自身の提案。幸子の企画で、筋向かいの佳子ちゃん優子ちゃん、バンドのみんなに里中副長親子、その他いろいろ付いてきた。
「おい、あれ、ナニワテレビの車じゃないのか?」
 こちらは、今やちょっとしたスターになった幸子の取材を目的に追っかけてきている。最初のサービスエリアに着いた時は、うちの車、高機動車のハナちゃん、レンタルのマイクロバスに、放送局と四台も車が並んでしまった。

 お墓は高台の墓地の一角にあり、真新しいオブジェのような墓石が建っていた。

 佐伯雄一というのがチサちゃんのお父さんということになっていて、親父とは従兄弟ということになっている。
 ナニワテレビのクルーも含め、みんなでお墓に献花し、本来なんの関係もない佐伯雄一さんの四十九日の法要を勤めた。里中副長が僧侶の資格を持っていて、導師を勤めてくれる。
「お父さんて、いくつ顔持ってんの?」
「資格だけで五十八。あと、わたしのCPに登録されていないものも幾つか……わたしにも分かんない」
 ねねちゃんは、にっこり答えた。ああ、この笑顔が青木拓磨をメロメロにしたんだなあ……俺自身、ねねちゃんのCPに同化して、一日使っていた義体なので、なんとも懐かしい。拓磨は、ねねちゃんのガードと称して、くっついてきているが、さすがにちょっかいは出さない。ねねちゃんを見る目が、女の子へのそれではなく、なにか師匠を見るような目になっている。
 
 目というと、俺がねねちゃんと喋っていると、佳子ちゃんと幸子の視線を時々感じる。この視線は、のちのち面倒の種になるのだけど、鈍感な俺は、まだ何も気がついてはいなかった。

 献花の途中で墓石の横を見ると、佐伯雄一の名前の横に佐伯千草子という名前が彫り込まれて赤く塗られていた。これは将来、チサちゃんもこの墓に入ることを意味していて、さすがにやりすぎだろうと感じた。

 法要のあとは、墓場を少し下ったところにあるキャンプ場で焼き肉パーティーをやった。ナニワテレビは気を利かしてカラオケのセットを貸してくれて、カラオケ大会になった。むろん抜け目なくカメラを回し、セリナさんは、ちゃっかり幸子の独占インタビューなんかやっている。

 あちこちで盛り上がっていると、肝心のチサちゃんが居ないことに気づいた。さっきまでいたのに……。

 チサちゃんは、墓場からつづら折れになった小道が下りきった葉桜の側にいた。
 側に寄ってみると、木の向こうの誰かと話している様子だった。
「チサちゃん……」
 声を掛けると、チサちゃんが振り返る。木の向こうの人も顕わになって振り返った。

 その人の姿に見覚え……え!? それは、墓で眠っているはずの佐伯雄一さんだった!
 

※ 主な登場人物

  • 佐伯 太一      真田山高校二年軽音楽部 幸子の兄
  • 佐伯 幸子      真田山高校一年演劇部 
  • 千草子(ちさこ)   パラレルワールドの幸子
  • 大村 佳子      筋向いの真田山高校一年生
  • 大村 優子      佳子の妹(6歳)
  • 桃畑中佐       桃畑律子の兄
  • 青木 拓磨      ねねを好きな大阪修学院高校の二年生
  • 学校の人たち     倉持祐介(太一のクラスメート) 加藤先輩(軽音) 優奈(軽音)
  • グノーシスたち    ビシリ三姉妹(ミー ミル ミデット) ハンス
  • 甲殻機動隊      里中副長  ねね(里中副長の娘) 高機動車のハナちゃん
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