大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・187『留美ちゃん、ちょっと!』

2021-01-20 13:26:45 | ノベル

・187

留美ちゃん、ちょっと!さくら   

 

 

 留美ちゃんのお母さんは大和川を超えた大阪市内の病院に勤めてはる。

 

 病院は、去年の春から指定感染症、つまりコロナ患者を収容する病院になって、もう目の回るような忙しさ。

 こないだお見舞いに行った専念寺さんが入院してる病院は普通の病院で、外来は例年の半分ちょっと。

 患者さんらはコロナになったらあかんので、お医者さんやら病院に行くのは控えてる。

 コロナ以来、マスクや手洗いを徹底するようになったんで、風邪やらインフルエンザに罹る人は劇的に減ったいうこともあんねんけど、一部のコロナ病院は医療崩壊も心配されるほどのてんてこ舞い、その他の病院は倒産が噂されるほど暇らしい。

 ちょっとググってみたら、コロナを引き受けてるのはわずか3%の病院。あとの97%はコロナを引き受けへんし、普通の患者さんもこーへんようになって閑古鳥で、暮のボーナスもでえへんとこがあったとか。なんか、日本て歪んでるなあ……。

 留美ちゃんのお母さんは、その3%の方の病院に勤めてる。せやさかい、メッチャ忙しい。

 留美ちゃんは、忙しいお母さんに代わって、家事一般はなんでもこなす。

 せやから、心配はないと思うねんけど、夕べの電話は、いつもの留美ちゃんと違う。

『お母さんが……お母さんが……コロナに罹っちゃったああ……』

 言葉の尻尾は、もうほとんど泣き声やった。

 けど、人にみっともないとこは見せられへんいう気持ちやねんやろか……最後に、グッと息をのみ込むと、電話でも分かるくらいに息を整えて、こう言うた。

「でも、さくらちゃんに言ったら、落ち着いた。どうもありがと……うん、大丈夫、ずっと家の事はやってきたし、ヘッチャラだよ。じゃ、明日は元気に学校いくね(^▽^)」

 なにか言ったげなあかん!

 気持ちは焦んねんけど、なんにも言われへんで電話は終わってしもた。

 留美ちゃんの不安な気持ちが伝染ってしもて、その夜はダミアをダッコして寝てしもた。

 

 おっちゃんに相談しよとも思たけど、うちも、居候の身。なかなか、相談の口火を切られへん。

 

 ちょ、留美ちゃん!?

 学校で顔を合わせてビックリした。

 けしてオシャレをするような子ぉやないねんけど、いっつも清潔な身なりをしてて、好感度の高い子ぉやった。

 それが、制服はシワクチャやし、髪は梳かした形跡もないボサボサ頭。

「留美ちゃん、ちょっと!」

 廊下で見かけた留美ちゃんの手を取って、文芸部のもともとの部室に連れて行く。

 部活は、ほとんどうちの本堂裏の座敷でやってんねんけど、正規の部室は図書室の分室。

 机の向かい同士に置いてある椅子を、この時ばかりは横に並べて、留美ちゃんの肩を抱いたまま座る。

「留美ちゃん、なんでも言うて!」

 コロナに罹らはったんやから、たとえ娘でも面会謝絶ぐらいにはなってると思て、腹を据えて聞く態勢になる。

「着替えとか……当面必要なものを持って、病院に行った……」

「うん……それで?」

「病院の中にも入れなかったよ……二時間待って、やっと知り合いの看護師さんと……受付の窓越しに話が……」

「うん、話はできてんね」

「自発呼吸……できなくて人工呼吸になってて……」 

 さすがはベテラン看護師の娘で、うちの知らん用語やら数値がでてくる。知らん用語やから覚えようもないねんけど、留美ちゃんがいっぱいいっぱいいうのんだけは分かる。

 うちも留美ちゃんも、入学以来初めて授業をサボってしもた……。

 

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滅鬼の刃・7『MT世代』

2021-01-20 08:58:54 | エッセー

 エッセーノベル    

7・『MT世代』   

 

 

 明治大恋歌(歌:守屋浩 作詩:星野哲郎 作曲:小杉仁三)というのがありました。

 日露の戦争大勝利 まだうら若き父と母……という歌いだしです。

 テレビの歌謡番組で観た記憶があるので、たぶん小学校のころに流行った歌です。

 坊ちゃんみたいなコスの守屋青年が歌っていました。美空ひばりが『やわら』を歌った時に、ああ、守屋青年と同じ衣装だと感じましたから、『やわら』以前なのでしょう。

 すごいですね、父と母が日露戦後……だから、1905年~1910年ぐらいのことでしょう。

 今からだと110年くらい昔の事です。

 1953年生まれのわたしの祖父母がこれくらいの生まれです。歌の二番に『十九歳の母』とありますから、まさにこの世代。

 今は、明治生まれも稀ですね。明治末年の生まれでも112歳を超えてしまいます。

 子どものころは、大正生まれが働き盛りで、明治生まれも人によっては現役で働いておられました。

 よっぽどの年寄りと言うと元治とか慶応とかの年号がつく江戸時代の人間でした。

 

 で、なにを懐かしんでいるのかと言うと、年寄りのありようなんです。

 

 グ-タラ人間のわたしは、きちんと就職したのは28の歳でした。

 職場には組合の青年部というのがあって、入ると同時に青年部なんですが、一年後には青年部ではなくなりました。

 高校を四年、大学を五年、そして就職浪人を三年、よく親が許していたものです。

 アルバイトはやっていました。

 運送会社、着ぐるみ、テレビのエキストラ、ビラ撒き、選挙の運動員、学校の賃金職員、非常勤講師などなど……

 言い訳として「学校の先生になる!」と言って、毎年受かりもしない採用試験を受けていました。

 で、明治大正生まれです。略してMTとします。

 MTの人たちは、お節介というか、面倒見がよかったですねえ。

「大橋、こんな仕事があるぞ」「こういう募集があるぞ」「こんなやつが居るから会ってこい」

 いろいろ勧めていただきました。

 大学の四回生の時に母校であるA高校の先生から電話がかかってきました。

「大橋君、郵便外務員の募集があるけど、資料とりにおいでよ」

 教員採用試験を二回落ちていたわたしは「ありがとうございます」と電話に頭を下げて母校の進路指導室に行きました。

 A4のプリントに要項が印刷されていて、一つ下の後輩といっしょに梅田の中央郵便局に申し込みにいきました。

 当時は、まだまだ実験段階だったハイビジョンテレビが展示してあったのを憶えています。受験も仕込みをしたことよりも、試作品のハイビジョンに感動していました。まだ液晶など無かったので、おそらくはブラウン管。どんな造りになっていたんでしょう。

 そして、試験を受けて……落ちました。

 後輩は無事に合格して、数年前定年を迎えました。

 もし、あの試験に受かっていたら、わたしも定年まで郵便屋さんをやっていたでしょう。きっと、その後、カミさんと出会うこともなく、従って、息子も生まれておりません。

 もし、息子が、わたしに似て凡庸を絵に描いたようなニイチャンなのですが、息子の子どもが学者になってすごい発明をしたり、総理大臣とかになったら、わたしが採用試験に落ちたのは、未来人がタイムリープして細工をしたから!?

 アハハ、これは売れない作家の妄想ですなあ(*ノωノ)。

 大学に行きながら母校の部活にはマメに通っていました。

 六時間目の終わりに部室に入って、現役たちが授業が終わるのを待っていました。

 今だと、変な卒業生というので、生徒や先生からも警戒されたでしょう。わたしも後に教師になりましたが、こういう卒業生がいたら――ちょっと危ない奴――と認識して注意したでしょう。

 先生たちは、そんな――ちょっと危ない奴――を放置しておくだけなく、いろいろと声をかけてくださり、産休実習助手の仕事さえ世話してくださいました。

 それが終わると保健の統計員、そして非常勤講師、さらに、採用試験の指導までしていただきました。

 他にも本職の手前まで行ったアルバイトがいくつもありました。

 グータラな、今風に言うとニートのニイチャンを世話してくださり、その人たちの大半がMTでありました。

 

 十数年後、複数の家庭訪問をこなすために職場から自転車を漕ぎ、ショートカットのために四天王寺の境内を走っていました。

 初夏には間がありましたが、もう三十分も走っていたので、自転車を止めてお茶のペットボトルを開けました。

 すると、五十メートルほど離れた回廊の戸から特別な法会でもあったのかキラキラの法衣を身にまとった老僧が従僧を連れて出てこられ、わたしの方を向いてニコニコとしておられます。

 すぐに、高校生のころ部活の連盟の会長をなさっていたS高校のT校長先生であったと思い出しました。

 当時の連盟の会長というのは名誉職というか、対外的な連盟の看板でありました。

 連盟の生徒役員をやっていたわたしは、二三回お会いしたことしかありません。

 噂では四天王寺の管主というかトップにおられることを知っていましたが、まさか二三度しか顔を観ていない他校の生徒を憶えておられるとは思いもしません。

 これは、わたしの近くに居る他の人を見ておられるんだと思い、でも、こちらを見ておられるならご挨拶……思っているうちに、お堂に入ってしまわれました。

 挨拶し損ねてから思い出しました。

 五回生の秋に、そのS高校で働かないかとS高校のF先生から話がありました。いろいろあって実現はしませんでしたが、私学の教師が自分の繋がりで若い教師をとろうとする場合、必ず、管理職や理事に話しを通しています。

 おそらく、S先生もご承知であったことなのでしょう。

 MT世代と言うのは、とにもかくにも若い者の面倒をよく見てくださいました。

 この面倒見の良さというか、人によってはお節介と感じるものが、若い人にはうろんなことのように見えるかもしれませんが、わたしの周囲に居たMT世代は、文句を言うことはあっても見返りを求めるようなことはされませんでした。

 書いているうちに、いろいろMT世代のことを思いだしましたが、また稿を改めて書きたいと思います。

 

 

 

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誤訳怪訳日本の神話・7『ヨモツヒラサカ 女は怖い! その②黄泉醜女』

2021-01-20 06:08:35 | 評論

訳 日本の神話・7
『ヨモツヒラサカ 女は怖い! その②黄泉醜女 』  


 石室の中のイザナミの腐り様は簡単に言えばゾンビですなあ。

 神さまのゾンビなので、体のあちこちに雷が付いて稲妻が走っていて、キモイというよりは危険であります。

「見たなあああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

「イ、イザナミ……(;'∀')」

「あれだけ覗いちゃいけないって言ったのにいいいいいいいいいいいいいいいいい!」

 ゾンビを相手に話し合いもなにもあったものではないので、イザナギはひたすら逃げます。
 イザナミは黄泉軍(よもついくさ=死の世界の軍隊)と黄泉醜女(よもつしこめ=死の世界のブス)たちに追いかけさせます。
 まあ、ゾンビの大群です。
 ちなみに、ここに出てくる黄泉醜女は、日本の文献史上初のブスであります。
 
 このくだりの主題は、とても恐ろしいものが追いかけてくるということです。今の時代ならゾンビとかゴジラになりますが、記紀神話の昔では女であります。

 女は怖いというメッセージの他に、女は強いというメッセージがあるように思います。

 日本は、他のアジア諸国に比べ女性の力が強かった……と言うと疑問に思われるでしょうか?

 話が逸れるようですが、夫婦別姓から考えてみたいと思います。
 結婚して女性の苗字が変わるのは差別だと言う考えがあります。その論拠に「中国や朝鮮半島では夫婦別姓だぞ!」というご意見があります。
 たしかに姓だけを考えれば別姓なので、中国や半島の方が進んでいるように思えますが、事実は真逆です。
 中国や半島の古代では、女性は結婚しても、極端な言い方「家族とは認められない」のです。だから姓は変えられないのです。
 日本では鎌倉時代あたりまでは女性の相続権が認められていました。荘園や領地の相続に女性が名を連ねていることもありました。

 昔は「三下り半」で、女は離婚させられたという言い方がされますが、これも逆の言い方ができます。
 男は離婚する場合「三下り半」を女性に渡さなければならなかったという方が実際であったように思います。
 もちろん、今の時代から比べると女性の地位が低かったのは事実です。
 が、その時代の世界的な状況の中で見ると、女性の地位は高かったように思います。幕末にやってきたペリーなどの外国人たちも「他のアジア諸国に比べると女性の地位が高い」と評しています。

「三下り半」に戻ります。

「三下り半」を出す男は、女性に相応の財産分与をしなければなりませんでした。また、三下り半があれば、きちんと離婚したということで、その後女性は再婚することができます。
 つまり、離婚するにあたっては、男も、それなりのことを女性にしてやって、その後の女性の自由を保証する、そのシルシが「三下り半」であったわけです。
 一言で言えば「昔の日本は、それほどひどくはなかった」ということと「女性は、けっこう元気だった」ということであります。

 日本の中世までは「うわなりうち」というものがありました。

 亭主の浮気が分かった時、正妻は浮気相手の住まいまで行ってボコボコにする権利がありました。
 歴史上有名なものでは源頼朝があげられます。頼朝の浮気を知った北条政子は武装して侍女たちを引き連れ「うわなりうち」をかけ、家をむちゃくちゃに壊しただけでなく、女を鎌倉から追放、頼朝はなにも反論できませんし、社会も「政子が正しい」と判断しました。

 だから、イザナギを追いかけるのは黄泉醜女たちなのです。黄泉軍は最初に出てくるだけで、イザナギの逃走中は黄泉醜女ばっかりです。
 足の速さだけでは黄泉醜女からは逃げられません。

 この、イザナミとヨモツシコメの恐ろしさは、アニメの『ノラガミARAGOTO』に今風にうまく描かれています。

 イザナギは三つのマジックを使って逃げおおします。マジックフライトと言いますが、次項で触れたいと思います。

 

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妹が憎たらしいのには訳がある・36『幸子の変化・2』

2021-01-20 05:46:57 | 小説3

たらしいのにはがある・36
『幸子の変化・2』
          

 

       


 出てきたのはAKR総監督の小野寺潤だ。

 そして、横のひな壇にも小野寺潤が……。


  ええええええええええええええええ!?


 スタジオのどよめきが頂点にさしかかったころ、MCの居中と角江が、さらに盛り上げにかかった。
「こりゃ大変だ、潤が二人になっちゃった!」
「い、いったいどういうことなんでしょうね!?」
 二人の潤は、それぞれ、自分が本物だと言っている。
「でも、あなたが本物なら、わたしは何なんでしょうね?」 
 二人の潤は、まだ演出の一部だろうと余裕がある。
 二人の潤を真ん中にして、メンバーのみんなが、マダム・タッソーの蝋人形と本物を見比べる以上の興奮になってきた。
「蝋人形は、動かないから分かるけど、こんなに動いて喋っちゃうと分かんないよ」
 メンバーの矢頭萌が困った顔をした。
「じゃ、じゃあ、みんなで質問してみよう。ニセモノだったら答えられないよう質問を!」
 居中が大声で提案。二人の潤を真ん中のまま、みんなはひな壇に戻り、質問を投げかける。


「飼っている猫の名前は?」
「小学校のとき、好きだった男の子は?」
「今日のお昼ご飯は?」

 などと、質問するが、その多くはADさんがカンペで示したもので、俺たちもそんなには驚かない。
 幸子と小野寺潤は骨格や顔つきが似ていて、幸子のモノマネのオハコが小野寺潤なので、今日は、ずいぶん力が入ってるなあ……ぐらいの感触だった。
「じゃ、じゃあね、ここに小野寺さんのバッグ持ってきました。中味を御本人達って、変な言い方だけど、当ててもらいましょうか」
 角江がパッツンパッツンのバッグを持ち出した。
「公正を期すため、フリップに書きだしてもらおうよ。1分以内。用意……ドン!」
 スタジオは照明が落とされ、二人の潤が際だった。

「「出来ました!」」

 二人の潤が同時に手をあげ、それがおかしくて、二人同時に吹きだし、スタジオは笑いに満ちた。
「さあ、どれどれ……」
 角江が回収して、フリップがみんなに見せられた。
「アララ……順番は多少違いますが……違いますがあ……書いてることはいっしょですね」
「じゃ、とりあえず、バッグの中身をみてみましょう。角江さん、よろしく」
 角江が、バッグから取りだしたものは、若干の間違いはあったが、フリップに書かれた中身と同じだった。
「まあ、これは、予想範囲内です」
「ええ~!?」スタジオ中からブーイング。
「じつは、一人は潤ちゃんのソックリさんです。あらかじめ情報も与えてあります。でも、ここまで分からないなんて予想しなかったなあ」
「どうするんですか、居中さん。このままじゃ番組終われませんよ」
「実は、このフリップはフェイクなんです。中身はソックリさんにも教えてあります。だから、同じ内容が出て当たり前。これから、このフリップを筆跡鑑定にかけます。中身はともかく、筆跡は真似できませんからね。それでは、警視庁で使っている筆跡鑑定機と同じものを用意しました!」

 ファンファーレと共に、筆跡鑑定機が現れた。

「これ、リース料高いから、いま正体現さないでね……」
 おどけながら、居中はフリップを筆跡鑑定にかけた。二人の潤は「わたしこそ」という顔をしていた。
 三十秒ほどして、結果が出た……。
「そんなバカな……」

 鑑定機が出した答は『同一人物』だった。

「したたかだなあ、ソックリさん。筆跡まで……え、あり得ない?」
 エンジニアが、居中に耳打ちした。
「同じ筆跡は一億分の一だってさ!」
「「わたしのほうが……」」
 同時に声を出して、顔を見合わせて黙ってしまった。

「太一、過剰適応よ。メッセージを伝えて」
「メッセージ?」
「二人に向かって、『もういい、お前は幸子』だって気持ちを送ってやって……」
 俺は、機転を利かしフリップに小さく「おまえは幸子だ」と書いて気持ちを送った。

 やがて……。

「ハハ、どうもお騒がせしました。わたしがソックリの佐伯幸子で~す!」
 おどけて、幸子が化けた方の潤が立ち上がった。
「ビックリさせないでよ。予定じゃ、筆跡鑑定までに正体ばれるはずだったのに! 浜田さんも言ってくれなきゃ」
 ディレクターまで引っぱり出しての、お楽しみ大会になった。

 それから、幸子は潤とディユオをやったり、メンバーといっしょに歌ったり踊ったり。週刊メガヒットは、そのとき最高視聴率を叩きだして生放送を終えた。

「本当の自分を取り戻したくて……でも……CPのインスト-ル機能が高くなるばかりで、わたし本来の心が、なかなか蘇らない」
 潤の姿のまま、幸子は無機質に言った。感情がこもっていない分、余計無惨な感じがした。
「でも、オレのメッセージは通じたじゃないか。『おまえは幸子』だって」
「……そうだよね。それで、廊下で小野寺さんと入れ違って、ここまできたことが思い出せたのよね」
「少し、進歩したんじゃないのか」
「でも、小野寺潤が固着して、元に戻れない。メンテナンス……メンテナンス……」
 そして、電子音がして、幸子は止まってしまった。
「……さあ、またメンテナンスか……」
 そのとき、幸子の口が動いた。
「わ、わたし、自分で……」
「わたしが、シャワールームに連れていく」
 お袋が、幸子をシャワールームに連れて行った。廊下で待っている心配顔の仲間には「幸子、ちょっと横になっているから」と説明。直後、お袋が俺を呼んだ。


「太一じゃなきゃ、だめみたい」

 シャワールームで、幸子は裸で、背中を壁に預けて座っていた。
 何度やっても、これには慣れない。
 幸子を見ないようにキーワードを口にする。
「メンテナンス」
 ……反応しない。もう一度繰り返すが、やっぱり幸子は動かない。
 くそ……見ながら言わなくっちゃならないってか。
 視線を幸子に向ける。見てくれが小野寺潤のスッポンポンなので、どうにもドギマギする。
 さすがにアイドルグループのセンターを張るだけあって、無駄のない引き締まった身体をしている。胸がツンと上向きになってるとこや、シャープな腰のクビレとか谷間のとことか……いかん、さっさと済ませよう。

「メンテナンス」

 視線を固定して呟くと、幸子はゆっくりと膝を立てて開いていった……。

 

※ 主な登場人物

  • 佐伯 太一      真田山高校二年軽音楽部 幸子の兄
  • 佐伯 幸子      真田山高校一年演劇部 
  • 千草子(ちさこ)   パラレルワールドの幸子
  • 大村 佳子      筋向いの真田山高校一年生
  • 大村 優子      佳子の妹(6歳)
  • 桃畑中佐       桃畑律子の兄
  • 青木 拓磨      ねねを好きな大阪修学院高校の二年生
  • 学校の人たち     加藤先輩(軽音) 倉持祐介(ベース) 優奈(ボーカル) 謙三(ドラム) 真希(軽音)
  • グノーシスたち    ビシリ三姉妹(ミー ミル ミデット) ハンス
  • 甲殻機動隊      里中副長  ねね(里中副長の娘) 高機動車のハナちゃん

 

 

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