大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・185『後出し年賀と初釜』

2021-01-04 13:19:58 | ノベル

・185

『後出し年賀と初釜』さくら   

 

 

 去年の内に出した年賀状は二十枚。

 元日と三日の日に来た年賀状は二十二枚。

 で、四日の今朝は三枚の年賀状をポストに入れに行く。

 え、数が合えへんて?

 22-20=2やろてか?

 あのね、予想せえへんかった人から三通来たわけですわ。

 それを後出し年賀で出しにいくわけ。

 後出しのうちの二通は小学校のころの友だちと、六年の時の担任の先生。

 うちは、卒業と同時に引っ越ししたから、もう小学校関係の人らとは切れてしもてたと思てた。

 去る者は日日に疎して言うやんか。

 引っ越してへんかったら、中学も一緒やったやろし、街で出会うこともあるやんか。

 コンビニとか行ったら、バッタリ出会って「お久しぶり(^▽^)/」ってなノリでね。

 それが大和川の向こうに行ってしもたら、もう、ほとんど別世界に行ったようなもん。

 せやさかい、この友だちの年賀状は嬉しかった。

 この友だちについて喋りたいねんけど、喋り出したら止まらへんよってに、またね。

 もう一通は、六年の担任の先生。

―― 明けましておめでとう、元気にやっていますか? コロナで大変な一年でしたね、卒業式では『また遊びにおいで』と言いましたが、三密とかがあるからね。でも、春にはワクチンも出来てコロナも下火になるでしょう、そうしたら、また会えるでしょう。その日まで元気にね! ――

 なんや、ウルっときてしまいました(ノェ`*)。

 返事は、なんて書いたかて? それはナイショ。

 

 もう一通は……誰やと思う?

 

 越本鸞。

 苗字は分からんでも、名前でピンとくるでしょ。

 ほら、専念寺のゴエンサンの孫娘。

 病院にお見舞いに行った時、めっちゃブチャムクレてた子お。

 ゴエンサンと言い合いしたまんまの顔で、うちのこと睨みつけていきよった。

 ほんでも、ネコには優しいて、交通事故で母ネコを失った子猫を引き取ったりして。

 その鸞ちゃんからの年賀状。

―― 謹賀新年 昨年は祖父のお見舞いに来てくださって、ありがとうございました。祖父の代わりに年賀状を書いている年の瀬なんですが「如来寺の娘さんには鸞の名前で出しなさい」と言います。そうですよね、祖父の名前なのに女子高生丸出しの字では笑っちゃいます。子ネコも順調に育っています。あ、名前は『ポン』とつけました。やっと離乳食を食べてくれるようになりました。 ――

 病院では、メッチャ印象の悪い子ぉやったんで、なんやホッコリしました。

 ポストに投函しての帰り道、田中米穀店の前を通ったら、「やあ、さくらちゃん、おめでとうさん。ちょうど初釜があがったとこや!」とニコニコ顔。

 初釜て、お茶?

 と思たら、新聞紙でくるんだ焼き芋をくれました。

 そうそう、田中米穀店は去年から焼き芋も始めてたんです。

 昨日までの寒さも緩んで、正月らしい青空の下、焼き芋で温もりながら家に帰りました。

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妹が憎たらしいのには訳がある・20『6・25%のDNA』 

2021-01-04 06:48:39 | 小説3

たらしいのにはがある・20
『6・25%のDNA』
          

    

 


「おはよう」の声はいつもの通りだ。

 昨日、大阪城公園の路上ライブから帰ってからの幸子は変だった。
 普段の無機質に歪んだ笑顔をしないのだ。
 いつもならパジャマの隙間から胸が見えてると言っても平気でいるのに、夕べは頬を赤くして怒っていた。

「おはよう」の声がいつも通りなんで俺は試してみた。
「第二ボタン、外れてるぞ」
「うん……」
 狭い洗面所の中だったので、いっそう丸見えだったけど、いつものように気にもしない。
 顔を洗うので、洗面台を交代しながら幸子がささやいた。
「あとで、わたしの部屋に来て」
「お、おお……」
 なんだか機先を制されたみたいでカックンなんだけど、いつものように顔を洗う。

 洗顔を終えて幸子の部屋へ。
 
「夕べ、別のわたしがいたでしょう」

「幸子、こういう状況で、部屋に人を入れるもんじゃないぜ。たとえ兄妹でもな」
 幸子は下着一枚で姿見の前に立っている。
「ごめん、ニュートラルにしとくと、こういうこと気にならないもんだから」
 そう言って、幸子は服を着だした。
「オレも、夕べの幸子は変だと思った。話が合わなかったし、恥じらいってか、自然に女の子らしかった」
「わたしも。このパンツ、わたしのじゃないし」
 スカートを派手にまくって、相違点を指摘する。
「だから、そういうところを……」
「うん、プログラム修正……だめだ」
「どうして?」
「これ、修正しちゃうと、お兄ちゃんにメンテナンスしてもらえなくなる。メンテナンスの時はニュートラルでダウンしちゃうから、恥じらいをインストールしちゃうと、裸になったり、股ぐら開いたりできなくなる」
「せめて、そのダイレクトな物言いを……」
 構わずに幸子は続けた。
「わたしのパンツも一枚無くなってる……確かね、パラレルから別のわたしが来た」
「オレも、こんなのシャメったぞ」
「盗撮?」
「あのな……」
 俺は、風呂上がりの幸子の様子が変だったので、後ろ姿を写しておいたのだ。タオルで髪を巻き上げていたので、耳の後ろがよく見えている。耳の後ろの微妙な皮膚の盛り上がりがない。
「これ、右側だよ。コネクターは左側」
「これ、リビングの鏡に写ったの撮ったから、左右が逆なんだ」
「情報修正……お兄ちゃんは記録より少し賢い」
「コネクターが無いということは……」

「この幸子は義体じゃない」

「じゃ、小五の時の事故は起こってないってことか」
「……そういうことね。夕べ向こうのパソコンで検索したんだけど、大事なところで違いがあるの」
 幸子は、ケーブルを自分のコネクターとパソコンを繋いだ。
「アナログだなあ、ワイヤレスじゃないのか」
「ワイヤレスだと、誰に読まれるか分からないからよ」


 数秒して、画面が出てきた。ウィキペディアの第二次大戦の情報のようだ。


「ここ見て。原爆は、広島、長崎……そして新潟に落とされてる」
「新潟に?」
「こっちの世界でも、投下の候補地にはなったけど、グノーシスの中で情報が交換されて、こっちの世界では、新潟への投下は阻止された。他にも、いろいろと相違点がある」
「パラレルワールドの誤差だな」
「ううん、互いに意識して、グノーシスたちが変えたものがほとんど」
「グノーシスって……」
「お兄ちゃんが想像している以上の存在。わたしも全部は分かっていない。ちょっと、これ見て」
 幸子は、写真のフォルダーを開いた。
「あっちの幸子はマメな子ね。親類の写真をみんな保存しているの……これよ」
 そこには「ひいひいじいちゃん・里中源一」と書かれた実直そうな青年が写っていた。
「うちの親類に、里中ってのはあったかな……」
「こっちの世界で、これにあたるのは……山中平吉」
 パソコンには、お父さんのアルバムの中にあった、お父さんのひいじいちゃんの写真が出てきた。
「向こうの世界じゃ、この平吉さんは、新潟の原爆で亡くなってるの」
「……ということは」
「八人のひいひいじいちゃんが一人違うってこと。だから佐伯家は、向こうとこっちじゃ、微妙にDNAが異なる。玄孫(やしゃご)の代じゃ6・25%、外見的に影響ほとんどないけどね」
 俺の頭の中で、何かが閃いたが、お袋の一声で吹っ飛んだ。
「幸子、太一、朝ご飯早くして! 片づかなくて困る!」

「……でも、幸子、モノマネ上手くなったな。テレビの取材なんか受けてたじゃん」
 俺は歯に挟まったベーコンをシーハーしながら、ナニゲに聞いた。
「うん、自分でも止まんないの……あ、また」
 
 こっちを向いた幸子の顔は点滅信号のように優奈と佳子ちゃんの顔に交互に変わった……。

 

※ 主な登場人物

  • 佐伯 太一      真田山高校二年軽音楽部 幸子の兄
  • 佐伯 幸子      真田山高校一年演劇部 
  • 大村 佳子      筋向いの真田山高校一年生
  • 大村 優子      佳子の妹(6歳)
  • 学校の人たち    倉持祐介(太一のクラスメート) 加藤先輩(軽音) 優奈(軽音)
  • グノーシスたち   ビシリ三姉妹(ミー ミル ミデット) ハンス

 

 

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やくもあやかし物語・49『制服にアイロンをかける』

2021-01-04 06:39:05 | ライトノベルセレクト

物語・49

『制服にアイロンをかける』     

 

 

 

 やっぱし……。

 

 そう呟くのは三回目……いや、四回目かな?

 さっき黒電話が鳴って、受話器を取るといつもの交換手さん。

――念のために申し上げておきますが、えりかちゃんは人ではありません――

 ちょっとお節介な気がした。

「分かってるって、あんな小さい子が土筆やお料理のあれこれ知ってるわけないもん」

――気づいておられたのならいいんですが、えりかちゃんの正体は……――

「いいよ、分かってるから」

――そうですか、ならいいんです。後々になって分かったらショックじゃないかって……――

「どうも、ありがとう」

 ガシャリ!

 それだけ言って電話を切った。

 

 この家に越してから親しくなった人間は少ないんだけど、ヘンテコな知り合いは多い。

 ペコリお化けとか四毛猫とかツインテールのメイドお化けとか……いまの交換手さんだってお化けの一種だ。

 でも、意識しないことに決めたんだ。

 

 分かってるって……ああ、四回目、五回目? ああ、失敗したじゃないか。スカートのヒダが二重になっちゃった。

 明日は卒業式。

 わたしが卒業するわけじゃない。うちのクラスが在校生代表のクラスに当たったので式に参列するんだ。

 だから夕飯食べてから制服にアイロンをかけている。

 クリーニングに出すのは終業式がすんでからだけど、やっぱ、パリッとしていたいしね。せめてアイロンと思ったわけ。

 もちろんあて布とかしてね。テカっちゃうのやだもん。

 シュッと霧吹き。

 アイロンにはスチーム機能が付いてるんだけど、変に蒸気が漏れるのがおっかなくて霧吹きにしている。

 ジュワアアアアア ブチブチブチ……

 それでも霧吹きしすぎて派手な音がする。

 モワ~っと小さな湯気が立ち上る。

 

 ……湯気が人の形になっていく。

 

「オッス、冴えないやくも」

 のっけから嫌なことを言う。人の形はニ十センチほどしかないので声も小さい。嫌なことを言ってから湯気は小さなわたしの姿になった。なんだかハツラツとしている。

「だろ。こういうやくももあったかもしれないんだよ」

 チビやくもは、クルンとスピンしてミュージカルのような決めポーズになる。

「どうよ!」

「うっさい!」

 決めポーズの上からアイロンを押し当ててやる。

「ちょ、なにす……!」

 プシューーー!

 チビやくもはノシイカみたくペッタンコの二次元になった。顔も体も三次元の倍ほどに広がってメッチャ不細工。

 ざまあみろ。

 もう一度アイロンをあてると消えてしまった。

 二重になったヒダもきれいにプレスできて、メデタシメデタシ……。

 

 

 ☆ 主な登場人物

    • やくも       一丁目に越してきた三丁目の学校に通う中学二年生
    • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い
    • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
    • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
    • 小出先生      図書部の先生
    • 杉野君       図書委員仲間 やくものことが好き
    • 小桜さん      図書委員仲間
    • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫
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