大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

滅鬼の刃・3・『正月の日の丸』

2021-01-01 08:48:43 | エッセー

 エッセーノベル    

3・『正月の日の丸』   

 

 

 昔の正月と言うとしめ縄と日の丸が当たり前でした。

 そう、正月三が日は旗日でありました。

 会社や大きな商店ではしめ縄・日の丸どころか門松が門前に据えられていました。

 

 昔と言っても戦前の話ではありません。わたしが子どもの頃の正月ですから、昭和四十年くらいまでのことです。

 元日の朝、年賀状を郵便受けから出そうと表に出て見ると、人気(ひとけ)のないことと、大晦日とは打って変わったしめ縄と軒ごとに日の丸が並んでいる新鮮さに、子どもながら『年が改まった』と感じたものでした。

 いまは、門松はおろか、しめ縄も日の丸もほとんど見かけません。

 いまは、昔、門松があったくらいの割合でしか日の丸を見かけません。

 いまは、学校や官公庁には年がら年中日の丸が揚がっています。

 

 学校に勤めていたころ、入学式や卒業式を控えた職員会議では『日の丸の掲揚』が問題になりました。

 

 校長が、日の丸の掲揚をお願いすると、組合の分会長あたりが手を挙げて「日の丸は侵略戦争の象徴であって、学校の行事に掲揚することはそぐわない」と反対します。議長が「他にご意見はありませんか?」とふると、数名の先生から手が上がります。

「国旗にアイデンティティを求めるのはアナクロです」

「日の丸は国民的な同意を得ていない」

「侵略戦争の意味を考察することなく掲揚することは許されない」

「外国籍の生徒だっているんです」

「日の丸問題を教育現場に持ち込むな」

「日の丸の強制は戦時政策で、戦時中そのものだ」

 と、まあ、こんな意見が述べられます。

 で、「それでも日の丸は掲揚します」と校長が宣言しておしまい。

 

 当初は、式の時間に校長室に優勝旗のように飾られるだけでした。

 次に、グラウンドや屋上のポール、その次には式場の隅に、その次の次には壇上の隅、その次に演壇の横、その次には舞台の正面に校旗と並んで掲げられる現在の形になり、式の最初に唱和する『君が代』とセットになって今に至っています。

 子どもの頃の記憶があるわたしは運営委員会や職員会議で「戦後も平気で揚げていました、日の丸の忌避は野党やマスコミの日本批判の『ためにする』シンボルにすぎません」的なことを発言してきました。

「侵略戦争の残滓であるという事実に目をつぶっている!」的な反対意見に袋叩きの目に遭ってきました。

 特にあの戦争の戦時政策を研究しているわけではありませんでしたが、記憶をもとに意見を述べました。

「戦時政策の残滓なら、他にいっぱいあります」

 みんな「はて?」という顔になります。

「電鉄会社や電力会社、ガス会社などは大手企業の寡占状態ですが、これは戦時中に戦争遂行のために統合されたものです。東京が都政を布いて東京市を廃止にしたのは戦時中です。日本語を横書きにする場合、左から書きますね。あれは委任統治領であった南洋の人たちが「右書き左書きが混在しているので、南洋の人たちが混乱する」と南洋庁からの申し出があって、戦時中に左書きを標準とすることに政府と軍部が決めました。ことほどさように、戦時政策は改正されることなく続いているのです。そこを言わないで日の丸だけを目の敵にするのは、間違っておりませんか。戦時政策の残滓を解消するならば、横書きを右書きにし、東京市を復活し、寡占企業を解体する事こそ大事で、分かりやすくはないですか」

 こういうことを発言してきました。

 みなさん黙っているか、それ、ほんまか? という顔をなさっていました。

 組合や政党の支持や闘争方針にはないことなので、どう理解していいかお分かりにはならなかった様子でした。

 まあ、上から下りてきたドグマを無批判に信じてきたことからくる一種のゲシュタルト崩壊であります。

 このドグマは先生たちにとっては学校と言う狭い世界でアイデンティティを維持するための滅鬼の刃でありました。

 あまりに狭い世界でしか通用しない滅鬼の刃だったので、とっくに擦り減って、翩翻と日の丸が翻っております。

 かつて日の丸に反対した先生の幾人かは、校長になって、昔からそうであったかのように「日の丸は国旗であります、学校に国旗を掲揚するのは当たり前です」のフレーズで絶滅危惧種になった先生たちを瞬殺しておられます。

 

 

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妹が憎たらしいのには訳がある・17『パラレルワールド』

2021-01-01 06:31:35 | 小説3

たらしいのにはがある・17
『パラレルワールド』
          

 

       


 バグっていたアクション映画が急に再生に戻ったような衝撃がやってきた……。

 ドッカーン! ガラガラガッシャーン! ガッシャンガッシャン! グシャ! グチャ! コロン……。

 様々な衝撃音、飛び交う破片、大勢の叫び声……それが女の子たちの泣き声に変わったころ、ようやく冷静さを取り戻した。


 飛行機は、グラウンド側から突っこみ、視聴覚教室を破壊し、飛行機自身と視聴覚教室の破片を反対の中庭側にぶちまけていた。一瞬炎も吹き出したけど、さっきのような爆発にはならなかった。

 そして、これだけの事故であったにもかかわらず死傷者が一人も出なかった。

 優奈を庇った祐介の背中に迫っていたプロペラの折れは、祐介の頭の直ぐ上を飛んで中庭の木に突き刺さった……あれは、どう見ても祐介の背中に刺さるはずだった。パイロットと思われるオジサンも、怪我一つ無く植え込みのサツキをなぎ倒して気絶していただけ……そうか、あのグノーシスの四人が、誰にも当たらないように破片や人を動かしたんだ。

 そのあと、消防車、救急車、パトカーなどが押し寄せてきた。これだけの事故、当然だろう。
 しかし、救急車以外は、差し迫った仕事は無かった。火事にはならなかったので、消防車には用事はない。パトカーも黄色い規制線を張って、現場検証だけ。ただ、怪我こそしなかったけど、パニックになる者、気分が悪くなる者などは多く、中庭にいた全員が、三カ所の病院に搬送された。

「無事でよかった!」

 お袋が開口一番に叫んだ。
 迎えの車内は、その狭さも幸いして剥き出しの家族愛に満ちた。お袋は俺と幸子の体を両手で抱えて触りまくる。ガキの頃、幸子といっしょに風呂から出てきたところをバスタオルで包まれた記憶が蘇る。ハンスたちが誰も怪我させないようにしたのが分かっていたが、お袋の振舞いには、ちょっと胸が熱くなる。親父に肩を叩かれ、お袋はやっと助手席に戻った。
「レントゲンなんか撮ったんじゃないのか」
 車をスタートさせながら、親父が聞いた。
「大丈夫、ダミーの映像カマシておいたから」
「ぬかりはないな」
「ただ、CT撮るときにナースのオネエサンに言われちゃった」
「え……なんて?」
「あなた、パンツが前後逆よって」
 親父とお袋が笑い、俺は真っ赤になった。
「と、とっさの事だったから」
 幸子は、後部座席の俺の横で、器用にパンツを穿きなおした。
「……それって、太一がメンテナンスやったのよね」
 お袋の顔色があわただしく変わって幸子が答える。
「グノーシスが動き始めてるの」
「グノーシス……幸子に義体を提供してくれた人たちね」
「わたし、少しずつ思い出してきた……」

 親父もお袋も沈黙してしまった。

 その夜、俺の部屋に幸子が入ってきた。
 風呂に入る前で、バスタオルやら着替えのパジャマなんかを抱えている。

「これ見て」
 目の前に着替えのパンツを広げて見せた。
「な、なんだよ!?」
「こっちが前で……こっちが後ろ」
「わ、分かったよ」
「大事なことなんだから、しっかり見て」
「な、なんだよ」
「又ぐりの深さが違う。それから、前の方には小さなリボンが付いてんの」
「わ、分かったから、しまえよ!」
 視野の端の方に、ニクソゲで無表情な幸子の顔が見えた。
「大事な話なの。物事には、前とよく似た後ろ……裏と表があるの」
「それぐらい、分かるよ。次からは気をつけるから」
「ちがう、これは例えなの。パラレルワールドの」
「パラレルワールド?」
「世界(時空)から分岐し、それに並行して存在する別の世界(時空)を指すの。並行世界、並行宇宙、並行時空ともいうわ」
「わけ分かんねえよ」
「鈍いわね。じゃ、これ見て」

 幸子は、ベッドに腰掛け、手鏡を出した。我ながら鈍そうな顔が写っている。

「この鏡の世界がシンボル。まったく同じお兄ちゃんが写っているようだけど左右が逆でしょ」
「当たり前だろ」
「そういうものなの。この世界とほとんど同じだけど、微妙に違う世界が存在してるの。ちょっとスマホ貸して」
 幸子は、ボクのスマホを取り上げると、笑顔になって自分の顔を撮り、なにやら細工した。
「お兄ちゃんのパソコンに送ったから、開いてみて」
 添付画像として送られてきた画像が出てきた。よくもまあ、憎たらしい無表情が、瞬間でアイドルのようになるもんだ。
「これで、同時にわたしが二カ所に存在することになる。よく見て、微妙に違うから」
「あ、アゴにホクロがある」
「他にも、四カ所あるんだけど、まあいいや。同じようだけど違うのは分かったわね」
「あ、なんとなく……」
「昼間、飛行機事故をおこしたハンスとビシリ三姉妹は、このパラレルワールドからやってきたの」
「そいつらが、グノーシスなのか?」
「グノーシスは、こちらの世界にも居る。互いに連絡をとって、それぞれの世界を修正してるの。ほら、お兄ちゃんが、今やったみたいに」
「え……?」
「今、わたしの目尻を下げたでしょう」
 俺は、こういうものを見ていると無意識に遊んでしまう。微妙に目尻を下げて、幸子の顔を優しくしていた。
「あ……」
 手が滑って、どこかのキーを押してしまった。幸子の画像が、思い切り垂れ目になってしまった。
「直してよ。わたしって影響受けやすいんだから」
 幸子の顔を見ると映像そっくりの垂れ目になっていた!
「あ、ごめん、ええと……どこを押したっけ……?」
 あせった。
「冗談よ。それに合わせて顔を変えただけ」
「あのなあ……」
「これで、概念としては、少し分かったでしょ。今日は、ここまで」
 そういうと、幸子は部屋を出て行った……最初の教材を忘れて。

「幸子、教材忘れてんぞ」
 脱衣場のカーテン越しに言った。
「これで、イメージ焼き付いたでしょ」

 カーテンの隙間から手が伸びてきて教材をふんだくった……。

 

※ 主な登場人物

  • 佐伯 太一      真田山高校二年軽音楽部 幸子の兄
  • 佐伯 幸子      真田山高校一年演劇部 
  • 大村 佳子      筋向いの真田山高校一年生
  • 大村 優子      佳子の妹(6歳)
  • 学校の人たち     倉持祐介(太一のクラスメート) 加藤先輩(軽音) 優奈(軽音)
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やくもあやかし物語・46『最初に借りた本』

2021-01-01 06:18:33 | ライトノベルセレクト

物語・46

『最初に借りた本』      

 

 

 二千冊は読んだんだけどねえ……。

 

 お母さんがため息をつく。

 午後から時間が出来たと言うので、図書館に連れてこられた。

 気ままなお母さんが気まぐれに思いついたことなんだけど、お母さんが娘のわたしに何かしてやろうと思いつくことと、お母さんに暇があるという条件はめったに重ならないので、学年末テストの真っ最中だというわたしの条件には目をつぶって「いくいく!」と元気に返事したのだ。

 結婚して実家を離れるまでに、お母さんは二千冊余りの本を借りて読んだんだそうだ。

「ハーーーーーでも、読んだ記憶のある本がほとんどないよ……」

 トドメのため息。

 図書館の蔵書はここだけで五万冊あるらしい、年間数百冊の本が加わって、ほぼ同数の本が廃棄される。どんな本を読んでいたか知らないけど、二十年もたっていれば、そういうもんだろう。でも、お母さんが不器用ながらもアグレッシブな空気を作ろうとしているんだから、うんうんと頷いておく。

「おーし、これからガンガン読むぞお! と、その前に図書カード作ってあげなきゃね」

「あ、えと……」

 言いそびれてお母さんのあとを付いていく。

「図書カードなら持ってるよ」

 調子を合わせてあげたいんだけど、越してきて間のないころお婆ちゃんが連れてきてくれて図書カードはもう作っている。本だって何冊か借りているのだけど、お母さんには言えない。

 頭の中がグルグルする。

――いや、お婆ちゃんが作ってきてくれたんだよ(^_^;)――

 これは、お婆ちゃんに確認されたらバレてしまう。自分で作ったんだしね。

――いや、わたしって図書委員でしょ。図書委員は自動的に街の図書館の図書カードも作ってもらえるんだよ(;'∀')――

 ダメダメ、お母さんも同じ中学出身。おまけに図書委員だったし。

――いやあ、なんべん来ても、お母さんといっしょは初めてだし、新鮮で嬉しいよ!(-_-;)――

 見え透いたごますりっぽい。

「あ、そ……」

 グルグルしてる間に、母さんは興味失って絶対零度まで冷えてしまった。

「そこのカフェでお茶してるから、見終わったら呼んで……」

 ああ……ドヨ~ンとしちゃった。なんか最悪。

 お母さんの悪い癖だとは分かってる。自分のプランにケチが付くと瞬間冷凍したみたくなっちゃう。むろん、家族の中でしか見せない素の姿なんだけど、そういうのにいちいちオロオロしちゃうわたしもわたしなんだけど、リアクションは「うん」一言になってしまう。

 沈んだ心で書架の林をめぐる。

 こちらのテンションが高くないと本たちは寡黙だ。読んでくれえ~!とか読んでよう🎵とか迫って来る本は一冊もない。ボーーっと巡っていると瞬間赤いスカートにポニテの女の子が書架と書架の間を過った。

 あれは……?

 書架の角を曲がると、向こうの方を、また女の子が過った。

 もう一つ書架を曲がると、今度は一瞬こちらを向いて過った。

 猫娘!?

 いくつかの書架を曲がった奥にオジサンに寄り添うように猫娘。

 猫娘はオジサンの向こうにまわってしまう。オジサンがこちらを向いた。

 水木しげる!?

「やあ、この本を見せてあげたくてね……」

 水木しげるのオジサンは、一冊の本をわたしに見せた。

 水木しげるの代表的な作品だ。

「あの子が最初に借りた本だよ」

 それだけで分かった。

「ありがとうございます!」

 本を手にして顔をあげると、水木しげるも猫娘も消えていた。

 

 カウンターに持って行って手続きして、その足でカフェへ。

 

「そうだ、これだった、初めて借りたの!」

 

 一瞬でお母さんは上機嫌になった。めでたしめでたし……。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきた三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君       図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん      図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け

 

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