大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

妹が憎たらしいのには訳がある・28『バーチャルな履歴』

2021-01-12 07:22:20 | 小説3

たらしいのにはがある・28
『バーチャルな履歴』
          

 

  

 向こうの世界の幸子は千草子、通称チサと名乗って俺の家に同居することになった。

 髪をショートにして眉を少し変えたチサちゃんは幸子によく似た従姉妹ということで十分通った。
うちと同姓の佐伯という画家が、この時期に亡くなったので、役所の方で戸籍を改ざんし、チサちゃんは、その遺児ということになっている。甲殻機動隊はチサちゃんの履歴をつくり、パソコンを使って亡くなった佐伯さんの関係者や、チサちゃんが在籍したことになっている学校関係の人間の記憶にインストールした。むろんチサちゃん自身の記憶もそうなっている。
 これでチサちゃんのグノーシス対策は万全だ。学校は、うちの真田山ではなく、大阪フェリペへの編入だ。ねねちゃんといっしょにすることで、セキュリティーにも万全を期したようだ。

「チサちゃん、どうかした?」

 明日から学校という前の日に、チサちゃんは手紙を投函して戻ってきたとき目が潤んでいた。
「……ううん、なんでも」
 そう言って、チサちゃんは幸子と共用の部屋に駆け込んだ。親父もお袋も心配顔。

 しばらくして、幸子が部屋から出てきた。

「残してきた彼に手紙を書いていたら悲しくなってきたんだって。むろんバーチャルな記憶だけど、ちょっと手が込みすぎ」
「込みすぎって?」
「彼との馴れ初めは、中三の文化祭でクラス優勝して賞状をもらうとき。風で賞状が舞い上がって、クラス代表だった二人が慌てて取ったら、偶然二人がハグしあって……まあ、映像で見て」
 幸子が、テレビをモニターにして映しだした。ハグした二人の唇が一瞬重なった。他にも、二人の恋のエピソードがいくつもあったが、まるでラブコメのワンシーンのようだ。

『あの、ご不満かもしれませんが……』

 高機動車ハナちゃんの声が割り込んできた。ちなみにハナちゃんは、うちの狭い駐車場に割り込んで、二十四時間、ボクたち家族のガードに当たってくれている。
「なんだよ、ハナちゃん」
『チサちゃんの履歴を作ったのは、甲殻機動隊のバーチャル情報の専門機関なんですが、チーフがゲーム会社の出身で……』
「恋愛シュミレーションの専門家……なるほど」
『今でも、細部に手を加えて、更新してます……』
 まあ、それぐらい徹することができる人間でなければ、完ぺきにバーチャルな履歴など作れないのだろう。チサちゃんは、ドラマチックな青春を送ることになりそうだ……。

 その数日後、オレは里中さんに呼び出された。

 めずらしく高機動車ではなく、普通の自動車だった。
「実は、プライベートで頼みがあるんだ……」
「いいんですか、グノーシスとか……?」
「あっちは、いま極東戦争で手一杯だ。こっちに干渉している気配もない」
「で、なんですか用件というのは?」
「実は……」

「えーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?」

 というわけで、オレはねねちゃんになってしまった……。

 

※ 主な登場人物

  • 佐伯 太一      真田山高校二年軽音楽部 幸子の兄
  • 佐伯 幸子      真田山高校一年演劇部 
  • 千草子(ちさこ)   パラレルワールドの幸子
  • 大村 佳子      筋向いの真田山高校一年生
  • 大村 優子      佳子の妹(6歳)
  • 桃畑中佐       桃畑律子の兄
  • 学校の人たち     倉持祐介(太一のクラスメート) 加藤先輩(軽音) 優奈(軽音)
  • グノーシスたち    ビシリ三姉妹(ミー ミル ミデット) ハンス
  • 甲殻機動隊      里中副長  ねね(里中副長の娘) 高機動車のハナちゃん
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

やくもあやかし物語・57『ほーむあろーん記念日』

2021-01-12 07:16:19 | ライトノベルセレクト

物語・57

『ほーむあろーん記念日』    

 

 

 お母さんと引っ越してきて八カ月がたった。

 ほんとうは半年ぐらいで、しみじみと振り返るつもりだった。

 いろいろ、あやかしたちが出てくるけど、落ち着ける家だと思ったんだよね。

 家の広さとか古さがいいんだけど、なにか家そのものがお母さんのお腹の中という安心感。

 だから、半年くらい経ったら、お茶でも飲みながらしみじみするような予感があった。それが、毎日おもしろいので、気が付いたら八カ月。もっと調べたら、なんと、八カ月と八日。八が並んだ。

 それでね、お茶を淹れると茶柱が立って、ささやかな湯気の向こうに、ちょっと前のわたしが浮かび上がった……それは、初めて、ひとりでお留守番をした日だった……。

 

 今日から変わるのかと思ったら予告だった。

 年号よ、年号。

 うちは、わたし以外は昭和生まれ。だから、昭和から平成に変わるのを経験している。

 先代の天皇陛下は病に臥せってらっしゃって、一月の何日だかにお亡くなりになって年号が変わったんだそうだ。

 だから、新しい御代になってもお祭り騒ぎという雰囲気ではなかったらしい。でも、昨日は一日日本中がウキウキしていた。

 

 テレビで言ってたけど、年号と言うのは日本にしかないらしい。ネットで見ていたら――新年号おめでとう! 時間に名前が付いてるなんて、とっても素敵!――というアメリカ人のコメントがあった。

 そうなんだ。

 年号と言うのは、時間の名前なんだ。

 夕べは、お爺ちゃん・お婆ちゃん・お母さんが三人で盛り上がってた。三人とも昭和生まれだから、日ごろは見せたことのない連帯意識みたいなので乾杯してた。「あるある」「言える言える」とか言って互いの共通点を面白がってた。

 ちょっと疎外感だったけど、わたしもいつか家族を持ってさ「令和は楽しかったねえ」とかね。

 こういう帰属意識って日本人しか感じられないことなんだよね。

 

 お母さんは、いつものように仕事。お爺ちゃん・お婆ちゃんは、お友だちと盛り上がって出かけて行った。

 電話で新年号の事を話していたら、急きょ年号同窓会みたいに話が出来あがってしまった。

 

 したがって、今日は、だだっ広い家にホームアローン。

 ううん……ひらがなのほうがいいな。

 ほーむあろーん。

 これだ!

 ほーむあろーん記念日だ(^▽^)/。

 

 お昼ご飯はお蕎麦だ。

 鍋一杯にお湯を沸かして一束の信州そばをぶち込む。お蕎麦は、すぐにフニっとなって、生き物の如く鍋の中でのたうち回る。たかが茹でるって作業なんだけど、元気が出てくる光景だ。面白がって火を強くすると盛大に湯気が湧きたつ。

 湯気の向こうに人が立った。

「あ、えりかちゃん!」

 えりかちゃんが、ザルを持ってニコニコしている。

「ふきのとう持って来たわよ」

 えりかちゃんのザルには赤ちゃんの拳くらいの芽が並んでいた。

「ふきのとう?」

「うん、天ぷらにしてお蕎麦に添えたらいいと思って」

 あ、蕎麦は一人前しか茹でてない。

「ちゃんと、二人前入ってるよ」

「え、ああ、ほんとだ」

 これくらいの不思議さには動じなくなってきている。

 ふきのとうを見るのは初めてだ。色と言い形と言い、なんだかおとぎの国か異世界のお野菜と言う感じ。

  「ふきのとう」の画像検索結果

「アク抜きしてあるからね、このまま天ぷらにしたらできあがり」

「アク抜き?」

「アク抜きしないと毒だからね」

 手際よく衣をつけて天ぷらにする。お蕎麦も頃合いに茹で上がって『信州蕎麦のふきのとうの天ぷら添え』が出来あがる。

 

 お盆に、お蕎麦とふきのとうの天ぷらを載せて裏庭へ。

 

 裏庭は土筆を取って以来。土筆の時は地べたばかり見ていたけど、あちこちに桜が五分咲きになっている。

「満開を待ってると、ふきのとうが育ちすぎるからね」

 言い訳じみたことを言うえりかちゃん。

「いいよいいよ、満開ばかりが桜じゃないし、桜ばかりが春じゃないしね」

 瞬間、桜たちが女の子に擬人化。困ったような、仕方ないなあというような表情になったけど、直ぐに桜に戻った。

「フフフ、二人だけで頂きたいもんね」

 えりかちゃんが何者か聞いてみたいという気持ちもあったけど、素直に春を楽しむことにした。

 

 平成最後の春は、もうすぐ盛りになろうとしていた……ほーむあろん記念日だった。

 

☆ 主な登場人物

    • やくも        一丁目に越してきた三丁目の学校に通う中学二年生
    • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い
    • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
    • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
    • 小出先生      図書部の先生
    • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
    • 小桜さん       図書委員仲間
    • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする