大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・269『まだ除夜の鐘』

2022-01-01 17:17:19 | ノベル

・269

『まだ除夜の鐘』頼子     

 

 

 ゴ~~~~~~ン

 

 元日だというのに、まだ除夜の鐘が鳴っている。

 NHKのゆく年くる年なんか見てると、除夜の鐘って年を跨っちゃうんだけど、まあ、情緒よね。

 でも、除夜の鐘って108発。108回? 108突き? 108打?

 17年生きてるけど、こういう、何気ないものの数え方って、よく分からない。

 で、わがヤマセンブルグ総領事館のリビングでは、もう元日の昼下がりだというのに、まだ除夜の鐘が鳴っている。

 

 ゴ~~~~~~ン

 

 もう1000を超えたんじゃないかしら?

「う~~ん、やっぱり分かりませんねえ……」

 知らせを受けた、一等書記官のオットーさんが音を上げた。

「やっぱり、日本の技術は凄いです!」

 ソフィーが、何度目か分からない感嘆の声をあげる。

「ソフィー、君の探究心はすばらしいが、これは国の王立科学院にでも持ち込まなければ分からないよ」

 三代続いて工学博士の家系で、自分も退職後は国の工業大学で教鞭をとるつもりでいるオットーさんは、ソフイーの粘りを賞賛しつつも、疲労の溜まった目に目薬を差して撤収の準備。

「さあ、ソフィー、今夜は宿直だ、少しは寝ておけよ」

 とっくに撃沈されているジョン・スミスがアイマスクをしたまま、ベッド代わりのソファーで手を振る。

「二時間寝れば十分です!」

「ソフィー、お願いだから、休んでちょうだい」

「ウウ……殿下の命令なら仕方ありません」

「命令じゃないわ、同級生からのお願いよ」

「分かりました……でも、ジョン・スミスいたいに横になって、鐘を見ていてもいいですか?」

「だめ、ちゃんと自分の部屋に戻って、ベッドに入りなさい」

「ムグ……仕方ありません」

 しぶしぶ、我がご学友は自室に戻っていった。

「じゃ、わたしも部屋に戻るわ、ジョン・スミス……あ、寝ちゃってる」

 ジョン・スミスに毛布を掛けてやって、わたしは、自分の部屋に向かう。

 

 実はね、如来寺のテイ兄さんから釣鐘のミニチュアが届いて、夕べは年越しスカイプの二元中継。

 流行り病のおかげで、今年も……あ、もう、去年か。

 今回も除夜の鐘ツアーができなかった。

 それで、テイ兄さんが、どこから調達したのか釣鐘を送ってくれた。

 こんなミニチュアじゃ、二年前、みんなで撞いた本物の感触や感動には程遠いと思ったのよ。

 

 ところが、すごいのよ!

 

 組み立てて、試し撞きをしてみたの。

 ゴ~~~~~~ン

 感動…………!!

 もっと、ショボくて甲高い音がするかと思ったら、興福寺とか成田山新勝寺とか上野の寛永寺とかと遜色のない音色!

 それも、音は年越しパーティーのリビングにしか届かない。

 いくらいい音だからって、本物みたいだったら、やってられないわよ。

 たとえ、防音設備の整った放送室でやっても、音圧というのがあって、屋内で鐘なんか撞けるものじゃない(オットーさんの説明)らしい。

 で、まあ、感動しちゃったものだから、非番のオットーさんなんかも呼んじゃったわけ。

 

 部屋に戻って思いついた!

 

「ねえ、お祖母ちゃん! 素敵なものが送られてきたの!」

 スカイプでお祖母ちゃんを呼び出して……まだ冷めやらぬ感動を伝えて、この釣鐘を送ってやることにする。

 年の割には好奇心いっぱいのお祖母ちゃん。

 ちょっと寝不足になってもらおうかしら。

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やくもあやかし物語・117『父上、やくもさまをお連れいたしました』

2022-01-01 12:47:48 | ライトノベルセレクト

やく物語・117

『父上、やくもさまをお連れいたしました』 

 

 

 厳めしい城門を幾つも通って御殿の前に着いた。一ダースほどのメイドさんたちがお出迎え。

「「「「「「「「「「「「いらっしゃいませ」」」」」」」」」」」」

 揃ってお辞儀されると、ちょっと緊張。

 カチャリ

 ラムメイドさんがドアを開けてくれて、滝夜叉姫さんに先導されて馬車を降りる。

 パチン

 レムメイドさんが指を鳴らすと馬車はサッカーボールになってしまい、レムメイドさんが――どうぞ――という感じで、滝夜叉姫を促す。

 セイ!

 バシュ!

 滝夜叉姫さんがシュートして、サッカーボールは城壁の向こうに飛んで行ってしまった!

「「「「「「「「「「「「おお!」」」」」」」」」」」」

 パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ

 メイドさんたちがポーカーフェイスのまま拍手。

 馬車がサッカーボールになったのも、滝夜叉姫がきれいにシュートを決めたのも、それに、シュートした時に露わになった滝夜叉姫の脚の美しさにも、メイドさんのシュールな拍手にもビックリした!

「すごい……」

「次はテニスボールぐらいにしといてね、サッカーボールでは、ちょっとお下品です。他の人たちもよろしく」

「「「「「「「「「「「「御意」」」」」」」」」」」」

「その『引用符』の無駄遣いも煩わしいわ」

「『引用符』は勤務評定に影響するのでご寛恕願います」

 ラムメイドが言うと、滝夜叉姫のこめかみがピクリと動いたような気がしたけど、姫は「あ、そ」と小さく返事した。

 メイドさんはラム・レムメイドの二人が先導して、御殿の中に進む。一ダースのメイドさんたちは慇懃に頭を下げて見送ってくれるだけ。たしかに、ちょっと無駄かもね。

 

 御殿は大きな温泉旅館のよう。

 

 唐破風の玄関を入ると長い廊下が続いていて、クネクネ曲がって、観音開きの扉の前に立つ。

「滝夜叉姫さま、お客人をお連れになられましたーー」

 ラムメイドさんが言うと――待ってました――という感じで扉が開く。

 扉の向こうは、さらに廊下が続いているんだけど、ここまでの廊下と違って赤絨毯が敷かれていて、別のメイドさんたちが待機している。

 ラムレムメイドさんは、どうやら、ここまでみたい。さらに奥に進むわたしたちに、ずっと頭を下げて見送ってくれる。

「ここからは奥なんですが、特に畏まることはありません。お楽になさってください」

 そして、何回か角を曲がって、白木に金の金物を打った扉の前にやってきた。

 

「ちょっと待って」

 

 声は、わたしのポケットから。

 大人しいので忘れてたんだけど、御息所が顔を出している。

「ちょっと出してくれる、この姿で会うのは失礼だから」

「あ、そうなの?」

 滝夜叉姫もニコニコ頷くので、ポケットから出して赤じゅうたんの上に置いてやる。

 エイ

 掛け声をかけてでんぐり返ったかと思うと、わたしよりも背の高いセーラー服姿になった。

「あれ?」

 御息所の依り代はあやせのフィギュアだから、てっきり等身大のあやせになるのかと思った。

「さすがは六条御息所さま、聞きしに勝るお美しさです」

「いいえ……でも、将門さまにお会いするのに仮の姿では失礼ですから……では、宜しければお目もじを」

「承知いたしました……それ」

 滝夜叉姫が小さく掛け声をかけると、御付きのメイドさん、パッと光ったかと思うと、鍵穴に収まる。

 カチャリ

 なんと、メイドさんは鍵の化身だったんだ!

 スーーー

 音もなく扉が開く……。

「滝夜叉姫さまー、お客さまー、ごとーーちゃーーく!」

 入ったところのメイドさんが、さらに奥に知らせたかと思うと、それは、鍵穴に入って行ったメイドさん?

 と思ったら、さらに奥、白木のベッドの左右の枕もとには二人のメイドさんが居て、同じ顔をしている。

「父上、やくもさまをお連れいたしました」

「ご、ご苦労であった……」

 左右のメイドさんに解除されて起き上がったのは――え、これが将門さま?――目を疑うような、やせ細ったお爺ちゃんだ。

「は、初めてお目にかかる……わたしが、た、平将門……でござる」

 だけど、目だけはランランとしている。

 ほら、黒澤明の『乱』のお父さんの殿様。息子たちに裏切られてやせ細った、あの感じ。

 数々の妖たちに出会う前のわたしなら、ぜったい気絶してると確信が持てるほどの迫力だよ……(;'∀')

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝

 

 

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明神男坂のぼりたい・28〔そんなことないです!〕

2022-01-01 06:09:56 | 小説6

28〔そんなことないです!〕 

       

 


「そんなことないです!」

 

 思わず言ってしまった。

 国語の時間、中山先生が思わないことを言った。

「鈴木さん……あなた白木華に似てるね!」

 クラスのみんなが振り返った。中には「白木華て、だれ?」言う子もいたけど、たいがいの子は知ってる。

 金熊賞を取って大河ドラマとか出てる新進気鋭の女優さん。『埴生の宿』に初主演して賞を取った。

 中山先生は、さっそく、その映画を観てきたらしい。授業の話が途中から映画の話に脱線して……脱線しても、この先生の話はショ-モナイ。

 だいたい日本の先生は、教職課程の中にディベートやらプレゼンテーションの単位がない。つまり、人に話や思いを伝えるテクニック無しで教師になってる。なにも中山先生だけがショーモナイわけではない。

 あたしは、授業中は板書の要点だけ書いたら、虚空を見つめていることが多い。

 それが時に控えめな日本女性という白木さんと同じ属性で見られてしまう。

 中山先生は、その一点だけに共通点を見いだして、映画観た感動のまま、あたしのことを言っただけ。

 目立たないことをモットーにしてるあたしには、ちょっと迷惑なフリだ。

「そう言えば、明日香ちゃんて、演劇部だよ」

 加奈子がいらんことを言う。

「ほんと!? 演劇部って言ったら、毎年本選に出てる実力クラブじゃんか!」

「去年は落ちました……」

 こないだの地区総会のことが頭をよぎる。あれがあたしの本性だ。

「だけど、評判は評判。鈴木さんもがんばってね」

 で、終わりかと思ったら……。

「そうだ、ひとつ、その演劇部の実力で読んでもらおうか。167ページ、読んでみて」

「は、はい……隴西の李徴は博学才穎、天宝の末年、若くして名を虎榜に連ね、ついで江南尉に補せられたが、性、狷介、自ら恃たのむところ頗る厚く、賤吏に甘んずるを潔よしとしなかった……」
 
 よりにもよって『山月記』だ。

 自意識過剰な主人公が、その才能と境遇のギャップから、虎になってしまうという、青年期のプライドの高さと、脆さを書いた中島敦の短編。

 あたしは、読めと言われたらヘタクソには読めない。まして、クラスで教科書読まされるのは初めて。で、白木華の話題を振られたら、やっぱ意識してしまう。

 お~~

 溜息のような歓声がおこる。

「やっぱ、上手いもんじゃないの。TGH高校の白木華よね!」

 パチパチパチパチ

 クラスのバカが調子に乗って拍手する。

 ガチでめんどくさい!

 

「明日香、やっぱりあんたは演劇部の申し子だよ」

 

 授業が終わって廊下に出ると、東風先生に会うなり言われてしまう。

 しまった、先生は隣のクラスで授業してたんだ。

「一昨日の地区総会のことも聞いたよ。大演説やったんだね。アハハ、先々楽しみにしてるよ」

 

 トイレに行って鏡を見る。

 

 なんだか、知らない自分が映っていた。

 あたしは、女の子の割には鏡を見ない。

 家出るとき、たまに髪の毛の具合をチラ見するぐらい。

 こんな顔した明日香を見るのは初めて……ということは、自分でもちがう自分しか見せてなかったいうこと……。

 ちがう!

 プ

 我が孤高の叫びに個室の先住者、先刻の明日香の朗読のごとき明晰な屁を放った。

 …………………

 聞かなかったことにしてトイレを出る。

 しかし、なぜに感想が山月記風?

 鈴木明日香というのは、つくづく影響されやすい女だ……(-_-;)。

 

※ 主な登場人物

  •  鈴木 明日香       明神男坂下に住む高校一年生
  •  東風 爽子        明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
  •  香里奈          部活の仲間
  •  お父さん
  •  お母さん         今日子
  •  関根先輩         中学の先輩
  •  美保先輩         田辺美保
  •  馬場先輩         イケメンの美術部
  •  佐渡くん         不登校ぎみの同級生
  •  巫女さん
  •  だんご屋のおばちゃん

 

 

 

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紛らいもののセラ・5『一歩前へ、自分から』

2022-01-01 05:12:32 | カントリーロード

らいもののセラ

5『一歩前へ、自分から』   

  


 予想どおり奇異の目で見られた。

 露骨に口に出して言われることはなかったが、始業式の学校で、セラは良くも悪くも時の人だった。

 興味の持たれ方はは二種類だ。

 あのバス事故から無傷で生還したセラへの畏怖の混じった興味。

 もう一つはSNSで出回った、事故現場で献花するセラと、家のリビングで大口開いて団子を頬張るセラとのギャップに対してである。

―― へえ、あの子がねえ ――

 両者の気持ちを言葉にすると同じになる。

 野次馬根性ということではいっしょだった。

 そう割り切るとなんでもないことだった。

 

「セラ、大丈夫……?」

 

 セラの数少ない友達の中でも、三宮月子だけが親身に声をかけてくれた。

 月子は元皇族の家系で、ひところ元皇族家の復帰ということが取りざたされたときに、ひと月ほどマスコミに付きまとわれたことがある。

 直ぐに女系の元皇族は埒外という世論が大半になり、マスコミは興味を失ってしまったが、月子はその間ノイローゼ寸前で、普通に語り合えたのはセラ一人だった。

「校長室に行く」

 そう言うと、月子は校長室の前まで付いてきてくれた。

 校長は無事を喜んでくれた。

「本当に無事でよかったね。でも39人の方々が亡くなられました。その人たちのご冥福を祈りながら、実りある学校生活を続けてください。なにか精神的に、その、困るようなことがあれば言ってください。わたしも相談に乗るしカウンセラーの先生にも相談できるからね」

 校長室は、そのあとマスコミの取材を受けることになっていた。喜んでくれてはいたが、半ば学校としてのアリバイ工作。

 月子に話すと寂しそうにしていたが、校長という立場上仕方ないと言うと、月子は意外な顔をした。

「世の中に、絶対の善意や心配なんて、あるもんじゃないわ。校長先生や北村先生は、半分は本気で心配してくれていた。わたしは、それで十分だと思う」

 教頭のアデランスだけが違ったことは月子には言わなかった。

「セラ、なんだか大人になったね」

 月子の一言が、一番身にこたえた。

 その夜、Tテレビから電話があった。三連休の中日に、テレビに出て欲しいというのである。

「ようこそ、徹子のサンルームに。来ていただけないかと心配したんですけど、亡くなられた方々と、僭越ですけど、セラさんのためにもお呼びしておこうと思ったんす。本当にありがとうございます」

「いいえ、こちらこそありがとうございます。徹子さんご自身からのお電話なんでびっくりして、そして、本当にわたしのことを思って声を掛けてくださったことが分かりましたから」

「あの、お団子食べてる写真、あきらかに盗撮ですもの。それも、こんなことを言ってはなんですけど、プロが撮ったとしか思えませんものね。あのままじゃあんまりだと思って、お節介させていただきました」

「ありがとうございます。あれは家に帰ったばかりで、世話をしてくれた兄の方がまいっていましたし、母も心配していました。元気なところを見せたかったことが本心です。あ、いいかっこじゃなくて、ほんと家に帰ったら急にお腹が空いてきたことも確かなんです」

「そうよね。だいいち自分の家で、どんなふうにお団子食べようが自由ですもんね。それに、そんな気配りがちゃんとあって、それをあんな風に盗撮してSNSに載せるなんて、ほんとに卑劣なことだと思います。同じ業界の者としてお詫びいたします」

 猫柳徹子は深々と頭を下げた。

「そんな、徹子さんに頭を下げていただくようなことじゃありません」

 セラには分かった。自分が頭を下げることで、写メを撮った業界人を遠まわしに非難して、セラにはなんの悪意もないことをテレビを通じて表明しているのだ。業界でも影響力のある自分がやっておけば、世間は納得の方向に変わっていく。

 放送が終わると、猫柳はプライベートで言った。

「セラさん、あなた今度のことで声を掛けてくる芸能事務所とかあるかもしれないけど、絶対のっちゃダメよ。セラさんハーフで可愛くって、話題性もあるから、そういうところ出てくると思う」

「大丈夫です。そんな亡くなった方々を踏み台……いえ、踏みつけにするようなことはしません」

「そう、安心したわ。もし何かあったら遠慮なくあたしのとこに電話してきて、力になるから」

 そう言って番号の交換までやった。

 そして……猫柳の心配は数日後には現実のものになった。

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