大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・088『シゲさんと朝ごはん』

2022-01-11 10:08:19 | 小説4

・088

『シゲさんと朝ごはん』加藤恵   

 

 

 声とか喋り方も変えた方がいい!

 そんな声が多かったけど、ロボットたちから反対の声が上がる。

「そういうことは、パチパチたち本人の意思に任せるべきだ!」

 いや、でもね……

 

『ぼくはどっちでもいいよ』

『音声は、ただの伝達手段に過ぎないでござる。でござろう、イッパチどのも?』

『そうある、伝達手段は、クリアに早く伝わるのがキモあるね』

 

 パチパチたちにパルス鉱センサーを取り付けると、胸に二つの膨らみが出来てしまうので、違和感のないように女性型のボディーにしてやった。

 いずれも、小学四年生の女の子くらいの背丈なんだけど、胸の大きさに不自然でないようにしたので、ちょっとアニメ風の少女にした。

 正直めちゃくちゃ可愛い。

 それが、声は以前のままの男声。

 

 ニッパチは高校の男子生徒風。

 イッパチは侍風。

 サンパチは、古典的中国風。

 

 これが、新しい外観に合わない。

 可変作業体としての本体は、それこそ可変で、自動車になったりブルドーザーになったりクレーンになったり、蛇型や亀形、必要に応じて姿を変えるが。変わらないのは『機械』というイメージだった。

 だから、声は使用者の趣味でいかようにも変えられたが、それはそれで、もう定着している。

 ロボットたちは「パチパチたちは、もう、ロボットと変わらない。ロボットとしての人権を守るべきだ」と主張する。

 パチパチ達は、状況に応じた反応をプログラムされているだけで、有機的に反応できるロボットとは根本のところが違う。

 しかし、そのプログラムは、世の中にコンピューターが現れてからこれまでの300年分のデータが入っているので、戦闘の指揮をとらせるような、超高度な任務を与えない限りロボットや人間と変わりがない。

 まあ、これが法律が支配する本土なら、法改正を伴う大きな問題になる。たぶん、歴史の授業で習った『令和の憲法改正』以上の痛みと混乱を招くだろうね。

「じゃあ、とりあえず今のままということにしておこうか(^_^;)」

 ヒムロ社長が、ちょっと困った感じで言うと、みんな納得した。

「いや、島のみんながね、楽しく仕事ができたら。それが第一だよね」

 氷室社長の人徳。

 

「社長が決めたんだから、まあ、おめえらもがんばれ」

『ラジャー』

『承知でござる』

『了解ある』

「アハハ、慣れるには、ちょっと時間がかかりそうだ。飯は大盛りで頼むよ」

『ラジャー』

 パチパチたちにエールを送って、シゲさんは朝食のトレーを持って、わたしの横に席を取った。

「でも、シゲさん、嬉しそうですね」

「あ、まあな。社長が、みんなのこと考えて、決断してくれるのが嬉しくってよ」

「みんな、社長には、そんな感じですね」

「ああ、今の島があるのは社長のお蔭だしな。うちのカンパニーだけじゃねえ、フートンやナバホとも仲良くやれてるのは、社長が陰日向になって、うまくやってくれてるからさ」

 それは同感。

 主席も村長も個性がきついし、その下で働いてる者も、一癖二癖という者ばかり。それをリーダーぐるみ仲良くさせているのは、すごいことだ。

「人徳の力ってすごいね」

「人徳ばかりじゃねえ」

「え?」

「血だよ」

「チ?」

 いっしゅん、知識の『知』だか知恵の方の『知』だか、血統の『血』だか分からない。

「ブラッドの『血』さ。例えばな、この食堂じゃレプリケーターてなインスタントは使ってねえ」

「うん、この味噌汁だって、タキさん、お味噌から仕込んでる」

「だろ、社長もおんなじさ」

「社長がお味噌?」

「例えだよ、例え。社長はな、皇室の流れをくむお方なんだ」

「え、そうなの!?」

「でけえのは、ケツとオッパイだけにしとけ」

「あ、セクハラあ」

「そういう息の詰まるようなことは言わねえでくれ」

「ま、いいわ、それで?」

「まだ、女系も女性天皇も無かったころによ、結婚して国を出た内親王様がいらっしゃった」

「ああ……」

 返事をしながら分かっていない、明治からこっち、知ってるだけで数件の例があるからね。

「その内親王様の何代目かの裔が社長だ」

「そうだったの」

「あんまり、人には言うなよ」

「なんだ、ガセ?」

「ちげえよ、こういう話は、社長嫌がるからよ。おめえが、知らねえようだから話してやったまでさ」

 これだけ喋っていたというのに、トレーの食器は空になっている。

 お茶を飲んで、口をブクブクさせると、カウンターの方に目を向ける。

「クソ、パチパチどもに先を越された!」

 いつの間にか、パチパチたちはカウンターの端っこで突っ伏している。

 オートマ体から作業体にシフトチェンジして、今ごろは坑内で掘削ドリルになっている。

 シゲさんが、ねじり鉢巻きで飛び出していき、わたしはシゲさんの分のトレーも持ってカウンターへ。

 カウンターのパチパチたちは、給食を食べ終えた小学生が爆睡してるみたいに休止している。

 

 自分で作ったオートマ体だけど、ほんとうに可愛くできた。

 いっそ、ボイスチェンジしてやろうかと思ったけど。社長の仰せでもある。

 そっと頬っぺたをつついただけで、わたしも作業現場に向かった。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥              地球に帰還してからは越萌マイ
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室                西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、おタキさん)
  • 村長                西ノ島 ナバホ村村長 
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地

 

 

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明神男坂のぼりたい・38〔離婚旅行随伴記・3〕

2022-01-11 05:34:05 | 小説6

38〔離婚旅行随伴記・3〕   

        

 

 フグッ(๐◊๐”)!!


 放っておいたら「キャー!」と叫ぶ寸前の明菜の口を塞いだ!

 覗き見男と思われたのは、よく見ると、芝垣の向こうの木の枝に引っかかった男物のジャケットだ。

「危うく、ドッキリになるとこだった(;'∀')」

「……あの上着……?」

 明菜は、湯船をあがると芝垣に向かって歩き出した。同性のあたしが見てもほれぼれするような後ろ姿で、お尻をプルンプルンさせながら。

「上の階から落ちてきたんだろうね……」

「あ、あれ、お父さんのジャケット!?」

 見上げると、明菜のお父さん夫婦の部屋の窓が開いてた。

「なんかあったんじゃない!?」
「ちょっと、見てくる!」
「待って、あたしも行く!」

 あたしたちは大急ぎで、旅館の浴衣に丹前ひっかけ、ろくに頭も乾かさないで部屋を飛び出した。

 正確には、飛び出しかけて、手許の着替えの中に二枚パンツが入ってるのに気づいた。あたしはパンツ穿くのも忘れていた。

「ちょ、ちょっと待って(#'∀'#)」

 聞こえてないのか無視したのか、先に行ってしまう明菜。

「くそ!」

 慌てて穿くと、こんどは後ろ前。脱いで穿き直して、チョイチョイと身繕いすると一分近く遅れてしまった。

「どうしたの、明菜!?」

 部屋の中の光景に呆然とする明菜。

 続き部屋の向こうの座敷から、男の足が覗いて血が流れてる。

 そして、明菜の手には血が滴ったナイフが握られていた……。


「……今度は、えらく手がこんでるね」

「うん、あれ、多分お父さん。今度のドッキリは気合いが入ってる……この血糊もよく出来てるよ。臭いまで血の臭いが……」

「って……これ、ほんもの血だよ!」

「ヒ(๐◊๐”)!」

 明菜は、電気が走ったように、ナイフを投げ出した。

「まあ、鳥の血かなんかだろうけど……お父さん?」

 ドッキリだと思いながらも、恐るおそる部屋の中に入っていく。

「エキストラの人だろうか?」

 血まみれで転がってたのは見知らぬ男だった。

 キャー!

 振り返ると、仲居さんが、お茶の盆をひっくりかえして腰を抜かしている。

「あ、あの、これは……」

「ひ、人殺しぃ!!」

 なんだか二時間ドラマの冒頭のシーンのようになってきた。

 そして、これは、ドッキリでも二時間ドラマでも無かった。

 数分後には、旅館の人たちや明菜のご両親、そして警察もやってきた。

 そして、明菜が緊急逮捕されてしまった……!

 手にはべっとり血が付いて、明菜の指紋がベタベタ付いたナイフが落ちてるんだから、しかたがない……。


「え、あたしも!?」
 

 あたしも重要参考人(ほとんど共犯)ということで、箱根南警察に引っ張られていくハメになった!

 

※ 主な登場人物

 鈴木 明日香       明神男坂下に住む高校一年生
 東風 爽子        明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
 香里奈          部活の仲間
 お父さん
 お母さん         今日子
 関根先輩         中学の先輩
 美保先輩         田辺美保
 馬場先輩         イケメンの美術部
 佐渡くん         不登校ぎみの同級生
 巫女さん
 だんご屋のおばちゃん
 明菜           中学時代の友だち 千代田高校

 

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