大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・256『トキワ荘』

2022-01-28 14:34:54 | 小説

魔法少女マヂカ・256

『トキワ荘語り手:マヂカ  

 

 

 やっぱりトキワ荘や。

 え? トキワ荘? どこに? ええ?

 

 ノンコの呟きには戸惑うような声しか返ってこない。

「霞がかかったようで、よく見えませんね」

 用心のために、パッカードもフォードもブレーキがかかった。

「松本、前照灯を点けてみろー!」

 フォードの窓を開けて高坂侯爵が声をあげる。

 ピカ!

 ライトを点けて音がするわけはないんだけど、なんとか状況を把握したいという気持ちが、そう感じさせる。

「屋並みが見えます」

 ハンドルにもたれかかる様にして松本運転手。パッカードでもフォードでも息を飲む気配がする。

 靄の中に屋並みのシルエットが浮かぶんだけど、影絵のように重なって、個々の家を判別することができない。

「あれ、ほら、あの屋根の重なり具合はトキワ荘やし!」

 誰も分からないのに業を煮やして、ノンコが車を降りる。

「ほら、あそこやし!」

「典子さん、危ないです!」

 松本運転手が運転席を下りると、みなも、ノンコと松本運転手に倣うように車を降りる。

「ほら、右側の、こっち向いて出っ張ってるんが玄関で、ちょっとバルコニー風になってて、二階と一階に二つずつ窓が……あそこが手塚治虫の部屋で、隣が石ノ森章太郎、藤子不二雄……」

 ノンコが描写するにしたがって、トキワ荘のデテールがはっきりしてくる。

「簡素なアパートだな」

 侯爵が感想を言うと、デテールの進行が止まってしまう。

「ノンコのお父さんも、ここに住んでらっしゃったの?」

「取り壊しになる前、ほんのちょっとね。ほら、二階の左端、共用の台所でね、窓のすぐ下が流しになってて、夏になったら流しに水溜めて、お風呂代わりの行水とかやっててんて」

「まあ」

 霧子が感心すると、二階の窓から水道の水音と嬌声が聞こえてくる。

「今風ではないが、質素ながら勢いを感じるなあ……」

 聞こえるはずもないのに、ペンを走らせる音やラーメンをすする音、原稿の仕上がりを待って編集者が切らす痺れの音、アイデアを出すために叩かれたり絞られたりする頭の音まで聞こえてくるような気がする。

「梁山泊のような気迫だ」

「モンマルトルの丘のような」

「湯気が立つような熱気」

 みんなが感想を言う度に、トキワ荘は実態を増していき、周囲の家並や風景は霞んで、完全に背景になってしまう。

「ここに居た人たちは、みんな立派な漫画家になったの?」

「ほんの一握り、お父さんも、ずっと神主と兼業やったし……たくさんの実らへんかった努力と作品が、このアパートの下には眠ってる……」

 ノンコの父も、その一人だったのだろう、ノンコの目には光るものがある。

 

 しかし、待て。

 

 トキワ荘は、戦後、昭和も二十年代に建ったものだぞ。西暦で言えば1950年代……

 それが、なぜ、大震災直後の東京に? 関東大震災直後の大正12年は1923年だぞ。

 ゴゴ ゴゴゴゴゴゴ

「キャーー!」

「ウワ!」

「地震か!?」

 つい何十日か前に大震災を経験したばかりなので、みんなの恐怖が共鳴し増幅されて、強直な侯爵でさえ、地面に伏し、松本運転手も腰を抜かしてしまい、箕作巡査は無意味にサーベルを抜き放つ。

「見て、あれを!」

「トキワ荘が……!」

 ドドド! ゴゴゴゴ! ゴオオオオオオ!

 なんと、木造二階建てのトキワ荘が地響きを立てて、上に伸び、横に広がって、あれよあれよという間に、暗黒の城塞のように変貌してしまった! 

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査

 

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明神男坂のぼりたい・55〔ガンダム式遠足〕

2022-01-28 07:13:36 | 小説6

55〔ガンダム式遠足〕 

 


 学校の連休はカレンダー通り。

 だから、今日みたいな日曜と昭和の日の間の月曜も学校がある。

 こんなのテンション下がって勉強にならない。学年の始めは思ったけど。今日は遠足……もとい、校外学習。

 一年の時はバスを連ねて奥多摩で飯ごう炊さんだった。あれはダルイ。240人でやってもおもしろくない。ああいうのは気の合ったもの同士で個人的にやるから面白い。

 しかし、たいていの学校は集団行動訓練ということで、昔の軍隊みたいなことを平気でやらせる。

 民主教育はどこに行ったんだ! ちょっと屁理屈。

 屁理屈言ってみたくなるくらいにつまらない。作るものは、最初からカレーライスと決まっていて、材料も炊飯用具もみんな貸してもらえる。これって手間かからないようで邪魔くさい。今はレトルトでいいのが、いくらでもある。ご飯用意して、かけたらしまいなんだけど、タマネギ刻んで炒めるとこからやらくちゃならない。目にはしみるし、手についたタマネギの臭いは抜けないし、鍋と飯盒の後始末大変だったし。

 ところが二年になると、クラス毎に好きなところに行ける!

 やったー(^▽^)/

 だけど、うちのクラスはガンダムが勝手に決めちまった。

 一応決はとるけど、こんな感じ。

「……ということで、異議のある者は居ないな。では、これで決定!」

 で、あたしらは、桜木町の駅で降りて山手を目指す。隣の二組は港を目指して山下公園。

「あんなものは中学生までだ。高校生らしいコースでいこう!」

 ガンダムの指揮で、あたしは横浜異人館街を目指す。山下公園とどないちゃうねん……そう思ったけど、ガンダムの目論見は違った。

「ホー」
「イヤー」
「すごいね!」

 と呟きながら、あたしらは途中の道でヒソヒソと歓声をあげた。

 歓声いうのは、大きな声で言うもんだけど、ここではヒソヒソになる。

 なぜって、周りは……ラブホで一杯!

 ガンダムは、黙々と先頭を歩いている。

「これは、実地教育だね」

 中尾美枝が言う。

「できたら、中も見学したいね」

 顔に似合わん伊藤ゆかりが大胆なことを言う。

 異人館街に着いたら、ガンダムが短く注意。

「おまえら三年もしたら大人だ。だから大人のデートコースを選んだ。特に何を見ろとは言わん。これから各館共通のチケットと昼食代渡す。好きなところを回って好きなもん食べてこい。じゃあな、せいぜい勉強してこい!」

 副担任の福井先生と二人で手際よく配る。これから二時まで自由行動。

 あたしらイチビリ三人娘は、さっきのラブホ街に行って、社会見学。美枝は休憩とお泊まりの値段をチェック。

「やっぱり、横浜のラブホはオシャレだねえ」
「わ、ここお泊まりで二万円もするよ!」
「きっとスゥイートなんだろうねえ」

 そこにクラスの男子が四人やって来た。

「惜しいなあ、三人だったら、ちょうど人数合ったのに!」

 美枝が大きな声で言うと、男子はきまり悪そうに行ってしまった。

 外観をみてるだけやから二十分ほどでおしまい。あたしらも異人館に入った。

 異人館には、それぞれエピソードがある。

 ある異人館は、ドイツのお医者さんが住んでいて、戦争中も留まって、空襲で怪我をした人らの手当をしてた。だけど、二十年の五月にドイツが降伏すると、日本は、このドイツ人のお医者さんを家族ぐるみ軟禁した。ちょっと日本人の嫌なとこを見た気がした。

「あ、この話って『はるか ワケあり転校生の7ヵ月』で、はるかのお母さんがエッセーにした内容だと思うわ」

 ゆかりが、そう言ってアマゾンの書籍をチェック。

「840円……中古だと1円」

 お昼食べて集合したら、みんなで港の見える丘公園に行った。   

 螺旋階段付きの歩道橋がある。ここに来るのはちょっとしたハイキングだったけど、着いたらロケーションはバッチリやった。

「ここは、夜景がすばらしい」

 ガンダムが短い解説。

「ちょっと前までは、ここの手すりに愛のあかしに鍵かけるのが流行った。今は、向こうに専用の鍵かけがあるからな。マナーは守らなくっちゃならない」

「先生、なにか思い出あるんじゃないですか?」

 美枝が言う前に、あたしが聞いてやった。

「ああ、カミサン口説いたんがここだ」

「ウワー!」と、三人娘。

 いつか関根先輩と来てみたいと思ったぞ。

 

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