大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 55『狩り』

2022-01-22 10:06:11 | ノベル2

ら 信長転生記

55『狩り』信長  

 

 

 市の袖を掴んで薮に隠れる。

 

 悲鳴から、おおよそのところは分かっている。

 戦を前にした兵どもが昂って女を追いかけまわしているのだ。

 それも、先ぶれを出して道を封鎖して。部隊規模での女狩りだ。

 戦の前後にはありがちなことで、織田軍ではきびしく取り締まっていた。

 取り締まらなければ民の信用を失う。だから、一流の戦国大名は、この種の乱暴狼藉には厳しい。

 違反者は、その場で切り捨てた。

 

「ねえ、助けよう」

「めんどうなことになる」

「だって、ニイ(三国志での偽名)は切り捨てたじゃない、こういうの!」

「俺たちは、諜報のために来ているんだ。無用の争いは避ける」

「あたし……放っておけないから!」

「市!」

 止める間もなく市は薮を飛び出す。

「仕方のない奴!」

 飛び出したからには、全力で闘う。

 戦うからには勝たなければならない。

 横に並んで、手のフリで指図する。

―― 左右に散開 女を通してから追手の兵を前後から挟む 声は出すな ――

―― 了解 ――

 女は三人、着衣に乱れはあるが、ケガはない。兵どもは、狩りのクライマックスを楽しんでいるようだ。

 ザ ザザザ ザザザザザザザ

 もう助けを呼ぶこともなく、女たちはまろぶように通り過ぎていく。

 

 シャリン

 

 錫杖を鳴らして市が飛び出す。

 先に出るつもりだったが仕方がない、俺は背後に周る。

「なんだ、坊主、邪魔をすると……」

 先頭の奴が言いきる前に、市は跳躍して錫杖で先頭の頭を叩きのめす。

 ドゲシ!

 着地した時には、そいつの剣を取り上げて左右の兵の胴を払う。

 バク! ボク!

 音が鈍いからみね打ちだ。

 後に続く兵どもに動揺が走るが、立ち向かう者は半分、あとの半分は女たちを追いかけようとする。

「お前たちの相手は、こっちだ!」

 そう叫んで、饅頭傘の顎紐を解いて放り上げる。

「この坊主、女だぞ!」

 兵どもに油断と欲望が湧き上がる。

 そうだろう、転生学院でも一二を争う美少女が、墨染めの衣に黒髪をなびかせているのだ。

 逃げた女などメではないはずだ。これで、女たち、しばらくは無事だ。

「押し包め! ただし傷はつけるな、じゅうぶん楽しんだあと、売り飛ばして元を取るぞ」

「そっちの坊主は始末しろ」

 ズチャ

 返事の代わりに剣を抜く音が揃う。

 あ、あのバカ!

 市まで饅頭傘を外す。

「おい、こっちも女だ!」

「おお、どっちも上玉だぜ!」

 くそ、最悪!

 キエエエエエエエ!

 先頭の兵を叩きのめして大刀を奪い、打ちのめしながら市と並ぶ。

 多少の腕はあると言っても、実戦経験はほとんどない市だ。守ってやらなければならない。

「強いのは俺がやる。シイはこぼれた奴をやれ」

「うん!」

「行くぞ!」

 フン!

 声を立てずに左の胴を払う、返す刀で右を打つと見せかけて、その前の兵を打ち据える。

 ドゲシ!

 ズサ! ビシ! ズビュ!

 音が違う、市のやつ切ってやがる。

 こうなっては、残りの兵も生かしておくわけにはいかない。

 ズビュ! ビシビシ! ズサ! ズサ! ビシ! ズビュ!

 切るとなると速く確実になる。もう戦場の呼吸だ。

「なぜ切った?」

 最後の一人を始末して、市の背中に問いかける。

「夢中だった……」

 目がイッてる。

「女たちを探すぞ……おい、シイ!」

「おいしい? あ、わたしのことだ!」

「しっかりしろ!」

 タタタタタタタタ

 一丁も行かぬ間に見つけた。

 女たちは、もう気力も体力失せた様子で、道を曲がった路肩でへばっていた。

「もう大丈夫だ」

 そう声を掛けると、血濡れた大刀を捨てて女たちに近寄る俺だった。

 

 

☆ 主な登場人物

  •  織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生
  •  熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
  •  織田 市        信長の妹
  •  平手 美姫       信長のクラス担任
  •  武田 信玄       同級生
  •  上杉 謙信       同級生
  •  古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
  •  宮本 武蔵       孤高の剣聖
  •  二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  •  今川 義元       学院生徒会長 
  •  坂本 乙女       学園生徒会長 

 

 

 

 

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明神男坂のぼりたい・49〔ちょっとシビア〕

2022-01-22 05:47:09 | 小説6

49〔ちょっとシビア〕 

     


「おーい、明日香の学校、校長クビになったぞ!」

 お父さんのシビアな声で目が覚めた。

 パジャマ代わりのジャージで二階に下りると、お父さんが新聞を広げている。

「この校長さん、たいがいだなあ……」

―― またも民間人校長の不祥事! ――

 見出しが三面で踊っていた。

 読んでみると、人事差別と人事権の恣意的な乱用。事故死した生徒・保護者への心ない対応。
 そんな副題のあとに、実名は伏せながら、関係者が読んだら、事細かに分かるようなことが書いてあった。

 再任用教諭の理由無き任用停止。元教諭、校長を提訴。

 あ、これは光元先生のことだ。

 始業式で、光元先生は一身上の都合で退職したと聞いた。

 光元先生は、TGH高校の前身都立瓦町高校の時代からの先生。学校の生き字引みたいな先生で、卒業生やら保護者からの信任の厚い先生だった。佐渡君が亡くなったときも校長室で、なにか話してる様子だったけど、中身までは分からなかった。

 新聞には「校長先生は、うちの子が亡くなったことを真剣に受け止めてもらえなかった」と、母親の言葉が書いてあった。

 佐渡君は交通事故で、あたしが救急車の中で見守ってるうちに死んでしまった。純然たる事故死。

 佐渡君は遺書を残していた。

 交通事故で遺書いうのは、なんか変……読み進んでいくと分かった。

 佐渡君は、生きる気力を無くしていた。で、なにが原因かは分からないけど死を予感して、遺書めいたものを書いていたらしい。
 お母さんは、それを生徒に公開して欲しいと頼んだらしいけど。校長は断った。で、全校集会で、ありきたりの「命の大切さ」「交通事故には気を付けよう」で、お茶を濁しよったのは記憶にも新しい。

 で、肝心の遺書は、新聞にも載っていなかった。教育委員会も内容を精査した上で、公開を検討……あほくさ。個人名が書いてあったら、そこ伏せて公表したらいいだけのこと。

 それから、佐渡君が死んで間もない日に、音楽鑑賞でオーケストラの演奏を聞きにいくはずだったのが、急に取りやめになった。「生徒が命を落として間もない日に、かかる行事はいかがなものかと思った」と校長は言ってるらしい。

 お母さんは、あとになって、そのことを知った。

「あの子は音楽の好きな子でした。実施されていたら、遺影を持って、わたしが参加するところでした。なんで、相談してもらえなかったんでしょう」

 こんなことは、何にも知らなかった。火葬場で会った佐渡君の幻も、そういうことは言わなかった。佐渡君は気の優しい子だから、たとえ校長先生でも、人が傷つくことは言いたくなかったんだろうと思った。

 で、光元先生は再任用の先生で、契約は一年。

「だけど、65歳までは現場に置いておくのが常識だ」

 お父さんは、そう言う。

 新聞には3月29日の最終発表で「次年度の採用はありません」と言われたらしい。

 29日って、どこの学校でも人事は決まってしまって、TGHで再任用されなかったら、事実上のクビといっしょなのは、あたしの頭でも分かる。

 校内でも、恣意的な人事が……ここを読んでピンときた。

 ガンダムが急に生活指導部長降りて、うちらの担任になったこと。

「ガンダム先生って、どこの分掌?」

 お父さんが聞いてきた。

「どこって、平の生指の先生」
「担任しながら生指か、そらムチャだ」
「なんで?」
「担任だったら大目に見られることでも、生指だったら見逃せないことがいっぱいある。まして、前の生指部長だろ。ダブルスタンダードでしんどいだろうなあ」

 お父さんは、ため息をついて新聞をたたんだ。

 気がついたら、お父さんと頭くっつけるみたいにして新聞読んでいた。

 お父さんと30センチ以内に近寄ったのは、保育所以来。ちょっと気恥ずかしいような、落ち着かないような気持ちになった。

 校長先生は、教育研究センターいうところに転勤いうことになっていたけど、これは事実上の退職勧告だろうなと思った。

 こんなことが自分の学校でおこるなんて、ちょっと意外。

 それと、佐渡君のお母さんが佐渡君のこと思っていたのも意外。

 切ないなあ……。

 

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