大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・274『送辞と声優と』

2022-01-31 15:23:39 | ノベル

・274

『送辞と声優と』頼子     

 

 

 声優というのは化け物だと思う。

 

 オタクというほどではないけど、けっこうアニメは観るほう。

 ハマったのは、寝付けないまま深夜に観るようになったからなんだけど。寝られるようになってからも、そのグレードの高さから観続けるようになった。

 え、この声も○○さん!?

 そういう騙されたのが分かった瞬間の『してやられた感』が好き。してやるのが好きなわたしは、こういう時のゾクゾク感がたまらない。わたしも、こういうの出来たらいいなアと思いつつ、意外な『同じ声優』を発見して喜んでいた。

 古いところじゃ、ミッキーマウスの声がウォルトディズニー、その人だったとか。

『けいおん』のあずにゃんが『オレイモ』の桐乃と同じ声優さん。

「そんなの、いっぱつで分かるでしょ!?」

 と、お友だちモードの時のソフィアにはバカにされたけどね。

「でもさ、エヴァのミサトとのび太のお母さんいっしょなのはビックリでしょ?」

「え、あれも分からなかったんですか?」

「あ、すぐに分かったけどね(^_^;)。ケロロ軍曹と『あたしンち』のお母さんとか」

「国民的常識」

「ピカチュウと光彦!」

「あたりまえ」

「碇シンジとレイアーズ!」

「フン」

「しょくぱんまんとナウシカ!」

「ハアーー」

 ことごとく知ってて、友だちモードのソフィアにはバカにされてたけど、そのソフィアでさえ気が付かなかったのが『恋するマネキン』の百武真鈴(ももたけまりん)。

 主役のけなげな妹系のマネキと敵役のネキンが同じ声優だという噂がネットで流れ、「そんなバカな(;'∀')!?」と思ったソフィアは、諜報部の声紋判別機を使って、噂通りだということを確認して、あやうく諜報部員としてのアイデンテティーを喪失するところだった。

 それだけではない。

 ヤマセンブルクの諜報部員として、王室魔法使いとして魂に火のついたソフィアは、より高次元の『声優の正体』を突き詰めるべく、日夜調査(わたしは気が付かなかったけど)して、その意外な実態を明らかにした。

 なんと、クラスメートにして生徒会執行部の田中真央が百武真鈴だったのを突き止めた!

 謎の覆面声優は大阪の現役女子高生!

 この事実を突き止めたソフィアはすごいんだけど。

 その田中真央が、生徒会役員として、下校途中のわたしを呼び止めることまでは分からなかった。

 

「夕陽丘さーん、待ってえ、話があるのん!」

 

 正門を出たところで追いついた田中さんは息を整えて、用件を切り出そうとする。

 正門を出てお友だちモードからガードモードになったソフィアは、少し警戒して、わたしの前に半身を割り込ませようとした。

「えと、何かしら田中さん?」

「夕陽丘さんに卒業式の送辞を読んでもらいたいの」

「「ええ!?」」

「生徒会で、いろいろリサーチとかやってね、夕陽丘さんにお願いしたいってことになった」

「え、わたしが……?」

 

 戸惑いと気後れ。

 人前で喋ることは気にならない。

 ただね、なんで、こんなに目立つ自分が選ばれたのかという不思議と、送辞と言えば公的なスピーチ同然なので、王女としては軽々と引き受けられないことが問題なのよ。

「ちょっと考えさせてもらっていいかしら(^_^;)」

 田中さんの正体に触れる余裕もなく、そう答えたのがこないだ。

 

 領事館に戻って、スカイプでお祖母ちゃんと相談。

 

『あら、いいことじゃない。引き受けたら』

「でも、お祖母ちゃん……」

『手続きを踏んで選ばれたのなら引き受けるべき。ただし、条件が一つ』

「なにかしら?」

『事前に原稿を見せてちょうだい。ヨリコの立場上不適当だと思える箇所に手を入れることを認めてもらって』

「え、あ、そうね……って、いいの?」

 ここ一年、ヨーロッパの王室や日本の皇族でも、発言や行動について問題になることが多かった。

 だから、ちょっと引けていたんだ。

『こんな時だからこそ、しっかりやって、王室の弥栄に貢献してくれると嬉しいわ』

「うん、分かった!」

 お祖母ちゃんのポジティブさには、いつもながら脱帽。

 

 で、今度は教室前の廊下、二日ぶりに田中さんに返答をする。

 

「お待たせしてごめんなさい」

「どうかなあ、夕陽丘さん?」

「うん、いろいろ考えて、引き受けることにしたわ」

「え、ほんま、よかったあ!」

「ただし」

 え、ソフィアが割り込んできた。

「なにかしら?」

「ヨリッチを『恋するマネキン』に出してもらえないかしら?」

「え…………ええ!」

「ちょ、ソフィア!」

 わたしも、田中さんも絶句してしまった。

 

 眼下のピロティーには、ちょうど入学願書提出にやってきたさくらと留美ちゃんが居たらしいけど、むろん気づくことも無いわたしだった。

 

 

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明神男坂のぼりたい・58〔二日遅れのお誕生会〕

2022-01-31 09:12:54 | 小説6

58〔二日遅れのお誕生会〕 

     


 今日は、あたしのの17歳のお誕生会。

 ほんとうの誕生日は二日前だったけど、平日だったので、今日やることになった。

 伯母ちゃんとおいちゃんも来てくれる毎年恒例の行事。

 なんせ、あたしは鈴木家にとっても、お母さんの実家である北山家にとっても、たった一人の孫。それも、お父さん43、お母さん41のときの子で両家のジジババの喜びもひとしおだったとか。

 なんせ、一歳のころからの行事だから、当たり前に思ってるけど、これにはあたしへの大きな期待がある。それも無意識だから、心に重い。

 分かる?

 あたしは、四人。場合によっては五人の年寄りの面倒をみる、又は後始末をしなくちゃならない。

 お祖母ちゃん、お父さん、お母さん、伯母ちゃん、おいちゃんの五人。

 お父さんの方のお祖父ちゃんお祖母ちゃんは三年前と去年に片づいて……逝ってしまった。あたしが四十前になったら、両親伯父伯母ともに、平均寿命の危ない年頃。石神井のお祖母ちゃんもヘタしたら……いえいえ、幸いにしてギネスものの長生きしたら生きてる可能性がある。

 介護認定してもらって、ヘルパーさんの世話になって、場合によってはデイサービスの送り迎えは当たり前。施設に入れたとしても、ホッタラカシにはできない。着替え持っていったり、入院したら付き添い。そして、最後は四人の(場合によっては五人の)葬式、財産の(そんなに無いけど)処分。年忌法要……なんか気が重い。

 だからお誕生会は、それに向けての人生の一里塚。

 

「明日香、おまえ、えらいよなあ」

 気がついたらさつきが、抜け出して横を歩いてる。考え事してるうちに外堀通りの歩道を歩いてる。

「実体化するの久しぶりだね」
「明日香にくっついて、この時代の子どもが大変なのも、少しずつ分かってきた。年寄り多いもんなあ」
「それでも、ホッタラカシにされるお年寄り多いよ」
「ホッタラカシにしててもな、心の中から平気っていうやつはめったにいないよ。この時代に来てよく分かった。それに、明日香は、ホッタラカシにはできない性格だしなあ」
「さつきこそどうなの?」

「え、わたしか?」

「将門さまが亡くなったあとは、滝夜叉姫とかおっかないのになって、相当暴れまわったっていうじゃないの」

「ああ、それなあ……最後は光圀にやられちゃったけどな」

「あ、それ。光圀って、水戸黄門かと思ってた」

「大宅中将光圀。光圀って、今で言えば『学』くらいにありふれた名前だからな」

「あ、なんで先輩の名前に例えんのよ」

「おまえの中にいたら、真っ先に出てくる男の名前だもんな」

「う(;'∀')」

「親父は派手な死に方したからなあ、なんかやらないと、つり合いがとれない」

「それが、滝夜叉姫になること?」

「ああ、爆誕滝夜叉姫! かっこいいだろ?」

「でも、最後はやっつけられてるし」

「ああ、前非を悔いて昇天したってんだろ?」

「なんか、あっけない」

「それ、嘘だから」

「え、ウソ?」

「光圀ごときにやられるタマじゃないよ」

「え、じゃあ?」

「バカバカしくなってやめたんだ。親父と同じ道走っても仕方ないだろ。で、わたしが鳴りを潜めたら、これ幸いに退治したってことにして、光圀は都に帰っちまった。まあ、丑の刻参りの発案者ってことにはなったけどな」

「でも、明神さまのお世話にはなってたんでしょ?」

「それは違う」

「だって……」

「御旅所に間借りはしてたけど、わたしは神さまじゃない。神田明神には祀られてないしな」

 そう言えば、明神さまの境内に居る時に、さつきを感じたことが無い。

「明日香はさあ」

「うん?」

「いずれ、人の嫁さんになって、鈴木の家は終わりになる。親も伯母さん夫婦も子供いないしな。まあ、令和の時代に家なんてどうでもいいのかもしれないけどな。あ……いや……」

「なによ?」

「まんま、一生独身で孤独死ってこともありうる」

「ちょ、ちょっと!」

「お、意外に、そういうの堪えたりするのか?」

「ムー」

「ハハ、そう言う顔、学にも見せて見ろ」

「できるか!」

「意外に可愛いぞ」

「からかうなあ!」

「怒るな怒るな」

「さつきだって」

「同じだって言いたいのか?」

「うん」

「試してみよう」

 パチン

「おお!?」

 指を鳴らすと、さつきはわたしと同じ服と髪型になった。

 前の方から視線を感じる。

 大学生(外堀沿いには大学が多い)たちが、みんなこっち見てる。

 近づくと分かる。

 視線は、みんなさつきの方を向いている。

「な、同じなりをしていても違うだろ」

「す、すごい」

「だろう?」

 なんかにくたらしい。

 

 パチン

 

「え、ええ?」

 さつきが、もう一度指を鳴らすと、川の上だ。川の上、一メートルくらいの高さを歩いている。

「雰囲気はいいが、外堀通りは川面が見えんからな」

「ちょっと怖いかも」

「このあたりの神田川は谷底だからな」

 ポチャン!

「キャ!」

 メッチャ大きい魚が跳ねた。

「草魚だな」

「ソウギョ?」

「外来種、もとは中国の魚だ。この何十年かで日本にも住み着いたんだ」

「神田川の主?」

「主は別にいる。草魚は手下だ」

「どんなの?」

「見たら死ぬぞ」

「死ぬんだ……」

「川面を歩くのは久しぶりだからな、草魚を偵察に出したんだろう」

「えと、もう上がらない?」

「もう少し待て、水道橋の方から森プロのスカウトが歩いてくる」

「え、スカウトされんの?」

「明日香じゃない、わたしがだ」

「なっちゃえば、アイドルとか!」

「興味ない、だんご屋のバイトならしてもいいがな」

「ハハ、毎日お団子食べられるもんね」

「よし、帰りに買え」

「え、お財布持ってないよ」

「クレジットカードとかは?」

「持ってないよ、高校生だし」

「チ、使えんやつだ」

 

 なんだか、妙な絡まれ方して家に戻った。

 

 家に帰ってすぐに伯母さんたちもやってきた。

 伯母さんは、いつもケーキを買ってきてくれるんだけど、今日は箱一杯の『明神団子』だった。

「うん、鳥居の前まで来たら、無性にお団子食べたくなってね」

「みたらし団子まである!」

「アハハ、こっちも美味しそうだったから」

 おいちゃんが頭を掻く。

 さつきのやつが、なにかやったんだ。

 

 思い出した。

 ウィキペディアで滝夜叉姫を引くと『妖術使い』というのが真っ先に出てくることを。

 

※ 主な登場人物

  •  鈴木 明日香       明神男坂下に住む高校一年生
  •  東風 爽子        明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
  •  香里奈          部活の仲間
  •  お父さん
  •  お母さん         今日子
  •  伯母さん
  •  巫女さん
  •  だんご屋のおばちゃん
  •  関根先輩         中学の先輩
  •  美保先輩         田辺美保
  •  馬場先輩         イケメンの美術部
  •  佐渡くん         不登校ぎみの同級生
  •  将門さま         神田明神
  •  さつき          将門さまの娘 別名滝夜叉姫

 

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