明神男坂のぼりたい
―― 僕も、明日香のことは好きだ ――
ドッキン!
それが、まず目に飛び込んできて、思わずお手玉になってスマホを落っことす。
パサ
ベッドの上なので、スマホは無事なんだけど、明日香の心は無事じゃない。
ドキドキドキドキドキドキドキドキ
あたしの中に勝手に住み込んだ、山川の詳説日本史でもたった一回しか出てこない将門さまの娘が、あたしの関根先輩への煮え切らない思いに業を煮やした。
そして、こないだ神田川のテラスで、あたしに「好き」って告白させた。
それでも、それ以上なにもできないあたしにに苛立ったのか、意地悪か、善意か、よく分からないけど、あたしが寝ているうちに先輩の番号調べて、あたしの声で電話した。
で、その返事がメールで返ってきた。
心を落ち着けて続きを読んだ。
―― 保育所のころから好きだったけど、明日香は他にも男の友達がいて、俺のことは眼中に無いと思ってた。こないだのことも、あとのシラっとした態度でイチビリかと思った。夕べのことで、明日香の気持ちは分かったよ。正直、今は美保もいる。煮え切らん男ですまん。でも、夕べみたいなことはダメだと思うぞ。学 ――
心臓がバックンバックン言うてる……ん……ちょっとひっかかる?
夕べみたいなこと……電話以外になにかしたか?
電話の履歴を調べた。
美保先輩と二人の電話の履歴はあったけど、関根先輩のは無かった。で、メールの送信履歴を見る。
―― 今から、実行に移します。明日香 ――
え……な、なにを実行に移したんだ!?
そう思うと、ジャージ姿の自分が浮かんできた。どうやら夕べの記憶(あたしの知らない)の再現みたい……。
時間は夜の十二時を回ってる。
素足にサンダル。自転車漕いで……行った先は、関根先輩の家……自転車を降りた明日香は、風呂場から聞こえる関根先輩の気配を感じてる。先輩がお風呂! だけど、覗きにはいかなかった。方角は、関根先輩の部屋。その窓の下。
明日香は、そーっと窓を開けると、先輩の部屋に忍び込んだ。で……。
あろうことか、先輩のベッドに潜り込んでしまった!
先輩が、鼻歌歌いながら部屋に戻ってきた。
「先輩……」
「え……!?」
「ここ、ここ」
あたしは布団をめくって、姿を現した。
「あ、明日香。なにしてんだ、こんなとこで!?」
「実行に移したんです……あたしもお風呂あがったとこです」
ゲ、ジャージの下は、何も身につけてないことに気が付いた! そして、おもむろにジャージの前を開けていく。先輩の目が、明日香の胸に釘付けになる!
それから、明日香の手は、ジャージの下にかかった。
「明日香! おまえ、なに考えて!」
「言ったでしょ。明日香の最初にあげるのは、先輩だって」
「声が大きい……!」
それから、先輩は、あたしのジャージの前を閉めると、お姫さまダッコ!
……で、窓から外に放り出されてしまった。
なんちゅうことをしたんだ!
「好きだったら、あたりまえだろ。この時代の男はしんきくさいぞ。好きなくせに夜這いの一つもやらないでさ。だから明日香の方から仕掛けていったのよ」
「さつきの時代とはちがう!」
「だから、夕べは大人しく帰ってきたぞ。関根、ほんとうにビビってたからな。ほんとに、お前も関根も分からんわ。好きなら突撃だろ、好きな女が二人いてもいいだろ。付き合って、相性のいいほうといっしょになったらいいんだ。そうではないか!?」
「グヌヌ……」
「しかし、喜べ、明日香の気持ちは確実に伝わったぞ(n*´ω`*n)」
「伝え過ぎ!」
「アハハ、まあ、そう、怒るな。お、そろそろ学校いく時間ではないのか?」
「あ、もう7時45分!」
ぶったまげて、制服に着替えようと思って、パジャマ代わりのジャージを脱いだ……気がついた。夕べの朝だから、パンツも穿いてなかった……。