大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語・118『将門の病室・1』

2022-01-08 13:41:53 | ライトノベルセレクト

やく物語・118

『将門の病室・1』 

 

 

「滝夜叉からもお聞き及びの事とは思うが、儂は病に侵されて居る」

「はい、見た感じ、かなり……」

「さよう、このままでは寝たきりで神としての実態を失う」

「実態を失う?」

「はい『お隠れになる』と世間では申します」

 死ぬのと、どう違うのか分からないけど、重ねては聞かない。それをどうにかしろというのがお願いには違いなさそうだし。

「見ていただこう……これ」

「「はい、将門さま」」

 枕もとのメイドさんを促して、寝間着の上をはだけさせる。

 ワア(>艸<)!

 露わになった身体は、まさに骸骨に渋皮を張ったみたい。

 それに、体のあちこちに貼ってあるのは……。

「伊勢神宮のお札!」

 御息所が目を見張った。

 そう言えば、御息所は斎宮になる娘について伊勢に行っていたはず。間近で神事を執り行う斎宮を見ていて、ピンと来たのに違いない。

「父上の体から病を吸い出した痕に貼ってあるのです」

「吸い出した痕に?」

 ちょっと不思議だ。

「まだ病が体の中にあるのならともかく、吸い出した痕に貼るんですか?」

「不思議に思うのも無理はない。わが身から吸い出された病たちは、すぐに鬼となって散っていったのでござるがな。いつ何時、戻ってきて、この身に入り込むかもしれぬので、滝夜叉が貼ってくれたのでござるよ」

「そうなんだ……」

 なにごとも聞いてみなければ分からないものね。

「お札を貼っていなければ、病たちが再び憑りついて、今ごろはお隠れになっていたでしょう」

「「「いかにもいかにも」」」

 滝夜叉姫がしみじみ言うと、メイドさんたちが、揃って頷く。なかなかの連携ぶり。

「やくも殿、儂の体から出て行った病たちを退治してもらいたいのじゃ」

「は、はい(;'∀')」

「儂の体を出た病たちは、儂の匂いをまとって、関八州で悪さをはたらいております。それが、里見の者たちは『将門が荒ぶる神』となって悪さをしていると思い込んでおるのでござる。この身の潔白を……ゴホンゴホン」

「父上、ご無理をなさっては」

「いや、やくも殿には、きちんと了解してもらわなければならぬ」

「一個、質問いいですか?」

「なんなりと」

「お身体から病を追放して、それでも、良くならないのですか?」

「それは……ゴホンゴホン」

「父上……それは気の問題なのです」

 咳き込んだ将門さまを滝夜叉姫が介抱する、ちょっと長く話しすぎたかな。

「気の問題ですか?」

「はい、御息所さま。父は千年以上も関八州の総鎮守を務めておりますので、責任感が強すぎるのです。大丈夫ですよ、父上、このあとは、わたしが……」

「すまんなあ、滝夜叉……」

「父上のためにも、この関八州のためにも、なにとぞよろしくお願いいたします」

「はい、微力ですが、大阪では酒呑童子もやっつけましたし!」

 思わず、コルトガバメントを構えてしまう。

「おお、これは頼もしい!」

 パチパチパチパチ

 滝夜叉姫がメイドさんたちといっしょに暖かく拍手してくださる(^▽^)。

「あ、やくも、ちょっと構え方が……」

「え、違った?」

「こういうふうに……」

 御息所が、後ろから手を添えて構え方を直してくれ……え?

 ドッキューーン!

 わたしの体ごと銃を向けさせたかと思うと、滝夜叉姫めがけて引き金を引かせた!

 グエ!

 至近距離から心臓をぶち抜かれて、滝夜叉姫はカエルが潰されるような悲鳴を上げて部屋の隅まで吹き飛んだ。他のメイドさんたちは、固まって言葉も出ない。

「「何をなさいます!!?」」

 銃声を聞きつけたラム・レムメイドさんが、武器を手に現れて立ちふさがった。

「おのれえ……!」

「やはり、うぬは悪霊であったか!」

 二人は本性を現すツノまで見せて、牙をむく。

 

「静まれ……みなのもの」

 

 将門さまが、骸骨のような手を挙げて制した。

「なにかお考えがあってのことだろう……御息所の目に邪悪な光は無い」

「みなさん、滝夜叉姫をごらんになって……」

 キャーーー!

 メイドさんたちの悲鳴が響く。

 滝夜叉姫は、体がドロドロになったかと思うと、ヘドロ模様の蛇になって逃げ始めた!

 ドッキューーン!

 今度は、わたしが撃った。

 蛇は頭がグチャグチャになって動きを止め、次の瞬間、無数のポリゴンのようになって消えていってしまった。

「神田川に長年住みついている蛇の妖です。名のある魔物なのでしょう、看病中の滝夜叉姫を襲って成り代わっていたんです」

「よく見抜かれたのう、御息所どの」

「蛇の道は蛇……というところです」

「申し訳ありません」

「たいへん失礼しました」

「「「「失礼いたしました」」」

 ラムレムメイドさんが頭を下げると、他のメイドさんたちもいっせいに頭を下げた。

「ねえ、じゃあ、本物の滝夜叉姫さんは?」

 わたしが聞くと、御息所は、ツカツカと寄って、将門さまの胸のお札を剥がした。

 ペリ

「イテ!」

「お静かに」

 お札を剥がした胸には五円玉のそれぐらいの穴が開いていて、それが、呼吸をするように広がったかと思うと、粘膜でくるまれたモノを吐き出した。

 キャ

 メイドさんたちが遠巻きにする中、御息所がドロドロになるのも構わずに粘膜を引き破る。

 ニュル

 出てきたのは、気を失った滝夜叉姫、その人であった!

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門

 

 

 

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明神男坂のぼりたい・35〔なんで付いていかなきゃならないの?〕

2022-01-08 06:49:54 | 小説6

35〔なんで付いていかなきゃならないの?〕          

 

 なんで付いていかなきゃならないの?

 思わず聞き返した。

 明菜が、離婚旅行に付いてこいと言ってきたから。

 明菜のいいところは、人との距離が近くて、接し方が前向きなこと。

 たいていの人なら1メートルは開ける距離が50センチ、話に身が入ると、それさえ超えてくることがある。

 それが、モテカワ美人の笑顔だよ。参ってしまう。

 普通メールで済ますことでも、ちゃんと電話してくる。でも、長話することはなく、要点を述べると『じゃあ、失礼します』とか親しい仲でも礼儀正しい。

 でもね、それが人によっては煩わしく感じるかもしれないとは思った。

 なんだか、ドラマの中の演技に付き合わされてるみたいな圧と窮屈さ。

 そう思われてしまうと、逆に明菜の方から距離を取ってしまう。そうなると、セレブのモテカワ美人であることが裏目に出て『お高く止まってる』的に見られて、人が離れていく。

 実は、不器用な子なんだと、久々に会って思うよ。

 自分のパターンが通じなくなると、どうしていいか分からなくなるんだ。

 それが、おそらくだけど、家族に対してもそうだったんじゃないかって、テラスに並んで腰かけて思ったよ。

 

 そして、結局は、いっしょに付いていくことになった。あたしも変わり者ではあるよ。

 まあ、アゴアシドヤ代持ってくれるって言うんだから、離婚旅行の付き添いいうことを除けばいい話。

 目的地はハワイ……とまではいかないけど、箱根温泉。

 明菜のお父さんのセダン……左ハンドルだから外車だというのは分かるけど、メーカーまでは分からない。革張りのシートにサンルーフ。後部座席には専用のモニターテレビに、バーセットまで付いてる。なんでか、うちの日常では見慣れたリアワイパーは付いてなかった。

「ああ、リアワイパーが無いのが不思議なんだね?」

 お父さんが、うちの不思議を見破って、バリトンのいい声で聞いてくれる。バックミラーに映る斜め横のお顔が爽やか。

「なんで付いてないんですか?」

 かわいく素直に聞いておく。

「国産のワンボックスなんかだと、車のお尻とリアウィンドウが近くて、泥が付きやすいんでね。セダンはお尻が長いから付いてなんだ」

「そうなんですか」

 感心していたら、前を走ってる日産のセダンには付いてた。

「フフ、分かり易いけど、知ったかぶりでしょ」

 お母さんが、鼻先であしらう。

「僕のは一般論だよ。むろん例外はある。日本人にとっては、バックブザーと同じく親切というか行き届いていることのシンボルなんだね。ま、民族性といってもいい」

 お父さんは、構わずに話をまとめた。

 

「前の車、邪魔ね。80制限の道を80で走るなんて、ばかげてる」

 

 サービスエリアで、休憩したあと、運転をお母さんが替わって、第一声が、これだった。

「始末するか……」

 ゴミを片づけるような調子で、お母さんが呟くと、ウィーンと機械音がした。明菜もなんだろうって顔をしている。

 地獄へ堕ちろお! ドドドドドドドド!

 スパイ映画の主人公みたいなことを言うと、いきなり機関銃の発射音と、衝撃、そしてスモークが車内に満ちた。

 で、前を走っていた車は……あたふたと道を譲った。

 あたしは、思わず明神さまのお守りを握りしめてしまった。

 

「おまえ、おれの車いじったのか?」

「離婚記念にね。大丈夫、映画用のエフェクトだから弾は出ないわ。ここ押すとね、車内だけのエフェクトになって、外には聞こえないの」

「今は、押さなかっただろ?」

「今のは若いニイチャン二人だったから、ちょっとイタズラ。まちがってもヤクザさんの車相手にやっちゃいけません」

「こういうバカっぽいとこ、好きだな」

「こんなことで、離婚考え直そうなんて、無しよ」

「それと、これとは別」

「だったら、結構」

「おかげで、時間通りに着けそうだな」

 お父さんは時間を気にしているようだった……。

 

※ 主な登場人物

 鈴木 明日香       明神男坂下に住む高校一年生
 東風 爽子        明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
 香里奈          部活の仲間
 お父さん
 お母さん         今日子
 関根先輩         中学の先輩
 美保先輩         田辺美保
 馬場先輩         イケメンの美術部
 佐渡くん         不登校ぎみの同級生
 巫女さん
 だんご屋のおばちゃん
 明菜           中学時代の友だち 千代田高校

 

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紛らいもののセラ・12『セラのビフォーアフター』

2022-01-08 05:43:00 | カントリーロード

らいもののセラ

12『セラのビフォーアフター』   



 マスコミが騒ぎはじめた。

「セラのビフォーアフター」のタイトルで週刊誌が取り上げ、下校中に待ち伏せされることもあった。
 某局のバラエティーでも特集のコーナーで取り上げられ、レポーターや評論家が適当に面白おかしく言っている。

「解離性同一性障害……の可能性がありますね」

 どこから手に入れたのか、事故前のセラの写真や動画、さらには関係者と思われる匿名で顔ボカシ音声変換をかけたコメントまで出てきた。

「解離性同一性障害って、セラセラは男だったんですか!?」

 性同一性障害と勘違いして、ゲストがボケて笑いを誘う。音響効果で笑い声まで増幅させている。

「違います。自分のことが自分のことと思えない症状で、昔は多重人格と言われたものです」

 精神科の医師が真面目に答える。

「ということは、事故をきっかけにセラセラの隠れてた人格が出てきたってことですか?」

 もう一人のゲストが身を乗り出す。

 ちなみに、セラの呼び方はセラセラになってきた。本名が世良セラなのだから、そのままといえばそのままだけど、扱いとしては準アイドル的な表現で、佐藤良子や遺族の人たちには申し訳ない気持ちのセラだった。

「セラセラは、ご両親が再婚で、実のお父さんはアメリカの方。これが昔のセラセラなんだけど、写真も動画も、今みたいに明るいですね」

 MCが、セラ自身で持っていない昔の写真や動画を出してきた。母親の再婚が決まったときに、セラなりに過去を清算しようと思って処分したものだ。どこで手に入れたのかネット社会というか情報社会の恐ろしさを感じた。

 セラの変貌ぶりを好意的に取り上げてくれてはいるが、本音は数字を取りたいだけのメディア根性なので、
世良家の日常に影を落とした。

 毎日、メディアが家や通学路で待ち構えている。

「わたし自身困惑してます『春が怖くて』という曲は、そもそもアイドルとかアーティストなんてつもりで歌ったんじゃないんです。あくまで、あのバス事故の慰霊の延長線上にあることなんで、あんまり、こういう扱いはしないでいただきたいんです。お願いします」

 セラは、聞かれるたびに、そう答えた。正直な気持ちだし、崩せない姿勢だと思った。

 父の龍太が責任者として建造していた26DDHが、正式に航空母艦であると発表された。艦名も一言でそれと分かる「あかぎ」とされた。

 政府が、周辺諸国へのプラスマイナスの影響を考えて、造船所に、そう指示してきた。三つの国が猛反発し、他のアジア諸国は好意的だった。某国の理不尽な進出に憂慮していたアメリカも賛同。遅れて建造の始まった27DDHも空母であると発表された。

「これで、俺も奥歯に物が挟まったような説明をせずに済む」

 久々に帰宅した父は、にこやかに食卓に着き。セラには間接的に今のセラでいいと言われたような気がして、気持ちが楽になった。

 そんな早春の朝、マネージャー兼プロデューサーの春美から電話があった。

『大木さん(『春が怖くて』の作曲者)が、今のセラのために新曲を作ってくださったの。事務所に来て、一度見てくれないかな』
「わたしは……」
『あ、セラちゃん。ぼく大木、このごろの君を見てて湧いてきた曲なんだ。ぜひ君に歌って欲しい』
「わたしは……」
『もう君の学校の近くまで来てる。目立たないよう駅の西の道で待ってる。よろしくね』

 大木は、ときめいている。それが切ったばかりのスマホに余熱のように残っていた。

 どうしよう……セラの正直な気持ちだった。

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