大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・089『西ノ島は順調』

2022-01-18 13:04:55 | 小説4

・089

『西ノ島は順調』 加藤 恵    

 

 

 それからの西ノ島は順調だ。

 A鉱区は落盤事故の後、ナバホ村とフートンの協力もあって、順調に開発が進んだ。

 単に採掘量が増えただけではなく、純度の高いパルスガ鉱がまとまって出てくるようになって、島の収入は目に見えて増えてきた。

 

「これはいただけないよ」

「うちも受け取れねえ」

「受け取ってもらえなきゃ困るんです」

 押し問答が続いている。

 

 昼ご飯の終わった食堂に、島の三人の代表と、手すきの社員や村民、同志たちが集まって議論している。

 ヒムロ社長は、A鉱区で採れたパルスガ鉱石の売り上げを三つの集団で分けようというのだ。

「カンパニーで採れたものだから、売り上げは、当然カンパニーのものだぜ」

「そうだよ、フートンも村も手伝ったけど、その分は先月までに十分頂いている。今月分の売り上げはカンパニーのものだ」

「はい、その気持ちはありがたいんだけども、西ノ島は、みんな相見たがいだと思うんです。A鉱区のパルスガ鉱も、堀進んで行けば、村やフートンの鉱区にも繋がっているかもしれない。お互い持ちつ持たれつの島でもあるし。ここは、均等に分けるということで」

「いや、権利関係ははっきりしておいた方がいい。かつて、漢明も満州も、そういうところを中国的あいまいさでやってきて自滅してきた経緯がある。大陸の同胞たちはともかく、西ノ島の中華民族は明朗潔白を旨としてやっていきたいんだ」

「われわれインディアンもそうだ」

 いやはや、どうにもまとまらない。

 わたしが所属していた……なんで過去形? エホン、今でも所属してるんだけど、天狗党はヒエラルキーがはっきりしていて、決断が早かった。

 島に来た当初はまどろっこしく思うこともあったけど、落盤事故からこっち、このあいまいさもいいと思うようになってきた。

「ちょっといいですか」

 わたしと並ぶ新参者が手を挙げた。

「なんだい、兵二君」

 社長は、新参者にも丁寧だ。

「僕のいた火星には『講』というものがありました。火星は、まだまだ発展途上で、政府も企業も町も村も先行きが分かりません。そこで、仲間たちがお金を出し合って、プールしておくんです。そして、不時の出費に備えたり、講の親睦に使ったり、方向がはっきりした時の資金にしたりしています。火星は独立はしましたが、まだまだフロンティアなので、いまの西ノ島に通じるところがあると思います。どうでしょう」

「でも、兵二」

「なんでしょシゲさん?」

「そんなフアジーにしておいて、横領とか使い込みとかの心配はねえのか?」

 シゲさんの質問に、みんなの注目が集まる。

「僕は、火星でも扶桑しか知りませんが、どこも似たり寄ったりだと思います。貧しい星なので、みんな信用を大事にしているところがあります」

「なある、簡単なようで難しい問題だな」

「いや、それに乗ってみよう!」

 村長が立ち上がった。

「我々も、おおよそ、そんな感じでやってきたじゃないか。インディアンの先祖も、そんな感じだった。ヘイジ、いいのではないか?」

「フートンも賛成だ」

「あ、そうですか。それならば兵二君提案の方向で……ここにいるみんなもいいだろうか」

「おれたちは野次馬だ、決定は、代表できめればいいさ。なあ、みんな」

 シゲさんが一瞬でまとめてしまう。

「資金管理を決めなければなりませんが、少し時間を置いて決めましょう。それまではカンパニーで預かるということで」

「「異議なし」」

「では、解散にしましょうか」

 社長が、そう告げて、みんなの腰が上がった時に、三度、兵二が発言した。

「すみません、僕も慣れて来たんで、あれこれ調べたんですが、島の北部の権利関係がよくわかりません。だれかご存知でしたら教えてください」

「あそこは国有地です」

 社長が答える。

「島の開拓を条件に、フートンが買おうとされたんだが、あそこだけは島全体が国有だった名残で、国が手放さないんです」

「なにか、心配事でも?」

「いえ、国有地ならいいんです」

「それじゃ、今日はここまでにします。あと、連絡事項ないですか?」

「あ、そだ、いいですか」

 自分の役割を思い出した。

「なんだい、メグミ?」

「明日から、順繰りにパチパチのメンテに入ります。ほとんどオーバーホール的なものになりますんで、まる一日は作業体は使えません。ご了承ください」

「最近は、オートマ体の方が馴染んできたぜ。ま、黙ってりゃだけど」

「ボイスは、まんまだもんな」

 アハハハ

 シゲさんが言ってサブがまぜっかえす、暖かい笑い声が上がる。

 パチパチは、自分が手掛けたので、ちょっと嬉しい。

 それから、みんな、引き取り手のない落盤犠牲者の遺骨に手を合わせて食堂を後にした。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥              地球に帰還してからは越萌マイ
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室                西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩)
  • 村長                西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地

 

 

 

 

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明神男坂のぼりたい・45〔御茶ノ水幻想・4〕

2022-01-18 06:03:10 | 小説6

45〔御茶ノ水幻想・4〕 

        

 

「ただいまあ」

「おかえり……」

 めずらしい、お父さんが二階のリビングに居る。

 と、思ったら、もうお昼。

「明日香。生協来たとこだから、パスタの新製品あるよ」
「あ、食べる!」

 あたしは、自分の意志じゃないのに応えてしまった。どうやらさつきがお腹を空かしているらしい。

 レンジでチンして、和風キノコバターとペペロンチーネを二つも食べてしまう。

「ああ! メチャクチャおいしい!」

「明日香が、そんなに美味しそうに食べるのん久々だなあ」
「ああ、育ち盛りだから。アハハ(^_^;)」

 まさか、自分の中でさつきが美味しがってるとは言えない。

「ごちそうさま!」

 自分の部屋に戻ってから、どうしょうかと思った。

「さつき、ずっと、こうしてあたしの中に居る気?」

『仕方ないだろ。どうやら、この時代では、明日香の中からは出られないみたいだ』

「だけどねえ……」

『狭いけど、いろいろある部屋だなあ。おお、あの生き写しみたいな絵は明日香だな!』

 馬場先輩に描いてもらった絵に興味。

『うわあ、この絵にはタマシイ籠もってるぞ! ううん……残念なことに、これ描いた男は、明日香のことを絵の対象としか見てない。いや……しかし……まあ、大事にしろ。何かにつけて明日香の助けになってくれるぞ』

 それは、もう分かってる。

『そこの仕舞そこねた雛人形も大事にしろよ。もう少し、この部屋に居たいらしいから。その明日香の絵とも相性良さそうだぞ』

「分かってる。それより、少しでもいいから、あたしの心から離れてない。落ち着かないよ」

『明日香は依り代だからな……うん? その日本史いう本はなに?』

「ああ、教科書。日本でいちばん難しい日本史の本」

『おもろそうだなあ……しかし、日本史という言い方はおかしくない? まるで日本という異国の歴史みたい。日本国の歴史だったら国史だろうが……』

 さつきが呟くと、心が軽くなったような気がした。

「さつき、さつき姫……」

―― なに? ――

 なんと、山川の詳説日本史の中から声がした。

「さつき、いま教科書の中に居るの!?」

―― あ、そうみたい ――

「大発見。本の中にも入れるじゃん! 本だったら、けっこうあるから、本の中に居てよ!」

―― おお、わたしも興味津々だしな ――

 一安心、のべつ幕なしで心の中におられてはかなわない。

 ベッドにひっくり返ると、スマホを取り出してググってみる。

 

 さつきひめ ⇒ 五月姫

 

 おお。

 椿の苗木の名前で出てきた。

 大振りのキッパリした赤い花。

 シャッキリしてて感じがいい。ちょっと好感度があがった。

 スクロールすると、すごい名前が出てきた。

 

 滝夜叉姫

 

 え、なにこれ?

 ……平将門の娘、父の無念を晴らすため、毎夜、白装束で鞍馬の貴船神社に通いった。頭にロウソクを括り付け、藁人形を五寸釘で打ち付けて、父を陥れた者たちを呪い続け、ついには、呪力を身に着け、滝夜叉姫となって様々に人を呪い殺し、害をなした。

 え……? 

 丑の刻参りの元祖と言われる。

 ええ!?

 聞いてないんですけど!

 

『明日香、おまえ、なかなかええ体してるなあ』

 次に声が聞こえたのは、お風呂に入ってるとき!

「ちょ、教科書の中にいるんじゃないの!?」

『風呂は、さつきも好きだぞ』

「て、あなた、実は丑の時参りの滝夜叉姫なんでしょ!?」

『あ、もうバレたか?』

「妖術とか呪術とかで、鬼みたくなって、最後は大宅中将光圀てのに退治されたんでしょ!」

『アハハ、昔の話だよ、気にするな』

「いや、だって……」

『しかし、明日香、おまえ、まだおぼこ(処女)だったんだな』

「グ(# ゚゚#)」

 顔のニキビを発見したほどの気楽さで言われたが、言われた本人は、真っ赤になった……。

 

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