大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

滅鬼の刃・23『元日の新聞』

2022-01-14 18:23:27 | エッセー

 エッセーノベル    

23・『元日の新聞』   

 

 

 明日は読もう……と思って二週間が過ぎました。

 

 気が付くと孫が、ヨイショっと掛け声をかけています。

 なんの掛け声かというと、明日の朝に出す一か月分の古新聞を玄関先に出す掛け声です。

 年末年始を挟んだので、いつもよりも重たいので、つい掛け声が出てしまうのでしょう。

 いまさら「読んでないから」とは言えません、元日の新聞。

 

 元日の新聞というのは、清々しいのですが、その分厚さに「まあ、昼から読むか」になって、「明日読もう」「明日は読もう」「明日こそ読もう」と思い続けて二週間が経ってしまったわけです。

 

 新聞は、物心ついたころから見ていました。

 親父が読んでいる横から眺めて、字は読めませんでしたが、なんとなく見ては、親父の「へー」とか「ホー」とか感心するのを真似していました。

 真似をすると、お親父もお袋もニコニコと喜んでくれて、それが嬉しくて新聞を見ていたように思います。

 幼稚園に行く頃には平仮名が読めるようになって、広告や見出しの平仮名を拾い読み。むろん意味など分かりません。でも、新聞を広げているだけで面白かったように思います。

 三面の四コマ漫画、これは読まなくても分かります。

 それから、二面に載っている時事風刺マンガ(政治家の顔は、これで憶えました)、広告の絵とか写真とか。そして、夕刊に載っていた連載小説……の挿絵を見て喜んでいました。

 あのころは、しょっちゅう大事件が起こっていました。また、新聞のコードも緩かったので、今では載せられないような写真が平気で掲載されていました。

 事故現場の写真とか平気で載っていましたね。さすがに遺体をもろに写していたのは記憶にありませんが、遠くに写っているものなどはあったと思います。三島由紀夫の事件の時は、首が写っていたように思うのですが、週刊誌に掲載されたものと混同しているかもしれません。

 犯人が逮捕され、手錠をはめられている写真などはザラでした。いつの時代からだったでしょうか、手錠をはめた手をレッグウォーマーのような筒状のもので隠すようになった方が違和感でした。

 今で言うと、面白い動画をYouTubeでぼんやり見ているのと同じ感覚でした。

 まあ、そういうところから新聞を読むようになって六十年あまり。

 

 その新聞の中でも、元日の新聞は特別でした。

 

 とにかく、めっぽう分厚いもので、たしか三部ぐらいに分かれていました。

 通常の朝刊と、正月の特集、それに新聞社の特別企画といったものが、それぞれ月刊誌ぐらいありました。

 それに、いつもは白黒の新聞がカラーだったのも正月だけだったと思います。

 郵便受けから出しただけで、新聞の紙とインクのにおいが香しかったですね。

 新聞を取り込んで玄関の戸を開けようとすると、もみ殻が落ちています。しめ縄の稲穂をスズメがついばんだ痕です。

 箒と塵取りで、それを掃除して、ゴミ箱(たいていの家がタールを塗った木製)に捨てると、通りの家々には日の丸が掲げられていました。

 その元日の新聞を、開くこともなく古紙に出してしまいました。

「出すのは、お爺ちゃんやってよね」

 年末最後の古紙回収に出し忘れたのをしっかり憶えている孫は、しっかりと念をおすのでありました。

 

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やくもあやかし物語・119『将門の病室・2』

2022-01-14 11:04:07 | ライトノベルセレクト

やく物語・119

『将門の病室・2』 

 

 

 あ……ありがとうございます……

 意識の戻った滝夜叉姫は、苦しい息を整えながら、まずはお礼を言った。

「お察しの事と思いますが、あの蛇は神田川の主でございます。かねてから、父に成り代わって、関八州を支配しようと……そのために、父将門を亡き者にしようと……警戒はしていたのですが、父の看病中、つい居眠りしてしまった隙に入れ替わられたようです」

「おそらく、滝夜叉さんが、ふと見てしまった夢を突破口にしたんでしょう」

 御息所が言うと、説得力があるよ(^_^;)

「それからは、体内の蛇が次々に病魔を取り込んで、父を、このように……申し訳ありません、父上、滝夜叉が不甲斐ないばかりに……」

「いやいや、千年の月日がたって、儂自身の力も衰えてきている。滝夜叉が悪いわけではない」

 

 あまりのことに言葉も出ないけど、勇気を奮って聞いてみる。

 

「それで、将門さまのお体に入った病魔たちは?」

「……関八州のあちこちに蟠って力を蓄えておりましょう」

「それじゃ……」

「病魔は去ったが、あちこち食い散らかされて、回復には相当の時間がかかりそうでござるよ」

「わたしも、このありさま。あつかましいお願いですが、このまま、あの病魔……外に出てしまっては、もう業魔とでも呼ぶべき魔物になっていると思います。なにとぞ、このまま退治を続けてはいただけないでしょうか」

「承りました」

「あ、ちょ……」

 わたしが返事する前に御息所が応えてしまう。

「だいじょうぶ、この六条の御息所がついています」

 なんで、いきなりアグレッシブ?

「えと、その、病……業魔は?」

「退治してくださるか?」

「あ、はい。引き受けたことですから」

「業魔は干支封じになっています。十二支を支配していますが、蛇は、先ほど退治されました。残りは十一……お待ちください、透視して……」

「「「「あ、姫さま!」」」」

 透視のため印を結ぶが、すぐにぐらついて、メイドさんたちが支えに入る。

「申し訳ありません、まだ、力が戻らないようです……改めて透視したうえでお知らせいたします」

「じゃあ、今日のところは」

「はい、秋葉原まで送らせていただきます。寄るおつもりだったのでしょ?」

「えと、はい」

「では、お送りして」

「「「「はい」」」」

 

 メイドさんたちに案内されて、御殿の前で馬車を待つ。

 

 エッサホッサ エッサホッサ

「え?」

 やってきたのは馬車ではなくて、ラムレムメイドさんが二人で担ぐカゴだ。

「姫さまの力が十分ではありませんので、カゴになります」

「申し訳ございません」

「あ、いえ(^_^;)」

「それから、これは神田明神のお守りでございます」

「将門さまから、お渡しするおように、申し付かりました」

「ありがとう」

 あんなに弱っちゃった将門さまのお守りをもらってもどうかと思うんだけど、気持ちの問題。

 ありがたくいただく。

「では、カゴにお乗りください」

「はい、じゃ、お願いします」

 

 エッサホッサ エッサホッサ

 

 カゴに担がれて、取りあえずは、アキバに向かったのだった。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門

 

 

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明神男坂のぼりたい・41〔離婚旅行随伴記・6〕

2022-01-14 06:35:47 | 小説6

41〔離婚旅行随伴記・6〕 

   

 


 パーーーーーーーン

 え また銃声?


 旅行になんか、めったにいかないので、いっぺんに目が覚めてしまった。

 殺人事件やら、明菜のお父さんが逮捕されたりで、興奮していたこともある。

 明菜は、寝床に入っても悶々としていたが、明け方にようやく寝息を立ててグッスリ寝ている。

 やっぱり、あたしは野次馬だ。

 顔も洗わずにGパンとフリースに着替えて、音のした方へ行ってみた。

 パーーーーーーーン

 旅館の玄関を出ると、また鉄砲の音がした。

 

「やあ、すんません。起こしてしまいましたか」


 旅館の駐車場で、番頭さんらが煙突みたいなものを立てて鉄砲の音をさせている。

「いえ、旅慣れてないから、早く目が覚めて……何してるんですか?」
「カラス追ってるんです。ゴミはキチンと管理してるんですが、やっぱり観光客の人たちが捨てていかれたたものやら、こぼれたゴミなんかを狙って来ますからね」

「番頭さん、カースケの巣が空だよ」

 スタッフのオニイサンが指差す。

「ほんとか!? カースケは、これにも慣れてしまって効き目なかったんだぞ」
「きっと、他の餌場に行ってるんですよ。昨日の事件のあと、旅館の周りは徹底的に掃除しましたからね」
「カースケって、カラスのボスかなんかですか?」

 単なる旅行者であるあたしは気楽に聞いた。

「ハグレモノなんだけど、ここらのカラスの中では一番のアクタレでしてね。行動半径も広いし、好奇心も旺盛で、こんな旅館の傍にに巣をつくるんですよ」

 スタッフが、長い脚立を持ってきた。

「カースケが居ないうちに撤去しましょ。顔見られたら、逆襲されますからね」
「ほなら、野口君上ってくれるか」
「はい」

 若いスタッフが脚立を木に掛け、棒きれでカースケの巣をたたき落とした。

 バサ

 落ちてきた巣はバラバラになって散らばった。木の枝やハンガー、ポリエチレンのひも、ビニール袋、ポテトチップの残骸……それに混じって大小様々な輪ゴムみたいな物が混じっていた。

 輪ゴムは、濃いエンジ色が付いて……ピンと来た。

 これは手術用のゴム手袋をギッチョンギッチョンに切ったもの……それも、事件で犯人が使ったもの。

「ちょっと触らないでくれます。これ、殺人事件の証拠だと思います!」

 あたしは知っていた。殺人にゴム手袋を使って、そのあと捨てても、内側に指紋が残る。お父さんが、それをネタに本を書いていた。

 やった!

 幸いなことに、指先が三本ほど残っている。

 番頭さんに言うと、直ぐに警察を呼んで、お客さんたちのチェックアウトが始まる頃には、見事に鑑識が指紋を採取した。

「出ました、椎野淳二、前があります!」

 今の警察はすごい。指紋が分かると、直ぐに情報が入って現場でプリントアウトされる。写真が沢山コピーされて、近隣の警察に配られ、何百人という刑事さんが駅やら観光施設を回り始めた。

 そして、容疑者は箱根湯本の駅でスピード逮捕された。

 椎野淳二……杉下の仮名を使っていた。そう、明菜のお父さんの弾着の仕掛けをしたエフェクトの人。表は映画会社のエフェクト係りだけど、裏では、そのテクニックを活かして、その道のプロでもあったらしい。

 明菜のお父さんは、お昼には釈放され、ニュースにもデカデカと出た。

 たった一日で、娘と父が殺人の容疑をかけられ、明くる日には劇的な解決。

 この事件がきっかけで、仮面家族だった明菜の両親と明菜の結束は元に……いや、それ以上に固いものになった。

 春休み一番のメデタシメデタシ、明神さまのご利益……え、まだあるかも? 

 あったら嬉しいなあ!

 

※ 主な登場人物

 鈴木 明日香       明神男坂下に住む高校一年生
 東風 爽子        明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
 香里奈          部活の仲間
 お父さん
 お母さん         今日子
 関根先輩         中学の先輩
 美保先輩         田辺美保
 馬場先輩         イケメンの美術部
 佐渡くん         不登校ぎみの同級生
 巫女さん
 だんご屋のおばちゃん
 明菜           中学時代の友だち 千代田高校

 

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