大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・271『スイヘーリーベー』

2022-01-13 13:40:43 | ノベル

・271

『スイヘーリーベー』さくら     

 

 

 スイヘーリーベー ボクノフネ ナモアル シップスクール……

「また間違った」

「え、そうなん?」

「ナモアルじゃなくて ナマガルだよ」

「七曲がる?」

「う……ま、いいか。Na  Mg  Al  Si  P だから」

「えと……」

「ナトリウム マグネシウム アルミニウム ケイ素 リン だから」

「アハハ アルミニウムまではなんとなくなんやけど、Siがケイ素とかPがリンとかは……」

「そこが分かってないと、いくら語呂合わせ憶えても意味ないよ」

「あははは……」

 

 一年の時に憶えた周期律表が間違っていたのが、今日の理科の授業で分かってしまった。

 それで、帰り道、留美ちゃんに付き合ってもらって憶え直しているところ。

 

 あたしはね、こういう風に憶えてた。

『水兵リーベー 僕のふね 名もある シップスクール』

 

 ほんとは(ここでメモを見る)

『水兵リーベー 僕のふね ナマガル シップス クラークカ』

 

 正確に覚えんと、元素記号に変換するときに失敗するらしい。

「らしいじゃなくて、できないの!」

「あはは……」

 いつになく、留美ちゃんが怖い(^_^;)

「もう、入試までいくらもないんだよ」

 はいそうです。

「ナマガルは『七曲がる』と憶えても、元素記号さえ頭に入ってたら変換できるからね」

「はい、七曲がる!」

 

 で、角を曲がったところで、山門から懐かしい人が出てくるのが見えた。

 

「あ、米国さん!」

「米国産?」

 今度は、留美ちゃんがトンチンカン。

「おお、さくらやんか!」

 ヒ

 小さく悲鳴を上げて留美ちゃんがビビる。

 無理もない、アメセコの迷彩服にレイバンのグラサンかけて、鼻から下はごっつい黒のマスク。

 それが、ノシノシと親し気に近づいてきよる。

「ああ、えと……如来寺で落語会やらせてもろてた桂米国です」

 グラサンだけ外して、留美ちゃんに微笑みかける。

「あ、ああ……」

「思い出してもらえた?」

「はい、落語会の時は、着物を着ていらっしゃったから……」

「ごめんね、普段は、こんなんです」

「しかし、米国さん、ミリタリーもよう似合うねえ」

「アハハ、むかし海兵隊に居ったからね(^_^;)」

「え、ほんまのミリタリーやったん? てっきり、ペットショップかブリーダーの息子やと思てた!」

「ああ、メインクーンの時に!」

「メイクイン?」

「それは、ジャガイモ。メインクーンいうて……」

「あ、思い出した! ダミアの種類が分からない時に、教えてもらった!」

「はい、そうですがな」

「落語家さんだったんですよね?」

「過去形ちごて、現在進行形です(^_^;)」

「あ、ああ、ごめんなさい!」

「で、また落語会?」

「……のはずやったんやけどね」

「こんども……」

「はいな、諦一さんと相談して、たったいま決めたとこ。流行り病には勝てません」

「残念やけど、しゃあないねえ」

「おっと、さくらと喋ってたら、つい距離が近くなるわ。ほんなら、これで失礼します」

「うん、バイバイ」

 あたしは大きく、留美ちゃんは小さく手を振って見送りました。

 

 米国さんが帰っていく通りの向こうにコンモリとごりょうさんの緑が見える。

 

 アメリカ人の落語家さんが、奇しき縁で姉妹のように暮らしてる中学生に見送られて、それを千五百年前の仁徳さんが見守って、その横っちょの家が、鎌倉以来九百年の歴史のある浄土真宗のお寺。

 なんか、とってもゆかしい気分になってきた。

「よし、入試に向けて頑張ろうね!」

 ゆかしい気持ちは、留美ちゃんのリアリズムで、パチンと消えてしまう。

「はいはい、水兵リーベー ぼくの船 名もある……」

「ナマガル!」

 へいへい、ナナマガリ……

 

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明神男坂のぼりたい・40〔離婚旅行随伴記・5〕

2022-01-13 06:23:24 | 小説6

40〔離婚旅行随伴記・5〕 

   

 


 明菜のお父さんが逮捕されてしまった!

 逮捕理由は、お父さんが杉下さんいう効果係の人といっしょになって、拳銃殺人のドッキリをやったときの血染めのジャケット。

 ジャケットに付いていた作り物の血に、なんと大量の被害者の血が混じって付いていた。

 話は、ちょっとヤヤコシイ。

 ドッキリを面白がった番頭さんが、そのジャケットを借りて、休憩時間中の仲居さんたちを脅かしていた。

 それで、最初、警察は番頭さんを疑った。しかし、番頭さんにはアリバイがある。お客さんを客室へ案内して仕事中だった。

 お父さんは、この旅館には泊まり慣れていて、番頭さんとも仲がいいし、旅館の構造にも詳しい。

 殺人事件のあった時間帯は、旅館の美術品が収められている部屋で、一人で、いろいろ美術品を鑑賞してたらしい。事件に気づいて部屋の鍵を返しにロビーへ行ったけど、警察は、これを怪しいと睨んだ。

 美術品の倉庫に入るふりをして、番頭さんに貸したジャケットを着て被害者を殺し、殺した直後ジャケットを番頭さんのロッカーにしまった。そう睨んでる。

 ただ一つ誤算があって、第一発見者が明菜で、明菜が犯人にされてしまい。お父さんは必死で正当防衛だと……叫びすぎた。

 警察は逆に怪しいと睨んだ。調べてみると、アリバイがない。その時間、美術倉庫の鍵は借りていたけど、入ってるところを見た人がいない。

 そして、なによりも、お父さんが触ったと言う美術品からは、お父さんの指紋が一切出てこない。

「美術品触るときは、手袋するのが常識じゃないですか!?」

 なんでも鑑定団みたいなことを言ったけど、警察は信じない。お父さんは、ドッキリ殺人のあと、一回この美術倉庫に来ている。だから、ドアなんかに指紋が付いていても、一回目か二回目か分からない。お父さんは一回目で、いい茶碗を見つけたので、もういちど見にいった……これは、いかにも言い訳めいて聞こえる。

 

「うちの主人は、そんなことをする人間じゃありません。わたし、美術倉庫の方に行く主人を見ています」


 身内の証言は証拠能力がない。

 例え離婚寸前でも夫婦であることに違いはない。

 まずいことに、お父さんの会社は資金繰りが悪く、ある会社から融資をしてもらっていたが、その資金の出所が、殺された経済ヤクザの関係する会社。


「そんなことは知らなかった」
「知らんで通ったら警察いらねーんだ!」

 と言われ、ニッチモサッチモいかなくなった。

「明菜、あんたの疑いは晴れたけど。今度はも一つえらいことになってしまったね」
「いいのよ、これで」
「なんで? お父さん逮捕されちゃったのよ!」

「今度はドッキリとちがう」

「明菜、まさかお父さんが……」
「バカらしい。お父さんは、そんなことできないわよ。ねえ、お母さん」

「そう、だけど、警察は身内の証言は信用しないし……」

 さすがに、お母さんも、それ以上の言葉が無い。

「でも……お父さんの疑いが晴れたら、全部うまくいく、家族に戻れる。そう思ってる」

 親友明菜は、しぶとい子だ。あたしは、そう感じた。

 そのためにも真犯人を見つけなくっちゃ……。

 

※ 主な登場人物

 鈴木 明日香       明神男坂下に住む高校一年生
 東風 爽子        明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
 香里奈          部活の仲間
 お父さん
 お母さん         今日子
 関根先輩         中学の先輩
 美保先輩         田辺美保
 馬場先輩         イケメンの美術部
 佐渡くん         不登校ぎみの同級生
 巫女さん
 だんご屋のおばちゃん
 明菜           中学時代の友だち 千代田高校

 

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