鳴かぬなら 信長転生記
予想を超えていた。
酉盃の旅館街で二軒宿を当ってみたのだが、二軒とも満室で断られたのだ。
「なんで、酉盃の宿まで満杯なのよ!」
「予想より曹軍の規模が大きい」
「なんで!?」
市のいらだちも分からないではない。
昼間調べた限りでは曹軍は三個軍団。一個軍団は定員一万が常識だ。
豊盃も、それを基本に作られた三国志南部の主邑で、額面通りの三個軍団ならば、佐官以上の将校全てを収容しても、わずかに余裕がある。
それが、西隣の酉盃の宿まで一杯にしているのだから、丸々一個軍団は多いということになるだろう。
「形の上では三個軍団を装って、その上で部隊の定員を増やしているんだろう。おそらくは、予備軍の扱い。扶桑との戦いが佳境に入った段階で、予想を超える予備軍を投入して、一気に勝ちを収める腹だ」
「で、宿はどうするの!? もう腹ペコのクタクタなんですけど、お姉さま!」
「仕方ない、奮発して将官クラスの宿を当ってみよう」
「将官級って、四ツ星!?」
「いや、五つ星。確実に空いているところを狙う。軍団長の身内というつもりでいろ、金さえ出せば詮索されることはないだろうが、怪しまれることは避ける」
「了解、お兄さま、いえお姉さま! お風呂でお背中流させていただきます!」
「いくぞ」
「あ、待ってえ(^▽^)/」
しかし、五つ星も満室であった。
「申し訳ございません、陪邑の宿坊ならばあるいは……」
番頭が済まなさそうに、詫びながら陪邑の宿坊ならばと勧める。
「それって?」
「城外にある町を陪邑という。そこにある寺の宿だ。治安が悪い。並の女旅なら勧めんだろ。俺たちを見て、これなら大丈夫だろうと進めるんだろう」
「もし陪邑にお泊りでしたら、これをお持ちなさいませ、お二人はお美しすぎます」
「これは?」
「はい、今度の戦では、お坊様方の中にも還俗して軍に身を投じるお方がございます。うちの宿で還俗されたお方のものでございます」
「そうか、ありがたくいただいておく」
宿を出て振り返ると、まだ明るいというのに五つ星は最上階のロフトまで煌々と明かりが灯っている。
宿のロフトは物置か使用人たちの部屋だ。番頭の言うとおりの満室だ。
閉門寸前の西門を出てから、僧衣に改め饅頭傘を被る。
「どうして、なかなかのものだ。二人とも隙が無いから、けっこう強そうな僧兵に見えるぞ」
「もう、さっさと行こ!」
「そうか、腹が減っていたんだな……あの屋台で饅頭(まんとう)を買おう」
「饅頭傘で饅頭……下手なギャグだけど、お腹空いてるからまあいい」
「亭主、肉まんを二つずつくれ」
「あた……拙僧はカレーまんがいい」
「肉まんしかないあるよ」
「それでいい、こいつは冗談を言ったのだ」
「まいど、しまいものだから、一元でいいあるよ」
「すまんな」
饅頭を懐に入れると、市の饅頭傘が小刻みに揺れている。
「どうかしたか?」
「だって、しまいものだよ。ギャグだね」
「仕舞いものと姉妹ものか」
「だって、おかしいよ(^_^;)」
「企まずの、ギャグだな」
「はやく食べよ」
「待て」
饅頭の包みを開けようとすると、路傍から人の気配。
もし、御坊
呼びかけてきたのは、二等軍曹という感じの兵隊だ。
「この先の道は、軍事行動のため通れん。四半時待つか、別の道を通られよ」
「で、あるか。心得た」
返事をしてやると、二等軍曹は他の通行人にも注意をするために行ってしまった。
「待っていたら陽が沈むよ」
「分かっている、行くぞ」
「あ、やっぱり」
道を進むと、俺たち以外の旅人は軍の威光を恐れたのだろう、人影を見ることが無い。
「軍事行動って、なにをやってるんだろうね?」
「とんだ軍事行動かもな」
「え?」
市が不審がると同時に女の悲鳴が起こった。
キャーーー!! だれか、お助けええええ!!
☆ 主な登場人物
- 織田 信長 本能寺の変で討ち取られて転生
- 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
- 織田 市 信長の妹
- 平手 美姫 信長のクラス担任
- 武田 信玄 同級生
- 上杉 謙信 同級生
- 古田 織部 茶華道部の眼鏡っこ
- 宮本 武蔵 孤高の剣聖
- 二宮 忠八 市の友だち 紙飛行機の神さま
- 今川 義元 学院生徒会長
- 坂本 乙女 学園生徒会長