大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・090『西ノ島銀行ですか?』

2022-01-23 11:07:06 | 小説4

・090

『西ノ島銀行ですか?』 加藤 恵    

 

 

『『『買った方が早い』』』

 人が言うのならともかく、本人たちが言うのは困った。

 

 パチパチたちのオーバーホールをやっているんだけども、あちこちガタが来ていて、本格的な修理をするとなると、けっこうな出費になる。

『西ノ島は豊かになったんだから、新型のを買って、作業効率をあげるべきだよ』

『さよう、オマツの新型は作業速度も積載量も五割り増しでござる』

『ニツビシの新型は、五体までに分裂して局所的な作業でもロスが無いアルよ。パチパチは、どう変態しても、一つの作業機械にしか変態でき無いアル』

『来月のバージョンアップでは、作業体同士の結合も可能になって、より大きな作業機械にもなれるようだし』

『『『ここは買い替えるべきだ』』』

 またも声が揃った。

「でも、買い換えたら、あんたたち廃棄だよ」

『うん』

『当たり前でござる』

『わたしも同志も道具ある。道具はダメになったら廃棄ある』

『『『廃棄、廃棄』』』

「もーーー」

 

 トントン

 

 言い返そうと思ったらラボのドカがノックされる。

 モニターで確かめるまでもない、この穏やかなノックは社長だ。

「どうぞ、ロックはしてませんから」

「どうですか、パチパチたちの仕上がり具合は?」

「それが……」

 いきさつを説明すると、社長は穏やかに耳を傾けてくれる。

 聞いている間も「なるほど……」「そうですねえ……」と相槌を打って、時々、時代劇でしか見られないような手帳を出してメモっている。

「あ、気になるかなあ、メモを取るの?」

「あ、いえ、手書きのメモって、とてもゆかしくて」

「むかし、東大阪OS基地で世話になっていたことがあって、そのとき身に着いた習慣なんです」

「東大阪OS基地……金剛山にあったやつですね……あ、たしか天狗党が」

「ハハハ、昔の話ですよ。気にしないで、この時代に、なにかを成し遂げようとしたら、そういうこともあります」

「は、はい」

『東大阪OS基地?』

『なにアルか?』

『検索しても出てこぬでござる』

「さあ、どうしてだろうねえ」

 社長は、分かっていてとぼけてる。

 天狗党と関りを疑われるものは、普通のやり方では検索できない。わたしに気を遣ってくれているんだ。

「それで、話なんだけど」

「はい」

「パチパチたちも聞いておくれ」

『『『ラジャー』』』

「自動作業機械を買い替えようと思うんだ」

「え!?」

『『『それがいい!』』』

「あ、ちょっと社長」

「それについて、パチパチたちには資金管理をしてもらってはと思うんだけど」

「あ……!」

「さすがは、加藤恵、呑み込みが早いね」

 

 そうだ、そうなんだ。

 パチパチは、あまりに旧式なため、メーカーはネットサービスをとっくに終えている。

 つまり、オンラインでの繋がりは、大昔のキッズスマホ程度でしかない。

 つまり、オフライン同様で、並列化も、この西ノ島程度のローカルでしかできない。

 つまり、外部からの侵入に強く、資金と、その情報の管理にはもってこいなのだ。

「このラボに隣接して銀行を建ててみようと思うんだ。村とフートンにもね」

「西ノ島銀行ですか?」

「あ、それいいね。おとぎ話めいて、僕の好みだ! うん、村とフートンにも支店を作ってもらおう!」

「それをパチパチたちに?」

「そうだ、いっそパチパチのベースをオートマ体にしてはどうだろ? 作業体は、銀行と周辺の警備係り兼営繕係りにすればいい。ねえ、どうだろ?」

 ガチャガチャガチャ ドスンドスン

「もお、作業体で興奮するんじゃない、ラボの床が抜ける!」

「じゃあ、銀行設立準備の一つということで、オートマ体を大幅に改良することにして、作業体はモスボール……うん、その方向でやろう! さっそく、村長と主席にも話をしよう!」

 社長は、そのままラボを飛び出していった。

 わたしもパチパチも考えをまとめるダシに使われたようだ(^_^;)

 

 ちょっと忙しくなりそう。

 そして、それ以上に面白くなりそうな予感がしてきた。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥              地球に帰還してからは越萌マイ
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室                西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩)
  • 村長                西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地

 

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明神男坂のぼりたい・50〔お祖母ちゃんをカバンに入れて〕

2022-01-23 06:40:55 | 小説6

50〔お祖母ちゃんをカバンに入れて〕 

    


 お祖母ちゃんをカバンに入れて多摩の山中に出かけた……。

 と言っても、お祖母ちゃんを絞め殺して、山の中に捨てにいったワケではない(^_^;)。

 だれでもそうだけど、あたしには二人のお祖母ちゃんが居る。

 お母さんのお母さんと、お父さんのお母さん。

 お母さんのお母さんの方は、石神井で、足腰不自由しながらも健在。

 カバンの中に入ってるのは、お父さんのお母さん。つまり父方の祖母。

 このお祖母ちゃんは、去年の7月に、あと10日ほどで88になるところで亡くなった。そのお祖母ちゃんの遺骨が、あたしのカバンの中に入っている。

 うちのお墓は、多摩にあるロッカー式のお墓。3年前にお祖父ちゃんが亡くなったときに初めて行った。

 お祖父ちゃんの骨壺はレギュラーサイズだったけど、三段に分けた棚には収まらなかった。しかたないんで、一段外して、なんとか収めた。

 これで、うちの家族は学習した。

「ここは、普通の骨壺で持ってきたら、一人で満杯。アパートで言ったら単身者用の1K」

「このセコさは、ほとんど詐欺だなあ」

 お父さんは怒っていた。

「そのうちに、なんとかしよう」と、言ってるうちにお祖母ちゃんが、去年の7月に、突然亡くなった。

 で、しかたないので、分骨用の小さい骨壺に入れてもらった。容量は500CCあるかないか。
 ほんのちょっとしかお骨拾えなくって、可哀想な気になった。

 そのペットボトルほどの骨壺が、あたしのカバンの中でカチャカチャ音を立てている。

 べつに骨になったお祖母ちゃんが、骨摺り合わせて、文句言うてるわけではない。フタが微妙に合わなくて、音がするんだ。電車の中では、ちょっと恥ずかしかった。

 あたしは、このお祖母ちゃんの記憶がほとんど無い。

 小学校に入ったころには、認知症で特養に入っていたしね。要介護の5で、喋ることもできなくて、頭の線切れてるから、あたしのこともお父さんのことも分からない。

 ただね、保育所に行ってたころ、親類の家で熱出して、かかりつけのお医者さんに連れて行ってくれたことだけ覚えてる。
 正確には、お父さんが、あたしを背負って、お祖母ちゃんが先をトットと歩いた。足の悪かったお祖母ちゃんは、普段は並の半分くらいの速さでしか歩けない。それが、そのときは、お父さんより速かった。

 だから、記憶にあるお祖母ちゃんは、後ろ姿だけ。

 その後ろ姿が、骨壺に入ってカチャカチャお喋りしてる。フタの音だというのは分かってるけど、あたしにはお祖母ちゃんの囁きに思えた。

 その囁きの意味が分かるのには、まだ修行が足りない。大人になって、今のカチャカチャを思い出したら、分かるようになるかもしれないなあ。

 だけど、この正月に亡くなった佐渡君は、ハッキリ火葬場で姿が見えた。声も聞こえた。お祖母ちゃんのがカチャカチャにしか聞こえないのは……あたしの記憶が幼いときのものだから……そう思っておく。

 多摩の駅に着くと、初めて見る女の子が来ていた。

「あ、未来(みく)ちゃんじゃないか。大きくなったなあ!」

 お父さんが、昔の営業用の声で言った。それで分かった。あたしの従兄弟の娘だ。

 うちは、お父さんもお母さんも晩婚。伯母ちゃんは二十歳で結婚したので、一番歳の近い従兄弟でも20年離れてる。
 だから、従兄弟はみんなオッサン、オバハン。従兄弟の子どもの方が歳が近い。

 だけど、この子には見覚えが無い。

 あ……思い出した。このオッサン従兄は離婚して、親権がない。それが、こうして連れてこれたというのは……お父さんは、一瞬戸惑ったような顔になってから声かけてた。身内だから分かる微妙な間。なんか事情があるんだろ。

 納骨が終わると、未来ちゃんの姿がなかった。

「腹が痛いって、待合いで座ってる」

 オッサン従兄は、気まずそうに言う。

 待合いに行くと、椅子にお腹を抱えるように丸くなった未来ちゃんが居た。

「大丈夫、未来ちゃん?」

 声をかけると、ビクっとして、でも顔は上げない。

 ちょっと意地悪かもしれないけど、しゃがんで顔を覗き込んだ。

「う、うん……大丈夫」

 どこが大丈夫なんだと思った。佐渡君と同じ景色が顔に見えた。未来ちゃんは人慣れしてない。おそらく学校にもまともに行ってないんだろうね。それ以上声をかけるのははばかられたよ。佐渡君と違って、血のつながりはあるけども、心の距離は、もっと遠い。

 

「なんか、この時代の人間はひ弱だねえ」

 家に帰ると、さつきが心の中で呟いた……。

 

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