やくもあやかし物語・121
こっち こっちこっち
メイド将軍に阻まれ、途方に暮れていると、どこからともなく呼ぶ声がする。
「やくもさま、足もとです」
赤メイドが、口も動かさずに呟く。
「足もと?」
わたしも、口を動かさずに聞いてみる。
「マンホールです」
「「足もとの」」
アカ・アオの声が揃って、ソロっとマンホールを視野の端っこに捉える。
「あ、わたしみたいなのが居る!?」
ポケットから首だけ出した御息所が小さく驚く。
マンホールの蓋が少しズレていて、御息所と同じくらいの女の子が口の形で『こっちこっち』と言っている。
え、マンホールの中?
—— はい、マンホールです ――
「これは、裏アキバからのお誘いのようです」
「ラッキーです。裏アキバは、まだお味方のようです」
アカクロメイドは、そう決めつけると、カゴをマンホールの上に据えて「「お乗りください」」とカゴの簾を上げる。
「う、うん」
言われるままに乗ろうとしたら、カゴの底が開いていて、その下のマンホールも開いている。
「カゴに乗るふりをして、マンホールに入ってこいってことよ」
御息所が分析。
「よいしょっと」
カゴの底経由でマンホールに入ると、ガシャリと音がして、マンホールの蓋がしめられる。
あ、真っ暗!
ちょっとビックリして、よろける。
「おっと」
声が掛かったかと思うと、誰かが支えてくれる。
あれ? 御息所もお迎えの子も、1/12くらいの大きさ。わたしを抱きとめるなんてできない。
「ちょっとだけ、お手伝い」
「え?」
ちょうど非常灯のようなものが点いて、その姿が見える。
「「あ、メイドお化け」」
御息所と声が揃う。
「説明は後よ、ついて来て」
足元のお誘いに目配せすると、地下下水道……というにはキレイで、赤じゅうたんが敷かれた地下通路。
壁や天井も、チェックや水玉や花柄や縦縞、横縞のパッチワーク。
「この柄って……」
「考えない方がいい」
「う、うん」
地下通路を抜けると、アキバの駅前広場……なんだけど、アニメの背景画のように、よく言うときれい、あからさまに言うと実在感が無い。
「ここが裏アキバ」
「う、うん」
メイドお化けの短い説明に頷くしかないんだけど、ちっとも釈然としない。
「二丁目でもね、やくもに任せっきりではあんまりだって声があがってね、ま、それで、わたしが、ちょびっとだけ手伝うことになったわけ」
「嬉しい、手伝ってくれるの!?」
将門さまはあんなだし、アカアオメイドともマンホールで別れてしまうし、正直なところ、どうしようかって思ってたところ。
「手伝うと言っても、この裏アキバに渡りを付けるところまでよ。あ、その子がね……」
「わたし、裏アキバの妖精でアキバ子と言います」
「空き箱?」
「いえ、アキバの子どもで、アキバ子です」
「あ、えと……」
正直、1/12サイズでは心もとない。
「そのまま業魔と戦っては分が悪いのです。地上では業魔どもに姿を見られっぱなしですし、戦うにしても、御息所さまは、お小さいまま……」
「あんたに言われたかない」
「アハハ、ですよね。でも非力なのは事実でして、万全の力を発揮していただくにはアキバの夢の力を纏っていただかなければなりません」
「アキバの夢?」
「説明していては時間がかかります。わたしの中にお入りください。エイ!」
そう言うと、アキバ子はグルンとでんぐり返し。
すると、アキバ子は本当の空き箱になってしまった。
驚いていると、空き箱の蓋が開いて、中から小さなハートがホワホワ光りながら浮かび上がってきた。
「さあ、そのハートを見つめて!」
「う、うん」
メイドお化けに言われて、ハートを見つめていると、猛烈な眠気に襲われる。
「じゃ、活躍のほどは二丁目のみんなで観てるから、がんばってねえ(^o^;)!」
あ、なんだか無責任、なんか言ってやらなきゃ……思っているうちに意識が無くなって……いった……。
☆ 主な登場人物
- やくも 一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
- お母さん やくもとは血の繋がりは無い 陽子
- お爺ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
- お婆ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
- 教頭先生
- 小出先生 図書部の先生
- 杉野君 図書委員仲間 やくものことが好き
- 小桜さん 図書委員仲間
- あやかしたち 交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 メイド将軍 アキバ子