大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・125『飛鳥山の花見』

2022-09-14 15:53:28 | 小説4

・125

『飛鳥山の花見』ミク  

 

 

 府立大学と国立大学、どっちがえらい?

 

 地球の日本人に聞くと、たいてい国立大学と答える。

 ところが、この火星の扶桑では府立大学の方が断然えらい!

 国立というのは、退役軍人の勇士が国立市(くにたてし)に作った私立の大学。

 府立扶桑大学の府立というのは幕府立という意味で、日本風に言うと、こちらの方が国立なんだよ。

 

 その府大生三人と、国立大生一人が、五分咲きの桜の下でお弁当を広げている。

 

「ほんとうにヒコが作ったにょか!?」

「ああ、なぜか国際政治学科の必履修がクッキングなんでね、みんなに実習試験の前の実験台になってもらってるのさ」

「これも、初代公方さまからの伝統を重んじる府立ならではのことなんでしょうけど、学生のレベル超えてるわよ!」

「美味けりゃなんでもいいぞ、ハグハグ……」

「ダッシュ、もっと味わって食べにゃしゃい、ご馳走に失礼にゃ!」

「ここんとこ国立の食堂飯しか食ってないからな、ムシャムシャ……」

「ほら、また零してるにゃ!」

 一見小学生にしか見えないテルが、軍服にしか見えない制服のダッシュを叱っているのは、微笑ましい。通りすがりのお花見客がクスクス笑っていく。

 まあ、仲間四人の中ではいつもの、でも、一年ぶりの再会なので、ちょっと照れくさいよ。

「今年は無事に満開になりそうなのよさ」

「ああ、これまでの桜は、五分咲きのまま散っていってしまったからな」

「火星の桜は、引力が弱い分、縦には伸びるけど、花を突ける力は弱かったからね」

 桜に罪があるわけじゃないんだけど、地球人たちからは『もやし桜』なんて呼ばれ方をしていた。

 それをお城の植物園で改良を重ねたものが、この飛鳥山公園に植えられ、二年目の三月に実を結ぶ……じゃなくて花をつけたわけ。

 それを口実……と言っては上様に申し訳ないんだけど、高校卒業以来、初めて四人で集まったわけ。

 

 ヒコ(穴山 彦)は府大の国際政治学科。順当にいけば外務奉行や財務奉行のエリートコース。でも、去年若年寄から老中に昇進したお父さん(穴山新右衛門さん)は、そういうイージーな人生を認める人じゃないんで、在月扶桑事務所の使いっぱしりあたりからになるだろうし、本人も、それでいいと思っているみたい。

 テル(平賀 照)は府大の工学部。パルス動力専攻、一年の秋に出したレポートが学術論文のレベルだったとかで、学生の身分ながら研究員の待遇を獲得。卒業を待たずして教授になてしまうんじゃないかって、もっぱらの噂。でも、見かけは、高校の頃の『どう見ても小学生』のままなんだけど、本人は一向に気にしていない様子。

 ダッシュ(大石 一)は、仲間で一人だけ国立大学。退役軍人の人たちが作った私学の軍事大学。公には士官学校があって、毎年優秀な士官候補生を輩出しているんだけど、下士官の教育機関の充実が遅れていて、軍人のOBたちが阿吽の呼吸で三十年前に創立した質実剛健の学校。三年次からは実際に部隊に配属されて実地教育なので、ダッシュにとっては最後の学生らしい春休み。

 ミク(緒方 未来)。つまりあたしは、府大医学部。まあ、医者の娘だから家業を継ぐためには常識的な選択。ただね、貧乏医者の娘なんで、卒業後三年はお国に御奉公。

 とんでもない修学旅行から三年、こうやって、幼なじみ四人で集まれるのは、これが久々で、しばらくはできないかもしれない。

 まあ、そんなこんなで、お城の北側に古くからある市民の憩いの飛鳥山公園でお花見。

「実習のついでに、こんなものも作ってみた」

「え、お醤油?」

「空きビンが、これしかなかったんでね……」

 ポン

 いい音をさせて栓を抜くと、ぜったいお醤油ではない液体の香りがあふれ出す。

「って、お酒じゃない!」

「おお、ヒコにしては上出来!」

「大学の施設で、こんなの作っていいの!?」

「味醂や麹だって作ってるんだ、料理酒ぐらい作ってもバチは当たらんだろう」

「おお、そうだそうだ、これは料理酒なんだ! みんなでヒコの労作を試してやろうじゃないか!」

「テルは、アルコール飲めないのよさ」

「テル用には、ちゃんと甘酒作っておいたから。さ、みんな紙コップ……」

「では、一年ぶりの再会を祝して……」

「「「「かんぱーーい!」」」」

 グビグビグビ……プッハー!

 口当たりはいいんだけど……けっこうきつい!

「う~~~ん」

 ドタっとランチシートに倒れ込み、もやし桜が逆さに見えて……桜の陰から人が現れた。

 花咲じじい……と言うには、まだお若いその人は。

 

 う、上さま!?

 

 まわったばかりの酔いが、いっぺんに醒めた!

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    国立大学二回生、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    幕府大学国際政治学科二回生、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     幕府大学医学部二回生、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     幕府大学工学部二回生、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首 パイレーツクィーン:メアリ・アン・アルルカン(手下=ツナカン、サケカン、アルミカン)
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・64『三人の中坊女子』

2022-09-14 06:48:12 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

64『三人の中坊女子』オメガ 





 六つ目をゲットしたところでため息が出た。

「アハハハ、おまえもか」

 楽しそうにノリスケが笑う。

「三年連続でクレ-ンゲームだぜ」

「いや、六年連続だ」

「あーーーだったな」

 俺とノリスケは、連休というとアキバにくり出す。

 ぼんやり過ごすにはアキバが一番だ。あちこち見て回った末にゲーセンになる。

 と言っても、いきなりゲームに飛びついたりはしない。とりあえずは人がやっているのを見物する。

 見物してるうちに、やりたいゲームがはっきりしてくる。

 どっちかてーと格ゲーが好きなんだけど、ゲームやキャラによって好き嫌いがある。その日の気分というのもあるしな。

 新しい筐体が入っていれば、とりあえずは足が向くが、長蛇の列になっていたりすると敬遠する。

 俺もノリスケも、とことん没頭したりはしないんだ。ゲームで散財したり熱くなるのは性に合わない。

 そんなゲーセンの締めがクレーンゲームなんだ。

「よかったら、もらってくれる?」

 とったばかりの景品を、となりの筐体で悪戦苦闘している中坊女子たちに示す。

「あ、別にナンパとかじゃないから(^_^;)」

「俺たち景品目当てじゃないから持て余すんだ、どう?」

 三人の中坊女子は目配せしあう。

「あ、ありがとう」

 ポニテが礼を言って、眼鏡っ子とセミロングが受け取ってくれた。

 正直、そのへんにオキッパにしてもいいんだけど、不審物と思われても困る。

 今日日はなんにだって爆弾とかが仕込める、俺たちが置いたものが、そう思われるのも嫌だしね。

 中坊女子に気を使わせるのもやなんで、その足でゲーセンを出た。

「そういや、昨日は東京中の電車が停まっちまったんだよな」

 ここんとこミサイルとか北○○のことがかまびすしい。

 学校でも避難訓練がミサイル対応になってきた。おかげで木田さんを保健室に運んで、お祖父さんの徳川さんが木田さんともどもお礼に来ることにもなった。

 ノリスケも図書室の本が縁で一年の女子と付き合いだして、すこし悩んでいる。

 俺を朝寝坊させてしまうくらいの長電話ですっきりしたのか、その話題には触れない。俺もノリスケが切り出さない限り聞きもしない。

 昭和通り口にさしかかったところでスマホが振動した。

「お、風信子からだ」

 スマホには――相談したいことがあるので来てほしい――のメールが入っていた。

「神の啓示かな、ま、今日は切り上げようか」

 連休に男二人という状況は世間一般的にはシケているんだろうけど、俺もノリスケもそういう感性じゃない。

 でも、このまま解散というのも凹んでしまう。

――ノリスケもいっしょでいいか?――

 そう返事を打つと、折り返し――その方がいいわよ!――と返ってくる。

 改札に向かおうとすると、さっきの中坊女子たちがオロオロしている。

「どうかした?」

 声を掛けると、三人とも泣き出しそうな顔を向けてきた。

「財布がないんです……」

 眼鏡っ子が狼狽えている。

「熱中しちゃうと注意力散漫になるんで、貴重品はまとめてあたしが持ってたんです」

「彼女がいちばん冷静だから」

「ゲーセンで景品の袋もらって……」

「あ、その時に?」

「ゲーセンもどったけど、スタッフにも聞いたけど……」

 悪いことをした。男二人から景品をもらうというイレギュラーが災いしたんだ。

「君たち、どこまで帰るの?」

「えと……」

 目配せすると、三人で息を揃えた。

「「「浦安です」」」

 歩いて帰れる距離じゃない。けっきょく浦安までの切符を買って渡してやった。

「ありがとうございます」

「家に着いたらご連絡して、後日お金をお返しします」

「住所とかメアドとか教えてもらっていいですか?」

「あ、う……」

「いいよ、困ったときはお互いさまってか、いきなり景品渡されてびっくりもしたんだろうし」

 ノリスケが言うので、俺も笑顔で頷いた。

「すまん、あの子以外のことは気に掛けたくないんだ」

 改札を潜りながら、親友はポツリと言った。

 今日もミサイルは飛んでこないようだ。

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校二年
  • 妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 
  • 妻鹿幸一           祖父
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
  • ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
  • 木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)
  • 増田汐(しほ)        小菊のクラスメート
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