大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・347『二重の虹』

2022-09-18 09:55:39 | ノベル

・347

『二重の虹』さくら & 頼子   

 

 

 へえ、二重の虹ってあるんだ!

 

 スクロールする手を停めて留美ちゃんが呟く。

 頼子さんの消息が消えて、なんにもやる気のおこらへんうちら、放課後は図書室で時間を潰す。メグリンはお家のことがあるんで、終礼が終わると「お先に!」いうて帰った。言わんでも分かる、久々にお父さんが返って来るんや。うちも留美ちゃんも、そういうことには鋭い。

 図書室でスマホはNGやけど、備え付けのパソコンはノープロブレム。

 スマホが普及してないころは取り合いやったパソコンもスマホほどの機能がないので、けっこう空いてる。

 それで、ボンヤリとパソコンをググる週末です。

「いや、ほんま!」

 画面には、崖から海を撮った写真があって、見事に上下二段の虹が写ってる。

「うん、これは、きっといいことがあるよ!」

 なんか、秘密めいた顔で宣言する留美ちゃん。

 留美ちゃんは偉い。自分も落ち込んでるのに、パソコンで縁起のええこと探して気を引き立ててくれる。

 投稿した人はお婆さんと言っていいくらいのおばさん。

 小さいころから――二重の虹が見えたら、とってもいいことが起こる――とお祖母ちゃんから聞かされてて、この歳で、やっと発見できたんや。

 かけた願い事は――一刻も早く世界が平和になりますように――やった。

 この女の人は、イギリス人とのハーフで、境遇が頼子さんに似てる。

 ――きっと、頼子さんも大丈夫だよ―― 留美ちゃんの気持ちもありがたい。

「ちょうど二時やし、いこか!」

「うん!」

 下手な洒落にひっかけて、景気つけて校門を出る。

 

「あ、トンボ」

 

 公園の横まで来ると、五六匹のトンボがヘリコプターみたいに飛んでる。

「つい最近まで、蝉がうるさかったのにね……」

「公園の中通っていこか?」

「うん」

 公園を通ると微妙に遠回りになるんやけど、うちらは雰囲気に浸りたかった。

 

 God ~save~ the Queen♪

 

 着メロの『ゴッド セイブズ ザ クイーン』が鳴り出した。

「あ、わたしのも」

 留美ちゃんはマナーモードのバイブみたい。

「「あ、頼子さん!」」

 

―― 月曜日から学校に行きます ――

 

 簡単なメールやけど、意味と気持ちは十分伝わって来る。

 やっぱりヤマセンブルグに帰ってたんや。たぶん、お祖母ちゃんの女王陛下のことやろね。

 ひょっとしたら、二度と帰ってこーへんちゃうかと思ってたから、めっちゃ安心したよおおおお!

 

 

 三人にメールを打ってホッとした。

 取りあえずは日本に帰って来れた。

 場合によっては、このままヤマセンブルグだと思っていた。

―― 国王が執務できないときは、王位継承権第一位の者が摂政になる ――

 王室典範の規定に書いてある。

 正式に王女になったのだから従わないわけにはいかない。

 ソフィーはじめ、周囲の人たちも、そういうモードに入っていたしね。

―― しっかりなさってください ――

 サッチャー……いや、イザベラさんの目は、露骨に物語っていたしね。

 二年前だったら『くそ、このオバハンめ!』とか反発もできたんだけど、女王側近の彼女の信条。心配は十分すぎるくらいに身に染みている。

「ヨリコ、いっしょに見て」

 お祖母ちゃんは、ずっとエリザベス女王との思い出の写真や映像や手紙を見せてくれる。

 お祖母ちゃんの若いころ、ロシアがソ連だったころ、ヤマセンブルグでも革命騒ぎがあったりした。

 お祖母ちゃんは、半ば避難するようにイギリスに留学して、ずいぶんエリザベス女王に助けられたんだ。

 だからね、すごく落ち込んで、ジョン・スミスなんか「このままご譲位されるかもしれません」と出迎えた空港で言うんだもんね。あのジョン・スミスの目が笑ってなかった。

 何日もかけて、お祖母ちゃんと思い出のあれこれを見て、ようやく一段落。

「ヨリコ、明日日本に帰りなさい」

 そう言って、お祖母ちゃんは、わたしを送り出してくれた。

 

「殿下、富士山が見えてきました」

 ソフィーが呟く。

 これは、日本の領空に入ったからメールしてもいいというサイン。

 

―― 月曜日から学校に行きます ――

 言葉は一杯浮かんだけど、余計なことは書けないし、気持ちは伝えたいし。ごく簡単な文面になった。

 

「Wow!」

 

 ソフィーが母国語で歓声をあげた。

 窓から覗くと、富士山に二重の虹がかかっていた。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー       ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか     さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 女王陛下      頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首 

 

 

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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・68『御籠りの五日間・2』

2022-09-18 06:47:03 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

68『御籠りの五日間・2』オメガ 




 崩落殿という字を思い浮かべてしまったぜ。

 巫女さんに案内されて「ほうらくでんをお使いください」と言われたんだけど、ついさっき吊り橋が落ちたので『崩落』という字がとっさに出てきてしまう(^_^;)。実際には『豊楽殿』という札が掛かっていて、風信子んとこの豊楽殿と同じような三十畳余りの部屋だ。

 本殿は式年造替(しきねんぞうたい)っていう建て替えをしたばかりの新品だけど、豊楽殿は百年はたっているんじゃないかと思うくらいに古さびている。LEDと思われる照明器具がなければ、そのまま時代劇の撮影に使えそうだ。

「造りは、風信子とこのに似てるな」

「逆よ、うちがここの造りに習ってるの」

 そう言えば、神楽坂神社の本家みたいなもんだと言っていたな。

 物珍しさに、最初はキョロキョロしていたメンバーたちだが、五分もすると座敷の片隅に腰を下ろした。

 三十畳の広い座敷なんだけど、部屋の真ん中では落ち着かない。

 気づくと風信子の姿が無い。

「お茶とお召し替えをお持ちしました」

 声が掛かって巫女さんが二人入って来た。よく見ると一人は風信子だ。

「ここでは、わたしも巫女だからね」

「作務衣ですが、着方は分かりますか?」

 出されたのは職人さんたちが着ているようなので、男が藍色、女が茜色だ。

 男女一緒に着替えちゃまずいだろうと思ったら、時代劇に出てきそうなT字型のスタンドに四枚の布を垂らしたパーテーションみたいなのが出てきた。

「これって几帳(きちょう)ですよね!」

 シグマが感動した。

 この台詞だけ聞いたら源氏物語とかが好きな文系女子に聞こえるんだけど、やりこんだ時代劇エロゲの中にでも出ていたんだろうな。

「紐の結び方がわかりませーん」

 増田さんが巫女さんの助けを借りている、几帳一枚だけなので衣擦れの音が聞こえるんだよなあ。

「なんだか新鮮ですね!」

 シグマは無邪気に喜んで、増田さんと写真を撮りはじめる。

「写しましょうか?」

「あ、お願いします!」

 巫女さんが笑顔で言ってくれて、正面にある神棚の前で二人が並び、「いっしょに入ってください!」と巫女さんと風信子も入って記念写真。

「巫女服も、すっごくいいですね!」

「憧れますぅ!」

「じゃ、こんどお召しになってみますか?」

 巫女さんの口がωになる。同じωでも、ちょっと神々しく感じるのは雰囲気なのか巫女さんの個性なのか。

「はい!」

「ぜひぜひ!」

 子どもみたいにピョンピョンする一年生。

「あはは」

 微妙に笑う風信子、本家筋なんだ、あんまりはしゃいでもらっても困るんだろう。

 

「で、ここで何をすればいいんだ?」

 お茶を飲んで落ち着くと、ノリスケが素朴な質問をする。

 もっともな話で、俺たちは「アゴアシ付きだから、連休の後半は付いて来て!」と風信子のお願いで、ここに来ている。雰囲気は林間学校みたいだけど、スケジュールが示されていないので、落ち着いてしまうと、そもそもの疑問にぶち当たってしまう。

「まず、ゲームをやってもらいます」

 そう言われて、俺の頭には飯盒炊爨とかやって、そのあとオリエンテーリングとかのイメージにになる。

「「「え、えーーーーー!?」」」

 襖が開いて、増田さんを除く三人が声を上げた。

 襖の向こうには座卓が並んでいて、座卓の上にはパソコンとエロゲのパッケージが人数分載っていたのだ。

 増田さん一人が声をあげない、たぶん意味が分かっていない、パソコンはむろんそうだし、エロゲのパッケージって、ぱっと見には、アニメの豪華版とかに見えるもんなあ(^_^;)。

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校二年
  • 妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 
  • 妻鹿幸一           祖父
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
  • ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
  • 木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)
  • 増田汐(しほ)        小菊のクラスメート

 

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