大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 86『皆虎皆萌!再見!』

2022-09-01 11:08:26 | ノベル2

ら 信長転生記

86『皆虎皆萌!再見!』信長 

 

 

 武蔵・乙女の二人が狼煙台を潰してくれたことで、扶桑(転生国)との国境までは平穏に来ることができた。

 それどころか、オマケまでついてしまった。

 武蔵が大層な人気なのだ!

 

 キャーかわいい! 萌える~! こっち向いて! 写真撮らせてえ! 握手してえ! ハグさせてえ!

 もうキリがない。

 おかげで、茶姫はわずかに口元を隠しただけで怪しまれることも無く、無事に皆虎まで来ることができた。

 皆虎は、ついこないだまでは懐古と呼ばれていた国境の街だ。

 その昔、扶桑(転生国)との争乱に明け暮れていた時代には、出征の地として大いに栄えたが、双方、互いへの出征を控えるようになってからは、往年の軍都として観光地に成り果ててしまった。その観光地のブームも数年のうちに萎んでしまうと、ただの裏寂びれた田舎町でしかない。

 それを、先日、茶姫がその軍団を引き連れ数百年ぶりの勲を披露すると、俄然往年の軍都の記憶と勢いを取り戻し、その名も音はそのままに『皆虎』と旧に戻してやったばかりだ。

「よかった、皆虎の街はまだ勢いを失っていないようだ……」

 茶姫の呟きには、安堵の温もりがある。

 戦術的には、皆虎の街は利用されたにすぎないのだが、茶姫は心から、この軍都の、いや、街の活性化を願っているのだろう。この感覚はサル(秀吉)に近い。さて、あのサルめは転生もせずにどうしておることやら……おう、出征門が見えてきた。

「おお、瓦礫のままだが、勲しいのう『出征門』の旗が高々と翻っているぞ」

 しばし馬を停めて旗を見上げる茶姫に合わせて、検品長と備忘録が馬を寄せる。

 その分前に出る俺たちだが、街の者たちの関心は武蔵に集まっている。

 カラコンを装着した武蔵は無駄に可愛い。

 生前、人から恐れの目でしか見られなかった武蔵は、転生してからも変わらない。

 その刺すような眼光は、ただ人を恐れさせるばかりで、その狷介さを愛でる者は利休居士の他は信玄と謙信ぐらいのものであった。

 その狷介居士が、伏目がちに恥じらう姿はなんとも『萌』だ。再び転生すればむくつけき剣術馬鹿に戻ってしまうのであろうが、もし、今のままで転生するのであれば、蘭丸と対の奥女中にしてやる。きっとお濃(俺の嫁)の良い玩具になるであろう。

 ニヤニヤしていると後ろから茶姫の気配。

「少し待ってくれ、武蔵の取り巻きが落ち着かなければ身動きがとれん」

「いや、わたしは三国志に残るよ」

「……であるか」

「すまん、ここまでの気配り感謝する」

 うしろに控えた検品長と備忘録も眉を寄せたまま小さく頷く。

「少し待て、乙女がなにか企んでいる」

 

「请各位听!」

 

 三国志語で切り出しおった。

「三国志語は得意じゃないから、ここからは、転生語。武蔵、訳してね」

「え、わたしが?」

 武蔵が眉を寄せる、期せずして群衆から「キャーー!」とか「オオーー!」とかのどよめきが起こる。

「あては、転生国ん坂本乙女、転生学園の生徒会長! そして、家業は土佐ん商売人! 転生国と三国志は仲良うなかどん、あてら一般人には転生も三国志も無か! これからは、お互いん国境で、ちょっとずつでもよかで、交易できたやち思うん! 時々、わたし乙女と、こんムサちゃんが国境にやってくっで、どうかご贔屓にしてやりたもんせ!」

「我是……转世国家的坂本少女,で……转世学园的学生会会长! ……以及家传的行业是土佐的买卖人! 虽然友好……地没有可是转世国家和三国志……えとえと……向在我们普通人没有转世和三国志向! ……そんで……从现在开始,在彼此的国境,对交易dekitayachi有有点好感觉!……それから…… 因为我少女和这个musa时常来国境所以请请在关照做!……フウウ」

 キャーーーー!  ウオーーーー!

 乙女の明るい土佐弁、武蔵のたどたどしい三国志語に、もう群衆と言っていいほどの人数が萌え極まった歓声をあげる。

―― 今じゃ ――

 乙女と目配せ。

 西に去っていく茶姫たちに一瞬驚きの表情を浮かべるが、さすがは龍馬の姉だけのことはある。全てを呑み込んで出征門を目指す。

「じゃあ、又来るから! よろしくね! 皆虎、愛してるよ! また会おう!」

「因为那么……えと……再来所以! えと……请关照! で……爱皆虎! 再見!」

 ウオオオオオオオオオオオ!! 再見!!

 

 出征門の崩れは以前よりも片づけられて、これは、乙女のとっさの芝居を超えて可能性があるような気がした。

 楽市楽座のキャッチフレーズが浮かんで、半壊した門を抜けると、ささくれた軒端の向こうに扶桑(転生国)の青空が広がった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生(三国志ではニイ)
  • 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹(三国志ではシイ)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(劉備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  •  

 

 

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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・51『妻鹿屋の花見』

2022-09-01 06:18:16 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

51『妻鹿屋の花見オメガ 




 今日は妻鹿家恒例の、でも、三年ぶりの花見だ。

 うちは江戸時代から続いた置屋の家系なので、春には総出で花見に行っていた。江戸時代にはお女郎さんや芸者さんに御贔屓さんたち百人ほどの大勢で、上野や飛鳥山にくり出したそうだ。パブの時代も、ご町内やらお馴染みさんたちで、東京近郊の名所を巡っていた、妻鹿家恒例の行事だ。

 ここ数年は、親父の仕事や祖父ちゃんの入院なんかで飛び飛びになっていて、もうこの習慣はお仕舞かと寂しく思っていた。

「今年は松ちゃんも来てくれたことだし、みんなでくり出そう」

 祖父ちゃんの心意気で復活することになった。

 上野か飛鳥山か、はたまた明治神宮か浜離宮公園か、親父もネットで検索して、おさおさ怠りが無い。だけど、昨日から祖父ちゃんの腰痛が復活、親父も午後から日曜出勤というアクシデント。

 けっきょく、徒歩五分のところにある神楽坂鈿女神社(かぐらざかうずめじんじゃ)で済ますことになった。

 神楽坂鈿女神社などというと仰々しいが、要は風信子の家の神社だ。

「それじゃ、うちの豊楽殿を使ってください」

 神主である風信子のお父さんが勧めてくれるが、やっぱり桜の下でなきゃ風情が無いということで、境内で一番大きな桜の下にゴザを敷いた。

「そんなことは、あたしがやります」

 ゴザを敷き始めた祖父ちゃんに松ネエが手を差し伸べようとする。

「これには敷き方があってね、ま、見てなよ。おい、由紀夫、そっち持てや」

 祖父ちゃんは親父とお袋を使ってゴザを敷いて、お重やら酒やらを並べ始めた。

「……なるほど、なんだか雅やか」

 桜に対する角度やヘリの合わせ方なんかが上手くできている。子供のころには気づかなかったけど、祖父ちゃんのそれには華がある。

「ここを舞台と見立ててな、桜と桟敷が喧嘩しねえように……お重や酒ははすかいに……な、こうやると粋ってもんだろ」

 なんだか、しばらく鑑賞していたくなるようなしつらえになってきた。

「写真撮らせてもらっていいですか」

 巫女装束の風信子がデジカメを持ってやってきた。

「おー、風信子(ふじこ)ちゃん、いくらでも撮ってくれ」

「うちのホームページに載せて宣伝します」

「じゃ、あたしも動画にしてSNSに載せまーす!」

 松ネエも張り切りだした。

「ね、バックにさ、幕とか張るとイケるんじゃない、お祖父ちゃん!?」

 小菊が閃いた。

 小菊にはこういうところがある。年に一回あるかないかで、ピピっと閃いて、そのうちの一つか二つかはホームラン級。小二の時に書いた作文が都のコンテストで最優秀をとったことがある。

「幔幕なら神社のがあります」

 風信子が言ったが「昔のうちのがあったらなあ……」と親父が呟く。

「それなら、寿屋にくれてやったのがあるはずだ」

 祖父ちゃんが思い出した。

「うち閉めたときに、せっかくの妻鹿屋の幔幕だってんでくれてやった、たしか帳場のディスプレーになってる」

「あたし行ってとってくる」

「かさ高いから雄一も付いて行ってやんな、寿屋には電話入れといてやっから」

 俺は小菊と一緒に寿屋に急いだ。

 飯田橋の近くなので十分ちょっと、途中地元民しか知らないショートカットを通ってたどり着く。

 

「お祖父ちゃんから電話もらってるよ」

 幔幕は二枚で一対になっているので紙袋で二杯になっていた。

「じゃ、お借りします」

 きちんとお礼を言って店を出る。

「あ……」

「どうかしたか?」

「そこに増田さんがいたみたいな」

「増田?」

「ほら、学食の……」

「ああ」

 思い出した、学食でラーメン被っちまって火傷しかけた。お姫様抱っこした感触が蘇る。

「え?」

 小菊が指差したところに人影はなかった。

「幔幕って、吊り下げる紐とかいるよな」

 俺にしては良く気が付いた。幔幕には専用の釣り紐が要る。二人で出てきたばかりの寿屋に引き返す。

「ごめんごめん、気が付かなかった」

 社長に専用の釣り紐を出してもらい、再び店の外に出る。

「あ……」

「どうかした?」

 今度は俺が気づいた。

「増田さん?」

「いや、ヨッチャン……うちの担任がいたような」
 
 もう一度目を向けたそこに人影はなかった。

 俺も小菊も気のせいかと思ったが、週明けにひと騒動になるのだった。
 
 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校二年
  • 妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
  • ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
  • 木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)
  • 増田さん           小菊のクラスメート
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