大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・126『上様のたくらみ』

2022-09-22 15:27:34 | 小説4

・126

『上様のたくらみ』ミク  

 

 

 いや、驚かせてすまない(〃▽〃)。

 

 隠れん坊で見つかってしまったみたいに照れる上様は、無礼を承知で言うとかわいい。

 生まれながら将軍になることを運命づけられていらっしゃるので、将軍としてのお振舞は御幼少のころからの躾けと自己教育で、とても凛々しく、天晴れニ十三世紀の征夷大将軍。

 でも、将軍という立場を離れてのお振舞、特に、微妙にルールを離れたところでは、少年のようにおなりになる……というのは、老中で退官したお祖父ちゃんの弁。まあ、やっと公務に就かれたばかりの青年将軍のころの話だと思っていたけど、いまもお変わりにならないんだと、正直感動したわ。

「君たちが、そろってお花見に来ていると聞いてね、城から馬を走らせてきた」

 上様は、暇さえあれば、お城の植物園で品種改良の研究をされているか、馬をとばして府内を駆けまわっておられるか。

 火星は、まだまだ未開拓地が多く、馬を利用することが多いので、地球で考えるほど目立つことではない。

 本当のご乗馬は本物の馬なんだけど、城外に出られるときはOH(オートホース)をお使いになる。

「去年採れたもち米で桜餅を作ってみたんだ、まあ、つまんでおくれ」

 そう言うとリュックから竹の皮の包みを取り出された。

「うわあ~~~」

 真っ先にテルがヨダレを垂らす。

「うわあ、すごい桜の香りですね!」

 ヒコも感動、むろんわたしもダッシュも。

「葉っぱは、去年のもやし桜だよ。花はもう一つだったけど、そのぶん葉っぱに養分が凝縮されてる上に地球のよりも葉が薄い、桜餅にはピッタリなんだ」

「これはいけますね!」

「ダッシュ、頬張り過ぎ」

「だって、うめえ(⌒∇⌒)」

「うん、作った甲斐がある。まあ、桜餅にした程度では使いこなせないから、化粧品や添加物などに使えないか研究中なんだけどね」

「メイドインキャッスルが、また増えそうですね」

「ハハハ、わたしの道楽だからね、そんなに増えやしないさ」

 上様は、個人でも30程の、幕府全体では100余りの特許を持っている。上様は、安全性が確認され、商業ベースに載ったり、国民の役に立つことが確認されたものについては、率先して特許を開放されている。平均して二三年で特許権を手放されるので、実数はもっと多い。

「しかし、早いもんだね、ついこないだ修学旅行から戻ってきたという感じなのに。ええと、大石君以外はみんな府大なんだね」

「はい、僕が国際政治学科。ミクが医学部。テルが工学部。そしてダッシュ、あ、いちは来月部隊配置になって現場に立ちます」

「まだまだ未熟なんですが、現場で経験が積めるので、ありがたいことだと思っています」

 ダッシュにしてはいい答え。まあ、なにごとも体で覚えるって方だから、単なる謙遜では無いと思う。

「すまないね、下士官の充実は軍にとっては急務だからね。作戦指導は将校の役割だけど、現場で兵たちを指揮し面倒をみるのは下士官だ。国家としての期待は大きい、頑張ってくれたまえ」

「はい、承知しています」

 ダッシュへの労いを最初にして、それから一人一人に声を掛けてくださる。

 とてもお忙しい方なのに、きちんと承知してくださって、いつものことだけど頭が下がる。

「それで、ひとつ君たちにお願いがあるんだ」

 穏やかに切り出されたけど、そのお顔から、すこし大事なお話だと感じて居住まいを正してしまう。

「卒業まで、わたしのところで暮らしてはくれないだろうか?」

「「「「え?」」」」

「城内の研究施設拡充のために、小姓宿舎を建て替えたんだけど、古い宿舎の一部が残ったんだ。老朽化による移設ではないので、残った宿舎は、まだまだ使用に耐えられる。府大は西の丸の外だし、それぞれの自宅から通うよりも近くなる」

 近いどころか、西の丸を横断していいのなら通学時間は1/4に縮まる。

「大石君は部隊配置になるだろうけど、休日には城に戻ってくればいい。むろん、わたしからのお願いだから、寄宿費などは取らない。実験農場の作物の試食もやってもらうから食費もかからない……」

「上しゃま!」

「あ、なんだろう、テルくん?」

「そうゆう遠まわしな言い方は上しゃまっぽくないのよ。ほんとうのところを言ってほしいのよさ」

「アハハ、これは一本やられた。テルくんの言う通りだ。単刀直入に言いなおそう。君たちに、ある人の友だちになって、いっしょに暮してもらいたいんだ」

 ある人?

「そうだ、まず、ご本人に会ってもらおうか……」

 上様はテルの頭越しに目配せされた、つられて目をやると、上様の片腕として知られている小姓頭の胡蝶さんが植え込みの向こうの誰かをいざなっている。

 え? ええ

 そして、現れた人を目にしてビックリするわたしたちだった!

 

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    国立大学二回生、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    幕府大学国際政治学科二回生、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     幕府大学医学部二回生、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     幕府大学工学部二回生、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首 パイレーツクィーン:メアリ・アン・アルルカン(手下=ツナカン、サケカン、アルミカン)
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・72『退院』

2022-09-22 07:11:13 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

72『退院』小松 





 もなかさんにしか言わなかった。

 本当はもなかさんにも伝えたくなかった。

 もなかさんは、自分のせいで刺されたんだと思って自分を責めている。だから毎日見舞いに来てくれるんだけど、@ホームの仕事や学校のこと、かなり無理しているのは確かだ。だから言っておかないと無駄足をさせてしまう。

「じゃ、手伝いに来るわ」

「いいわよ、下宿先から人が来てくれるし、もなかさん、水曜日ってシフトに入ってるでしょ」

「え、あ……」

 先週も水曜は休んでくれている。ま、刺された翌日だから仕方ないんだろうけど、二週連続はまずい。

 それに、もなかさんはメイドという仕事が、とても気に入っている。お店でのもなかさんは本当に二次元の世界から転送されてきたんじゃないかと思うくらいホワホワして、お店でもトップの人気。彼女の為にもお店の為にも、これ以上休ませるわけにはいかない。

 でも、下宿先から人が来るというのもウソ。

 叔父さんは仕事だし、叔母さんはパート。お祖父ちゃんはヒマってばヒマでけど、こんなに早く退院したらきっと心配する。

 妻鹿家は昔から女の子を大切にする。それについては文庫本一冊くらいの話があるんだけど、それは置いとく。

 場合によっては病院までやってきて、お医者さんと一悶着とかしかねない。

 今の医学は進んでいるんだ、先生の「退院してください」に嘘はないだろうけど、人に刺されて十日足らずで退院しては、お祖父ちゃんは納得しない。

 ちょっと、柊木さん!

 台車に荷物を載せてエレベーターまで押していると、ナースセンターから物部さん(わたし担当の看護師さん)が飛んできた。

「ひょっとして退院する気!?」

「はい、もう大丈夫そうなんで」

「先生の許可は出てるの?」

「えと、先生が『退院していいわよ』とおっしゃって」

 ちょっと脚色している、先生は「退院してください」と命令形だった。

 でも、こういう場合は柔らかく表現するのが当を得ている。

「ちょっと、確認してくる……」

 ナースセンターの前で待つハメになった。傷口がシクシクする。

 しっかりしろ! 声には出さないで自分を叱る。

 十分ほどあって物部さんが戻ってきて「やっぱ、退院だった」とため息。

 十分あれば、わたしの台車を押して退院者用の出口までサポートしてもらえたんだけど、物部さんは仲間の看護師さんに呼ばれて行ってしまった。
 
 エレベーターに乗る前と下りてからと二回休んでからタクシー会社に電話。

―― 混みあっていますので、ちょっと時間が掛かります ――

 ベンチに座ると疲労感。運転手さんに助けてもらわなきゃ乗れないかも。

 少しの間と思って、ベンチに横になる……やばい、起き上がれないかもしれない。
 
 すると目の前に人の気配。

「……だよね、松ネエ?」

 薄く目を開けると、神楽坂高校の制服……その上にはゆう君の首が載っている。

「えと……学校は?」

「休んだ、連休中は、ちっとも見舞いに来れなかったから」

「ダメじゃん、休んじゃ……」

「んなことより、退院したってナースセンターで、ビックリした」

「うん、大丈夫そうよ。主治医の先生の太鼓判なんだから」

「でも、ほんと大丈夫か?」

 返事をしようと思ったら、ちょうどタクシーがやって来た。

 持つべきものは従弟で、わたしをしっかりエスコートしてくれた。

 で、夜になって三十八度の熱が出てしまった……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校二年
  • 妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 
  • 妻鹿幸一           祖父
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
  • ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
  • 木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)
  • 増田汐(しほ)        小菊のクラスメート



 

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